悪夢
G・K・チェスタトン作
奔放にして狂気に満ち、抱腹絶倒、しかも深く胸を打つ物語
『木曜日だった男』を分類するのは、きわめて難しい。殺人も辞さぬ犯罪者たちと、頭脳明晰な警察官たちが繰り広げる、息もつかせぬ冒険小説だとは言える。だが、ブラウン神父シリーズの作者が、ほかの誰とも違う探偵小説を書くのは当然のことだった。この水準だけを見ても、『木曜日だった男』は見事な成功を収めている。少なくとも、サスペンス小説の技巧を極限まで発揮した壮麗な離れ業である。
しかし読者はほどなく、これがそれだけの作品ではないと悟るだろう。チェスタトンの陽気で奔放な文体に乗せられ、物語の激流に押し流されるうち、いつの間にか思いもよらぬ深みへ運ばれていることに気づく。そして、まったく予測不能な大団円――捜査する者たちがついに日曜日の正体を知るその瞬間は、一九〇八年の初版以来、幾千もの読者にそうであったように、現代の読者にとっても避けがたく心揺さぶられる体験となるはずだ。
木曜日だった男 悪夢
エドマンド・クレリヒュー・ベントリーに捧ぐ
人の心には雲が垂れ、空は泣きわめいていた、
そう、僕らがともに少年だったころ、魂には病んだ雲がかかっていた。
科学は「無」を宣告し、芸術は腐敗を愛でた。
世界は老い、終わっていた――だが君と僕は陽気だった。
僕らを囲み、奇怪な列をなして、彼らの不具の悪徳がやってきた――
笑いを失った情欲、恥を失った恐怖。
目的なき薄闇を照らす、ホイッスラーの白い前髪のように、
人々は臆病の白羽を、羽飾りさながら誇らしく掲げた。
生はしぼんでゆく蠅、死は刺してくる雄蜂。
君と僕が若かったころ、世界はまことに老いていた。
彼らはまともな罪さえ、名づけることもできぬ形にねじ曲げた。
人々は名誉を恥じた――だが僕らは恥じなかった。
弱く愚かではあったが、僕らが敗れたのはそのためではない。
あの黒きバアルが天を塞いだとき、僕らは賛歌を捧げなかった。
子供だった僕ら――砂の砦は、僕らと同じく脆かった。
だが苦い海をせき止めようと、崩れるたび高く積み上げた。
まだら衣の道化のように、騒々しく、愚かで、滑稽だった僕ら。
すべての教会の鐘が黙るなか、僕らの鈴だけは鳴っていた。
小さな旗を広げ、まったく助けもなく砦を守ったわけではない。
あの雲の中では、何人もの巨人が世界から雲を持ち上げようと働いていた。
僕らが見つけたあの本を、いま再び見つける。あの時を再び感じる、
魚の形をしたポーマノックの彼方から、清らかな何かの叫びが放たれた時を。
そしてグリーン・カーネーションは枯れ、駆け抜ける山火事のように、
千万枚の『草の葉』が、全世界の風に轟いた。
あるいは雨中に歌う鳥のように、正気で、優しく、唐突に――
ツシタラ[訳注:サモア人がロバート・ルイス・スティーヴンソンに与えた名。「物語を語る人」の意]から真理が語られ、苦痛から喜びが生まれた。
そう、灰色の空に歌う鳥のように、涼やかに、澄みきって、唐突に、
ダニーデンからサモアへ、闇から昼へ、声が届いた。
だが僕らは若かった。神が彼らの苦い呪縛を砕く日まで生きた。
神と善き共和国とが、武装して馬を駆り、帰還するのを見た。
揺らぎながらも救われた、人の魂の都を僕らは見た――
見ずして、盲いたまま信じた者は幸いである。
これは、かつての恐怖、いまや空となった地獄の物語。
その真意を理解する者は、君のほかにない――
恥という巨大な神々が、いかに人を怯ませ、しかも崩れ落ちたか。
星々を隠すほどの大悪魔が、いかに一発の銃火に倒れたか。
追い払うにはあまりに明白で、耐えるにはあまりに恐ろしかった疑念――
ああ、君のほかに誰が理解しよう。そう、誰が理解しよう。
僕ら二人が激しく語り合い、夜を駆け抜けたあの疑念を。
頭に夜明けが訪れるより先に、街路には朝が来ていた。
いま、神の平安によって、僕らの間ではその真実を語ることができる。
そう、根を張ることには力があり、老いることには善がある。
僕らはついに、ありふれたものと、結婚と、信仰とを見つけた。
いまなら僕は安心して書けるし、君も安心して読める。
G・K・C
第一章 サフラン・パークの二人の詩人
ロンドンの西、夕日の沈む側にサフラン・パークという郊外住宅地があった。夕焼け雲のように赤く、でこぼこしていた。どの建物も明るい色の煉瓦造りで、空を切る輪郭は奇抜、区画そのものまで奔放だった。わずかばかり芸術趣味にかぶれた投機的建築業者が、衝動の赴くまま築いた町である。彼はその建築様式を、ある時はエリザベス朝風、またある時はアン女王様式と呼んだ。どうやら二人の女王を同一人物だと思っていたらしい。それなりの根拠から芸術家村と評されていたが、はっきり芸術と呼べるものを生み出したことは一度もなかった。知的中心地を称するには少々根拠が曖昧だったものの、気持ちのよい場所だという主張だけは疑いようがなかった。初めて風変わりな赤い家々を目にした旅人は、こんな家に収まる住人とは、さぞ奇妙な形をしているに違いないと思わずにいられなかった。そして実際に住人と会っても、その期待は裏切られなかった。この町を偽物ではなく夢と見なすことさえできれば、快適どころか完璧ですらあった。住人が「芸術家」でなくとも、全体としては間違いなく芸術的だった。長い赤褐色の髪に生意気な顔をしたあの青年――彼は本当の詩人ではなかった。だが、どう見ても一篇の詩ではあった。荒々しい白髭に、荒々しい白帽子のあの老人――あの尊大な食わせ者は、本当の哲学者ではなかった。だが少なくとも、ほかの人々を哲学的な気分にはさせた。卵のような禿頭と、鳥のように裸の首を持つあの科学者めいた紳士にも、科学者ぶる正当な理由などなかった。生物学上の新発見は一つもなかったが、彼自身より奇怪な生物を、いったいどこで発見できただろう。こうして、そしてこのようにのみ、この町は正しく眺められねばならなかった。芸術家の仕事場というより、脆弱ながら完成された一個の芸術作品として見るべきだった。その社交の空気へ足を踏み入れた者は、まるで文字で書かれた喜劇の中へ入り込んだ気分になった。
この魅惑的な非現実感は、とりわけ日暮れどきに濃くなった。奇抜な屋根屋根が残照を背に黒く浮かび、狂気じみた村全体が、漂う雲のように世界から切り離されるのである。土地の祝祭が催される夜には、なおさらだった。小さな庭園にはよく明かりが灯され、大きな中国提灯が矮小な木々の間で、獰猛な怪物の果実のように輝いた。なかでもその感覚が最高潮に達した一夜があり、土地の人々はいまもおぼろげに覚えている。その夜の主役は、赤褐色の髪をした詩人だった。もっとも、彼が主役になった夜はそれだけではない。彼の小さな裏庭の前を通れば、甲高く教訓めいた声で、男たちに、ことに女たちに、あれこれと断言しているのを幾晩も耳にできた。この場合の女たちの態度こそ、この町の逆説の一つだった。女性の多くは漠然と「解放された女性」と呼ばれる種類で、男性優位に反対を唱えていた。それでもこの新しい女たちは、平凡な女なら決して男に与えないほど過分な賛辞を与えた。すなわち、男が話している間、黙って耳を傾けたのである。赤毛の詩人、ルシアン・グレゴリー氏は、たとえ最後に笑い飛ばすためだけだとしても、ある意味では聞く価値のある男だった。芸術の無法と無法の芸術という古臭い決まり文句を、厚かましくも新鮮な言葉で語り、少なくとも一瞬の愉快さを与えた。人目を引く異様な容姿も、いくらか味方していた。俗に言うように、それを最大限に利用していたのである。中央で分けた暗赤色の髪は、文字どおり女の髪のようで、ラファエル前派の絵に描かれた乙女さながら、ゆるやかな巻き毛を形作っていた。ところが、その聖者めいた卵形の髪の中から突き出している顔は、幅広く野卑で、顎を前へ出し、ロンドン下町風の侮蔑を浮かべていた。この取り合わせは、神経過敏な住民たちをくすぐると同時に怯えさせた。歩く冒瀆、天使と猿の混合物のようだった。
この夜がほかの何によっても記憶されないとしても、その異様な夕焼けだけは忘れられまい。世界の終わりのような光景だった。全天が鮮烈で手に触れられそうな羽毛に覆われていた。空一面に羽根が満ち、顔を撫でんばかりだった、としか言いようがない。天蓋の大部分では灰色を帯び、そこに世にも奇妙な紫や藤色、不自然な桃色や淡緑色が混じっていた。だが西の空は、言葉で表せぬほど透明に燃え上がり、最後の赤熱した羽根が、あまりに美しくて見てはならぬ何かのように太陽を覆っていた。すべてが大地へ迫り、ただ激しい秘密だけを表していた。至高天そのものが秘密に見えた。そこには郷土愛の魂ともいうべき、壮麗な小ささがあった。空そのものまで小さく思われた。
あの息苦しい空だけを理由に、その夜を覚えている住民もいるだろう。また別の者たちは、サフラン・パーク第二の詩人が初めて姿を現した夜として覚えているかもしれない。長らく、赤毛の革命詩人は競争相手もなく君臨してきた。だが夕焼けの夜、彼の孤独な王座は唐突に終わった。ガブリエル・サイムと名乗った新しい詩人は、金色の尖った顎髭と淡い黄髪を持つ、ひどくおとなしそうな男だった。だが見かけほど従順ではない、という印象が次第に広がった。彼は登場するなり、詩の本質をめぐって、すでに名をなしていた詩人グレゴリーに異を唱えた。自分は法の詩人、秩序の詩人であり、それどころか品行方正さの詩人だと言ったのである。そこでサフラン・パークの住人たちは、たったいま、あのありえない空から落ちてきた者を見るように彼を見つめた。
事実、アナーキスト詩人ルシアン・グレゴリーは、二つの出来事を結びつけた。
「なるほど、ありうることだ」彼は唐突に叙情的な口調で言った。「雲と残酷な色彩に満ちたこんな夜なら、品行方正な詩人などという怪異が地上に生まれてもおかしくない。君は自分を法の詩人だと言う。僕に言わせれば、それは語義矛盾だ。君がこの庭へ現れた夜、彗星も地震も起こらなかったことのほうが不思議なくらいだ。」
穏やかな青い目と、淡い色の尖った顎髭を持つ男は、従順とも見える厳粛さでこの雷鳴に耐えた。二人とともにいたグレゴリーの妹ロザマンドは、兄と同じ編んだ赤毛をしていたが、その下の顔立ちは兄より優しかった。彼女は感嘆と非難の入り交じった笑い声を上げた。いつも一家のご託宣に向けている笑い方だった。
グレゴリーは上機嫌に、雄弁をふるい続けた。
「芸術家とアナーキストは同じものだ」彼は叫んだ。「言葉をどこで入れ替えても構わない。アナーキストは芸術家だ。爆弾を投げる男は芸術家だ。なぜなら彼は、あらゆるものより偉大な一瞬を選ぶからだ。形の崩れた警官数人の、ありふれた肉体などより、燃え立つ光の一閃、完璧な雷鳴の一撃が、どれほど価値あるものか理解している。芸術家はあらゆる政府を無視し、あらゆる因習を廃する。詩人が喜ぶのは無秩序だけだ。そうでなければ、この世で最も詩的なものは地下鉄ということになる。」
「そのとおりだ」とサイム氏は言った。
「馬鹿な!」他人が逆説を口にすると急に理性的になるグレゴリーが言った。「列車に乗る事務員や土方たちは、なぜあんなに悲しく疲れきっている? あれほどまでに悲しく、疲れきっているのはなぜだ? 教えてやろう。列車が正しく走っていると知っているからだ。切符に書かれた行き先がどこであれ、そこへ着くとわかっているからだ。スローン・スクエアを過ぎれば、次の駅は必ずヴィクトリア駅で、それ以外ではありえないと知っているからだ。ああ、もし次の駅がわけもなくベーカー・ストリートだったなら、彼らはどれほど荒々しい歓喜に包まれることか! 目は星のように輝き、魂は再びエデンへ戻るだろう!」
「詩的でないのは君のほうだ」と詩人サイムは答えた。「事務員についての君の言葉が正しいなら、彼らが散文的なのはせいぜい君の詩と同程度だ。標的に当てることこそ、稀で奇異な出来事だ。外すことなど、粗雑でありふれている。一本の奔放な矢で遠くの鳥を射落とす人間を、我々は叙事詩的だと感じる。ならば、一台の奔放な機関車で遠くの駅に命中する人間も、叙事詩的ではないか? 混沌は退屈だ。混沌の中では、列車は実際どこへでも行ける。ベーカー・ストリートにも、バグダッドにも。だが人間は魔術師だ。その魔術のすべては、『ヴィクトリア』と言えば、見よ、そこがヴィクトリアになることにある。いや、ただの詩集や散文集は君にやろう。僕は誇りの涙を流しながら時刻表を読む。人間の敗北を記念するバイロンは持っていけ。人間の勝利を記念するブラッドショー時刻表を僕にくれ。ブラッドショーをよこせと言っているんだ!」
「もう帰るのか?」グレゴリーは皮肉に尋ねた。
「列車が駅へ入ってくるたびに」とサイムは熱を込めて続けた。「僕は、列車が包囲軍の砲列を突破し、人間が混沌との戦いに勝ったのだと感じる。スローン・スクエアを出たならヴィクトリアへ着くしかない、と君は軽蔑して言う。僕に言わせれば、その代わりに起こりうることは千もある。それでも本当にヴィクトリアへ着くたび、九死に一生を得たような気分になる。そして車掌が『ヴィクトリア』と叫ぶのを聞くとき、それは無意味な言葉ではない。勝利を告げる使者の叫びだ。僕にとってそれは、まさに“Victoria”――勝利なのだ。アダムの勝利だ。」
グレゴリーは大きな赤い頭を振り、ゆっくりと悲しげに笑った。
「だがそれでも」と彼は言った。「僕ら詩人は必ず問う。『着いたところで、ヴィクトリアとは何なのだ?』と。君はヴィクトリアを新エルサレムのように思っている。僕らは、新エルサレムも結局ヴィクトリアのような場所でしかないと知っている。そう、詩人は天国の街路にいてさえ不満を抱く。詩人はつねに反逆するものだ。」
「またそれか」とサイムは苛立って言った。「反逆のどこが詩的なんだ? 船酔いは詩的だと言うのと変わらない。病気だって一種の反逆だ。病気も反逆も、絶望的な状況では健全なこともあるだろう。だが、なぜそれが詩的なのか、僕にはさっぱりわからない。抽象的な反逆など――胸が悪くなる。単なる嘔吐だ。」
不快な言葉に娘は一瞬顔をしかめたが、サイムは熱くなりすぎて気づかなかった。
「物事が正しく働くことこそ」と彼は叫んだ。「詩的なのだ! たとえば消化器官が、神聖に、静かに、正しく働いている。それこそあらゆる詩の基礎だ。そう、花よりも、星よりも詩的なもの――この世で最も詩的なものは、病気でないということだ。」
「まったく」とグレゴリーは見下すように言った。「よりにもよって、そんな例を――」
「失礼」とサイムは険しく言った。「あらゆる因習を廃止したことを忘れていた。」
初めてグレゴリーの額に赤い斑点が浮かんだ。
「まさか僕に、この芝生の上で社会革命を起こせとでも?」
サイムはまっすぐその目を見つめ、優しく微笑んだ。
「いや、期待していない。だが君がアナーキズムに本気なら、まさにそうするはずだと思うだけだ。」
グレゴリーの大きく牛のような目が、怒れる獅子さながら唐突に瞬き、赤い鬣まで逆立ったように見えた。
「では君は」彼は危険な声で言った。「僕がアナーキズムに本気ではないと思っているのか?」
「何だって?」とサイム。
「僕はアナーキズムに本気ではないのか?」グレゴリーは拳を握って叫んだ。
「まあまあ、君!」とサイムは言い、その場をぶらりと離れた。
驚いたことに、そして奇妙に嬉しいことに、ロザマンド・グレゴリーがまだそばにいた。
「サイムさん」彼女は言った。「あなたや兄のような話し方をする人は、本気で言っていることが多いの? いまのあなたの言葉も本気?」
サイムは微笑んだ。
「あなたは?」と尋ねた。
「どういう意味?」娘は真剣な目で尋ねた。
「グレゴリーさん」サイムは穏やかに言った。「誠実さにも不誠実さにも、いろいろな種類がある。塩を取ってもらって『ありがとう』と言うとき、本気でそう思っていますか? いいえ。『世界は丸い』と言うとき、本気で言っていますか? いいえ。真実ではあるが、心を込めてはいない。ところが時おり、あなたのお兄さんのような人が、本気で信じられる何かを見つける。半分の真実、四分の一の真実、十分の一の真実にすぎないかもしれない。だがそのとき彼は、あまりに本気であるがゆえに、自分が思っている以上のことまで口にする。」
彼女はまっすぐな眉の下からサイムを見つめていた。顔は真剣で、心を隠していなかった。その表情には、どれほど浮ついた女の奥底にも潜む、理屈を超えた責任感の影が落ちていた。世界と同じほど古い、母性の眼差しだった。
「では兄は、本当にアナーキストなの?」と彼女は尋ねた。
「いま言った意味でだけです」とサイムは答えた。「言い換えれば、そんな無意味においてだけです。」
彼女は太い眉を寄せ、唐突に言った。
「本当に使ったりはしないわよね――爆弾とか、そういうものを?」
サイムは大笑いした。その笑いは、ほっそりした、やや伊達男めいた体には大きすぎるように響いた。
「まさか!」と彼は言った。「そんなことをするなら、匿名でなければ。」
すると彼女の口元にも微笑みが浮かんだ。グレゴリーの滑稽さと、その身の安全とを同時に思い、安堵したのである。
サイムは彼女と庭の隅の腰掛けまで歩き、なおも意見をとうとうと述べ続けた。彼は誠実な人間であり、表面的な気取りの奥には、根本的な謙虚さがあった。しゃべりすぎるのは、いつも謙虚な人間である。高慢な人間は、自分を気にしすぎる。彼は激烈で誇張された言葉をもって、品行方正さを擁護した。整頓と礼節をたたえるうち、熱情に駆られていった。その間ずっと、周囲にはライラックの香りが漂っていた。一度、遠くの通りで手回しオルガンが鳴り始めるのを、ごくかすかに耳にした。すると自分の英雄的な言葉が、世界の底か、世界の彼方から聞こえる小さな調べに合わせて進んでいるように思えた。
娘の赤い髪と愉快そうな顔を見つめながら、ほんの数分ほど話していたつもりだった。やがて、このような場所では人の輪も入れ替わるべきだと思い、立ち上がった。そして驚いたことに、庭はすっかり空になっていた。皆、とっくに帰っていたのである。サイムもやや慌ただしく詫びて立ち去った。頭の中にシャンパンが満ちたような感覚があったが、あとになっても理由を説明できなかった。これから起こる荒々しい事件に、この娘はまったく関わらない。すべてが終わるまで、二度と会うこともなかった。それでも言葉にできない何らかの仕方で、彼女はその後の狂気じみた冒険の一つ一つを通じ、音楽の主題のように何度もよみがえった。奇妙な赤毛の輝きは、暗く粗雑に織られた夜の綴織を貫く赤い糸となった。なぜなら、その後に起きたことは、夢であってもおかしくないほどありえない出来事だったからである。
サイムが星明かりの街路へ出ると、ひとまず人影はなかった。だがやがて、奇妙なことに、その静寂は死んだ静寂ではなく、生きた静寂だと気づいた。戸口のすぐ外に街灯が立ち、その光が、背後の塀から枝垂れた木の葉を金色に染めていた。街灯から一フィート(約三十センチ)のところに、街灯そのものと同じほど硬直し、身じろぎもしない人影があった。シルクハットも長いフロックコートも黒く、急角度に落ちた影の中の顔も、ほとんど同じほど黒かった。ただ逆光に燃える髪の縁取りと、姿勢に宿る挑戦的な気配だけが、それを詩人グレゴリーだと告げていた。剣を手に敵を待つ、覆面の刺客めいた姿だった。
グレゴリーはためらいがちに会釈し、サイムはそれより少し形式ばって返礼した。
「君を待っていた」とグレゴリーは言った。「少し話せるだろうか?」
「もちろん。何の話だ?」サイムは弱々しい驚きをにじませて尋ねた。
グレゴリーは杖で街灯を打ち、次いで木を打った。
「これと、これについてだ!」彼は叫んだ。「秩序とアナーキーについてだ。そこに君の大切な秩序がある。痩せた鉄の街灯、醜く、不毛だ。そしてこちらがアナーキー。豊かで、生き、自らを増やしてゆく――緑と黄金に輝く、壮麗なアナーキーだ。」
「それでも」とサイムは辛抱強く答えた。「いま君がその木を見られるのは、街灯の光があるからだ。木の光で街灯を見られる日が、果たして来るだろうかね。」
しばらくしてから言った。「だが、まさかこのささやかな議論を再開するためだけに、暗がりの中でずっと立っていたのか?」
「違う!」グレゴリーは街路中に響く声で叫んだ。「議論を再開するためではない。永遠に終わらせるために、ここに立っていたのだ。」
再び沈黙が落ちた。サイムには何もわからなかったが、本能的に、何か重大な言葉が続くのを待った。グレゴリーは滑らかな声で、少々人を戸惑わせる笑みを浮かべて話し始めた。
「サイム君、今夜、君はなかなか大したことをやってのけた。女から生まれた者のうち、これまで誰一人として僕にできなかったことをしたのだ。」
「ほう!」
「そういえば」とグレゴリーは考え深げに続けた。「もう一人だけ成功した者がいた。記憶が正しければ、サウスエンドの安い遊覧船の船長だ。君は僕を苛立たせた。」
「それは申し訳ない」とサイムは真顔で答えた。
「残念ながら、僕の憤怒と君の侮辱は、謝罪で消すには深刻すぎる」とグレゴリーはきわめて冷静に言った。「決闘でも消せない。君を殴り殺しても消せない。この侮辱を消し去る方法は、ただ一つしかない。そして僕はその方法を選ぶ。命も名誉も犠牲にするかもしれないが、君の言葉が誤りだったと証明してみせる。」
「僕の言葉?」
「僕がアナーキストとして本気ではない、と君は言った。」
「本気にも程度がある」とサイムは答えた。「君が完全に誠実であることは疑っていない。自分の発言には口にする価値があり、逆説によって、見過ごされてきた真実に人々を目覚めさせられると信じている。その意味ではね。」
グレゴリーは苦しげに、じっと彼を見つめた。
「それ以外の意味では」彼は尋ねた。「僕を本気だと思わないのか? たまに真実をこぼして歩く*遊歩者(フラヌール)*にすぎないと思っている。もっと深く、もっと死を孕んだ意味で、僕が本気だとは思わないのだな。」
サイムは杖を激しく石畳へ打ちつけた。
「本気だって!」彼は叫んだ。「何てことだ! この街路が本気に見えるか? あのいまいましい中国提灯が本気か? この一切合切が本気だというのか? ここへ来れば、誰もがくだらないことを山ほどしゃべり、ついでに多少はましなことも言う。だが人生の奥に、このおしゃべりすべてより重大な何かを持っていない男など、僕は軽蔑するね。それが宗教であれ、ただの酒であれ、もっと重大な何かを。」
「よろしい」グレゴリーは顔を暗くして言った。「酒よりも宗教よりも重大なものを見せてやる。」
サイムはいつもの穏やかな様子で待った。やがてグレゴリーが再び口を開いた。
「たったいま、宗教を持っていると言ったな。本当なのか?」
「ああ」サイムは晴れやかに笑った。「いまでは皆カトリックだからね。」
「ならば君の宗教に属する神々か聖人たちにかけて、これから僕が話すことをアダムの子らの誰にも、ことに警察には決して漏らさないと誓ってくれるか? 誓えるか! この恐るべき自己否定を引き受け、決して立てるべきではない誓いと、夢にさえ見るべきではない知識とを、自らの魂に背負う覚悟があるなら、その代わりに僕は約束しよう――」
「その代わりに?」相手が言葉を切ると、サイムが尋ねた。
「大いに愉快な一夜を約束する。」
サイムは唐突に帽子を脱いだ。
「君の申し出は、馬鹿げすぎて断れない。君は、詩人はつねにアナーキストだと言った。僕はそう思わない。だが少なくとも、詩人はつねに勝負師であってほしい。ここで、いま、キリスト教徒として誓い、よき仲間、同じ芸術家として約束しよう。これが何であれ、警察には一切知らせない。では、コルニー・ハッチ[訳注:ロンドン近郊にあった著名な精神病院]の名にかけて、いったい何なのだ?」
「ひとまず」グレゴリーは平然と、まるで関係のないことを言った。「辻馬車を呼ぼう。」
長い口笛を二度吹くと、二輪馬車が音を立ててやってきた。二人は黙って乗り込んだ。グレゴリーは天井の小窓越しに、チズウィックの河岸にある人目につかない酒場の住所を告げた。馬車は再び勢いよく走り出し、二人の奇人を、奇怪な町から連れ去った。
第二章 ガブリエル・サイムの秘密
馬車は、ひときわ陰気で脂じみたビール酒場の前に止まった。グレゴリーは連れを急いで中へ導いた。二人は、狭く薄暗い酒場の奥座敷で、染みだらけの一本脚の木製テーブルについた。部屋はあまりに狭く暗かったため、呼ばれてきた給仕の姿も、大柄で髭を生やした何者かという、曖昧で黒々とした印象しか見えなかった。
「軽く夜食でもどうだ?」グレゴリーは丁重に尋ねた。「ここのフォアグラのパテは感心しないが、ジビエなら勧められる。」
サイムは冗談だと思い、無表情に聞き流した。その調子に合わせ、育ちのよい無頓着さで言った。
「ああ、ではロブスターのマヨネーズ添えを。」
ところが驚いたことに、給仕は「かしこまりました」とだけ言い、本当に取りに行ったらしかった。
「飲み物は?」グレゴリーは同じく気軽で、どこか詫びるような口調で続けた。「僕は食事を済ませたから、クレーム・ド・マントだけにする。だがシャンパンは本物だ。せめてポメリーをハーフボトルで始めてはどうだ?」
「ありがとう!」身じろぎもしないサイムが言った。「ご親切に。」
サイムはなおも、いささかまとまりを欠く会話を試みた。だが本物のロブスターが現れた瞬間、その努力は落雷に打たれたように完全に途絶えた。口にしてみると、ことのほか旨かった。そこで唐突に、すさまじい速さと食欲で食べ始めた。
「露骨に楽しんでしまって申し訳ない!」サイムは笑ってグレゴリーに言った。「こんな夢を見る幸運には、めったに恵まれない。悪夢がロブスターに行き着くとは初めてだ。普通はロブスターが悪夢に行き着くものだからね。」
「眠っているわけではない、保証する」とグレゴリーは言った。「それどころか君は、人生で最も現実的で、最も目の覚める瞬間に近づいている。ああ、シャンパンが来た! このすばらしいホテルの内部設備と、簡素で気取らない外観との間には、多少の不釣り合いがあるかもしれない。だが、それも我々が慎ましいからだ。我々ほど慎ましい者は、かつて地上に存在しなかった。」
「その我々とは誰だ?」サイムはシャンパンのグラスを空にして尋ねた。
「実に簡単だ」グレゴリーは答えた。「我々こそ、君が存在を信じていない、本気のアナーキストだ。」
「ほう!」とサイムは短く言った。「酒にはずいぶん本気らしい。」
「そう、我々はあらゆることに本気だ」とグレゴリーは答えた。
そして、しばらくしてから付け加えた。
「あと少しして、このテーブルがゆっくり回り始めても、シャンパンを飲みすぎたせいだとは思わないでくれ。君に不当な自己評価をしてほしくない。」
「酔っていないなら、僕は狂っている」とサイムはまったく平静に答えた。「だがどちらの状態でも、紳士らしく振る舞えると自負している。煙草を吸っても?」
「もちろん!」グレゴリーは葉巻入れを取り出した。「僕のを一本どうぞ。」
サイムは葉巻を取り、チョッキのポケットから出したカッターで先を切り、口にくわえ、ゆっくり火をつけ、長い煙を吐いた。これほど落ち着いて一連の儀式をこなしたのは、少なからず称賛に値する。なぜなら、彼がまだ始めたばかりのうちに、二人の座るテーブルは、狂気の降霊会さながら、初めはゆっくり、やがて急速に回転し始めていたからである。
「気にしなくていい」とグレゴリーは言った。「ねじのような仕掛けだ。」
「なるほど」サイムは平然と言った。「ねじのような仕掛けか。実に単純だ!」
次の瞬間、それまで蛇のように身をくねらせて室内を漂っていた葉巻の煙が、工場の煙突から出たようにまっすぐ立ち上った。同時に二人は椅子やテーブルごと、地面に呑み込まれたかのように床を突き抜け、下へ落ちていった。轟音を上げる煙突のような筒の中を、綱の切れた昇降機さながら凄まじい速さで下り、唐突な衝撃とともに底へ着いた。だがグレゴリーが二枚扉を開き、地下の赤い光を招き入れたときも、サイムは脚を組んだまま葉巻を吸い続け、黄色い髪一本ほどにも顔色を変えていなかった。
グレゴリーは彼を、低いアーチ状の通路へ導いた。その先に赤い光があった。暖炉ほどもある巨大な深紅のランタンが、小さいながら頑丈な鉄扉の上に取りつけられていた。扉には小窓か格子のようなものがあり、グレゴリーはそこを五回叩いた。外国訛りの太い声が、何者かと尋ねた。グレゴリーは、やや意外な返答をした。
「ジョゼフ・チェンバレン氏だ。」
重い蝶番が動き始めた。明らかに合言葉だった。
扉の向こうの通路は、鋼鉄の網で内張りされているかのように輝いていた。改めて見ると、その光る模様は、隙間なく並べられ、互いに噛み合わされた、何列もの小銃と拳銃でできていた。
「こうした形式ばった手続きを許してほしい」とグレゴリーは言った。「ここでは厳重にせねばならない。」
「謝ることはない」とサイムは言った。「君が法と秩序をこよなく愛しているのは知っている。」
そうして鋼鉄の武器に囲まれた通路へ踏み入れた。長い金髪と、やや伊達男風のフロックコートをまとった姿は、光り輝く死の並木道を歩くには、ひどく脆弱で夢想的に見えた。
二人はいくつか同様の通路を抜け、ついに奇妙な鋼鉄の部屋へ出た。壁は湾曲し、ほぼ球形をなしていたが、段々に並ぶ長椅子のせいで、科学講義用の階段教室にも見えた。この部屋には小銃も拳銃もなかった。だが壁には、もっと正体の知れない恐ろしい形のものが掛かっていた。鉄の植物の球根、あるいは鉄の鳥の卵に似ていた。それは爆弾だった。部屋そのものまで、巨大な爆弾の内部のように見えた。サイムは壁に葉巻の灰を叩き落とし、中へ入った。
「さて、親愛なるサイム君」グレゴリーは最大の爆弾の下にある長椅子へ、のびのびと身を投げ出して言った。「これでもう落ち着ける。ゆっくり話そう。なぜ君をここへ連れてきたのか、人間の言葉ではとうてい説明できない。崖から飛び降りたり、恋に落ちたりするのと同じ、まったく気まぐれな衝動だった。ひとまず、君が言葉にできないほど癇に障る男だったから、とだけ言っておこう。公平を期せば、いまもそうだ。君をへこませる楽しみのためなら、秘密の誓いを二十でも破る。君の葉巻のつけ方を見たら、司祭だって告解の守秘義務を破りかねない。さて、僕が本気のアナーキストではないと、君は断言した。この場所は本気に見えるか?」
「この陽気さの奥には、何か教訓があるようだ」とサイムは認めた。「だが二つ質問していいだろうか? 情報を与えるのを恐れる必要はない。覚えているだろうが、君はきわめて賢明にも、僕から警察へ話さないという約束を取りつけた。僕は必ず守る。だから純粋な好奇心から尋ねるだけだ。まず、これはそもそも何のためなのだ? 何に反対している? 政府を廃止したいのか?」
「神を廃止するのだ!」グレゴリーは狂信者の目を見開いた。「我々は、二、三の専制政治や警察規則を覆したいだけではない。そうしたアナーキズムも存在するが、あれは非国教徒の一派にすぎない。我々はもっと深く掘り、君たちをもっと高く吹き飛ばす。ただの反逆者が基盤としている、悪徳と美徳、名誉と裏切りといった恣意的な区別を、すべて否定したいのだ。フランス革命の愚かな感傷家どもは、人間の権利について語った! 我々は正義を憎む。悪を憎むのと同じほどにな。我々は善悪を廃した。」
「ついでに右と左も」サイムは無邪気な熱意で言った。「ぜひ廃してほしい。僕にはそちらのほうがよほど厄介だからね。」
「二つ目の質問があると言ったな」グレゴリーが噛みつくように言った。
「喜んで」サイムは続けた。「君たちの現在の行動や環境には、科学的な秘密保持の努力が見られる。僕には店の上階に住んでいた伯母がいるが、好んで酒場の地下に住む人間に出会ったのは初めてだ。重い鉄扉を設けている。それを通るには、チェンバレン氏を名乗る屈辱を甘受しなければならない。鋼鉄の器具で周囲を固め、この場所を家庭的というより、いわば印象的にしている。それほど苦労して地の底に立て籠もっておきながら、なぜサフラン・パークの愚かな女という女にアナーキズムを語り、秘密を公然とひけらかすんだ?」
グレゴリーは微笑んだ。
「答えは簡単だ」と言った。「僕が本気のアナーキストだと言っても、君は信じなかった。あの女たちも信じていない。この地獄の部屋へ連れてこないかぎり、信じはしない。」
サイムは考え深げに煙を吐き、興味深そうに彼を見た。グレゴリーは続けた。
「事の来歴を聞けば、君も面白がるかもしれない。新アナーキストの一員になった当初、僕はあらゆる堅気の変装を試した。司教にも化けた。アナーキストの小冊子、『吸血鬼たる迷信』や『略奪者たる司祭』を読み、司教について徹底的に勉強した。そこから理解したところでは、司教とは、人類に残酷な秘密を隠している、奇怪で恐ろしい老人たちだった。だが誤報だった。初めて司教用の脚絆をつけて客間へ現れ、雷のような声で『思い上がった人間理性よ、地に落ちよ! 地に落ちよ!』と叫ぶと、どういうわけか、本物の司教でないと見破られた。即座に捕まった。それから百万長者に化けた。だが資本をあまりに知的に擁護したため、馬鹿でも僕が貧乏だと見抜けた。次は少佐を試した。僕自身は人道主義者だが、ニーチェのように暴力を、自然の誇り高く狂気じみた闘争を、その他もろもろを賞賛する者の立場を理解できる程度には、知的な度量があるつもりだ。そこで全身全霊を少佐役に投じた。剣を抜き、絶えず振り回した。酒を注文する男のように、ぼんやり『血を!』と叫んだ。『弱者を滅ぼせ。それが法だ』ともよく言った。ところが、どうも少佐はそんなことをしないらしい。また捕まった。最後には絶望して、ヨーロッパ最大の人物である中央アナーキスト評議会議長のもとへ行った。」
「名は?」とサイムが尋ねた。
「言っても知らない」とグレゴリーは答えた。「そこに彼の偉大さがある。カエサルやナポレオンは、有名になることへ天才のすべてを注ぎ、実際に有名になった。議長は、知られないことへ天才のすべてを注ぎ、実際に知られていない。だが同じ部屋に五分もいれば、カエサルもナポレオンも、彼の手の中では子供にすぎなかっただろうと感じる。」
しばし黙り込み、顔さえ青ざめてから続けた。
「だが彼の助言は、いつも警句のように鮮烈で、それでいてイングランド銀行のように実際的だ。僕は言った。『どんな変装なら、世間の目から身を隠せるでしょう? 司教や少佐より堅気に見えるものがあるでしょうか?』。彼は大きく、しかも解読不能な顔で僕を見た。『安全な変装が欲しいのだな? 無害であることを保証し、爆弾など誰も探そうとしない服が欲しいのだな?』。僕はうなずいた。すると突然、獅子の声を張り上げた。『ならば、アナーキストに変装しろ、この馬鹿者!』。部屋が震えるほどの大声だった。『そうすれば、危険なことをするなど誰も思わん』。そして、それ以上ひと言も言わず、広い背を向けた。僕は助言に従い、一度も後悔していない。あの女たちに、朝から晩まで流血と殺人を説いた。するとどうだ――神に誓って! ――女たちは僕に乳母車まで押させるのだ。」
サイムは大きな青い目に、いくばくかの敬意を浮かべて彼を見ていた。
「僕はすっかり騙された」と言った。「実に巧妙な手だ。」
そして少ししてから付け加えた。
「その途方もない議長を何と呼ぶ?」
「普通は日曜日と呼ぶ」とグレゴリーはあっさり答えた。「中央アナーキスト評議会には七人の評議員がおり、それぞれ曜日の名を持っている。彼は日曜日、崇拝者の一部からは“血の日曜日”と呼ばれている。君がこの話を持ち出したのは不思議だ。というのも、君がひょっこり落ちてきた今夜こそ、この部屋に集まるロンドン支部が、欠員となった評議員の後任を選出する夜だからだ。これまで長らく、難しい木曜日役を立派に務め、広く称賛されてきた紳士が、突然死んでしまった。それで今夜、後継者を選ぶ会合を招集した。」
グレゴリーは立ち上がり、照れくさそうに笑いながら部屋を横切った。
「どういうわけか、君が母親のように思えてきたよ、サイム」何げない口調で続けた。「誰にも話さないと約束した君になら、何でも打ち明けられる気がする。実際、あと十分ほどでこの部屋へ来るアナーキストたちにさえ、これほど露骨には言わないことを君に打ち明けよう。もちろん選挙の形式は踏む。だが、結果が事実上決まっていることは、君に話しても構わない。」
一瞬、慎ましげに目を伏せた。「僕が木曜日になることは、ほぼ決まっている。」
「それはそれは!」サイムは心から言った。「おめでとう。輝かしい出世だ!」
グレゴリーは謙遜して微笑み、足早に話しながら部屋を横切った。
「実のところ、必要なものはすべて、このテーブルに用意してある」と言った。「儀式も可能なかぎり短くなるだろう。」
サイムもテーブルへ歩み寄った。上には一本の杖が横たわっていたが、調べると仕込み杖だった。ほかに大きなコルト式拳銃、サンドイッチ入れ、物々しいブランデーのフラスコがあった。テーブル脇の椅子には、重そうなケープか外套が掛けられていた。
「選挙の形式を終えさえすればいい」グレゴリーは生き生きと続けた。「この外套と杖をひっつかみ、ほかの品をポケットへ詰め、この地下洞窟から川へ通じる扉を出る。そこにはもう蒸気曳船が待っている。それから――それから――ああ、木曜日になるという、この荒々しい喜び!」
そう言って両手を組み合わせた。
いつもの尊大で物憂げな様子で再び腰を下ろしていたサイムは、珍しくためらいながら立ち上がった。
「なぜだろう」彼は漠然と尋ねた。「君がかなりまともな男に思えるのは。なぜ僕は、君のことが本当に好きなのだろう、グレゴリー?」
一瞬黙り、それから新たな好奇心を浮かべて付け加えた。「君がそこまでの馬鹿だからか?」
再び考え込むような沈黙があり、やがてサイムは叫んだ。
「ええい、どうにでもなれ! これほど愉快な状況は生まれて初めてだ。それにふさわしく行動しよう。グレゴリー、ここへ入る前、僕は君に約束した。真っ赤に焼けた鉗子で挟まれても、あの約束は守る。僕自身の安全のため、君も同じような約束をしてくれないか?」
「約束?」グレゴリーは怪訝そうに尋ねた。
「そうだ」サイムはひどく真剣に言った。「約束だ。僕は神の前で、君の秘密を警察に漏らさないと誓った。君も人類だか、君が信じている何か胸糞の悪いものにかけて、僕の秘密をアナーキストたちに漏らさないと誓ってくれるか?」
「君の秘密?」グレゴリーは目を見張った。「君にも秘密があるのか?」
「ある」とサイムは言った。「僕には秘密がある。」
しばらくして、「誓うか?」
グレゴリーは数秒、厳しい目で睨みつけ、唐突に言った。
「君は僕に魔法でもかけたらしい。君のことが猛烈に知りたくなってきた。いいだろう。君から聞いたことは、アナーキストたちに一切話さないと誓う。だが急げ。あと二、三分で来てしまう。」
サイムはゆっくり立ち上がり、長い白い手を、長い灰色のズボンのポケットへ突っ込んだ。ほぼ同時に、外の格子を五回叩く音がした。最初の陰謀者が到着したのである。
「さて」サイムはゆっくり言った。「真実を手短に伝えるには、こう言うしかなさそうだ。無目的な詩人に変装するという策を使うのは、君や議長だけではない。我々スコットランド・ヤードも、以前からその手を知っている。」
グレゴリーは勢いよく立ち上がろうとしたが、三度よろめいた。
「何だと?」人間離れした声で尋ねた。
「そういうことだ」とサイムはあっさり言った。「僕は警察の探偵だ。だが、君の友人たちが来たようだ。」
戸口のほうから「ジョゼフ・チェンバレン氏だ」という声が聞こえた。
それが二度、三度、そして三十回と繰り返された。ジョゼフ・チェンバレン氏の大群――考えてみれば厳粛な光景である――が廊下を踏み鳴らしてくる音がした。
第三章 木曜日だった男
新顔の一人が戸口に姿を見せるより早く、グレゴリーは茫然自失から立ち直った。獣のような声を喉から漏らし、一跳びでテーブルのそばへ行った。コルト式拳銃をつかみ、サイムに狙いを定めた。サイムはたじろがず、青白く礼儀正しい手を挙げた。
「そんな馬鹿な真似はよせ」女性的な牧師補のような威厳で言った。「必要ないとわからないのか? 二人とも同じ船に乗っているんだ。そうとも、ひどく船酔いした船にな。」
グレゴリーは口を利けなかったが、撃つこともできなかった。その目だけが問いを発していた。
「互いに相手を詰ませたとわからないのか?」サイムは叫んだ。「僕は君がアナーキストだと警察に言えない。君は僕が警官だとアナーキストに言えない。僕は君の正体を知りながら監視するしかなく、君も僕の正体を知りながら監視するしかない。つまり、孤独で知的な決闘だ。僕の頭脳対、君の頭脳。僕は警察の助けを奪われた警官だ。気の毒な君は、アナーキーに不可欠な法と組織の助けを奪われたアナーキストだ。ただ一つの違いだけは、君に有利だ。君は詮索好きな警官に囲まれてはいないが、僕は詮索好きなアナーキストに囲まれている。僕は君を裏切れない。だが自分を裏切るかもしれない。まあ見ていろ。僕が自滅するところを。実に見事にやってみせる。」
グレゴリーは、サイムを海の怪物でも見るように凝視しながら、ゆっくり拳銃を置いた。
「僕は不死など信じない」ようやく言った。「だが、これほどのことをしておいて君が約束を破ったなら、神は君一人のために地獄を造り、永遠にそこで吠えさせるだろう。」
「約束は破らない」サイムは厳しく言った。「君も破らない。仲間が来たぞ。」
アナーキストたちは、足を引きずるような、やや疲れた足取りで、どっと部屋へ入ってきた。だが黒髭に眼鏡をかけた小男――ティム・ヒーリー氏にどこか似た男――が一団から離れ、書類を手に忙しげに進み出た。
「同志グレゴリー」彼は言った。「この男は代表者だろうな?」
不意を突かれたグレゴリーは、目を伏せてサイムの名をつぶやいた。だがサイムは、いささか生意気に答えた。
「あなた方の門が厳重に守られ、代表者でもない者が入り込むのは難しいとわかって安心した。」
それでも黒髭の小男の額には、疑惑めいた皺が残っていた。
「どの支部を代表している?」鋭く尋ねた。
「支部と呼ぶべきではないな」サイムは笑った。「少なくとも根と呼ぶべきだ。」
「どういう意味だ?」
「実を言えば」サイムは平然と答えた。「僕は安息日厳守主義者だ。諸君が日曜日を正しく尊重しているか確かめるため、特に派遣されてきた。」
小男は書類を一枚取り落とし、一団全員の顔に恐怖が閃いた。日曜日という名の恐るべき議長は、支部会合にこうした変則的な使者を送り込むことが、実際にあるらしい。
「では同志」書類を持った男は、間を置いて言った。「会合に席を用意したほうがよさそうだな?」
「友人として助言を求めるなら」サイムは厳格な慈愛をにじませて言った。「そのほうがいいだろう。」
危険な会話が、突然の成り行きで敵を救う形で終わるのを聞くと、グレゴリーは唐突に立ち上がり、苦悩に沈みながら床を歩き回った。まさしく外交上の苦境に陥っていた。霊感めいたサイムの厚かましさなら、単なる偶発的な窮地はことごとく切り抜けてしまうだろう。そこにはほとんど期待できない。自分からサイムを裏切ることもできなかった。一つには名誉のためだが、もう一つには、裏切った末に何らかの理由で始末し損ねれば、逃げたサイムは秘密を守る義務から解放され、そのまま最寄りの警察署へ歩いていくからだった。結局、たった一晩の会合で、知る探偵も一人だけだ。今夜は計画を可能なかぎり明かさず、それからサイムを解放し、運を天に任せるしかない。
すでに長椅子へ散らばり始めたアナーキストの一団へ、大股で歩み寄った。
「そろそろ始めよう」彼は言った。「蒸気曳船はもう川で待っている。同志ボタンズを議長に推薦する。」
挙手で承認されると、書類を持った小男が議長席へ滑り込んだ。
「同志諸君」拳銃の発射音のように鋭く話し始めた。「今夜の会合は重要だ。だが長引かせる必要はない。当支部はつねに、中央ヨーロッパ評議会の木曜日を選出する名誉を担ってきた。これまで幾人もの、すばらしい木曜日を選んできた。先週までその地位にあった英雄的活動家の悲しい死を、我々は皆、悼んでいる。諸君も知るとおり、大義に対する彼の功績は大きかった。彼が計画したブライトンの大ダイナマイト作戦は、もっと幸運な状況なら、桟橋にいた全員を殺していたはずだ。また諸君も知るように、その死も生涯と同じく自己犠牲的だった。牛乳は野蛮な飲み物であり、牛への虐待を伴うとして、代用品にチョークと水を混ぜた衛生的飲料を信奉し、それが原因で死んだのだ。残酷さ、あるいは残酷さに近いものは、つねに彼を嫌悪させた。だが我々が集まったのは、彼の美徳をたたえるためではなく、もっと困難な仕事のためである。彼の資質を正しく称賛することも難しいが、その後任を見つけるのはさらに難しい。同志諸君、今夜、ここにいる者の中から木曜日となる男を選ぶ責務は諸君にある。誰かが名を挙げれば、採決にかける。誰も挙げないなら、我々のもとを去ったあの親愛なる爆破活動家が、その美徳と無垢の最後の秘密を、不可知なる深淵へ持ち去ったと考えるしかない。」
教会で時おり聞かれるような、ほとんど聞き取れない拍手が起こった。すると長く威厳ある白髭を生やした大柄な老人――出席者の中で、おそらく唯一、本物の労働者だった――が、重々しく立ち上がって言った。
「同志グレゴリーを木曜日に選出するよう動議する。」
そしてまた重々しく腰を下ろした。
「賛成者は?」議長が尋ねた。
ビロードの上着に尖った髭の小男が賛成した。
「採決に先立ち」議長が言った。「同志グレゴリーに所信表明を求める。」
大きなどよめきと拍手の中、グレゴリーが立ち上がった。顔は死人のように青白く、その対照で奇妙な赤毛は、ほとんど緋色に見えた。だが微笑み、完全に落ち着いていた。すでに腹を決め、最善の策が白い道のように、目の前へはっきり延びているのが見えていた。最善の機会は、穏当で曖昧な演説をし、アナーキストの結社も結局はきわめて温和な集まりだという印象を、探偵の心へ残すことだった。自らの文学的才能、微妙な色合いを示唆し、完璧な言葉を選ぶ能力を信じていた。周囲にこれほど多くの仲間がいても、慎重にやれば、この組織について、繊細かつ巧妙に偽った印象を与えられると思った。サイムはかつて、アナーキストなど大言壮語の裏ではふざけているだけだと思っていた。危機に瀕したいま、再びそう思わせることはできないだろうか?
「同志諸君」グレゴリーは、低いがよく通る声で始めた。「私の方針を諸君に語る必要はない。それは諸君の方針でもあるからだ。我々の信念は中傷され、歪められ、完全に混同され覆い隠されてきた。だが変わったことは一度もない。アナーキズムとその危険を語る者は、情報を求めてありとあらゆるところへ行く。ただし我々のもと、源泉にだけは来ない。六ペンス小説からアナーキストを学び、商人向け新聞からアナーキストを学び、『アリー・スローパーの半休日』や『スポーティング・タイムズ』からアナーキストを学ぶ。アナーキストからアナーキストを学ぼうとは決してしない。ヨーロッパの端から端まで我々の頭上へ積み上げられた、山のような中傷を否定する機会は与えられない。我々が歩く疫病だと聞かされてきた者は、我々の反論を一度も聞いたことがない。今夜も聞くことはないだろう。私が情熱のままに屋根を引き裂くほど叫んでもだ。迫害された者が集うことを許されるのは、地下深く、さらに深く――かつてキリスト教徒がカタコンベに集ったのと同じ場所だけだからだ。だが、何か信じがたい偶然によって、生涯にわたり我々を途方もなく誤解してきた男が今夜ここにいるなら、私はこう問いたい。『あのキリスト教徒たちがカタコンベに集った当時、地上の街路で、彼らはどのような道徳的評判を受けていた? 教養あるローマ人は別の教養あるローマ人に、彼らの残虐行為についてどんな話を語った? 仮に――』私は彼に言うだろう。『仮に我々が、いまなお謎めいた歴史の逆説を繰り返しているだけだとしたら? 我々がキリスト教徒と同じほど無害だからこそ、キリスト教徒と同じほど恐ろしく見えるのだとしたら? 我々がキリスト教徒と同じほど柔和だからこそ、キリスト教徒と同じほど狂って見えるのだとしたら?』。」
冒頭の数文を迎えた拍手は、次第に弱くなり、最後の言葉で唐突に途絶えた。突然の静寂の中、ビロードの上着の男が、甲高い金切り声で言った。
「俺は柔和じゃないぞ!」
「同志ウィザースプーンは」グレゴリーは続けた。「自分は柔和ではないと言う。ああ、自らを何と知らぬことか! 確かに言葉は過激、外見は獰猛で、一般的な趣味からすれば魅力的とすら言い難い。だが私ほど深く繊細な友情の目だけは、彼の根底に横たわる、揺るぎない柔和さの深い基盤を見抜ける。本人の目にも届かないほど深い基盤を。繰り返そう。我々こそ真の初期キリスト教徒だ。ただ来るのが遅すぎただけである。我々は彼らが素朴だったように素朴だ――同志ウィザースプーンを見よ。我々は彼らが慎ましかったように慎ましい――私を見よ。我々は慈悲深い――」
「違う、違う!」ビロードの上着のウィザースプーン氏が叫んだ。
「我々は慈悲深い!」グレゴリーは怒り狂って繰り返した。「初期キリスト教徒が慈悲深かったように。だがそれでも、彼らは人肉を食べると非難された。我々は人肉を食べない――」
「恥を知れ!」ウィザースプーンが叫んだ。「なぜ食わない?」
「同志ウィザースプーンは」グレゴリーは熱に浮かされた陽気さで言った。「なぜ誰も自分を食べないのか知りたがっている(笑い)。少なくとも、彼を心から愛し、愛を基礎とする我々の結社では――」
「違う、違う!」ウィザースプーンが言った。「愛を打倒せよ!」
「愛を基礎とする我々の結社では」グレゴリーは歯を食いしばって繰り返した。「集団として追求すべき目的について、あるいは私が代表者に選ばれた場合に追求すべき目的について、何ら困難はない。我々を暗殺者、人間社会の敵とする中傷を雄々しく無視し、道徳的勇気と静かな知的圧力によって、兄弟愛と簡素さという不変の理想を追求する。」
グレゴリーは席へ戻り、額を手で拭った。突然、気まずい静寂が生まれた。だが議長は機械人形のように立ち上がり、抑揚のない声で言った。
「同志グレゴリーの選出に反対する者は?」
集会全体が戸惑い、無意識に失望しているようだった。同志ウィザースプーンは落ち着かず座席で身を動かし、濃い髭の奥で何かつぶやいた。それでも手続きの勢いだけで、動議は採決され、可決されたはずだった。ところが議長が採決を告げようと口を開いた瞬間、サイムが跳ねるように立ち上がり、小さく静かな声で言った。
「はい、議長。反対します。」
演説において最も効果的なのは、予想外の声の変化である。ガブリエル・サイム氏は、明らかに演説を心得ていた。この最初の形式的な言葉を、抑制された調子で簡潔に発したあと、次の一語を、まるで銃の一つが発砲したかのように、丸天井の中で轟かせた。
「同志諸君!」全員が靴から飛び出しかねない声で叫んだ。「我々はこんな話を聞くため、ここへ来たのか? 鼠のように地下で暮らしながら、こんな話を聞くのか? 日曜学校の遠足で菓子パンを食べながらでも聞ける話だ。この壁を武器で埋め、あの扉を死で閉ざしたのは、誰かに同志グレゴリーの言葉を聞かれぬためか? 『善良であれ、さすれば幸福になる』『正直こそ最善の策』『美徳そのものが報酬である』などという言葉を? 同志グレゴリーの演説には、牧師補が喜んで聞けない言葉は一つもなかった(そうだ、そうだ)。だが私は牧師補ではない(盛大な喝采)。だから喜んで聞けなかった(再び喝采)。よき牧師補になるにふさわしい男は、断固として強力かつ有能な木曜日になるにはふさわしくない(そうだ、そうだ)。
「同志グレゴリーは、あまりにも弁解がましい口調で、我々は社会の敵ではないと言った。だが私は言う。我々は社会の敵だ。社会にとっては災難だろうが、知ったことではない。我々が社会の敵なのは、社会が人類の敵、その最古にして最も無慈悲な敵だからだ(そうだ、そうだ)。同志グレゴリーは、またも弁解がましく、我々は殺人者ではないと言った。その点には同意する。我々は殺人者ではない。処刑人だ(喝采)。」
サイムが立ち上がって以来、グレゴリーは驚きで白痴のようになり、凝視し続けていた。いま、言葉が途切れた隙に、土気色の唇を開き、機械的で生気のない明瞭さで言った。
「この忌まわしい偽善者め!」
サイムは恐ろしいその目を、青白い瞳でまっすぐ見返し、威厳をもって言った。
「同志グレゴリーは、私を偽善者だと非難した。私がすべての約束を守り、義務以外の何もしていないことは、彼も私と同じほどよく知っている。私は言葉を飾らない。飾るふりもしない。同志グレゴリーは、あらゆる愛すべき資質にもかかわらず、木曜日には不適格だ。いや、愛すべき資質があるからこそ不適格なのだ。アナーキーの最高評議会が、涙もろい慈悲に侵されることを、我々は望まない(そうだ、そうだ)。いまは儀礼的な礼節の時ではない。儀礼的な謙遜の時でもない。私は、ヨーロッパの全政府に立ち向かうように同志グレゴリーへ立ち向かう。アナーキーへ身を捧げたアナーキストは、誇りと同じく謙遜も忘れたからだ(喝采)。私はもはや人間ではない。私は大義である(再び喝采)。私は、壁の棚から一丁の拳銃を別の一丁より選ぶのと同じほど、個人的感情を交えず冷静に、同志グレゴリーへ反対する。そして言う。グレゴリーと、その水で薄めた牛乳のようなやり方を最高評議会へ送るくらいなら、私は自らを候補として――」
その言葉は、耳を聾する拍手の奔流に呑み込まれた。彼の糾弾が一切の妥協を排するほど、聴衆の顔には賛同の凶暴さが増していた。いまや期待の笑みに歪み、喜びの叫びに引き裂かれていた。木曜日の地位へ立候補すると宣言した瞬間、興奮と賛同の咆哮が爆発し、制御不能になった。同時にグレゴリーが口に泡を浮かべて立ち上がり、叫びの中で叫んだ。
「やめろ、この呪われた狂人ども!」喉が裂けるほどの大声だった。「やめろ、貴様ら――」
だがグレゴリーの絶叫よりも、部屋を揺るがす咆哮よりも大きく、サイムの声が無慈悲な雷鳴となって響き続けた。
「私は、我々を殺人者と呼ぶ中傷へ反論するため、評議会へ行くのではない。その名にふさわしくなるために行くのだ(長く盛大な喝采)。『この者たちは宗教の敵だ』と言う司祭に、『この者たちは法の敵だ』と言う裁判官に、『この者たちは秩序と公衆道徳の敵だ』と言う肥えた議員に、私は答えよう。『お前たちは偽りの王だ。だが真の預言者だ。私はお前たちを滅ぼし、その予言を成就させるために来た』と。」
激しい騒音は次第に静まっていった。だが完全に収まるより先に、ウィザースプーンが髪も髭も逆立てて立ち上がり、言った。
「修正動議として、同志サイムをその地位へ任命するよう提案する。」
「全部やめろと言っている!」グレゴリーは顔も手も狂乱させて叫んだ。「やめろ、これはすべて――」
議長の声が冷たい調子で、その言葉を断ち切った。
「この修正動議に賛成する者は?」
後列で、憂鬱な目とアメリカ風の顎髭を持つ、背の高い疲れた男が、ゆっくり立ち上がるのが見えた。グレゴリーはしばらく叫び続けていた。だがその声が突如変わった。どんな絶叫よりもぞっとする変化だった。
「これを終わらせる!」石のように重い声で言った。「この男を選ぶことはできない。この男は――」
「そうだ」サイムは微動だにせず言った。「この男は何だ?」
グレゴリーの口が二度動いたが、声は出なかった。やがて死人のような顔へ、ゆっくり血の色が戻り始めた。
「我々の活動について、まったく経験のない男だ。」
そう言って唐突に腰を下ろした。
その前に、アメリカ風の髭を持つ細長い男はすでに立ち上がり、甲高いアメリカ訛りの単調な声で繰り返していた。
「同志サイムの選出に賛成する。」
「慣例どおり、修正動議を先に採決する」議長のボタンズ氏は機械的な速さで言った。
「議題は、同志サイムを――」
グレゴリーがまた立ち上がった。息を切らし、激情に駆られていた。
「同志諸君!」叫んだ。「僕は狂人ではない。」
「おやおや!」ウィザースプーン氏が言った。
「僕は狂人ではない」グレゴリーは繰り返した。その恐ろしいほどの真摯さに、部屋全体が一瞬たじろいだ。「だが、狂気と呼びたければ呼べる助言を与える。いや、助言とは呼ばない。理由を示せないからだ。命令と呼ぶ。狂人の命令と呼んでいい。だが従え。殴ってもいい、だが聞け! 殺してもいい、だが従え! この男を選ぶな。」
真実は、鎖につながれていてさえ恐ろしい。一瞬、サイムのか細く狂気じみた勝利は、葦のように揺らいだ。だがサイムの冷たい青い目から、それを読み取ることはできなかった。ただ話し始めた。
「同志グレゴリーは命令を――」
その瞬間、呪縛が解けた。一人のアナーキストがグレゴリーへ叫んだ。
「お前は何者だ? 日曜日ではないぞ。」
別のアナーキストが、より重い声で加えた。
「木曜日でもない。」
「同志諸君」グレゴリーは、苦痛の法悦によって苦痛すら超えた殉教者のような声で叫んだ。「君たちが僕を暴君として憎もうと、奴隷として憎もうと、僕にはどうでもいい。命令を受け入れないなら、この屈辱を受け入れてくれ。君たちの前に跪く。足元に身を投げる。頼む。この男を選ばないでくれ。」
「同志グレゴリー」苦しい沈黙のあと、議長が言った。「これはさすがに威厳を欠く。」
この議事が始まって以来初めて、数秒間、本物の静寂が訪れた。やがてグレゴリーは、青白い廃人のようになって席へ崩れ落ちた。すると議長は、止まっていた時計仕掛けが突然また動き出したように繰り返した。
「議題は、同志サイムを総評議会の木曜日へ選出する件である。」
海のように咆哮が立ち、森のように手が挙がった。そして三分後、秘密警察のガブリエル・サイム氏は、ヨーロッパ・アナーキスト総評議会の木曜日に選出された。
部屋にいる誰もが、川で待つ曳船を、テーブルで待つ仕込み杖と拳銃を意識しているようだった。選挙が終わり、もはや撤回不能となり、選出を証明する書類をサイムが受け取ると、全員が一斉に立ち上がった。燃え立つような集団が、部屋の中で動き、入り交じった。どういう成り行きか、サイムはグレゴリーと向かい合った。グレゴリーはいまだ、呆然とした憎悪の目で彼を見ていた。二人は長い間、黙っていた。
「君は悪魔だ!」ついにグレゴリーが言った。
「そして君は紳士だ」サイムは厳粛に言った。
「僕を罠にかけたのは君だ」グレゴリーは全身を震わせながら言い始めた。「僕を罠にかけて――」
「筋の通ったことを言え」とサイムは短く言った。「その理屈なら、君はいったいどんな悪魔の議会へ僕を誘い込んだ? 君が僕に誓わせたのは、僕が君に誓わせるより先だった。おそらく二人とも、自分が正しいと思うことをしている。だが互いの正義は、呪われるほど違っている。だから譲歩など、何一つありえない。僕らの間にありうるのは、名誉と死だけだ。」
そう言って大きな外套を肩へ巻きつけ、テーブルからフラスコを取った。
「船の用意は完全に整っています」ボタンズ氏が忙しげに近づいて言った。「どうぞこちらへ。」
店員めいた仕草で、サイムを短い鋼鉄張りの通路へ案内した。なおも苦悶するグレゴリーが、熱に浮かされたように二人のすぐ後を追った。通路の突き当たりに扉があり、ボタンズは勢いよく開けた。すると月光を浴びた川が、青と銀の舞台背景さながら唐突に現れた。開口部のすぐそばには、一つの赤い目を持つ竜の子のような、黒く小さな蒸気艇が浮かんでいた。
船へ乗り込もうとしたまさにその瞬間、ガブリエル・サイムは呆然と口を開けたグレゴリーを振り返った。
「君は約束を守った」顔を影に隠し、優しく言った。「名誉ある男だ。感謝する。細かな一点に至るまで守ってくれた。事の始まりに、君が僕へ特に約束したものが一つあった。そして終わってみれば、確かにそれを与えてくれた。」
「何のことだ?」混乱しきったグレゴリーが叫んだ。「僕が何を約束した?」
「大いに愉快な一夜だ」サイムは言い、蒸気艇が岸を離れる中、仕込み杖で軍人風の敬礼をした。
第四章 ある探偵の物語
ガブリエル・サイムは、詩人を装っただけの探偵ではなかった。本物の詩人が探偵になったのである。アナーキーへの憎悪も、偽善ではなかった。多くの革命家が見せる目を覆いたくなる愚かさにより、若くして過度に保守的な立場へ追いやられた者の一人だった。おとなしく伝統を受け継いで、そこへ至ったのではない。彼の品行方正さは自然発生的で唐突なもの、反逆に対する反逆だった。奇人の一族に生まれ、最年長の者ほど最新の思想を抱いていた。伯父の一人はいつも無帽で歩き回り、別の伯父は帽子以外、何も身につけず歩き回ろうとして失敗した。父は芸術と自己実現を追求し、母は簡素さと衛生に熱中した。そのため幼少期のサイムは、アブサンとココアという両極端の間にある飲み物を、まったく知らずに育った。そして両方を健全に嫌っていた。母が清教徒を上回る禁欲を説けば説くほど、父は異教徒を上回る放縦へ広がっていった。母が菜食主義を強要するころには、父はほとんど食人を擁護するところまで来ていた。
幼いころから想像しうるあらゆる反逆に囲まれ、ガブリエルも何かへ反逆せざるをえなかった。そこで唯一残っていたもの――正気へ反逆した。だが狂信者たちの血も、まだ体内に少しは流れていた。そのため常識を求める抗議さえ、常識的とは言えないほど激しくなった。現代の無法に対する憎悪は、一つの偶然によって決定的なものとなった。あるとき脇道を歩いていた、まさにその瞬間、ダイナマイトによるテロが起きた。一時的に目も耳も利かなくなり、やがて煙が晴れると、砕けた窓と血まみれの顔々が見えた。その後も普段どおり、静かで礼儀正しく、いくぶん優しく振る舞っていた。だが心の一角だけは、正気を失っていた。大半の人々のように、アナーキストを知性主義と無知とを併せ持つ、一握りの病的な人間とは考えなかった。中国軍の侵攻にも似た、巨大で無慈悲な脅威だと考えた。
野蛮な否定の大洪水を警告する物語や詩、過激な論説を絶え間なく書き、新聞社とその屑籠へ注ぎ込み続けた。だが敵へ近づくことはできず、さらに悪いことには、生計にも近づけなかった。安物の葉巻を苦々しく噛み、アナーキーの進撃について思い悩みながらテムズ堤防を行き来する姿は、ポケットに爆弾を忍ばせたどんなアナーキストよりも獰猛で、孤独だった。実際、政府は壁を背に、絶望的な孤立の中で戦っているのだと、つねに感じていた。そうでなければ政府のことなど気にかけられないほど、ドン・キホーテ的な男だった。
あるとき、暗赤色の夕焼けの下、テムズ堤防を歩いていた。赤い川が赤い空を映し、空と川がともに彼の怒りを映していた。空はあまりに浅黒く、川面の光はそれに比してあまりに赤々と燃えていたため、水のほうが、そこに映る夕焼けより激しい炎に見えた。地下世界の巨大な洞窟の下を曲がりくねって流れる、本物の火の川のようだった。
当時のサイムはみすぼらしかった。旧式の黒いシルクハットをかぶり、それ以上に旧式で、黒くぼろぼろの外套に身を包んでいた。その組み合わせのせいで、ディケンズやブルワー=リットンの初期作品に登場する悪役めいていた。黄色い髭と髪も、はるか後年、サフラン・パークの芝生へ現れたときのように切り整えられて尖ってはおらず、もっと乱れ、獅子の鬣を思わせた。ソーホーで二ペンスで買った細長い黒葉巻が、食いしばった歯の間から突き出していた。全体として、聖戦を挑むと誓った相手であるアナーキストの、申し分ない見本に見えた。テムズ堤防に立つ警官が「こんばんは」と声をかけたのも、おそらくそのせいだった。
人類への病的な不安が頂点に達していたサイムは、黄昏の中の青い塊にすぎない、機械的な官吏の鈍重さだけで刺されたように感じた。
「こんばんは、だと?」鋭く言った。「君たちは世界の終わりにだって、こんばんはと言うだろう。あの血のように赤い太陽と、血のように赤い川を見ろ! たとえあれが本当に、流されて輝く人間の血だったとしても、君は相変わらず不動のままここに立ち、追い払えそうな、哀れで無害な浮浪者を探しているだろう。君たち警官は貧者に残酷だ。だがその平静ささえなければ、残酷さぐらいは許してもいい。」
「我々が平静であるとすれば」警官は答えた。「それは組織的抵抗の平静さです。」
「何だと?」サイムは目を見張った。
「兵士は戦闘のただ中でも冷静でなければなりません」と警官は続けた。「軍隊の沈着さは、国民の怒りなのです。」
「何てことだ、教育委員会立学校か!」サイムは言った。「これが宗派を問わぬ公教育というものか?」
「いいえ」警官は悲しげに言った。「私はその恩恵を受けたことがありません。教育委員会立学校ができたのは、私の時代よりあとでした。私が受けた教育は、残念ながら、ひどく荒っぽく旧式なものでして。」
「どこで受けた?」サイムは驚いて尋ねた。
「ハロウ校です」警官は言った。
階級的な共感は偽りではあるが、多くの男にとって最も真実に近いものでもある。サイムは抑えるより先に、それを露わにした。
「だが、何てことだ」彼は言った。「君のような男が警官をしていてはいけない!」
警官はため息をつき、首を振った。
「承知しています」厳粛に言った。「私にはその資格がないことは承知しています。」
「ではなぜ警察に入った?」サイムは無遠慮な好奇心から尋ねた。
「あなたが警察を罵ったのと、だいたい同じ理由です」と警官は答えた。「人類を憂える者のうち、人間意志の正常で弁解可能な、ただし過度な爆発より、科学的知性の逸脱を懸念する者に適した、特殊な職務が警察にあると知ったのです。意味は明瞭でしょうか。」
「君の見解が明瞭かという意味なら」サイムは言った。「おそらくそうだろう。だが君自身を明瞭に説明できたかとなれば、まるで正反対だ。君のような男が、テムズ堤防で青いヘルメットをかぶり、なぜ哲学を語っている?」
「我々の警察制度における最新の展開を、明らかにご存じないようですね」と警官は答えた。「驚きません。我々は教養階級には、なるべく伏せています。その階級に我々の敵の大半がいるからです。しかしあなたは、まさにふさわしい精神状態にあるようだ。もしかすると、我々へ加われるかもしれません。」
「何に加わる?」サイムが尋ねた。
「お話ししましょう」警官はゆっくり言った。「状況はこうです。我々のある部門の長で、ヨーロッパ屈指の名探偵が、純粋に知的な陰謀が、近いうちに文明の存在そのものを脅かすと、以前から考えています。科学界と芸術界が、家族と国家に対する十字軍を、ひそかに結成していると確信している。そこで彼は、警官であると同時に哲学者でもある、特別な警官隊を組織しました。その任務は、犯罪的な意味だけでなく、思想的な意味でも、この陰謀の芽を監視することです。私自身は民主主義者です。通常の勇気や美徳に関して、普通の人間がどれほど価値を持つかは、十分承知しています。だが異端審問でもある捜査に、普通の警官を使うのが望ましくないのは明らかです。」
サイムの目が、共感に満ちた好奇心で輝いた。
「では、何をする?」と尋ねた。
「哲学警官の仕事は」青い制服の男は答えた。「普通の探偵の仕事より大胆であり、同時に繊細です。普通の探偵は、泥棒を逮捕するため居酒屋へ行く。我々は悲観主義者を見つけるため、芸術家の茶会へ行く。普通の探偵は、帳簿や日記から、犯罪が行われた事実を発見する。我々はソネット集から、犯罪がこれから行われることを発見する。人を最後には知的狂信と知的犯罪へ駆り立てる、恐ろしい思想の源を突き止めねばなりません。ハートルプールの暗殺を阻止できたのも、まさに間一髪でした。あれはひとえに、我々のウィルクス氏――頭の切れる若者です――がトリオレ[訳注:八行からなるフランス起源の定型詩]を完全に理解していたおかげです。」
「つまり」サイムは尋ねた。「犯罪と現代知性との間には、本当にそれほど深い関係があるのか?」
「あなたは民主主義が足りません」と警官は答えた。「だが先ほど、貧しい犯罪者に対する通常の扱いは、かなり残酷だと言った点では正しい。私もこの仕事が嫌になることがあります。それが絶えず、無知な者、絶望した者への戦争にすぎないのを見れば。しかし我々のこの新運動は、まったく別のものです。我々は、無教育な者こそ危険な犯罪者だという、俗物的なイギリス人の思い込みを否定します。ローマ皇帝を忘れない。ルネサンス期の毒殺王侯を忘れない。危険な犯罪者とは、教育ある犯罪者だと主張する。現代で最も危険な犯罪者とは、完全に無法な現代哲学者です。それに比べれば、押し込み強盗も重婚者も、本質的には道徳的な人間です。私は彼らに同情します。彼らは人間の根本的理想を受け入れている。ただ、間違った手段で追い求めているだけです。泥棒は財産を尊重します。財産を自分のものにし、より完全に尊重したいだけです。だが哲学者は、財産であるがゆえに財産を嫌う。個人所有という観念そのものを滅ぼしたい。重婚者は結婚を尊重しています。そうでなければ、高度に儀礼的で、祭式的ですらある重婚の形式など踏みません。だが哲学者は、結婚であるがゆえに結婚を軽蔑する。殺人者は人命を尊重します。自分にとって価値が低く見える命を犠牲にし、自分自身の人間的生命をより豊かにしたいだけです。だが哲学者は生命そのものを憎む。他人の命だけでなく、自分の命も。」
サイムは両手を打ち合わせた。
「まさにそのとおりだ!」叫んだ。「少年のころから感じていたが、言葉で対比して示すことができなかった。ありふれた犯罪者は悪人だ。だが少なくとも、言うなれば条件つきの善人だ。ある障害――たとえば裕福な伯父――さえ取り除かれれば、宇宙を受け入れ、神を賛美する用意があると言っている。彼は改革者ではあるが、アナーキストではない。建物を清めたいのであって、破壊したいのではない。だが邪悪な哲学者が望むのは、物事を変えることではなく、消滅させることだ。そう、現代世界は、警察業務のうち本当に抑圧的で不名誉な部分を、すべて残している。貧者を追い立て、不幸な者を監視する仕事を。その一方で、より威厳ある仕事は放棄した。国家の強大な反逆者や、教会の強大な異端の首領を罰する仕事を。現代人は、異端者を罰してはならないと言う。僕が疑問に思うのは、それ以外の誰かを罰する権利が我々にあるのか、ということだけだ。」
「だが、これはひどい!」警官は、その体格と服装の者には珍しい興奮で両手を組み、叫んだ。「まったく耐えがたい! いま何をしているかは知りませんが、あなたは人生を浪費している。アナーキーに対抗する我々の特別部隊へ加わらねばならない。いや、必ず加わってもらう。彼らの軍勢は国境まで来ています。落雷の用意は整っている。あと一瞬遅れれば、我々とともに戦う栄誉を、ことによれば世界最後の英雄たちとともに死ぬ栄誉を、失うかもしれない。」
「確かに逃せない機会だ」サイムは同意した。「それでも、まだよくわからない。現代世界が、無法な小人物と狂気じみた小運動で満ちていることは、僕もよく知っている。だが胸糞は悪くとも、たいていは互いに意見が合わないという一つの美点がある。どうして一つの軍を率い、一つの雷を投げるなどと言える? そのアナーキーとは何なのだ?」
「混同してはなりません」と巡査は答えた。「ロシアやアイルランドで偶発的に起きる、ダイナマイト事件とは違います。あれは誤ってはいても、抑圧された者たちの爆発です。こちらは巨大な哲学運動で、外輪と内輪から成ります。外輪を平信徒、内輪を聖職者と呼んでもよい。私は外輪を無実の部門、内輪を最も罪深い部門と呼ぶほうを好みます。外輪――支持者の大多数――は、ただのアナーキストです。つまり、規則や定式が人間の幸福を破壊したと信じる者たちです。人間の犯罪がもたらす悪しき結果はすべて、それを犯罪と呼んだ制度がもたらした結果だと信じている。犯罪が刑罰を生むのではなく、刑罰が犯罪を生んだと考える。男が七人の女を誘惑しても、春の花のように罪なく立ち去れるのが自然だと信じる。男が財布をすっても、極上の善良さを感じるのが自然だと信じる。こうした者たちを、私は無実の部門と呼びます。」
「ほう!」とサイム。
「当然、この者たちは『来たるべき幸福な時代』『未来の楽園』『悪徳の束縛からも美徳の束縛からも解放された人類』などを語ります。内輪の者たち――神聖な聖職者たち――も同じことを語る。喝采する群衆に向かい、未来の幸福と、ついに解放された人類を語ります。だが彼らの口では――」警官は声を低くした。「その幸福な文句が恐ろしい意味を持つ。彼らは幻想を抱いていない。この地上の人間が原罪と闘争から完全に自由になれるなどと考えるには、知的すぎるのです。彼らが意味しているのは死です。人類がついに自由になると言うとき、それは人類が自殺するという意味です。善悪のない楽園を語るとき、それは墓を意味する。
「彼らの目的は二つだけ。まず人類を滅ぼし、次に自分たちを滅ぼすことです。だから拳銃を撃たず、爆弾を投げる。無実の一般構成員は、爆弾が国王を殺せなかったので失望する。だが高位の聖職者たちは、誰かを殺せたので喜ぶ。」
「どうすれば加われる?」サイムは情熱を込めて尋ねた。
「いまちょうど欠員があることを、確かに知っています」と警官は言った。「先ほど話した長官から、多少の信頼をいただいているので。ぜひ会いに来るべきです。いや、会うというのは正確ではない。誰も長官を見たことはありません。だが望むなら、話すことはできます。」
「電話で?」サイムは興味深そうに尋ねた。
「いいえ」警官は平然と言った。「長官はいつも、真っ暗な部屋に座りたがるのです。そうすると考えが明るくなるのだとか。さあ、一緒に来てください。」
多少茫然とし、大いに興奮したサイムは、スコットランド・ヤードの長く続く建物の一角にある脇口へ案内されるままになった。何をしているのか理解する間もなく、四人ほどの中間官僚の手から手へ引き渡され、唐突に一室へ通された。その突然の暗黒は、閃光のように彼を驚かせた。形がかすかに見える普通の闇ではない。突然、完全に盲目になったような暗さだった。
「新入りか?」太い声が尋ねた。
闇には形の影すら見えなかった。だが奇妙にも、サイムには二つのことがわかった。第一に、その声の主は巨体の男であること。第二に、その男がこちらへ背を向けていること。
「新入りか?」すべての事情を聞いているらしい、姿なき長官が言った。「よし。採用だ。」
完全に足元をさらわれたサイムは、この撤回不能な言葉へ弱々しく抵抗した。
「本当に経験がないのですが」と言い始めた。
「ハルマゲドンの戦いを経験した者など、誰もいない。」
「ですが私は、本当に不適格で――」
「覚悟がある。それで十分だ」と正体不明の男は言った。
「しかし」とサイムは言った。「意欲だけが最終試験になる職業など、僕は知りません。」
「私は知っている」と男は言った。「殉教者だ。君に死刑を宣告する。では。」
こうしてガブリエル・サイムは、みすぼらしい黒帽子と、みすぼらしく無法者めいた外套をまとい、夕暮れの深紅の光の中へ再び出てきたとき、大陰謀を阻止する新探偵隊の一員となっていた。友人となった警官――職業柄、身だしなみにうるさかった――の助言に従い、髪と髭を整え、上等な帽子を買い、淡い青灰色の優美な夏服をまとい、ボタン穴に淡黄色の花を挿した。要するに、グレゴリーがサフラン・パークの小庭園で初めて出会った、あの優雅で、いささか鼻持ちならない人物となったのである。警察の建物を去る前、友人は小さな青いカードを渡した。そこには「最後の十字軍」という言葉と、正式な権限を示す番号が記されていた。サイムはそれをチョッキの胸ポケットへ大切にしまい、紙巻煙草へ火をつけ、ロンドン中の客間で敵を追跡し、戦うために出発した。その冒険が最終的にどこへ導いたかは、すでに見たとおりである。二月のある夜、一時半ごろ、仕込み杖と拳銃で武装したサイムは、アナーキスト中央評議会の正式に選出された木曜日として、静かなテムズ川を小型曳船で遡っていた。
蒸気曳船へ足を踏み出したとき、サイムはまったく新しい何かへ踏み込んだという、奇妙な感覚を覚えた。新しい国の風景というだけでなく、新しい惑星の風景へ踏み出したかのようだった。主な理由は、あの夜に下された狂気じみていながら確固たる決定にあったが、二時間ほど前に小さな酒場へ入って以来、天候も空もすっかり変わっていたことも影響していた。雲に覆われた夕焼けの、燃える羽毛の痕跡はことごとく拭い去られ、裸の月が裸の空に浮かんでいた。月はあまりに強く満ちていたので、よく見られる逆説によって、弱い太陽のように見えた。明るい月光というより、死んだ昼の光を思わせた。
風景全体には、異様に色あせた光が横たわっていた。ミルトンが日食の太陽から注ぐと語った、災厄の黄昏のようだった。そのためサイムは、自分が実際に、もっと悲しい星の周囲を回る、別の、より空虚な惑星へ来たのだという最初の考えに、たやすく囚われた。だが月光の大地に輝く荒涼を強く感じるほど、サイム自身の騎士道的な愚かさは、巨大な炎となって夜の中で燃え上がった。携えていたありふれた品々――食料、ブランデー、弾丸を込めた拳銃――にさえ、旅へ銃を持っていく子供や、菓子パンを寝床へ持ち込む子供が感じるような、具体的で物質的な詩情が宿った。仕込み杖もブランデーのフラスコも、それ自体は病的な陰謀者の道具にすぎない。それでもサイムにとっては、もっと健全な冒険心の表現となった。仕込み杖はほとんど騎士の剣となり、ブランデーは出陣前の鐙酒となった。どれほど人間性を失った現代の幻想も、より古く単純な何らかの像に依存している。冒険が狂っていても、冒険者は正気でなければならない。聖ゲオルギウスのいない竜など、グロテスクですらない。この人間離れした風景を想像力に満ちたものにしていたのは、本当に人間らしい男の存在だけだった。誇張へ傾くサイムの心には、テムズ河畔の白く寒々とした家々やテラスが、月面の山々のように無人に見えた。だが月が詩的なのも、月に人がいるからにほかならない。
曳船は二人の男が動かしており、大変な労力を要するため、比較的ゆっくり進んだ。チズウィックを照らしていた澄んだ月は、バタシーを通過するころには沈んでいた。そしてウェストミンスターの巨大な塊の下へ来たころには、すでに夜が明け始めていた。巨大な鉛の格子が裂け、その隙間から銀の格子が現れるような夜明けだった。その銀が白い炎のように輝き始めたころ、曳船は進路を変えて岸へ向かい、チャリング・クロスを少し越えたところにある大きな船着き場へ入った。
サイムが見上げると、堤防の巨石は一様に黒く、巨大だった。広大で白い夜明けを背に、巨石群は黒々とそびえていた。自分がエジプトの宮殿の途方もない階段へ上陸しているように感じた。そして実際、その光景は彼の気分にふさわしかった。自らの心の中では、恐るべき異教の王たちが座す堅固な玉座を攻めるため、階段を上っているのだった。船からぬめる石段へ跳び移り、巨大な石造物のただ中に、黒く細い姿で立った。曳船の二人は船を岸から離し、上流へ向きを変えた。二人とも、最後までひと言も口を利かなかった。
第五章 恐怖の宴
大きな石段は、初めのうちサイムにはピラミッドのように人気なく見えた。だが頂上へ着く前に、ひとりの男がテムズ堤防の欄干にもたれ、川の向こうを眺めているのに気づいた。その姿はまったく型どおりで、山高帽をかぶり、ひどく格式ばった流行のフロックコートを着て、ボタン穴には赤い花を挿していた。サイムが一歩また一歩と近づいても、男は髪一本動かさない。ついには、ほの白い薄明かりのなかでも顔立ちが見分けられるほど近づいた。細長く青白い、知的な顔。顎の先だけに、黒い髭が小さな三角形をなして生え、それ以外はきれいに剃られている。そのわずかな髭は、剃り残しにさえ見えた。顔のほかの部分は、剃り上げてこそ映える種類のものだった――彫りが深く、禁欲的で、それなりに気高い。サイムはそうした細部を観察しながら、ますます近づいていった。それでも男は身じろぎひとつしなかった。
最初、サイムは直感的に、これこそ待ち合わせの相手だと思った。だが男が何の合図も示さないので、違うのだろうと考え直した。そして今また、この男が自分の狂気じみた冒険に関わっているという確信へ戻ってきた。見知らぬ人間がこれほど近くに来れば、じっとしているほうがかえって不自然だからだ。男は蝋人形のように動かず、蝋人形と同じように神経を逆なでした。サイムは、青白く、気品があり、繊細なその顔を何度も見た。だが顔は相変わらず、虚ろに川の向こうを見つめている。そこでポケットから、選出の証拠としてボタンズに渡された紙片を取り出し、悲しげで美しい顔の前へ差し出した。すると男は笑った。その笑みは衝撃的だった。右の頬だけが持ち上がり、左の頬は下がる、完全に片側へ歪んだ笑みだったのだ。
理屈でいえば、人を怯えさせるようなものではない。こうした歪んだ笑い方をする癖のある者は多いし、それがかえって魅力になることさえある。だが暗い夜明け、命懸けの任務、雨に濡れた巨大な石の上の孤独――そうしたサイムの置かれた状況のなかでは、何か人の心を乱すものがあった。
音のない川と、音のない男。古典的とさえいえる顔立ちの男。
そして最後に悪夢の一筆を加えるように、その笑みだけが突然、狂った。
笑みの痙攣は一瞬で消え、男の顔はすぐ、調和の取れた憂鬱へ戻った。説明も質問もせず、古くからの同僚に話しかけるように口を開いた。
「レスター・スクエアのほうへ歩いていけば、ちょうど朝食に間に合うだろう。日曜日はいつも早い朝食にこだわる。少しは眠ったかね?」
「いや」とサイムは答えた。
「私もだ」と男は平凡な口調で言った。「朝食が済んだら寝るつもりだ。」
言葉遣いは気さくで礼儀正しかったが、声は完全に死んでおり、顔に宿る狂信とは矛盾していた。まるで親しげな言葉など、この男には命のない便宜にすぎず、憎悪だけが唯一の生命であるかのようだった。少し間を置いて、男はまた話し始めた。
「もちろん、支部の秘書から話せることはすべて聞いているだろう。ただし、議長が最後に思いついたことだけは、誰にも話しようがない。あの人の思いつきは熱帯林のように茂るからな。だから知らない場合に備えて言っておくが、今のあの人は、隠れないことによって身を隠すという考えを、とんでもない極端さで実行している。もともとは、もちろん君の支部と同じように、地下の一室で会合を開いていた。ところが日曜日は、普通のレストランの個室を借りろと言い出した。隠れているように見えなければ、誰も探し出そうとはしない、というわけだ。まあ、あの人が天下にただひとりの人物なのは認める。だが時々、あの巨大な頭脳も年を取って少し狂い始めたのではないかと、本気で思うことがある。今では我々は、公衆の面前で堂々とひけらかしている。朝食を取るのもバルコニーだ――よりにもよってバルコニーだぞ――レスター・スクエアを見下ろすバルコニーでな。」
「人々は何と言うんだ?」とサイムは尋ねた。
「言うことは実に単純だ」と案内役は答えた。「アナーキストのふりをして遊んでいる、愉快な紳士の一団だと思っている。」
「なかなか賢い考えに思えるが」とサイムは言った。
「賢いだと! 何という無礼だ、くたばれ! 賢いだと!」男は突然、甲高い声で叫んだ。その声は歪んだ笑みと同じくらい唐突で、耳障りだった。「日曜日を一瞬でも見れば、あの人を賢いなどとは二度と言わなくなる。」
そう言ううちに二人は狭い通りを抜け、朝早い陽光に満たされたレスター・スクエアへ出た。この広場が、なぜこれほど異国的で、ある意味では大陸風に見えるのか、おそらく永遠に解明されまい。異国風の景観が外国人を引き寄せたのか、外国人がこの場所を異国風にしたのか、それも分からない。だがこの朝に限って、その印象はひときわ明るく鮮明だった。開けた広場、陽光を浴びる木の葉、彫像、そしてアランブラ劇場のサラセン風の輪郭が相まって、フランスか、あるいはスペインの広場をそっくり模したように見えた。そしてこの光景は、冒険のあいだ幾度となく形を変えてサイムを襲った、あの不気味な感覚をいっそう強めた――自分が新しい世界へ迷い込んでしまったという感覚だ。実際には、サイムは少年のころからレスター・スクエア近辺で、まずい葉巻を買ってきた。だが角を曲がって木々とムーア風の丸屋根を目にした瞬間、外国のどこかの町にある、名も知らぬ「何とか広場」へ曲がり込んだのだと断言できそうだった。
広場の一角には、繁盛しているが静かなホテルの一部が、角のように突き出していた。建物の大部分は裏通りに面している。壁には大きなフランス窓がひとつあり、おそらく広い食堂の窓なのだろう。その窓の外、文字どおり広場へ張り出すように、頑丈な支柱で支えられたバルコニーがあり、食卓を置けるほど広かった。事実、そこには食卓――正確には朝食の卓が置かれていた。その周囲には、日光を浴び、通りから丸見えのまま、騒々しく喋り続ける男たちが集まっていた。全員が流行を鼻にかけるような装いで、白いチョッキを着込み、高価な花を胸に挿している。冗談のいくつかは、広場の向こうまで聞こえそうだった。すると厳粛な秘書が、あの不自然な笑みを浮かべた。サイムは、この浮かれた朝食会こそ、ヨーロッパの爆弾魔たちによる秘密会議なのだと悟った。
なおも一同を見つめていると、それまで見えていなかったものが目に入った。文字どおり、大きすぎて視界に収まらなかったのだ。バルコニーの最も手前に、遠近の大半を塞ぐようにして、山のような巨漢の背中があった。その姿を認めたとき、サイムが真っ先に思ったのは、この体重では石のバルコニーが崩れるのではないか、ということだった。異様に背が高く、信じがたいほど太っているだけではない。そもそもの骨格からして途方もなく大きく造られており、意図的に巨像として彫られた彫刻のようだった。白髪を戴く頭は、後ろから見ても、頭というもののあるべき大きさを超えている。そこから張り出す耳も、人間の耳より大きく見えた。男は全身が恐ろしいほど同じ比率で拡大されていた。その大きさの印象はあまりに圧倒的で、サイムが彼を見た途端、ほかの人影が一斉に縮んで、小人になったように見えた。花を挿し、フロックコートを着た男たちは先ほどと変わらず座っている。それなのに今や、その巨漢が五人の子供を茶会でもてなしているようにしか見えなかった。
サイムと案内役がホテルの脇の扉へ近づくと、給仕が歯をすべてむき出しにして笑いながら出てきた。
「皆さま、上にいらっしゃいます、サー」と給仕は言った。「そりゃあよく喋るし、自分たちの話に大笑いしてますよ。王様に爆弾を投げるんだそうで。」
そして腕にナプキンを掛けたまま、二階の紳士たちの風変わりな悪ふざけがよほど気に入ったらしく、嬉しそうに足早に去っていった。
二人は黙って階段を上った。
バルコニーをほとんど埋め、今にも壊しそうな怪物じみた男が、ほかの者たちの畏れる偉大な議長なのかと、サイムは尋ねようとも思わなかった。説明できないほど即座に、そうだと確信していた。実のところサイムは、名状しがたい心理的影響を人一倍受けやすく、それが精神の健康を脅かしかねない種類の人間だった。肉体的な危険にはまったく恐れを知らない一方、精神的な悪の匂いにはあまりにも敏感だった。この夜すでに二度、意味もない些細なものが、好色そうにちらりと顔を覗かせ、地獄の本営へ一歩また一歩と近づいているような感覚を彼に与えていた。そして偉大な議長へ近づくにつれて、その感覚は耐えがたいほど強くなった。
それは子供じみていながら、忌まわしい空想となって現れた。奥の部屋を横切ってバルコニーへ向かうにつれ、日曜日の大きな顔がますます大きくなっていく。そして目前まで来たとき、その顔が現実にはありえないほど巨大になり、自分は思わず悲鳴を上げるのではないか――そんな恐怖にサイムは捉えられた。子供のころ、大英博物館にあるメムノンの仮面を見られなかったことを思い出した。顔なのに、あまりにも大きかったからだ。
崖から飛び降りる以上の勇気を振り絞って、サイムは朝食卓の空席へ行き、腰を下ろした。男たちは昔からの知り合いのように、陽気なからかいで彼を迎えた。型どおりの上着や、どっしりと輝くコーヒーポットを眺めることで、サイムは少し心を落ち着けた。それからもう一度日曜日を見た。顔は確かに巨大だったが、まだ人間としてありうる範囲だった。
議長の前では、一同はどこにでもいそうな者たちに見えた。ぱっと見て目を引くところはない。ただ議長の気まぐれで、祝宴めいた上品な衣装をまとわされているため、食卓全体が結婚披露の朝食会のように見えるだけだった。とはいえ、ひとりだけ、ほんの一瞥でも際立つ男がいた。少なくとも彼だけは、絵に描いたような爆弾魔だった。この場の制服である高い白襟とサテンのネクタイは着けていたが、その襟から飛び出している頭はどうにも始末に負えず、見間違えようもない。茶色の髪と髭が目まで覆い隠さんばかりに茂り、スカイ・テリアのようだった。それでも藪の奥から目が覗いており、ロシアの農奴のような悲しい目をしていた。この人物が与える印象は議長のように恐ろしくはなかったが、徹底的にグロテスクなものから生じる、ありとあらゆる悪魔性を備えていた。あの硬い襟とネクタイから、猫か犬の頭がいきなり生えていたとしても、これほど間抜けな対照にはならなかっただろう。
男の名はゴーゴリというらしい。ポーランド人で、この「曜日」の集まりでは火曜日と呼ばれていた。その魂も話し方も救いがたいほど悲劇的で、議長日曜日に求められる、裕福で軽薄な人物を演じることができなかった。実際、サイムが入ってきたとき、世間の疑いなど大胆に無視する方針を掲げる議長は、型どおりの優雅さを装えないゴーゴリを、まさにからかっているところだった。
「我らが友、火曜日は」と議長は、静かでありながら朗々と響く低い声で言った。「どうも肝心の考えを理解していないらしい。紳士の格好はしているが、紳士らしく振る舞うには魂が偉大すぎるらしいのだ。舞台の陰謀家の流儀に、どこまでも固執している。さて、紳士が山高帽とフロックコートでロンドンを歩き回っても、アナーキストだとは誰にも分からない。だが山高帽とフロックコートを身に着けたうえで、四つん這いになって歩き回れば――まあ、人目を引くかもしれない。ゴーゴリ同志がやっているのはそれだ。尽きることのない外交手腕をもって、始終四つん這いで歩き回るものだから、今では直立して歩くのがなかなか難しくなっている。」
「私は身を隠すのが得意ではない」とゴーゴリは、ひどい外国訛りで不機嫌に言った。「この大義を恥じてはいない。」
「いや、恥じているとも、君。そして大義のほうも君を恥じている」と議長は上機嫌に言った。「君だって誰にも劣らず隠れてはいる。ただ、うまくできないのだ。何しろ大馬鹿者だからな! 君は両立しない二つの方法を組み合わせようとしている。家の主人がベッドの下に男を見つければ、おそらく立ち止まって、その事実に注意を払うだろう。だがベッドの下に山高帽の男を見つけたなら、親愛なる火曜日よ、まず忘れられまい。さて、君がビフィン提督のベッドの下で見つかったとき――」
「私は人を欺くのが得意ではない」と火曜日は顔を赤らめ、陰気に言った。
「そのとおりだ、君、そのとおり」と議長は重々しくも心のこもった調子で言った。「君は何ひとつ得意ではない。」
こうした会話が流れるあいだ、サイムは周囲の男たちをいっそう注意深く眺めていた。そうするうち、精神的にどこか奇怪だという感覚が、徐々に蘇ってきた。
最初は、毛むくじゃらのゴーゴリという明白な例外を除けば、全員がありふれた体格と服装をしていると思っていた。だがほかの者たちを見つめるうち、川辺の男に見たものとまったく同じ、どこか悪魔的な細部が、一人ひとりにあることに気づき始めた。最初の案内役の整った顔を突如として醜く歪める、あの片側だけの笑いは、彼ら全員に共通する特徴だった。誰にでも、十度、二十度と見て初めて気づくような、正常ではなく、ほとんど人間とも思えない何かがあった。サイムに思いつく比喩はただひとつ――全員が、風采の立派な流行人を、歪んだ曲面鏡に映して、さらにひねりを加えたように見える、というものだった。
個々の例を挙げるほか、この半ば隠された奇癖を言い表す術はない。最初にサイムを案内した男は月曜日の称号を持ち、評議会の秘書を務めていた。その歪んだ笑みは、議長の恐ろしくも楽しげな哄笑を除けば、何よりも恐れられていた。だが広い場所と明るい光のなかで改めて観察すると、ほかにも目につくところがあった。その端正な顔はひどく痩せこけており、何かの病に蝕まれているのだろうとサイムは思った。だがなぜか、暗い両眼に浮かぶ苦悩そのものが、それを否定していた。彼を苦しめているのは肉体の病ではない。その目には、純粋な思考それ自体が苦痛であるかのような、知性の拷問が生々しく宿っていた。
その点で、彼は一族の全員を代表していた。一人ひとりが微妙に、しかもそれぞれ異なる具合に狂っている。隣には火曜日、もじゃもじゃ頭のゴーゴリが座っていた。こちらはより露骨に狂っている。その次は水曜日、サン・テュスタシュ侯爵という、いかにも典型的な人物だった。最初の数度の一瞥では、特に変わったところは見つからない。ただ、卓上でただひとり、流行の服を本当に自分のものとして着こなしている男だった。黒いフランス風の髭は四角く切り揃えられ、黒いイギリス風フロックコートは、それ以上に角張った仕立てだった。だがそういうものに敏感なサイムは、男が濃密で豪奢な空気を身にまとい、その空気が人を窒息させるように感じた。それは理屈もなく、バイロンやポーの陰鬱な詩に漂う、眠気を誘う香りや、消えかけたランプを連想させた。明るい色ではなく、より柔らかな素材を身に着けているようにも感じられた。彼の黒は周囲の黒い影より豊かで暖かく、深い色彩を練り合わせて作ったかのようだった。黒い上着は、あまりにも濃密な紫ゆえに黒く見えるかのようだった。黒い髭は、あまりにも深い青ゆえに黒く見えるかのようだった。その髭の暗さと厚みのなかに、暗紅色の口が官能的かつ嘲るように浮かんでいた。何者であれ、フランス人ではない。ユダヤ人かもしれない。あるいはさらに深く、東方の暗い核心に属する何者かかもしれない。鮮やかなペルシャのタイルや、暴君の狩猟を描いた絵のなかに、まさしくあのアーモンド形の目、青みがかった黒髭、残忍な真紅の唇を見ることができる。
その次がサイムで、さらに隣にはひどく年老いた男、ド・ウォームズ教授がいた。いつ死んで席が空いてもおかしくないと毎日思われながら、なお金曜日の座を守っていた。知性を除けば、老衰による崩壊の最終段階にあった。顔は長い灰色の髭と同じく灰色で、持ち上がった額には、穏やかな絶望の皺が永久に刻み込まれている。花婿のように華やかな礼装が、これほど痛ましい対照をなす者は、ゴーゴリを含めてもほかにいなかった。ボタン穴の赤い花が、文字どおり鉛のように変色した顔を背景に浮き上がり、酔った伊達男たちが死体に自分たちの服を着せたような、おぞましい印象を生んでいた。立ち上がったり腰を下ろしたりするたび、長い苦労と危険を伴うその動きには、単なる衰弱よりも悪い何か、この場面全体の恐怖と名状しがたく結びついた何かが表れた。それはただの老朽ではなく、腐敗だった。別の忌まわしい空想が、震えるサイムの脳裏を横切った。男が動くたび、脚か腕がもげ落ちるのではないかと思わずにはいられなかった。
一番端に座っていたのが、土曜日と呼ばれる男だった。全員のなかで最も単純に見え、最も謎めいていた。背が低く、がっしりとした男で、浅黒い四角な顔はきれいに剃られている。ブルという名の医師だった。若い医者には珍しくない、世慣れた要領のよさと、身ぎれいに整えられた粗野さを併せ持っていた。立派な服を、気楽にというより自信たっぷりに着こなし、たいてい作り笑いを浮かべている。ほかにはまったく奇妙な点はなかったが、濃く、ほとんど光を通さない眼鏡を掛けていた。これまで積み重なってきた神経質な空想が最高潮に達しただけかもしれないが、その黒い円盤はサイムにとって恐ろしかった。おぼろげにしか覚えていない不気味な話――死者の目に銅貨を載せる話を思い出させた。サイムの目はいつも黒眼鏡と盲いた笑みへ引き寄せられた。死にかけた教授や、青白い秘書が掛けていたなら、ふさわしかっただろう。だが若く、肉付きのよい男の顔にあると、ただの謎にしか見えない。顔を読み解く鍵を奪っていた。笑みも真顔も、何を意味するのか分からない。そのためでもあり、ほかの大半には欠けている下卑た精力を備えているためでもあって、サイムにはこの男こそ、邪悪な男たちのなかで最も邪悪なのではないかと思えた。目があまりに恐ろしくて見せられないため、覆い隠しているのではないか、とさえ考えた。
第六章 露見
世界を破壊すると誓った六人とは、こういう男たちだった。サイムは彼らの前で、何度も常識を取り戻そうと努めた。時には一瞬、こうした印象は主観にすぎず、見ているのはただの人間なのだと理解できた。ひとりは老人、ひとりは神経質、ひとりは近眼、それだけなのだ。だが不自然な象徴性の感覚が、いつも再び彼にのしかかった。彼らの理論が思想の境界にあるのと同じく、一人ひとりの姿も、何らかの形で万物の境界に立っているようだった。この男たちはそれぞれ、いわば何か荒々しい推論の道の、最果てに立っているのだとサイムは知っていた。古い時代の寓話のような想像をするほかなかった。ある男が世界の西の果てまで行けば、何か――たとえば木を見つける。だがそれは木以上、あるいは木以下のもの、精霊に憑かれた木だ。そして東の果てまで行けば、やはり完全にはそれ自体でない何か――たとえば、その形そのものが邪悪な塔を見つける。彼らもまた、最終の地平を背景に、激しく、説明不能な姿で立ち上がる、世界の縁から来た幻影のようだった。地の果てが迫ってきていた。
サイムがその光景を見渡しているあいだも、会話は絶えず続いていた。この目もくらむような朝食卓における数々の対照のなかでも、さりげなく気楽な話しぶりと、その恐るべき内容との対照は際立っていた。彼らは現実に、しかも差し迫っている陰謀を、真剣に話し合っていた。階下の給仕が、爆弾と王について話していると言ったのは、まったく正しかった。わずか三日後、ロシア皇帝がパリでフランス共和国大統領と会見する予定であり、陽光の降り注ぐバルコニーでベーコンと卵を食べながら、このにこやかな紳士たちは二人をどう殺すか決めていた。凶器まで選ばれていた。黒髭の侯爵が爆弾を運ぶことになっているらしい。
普通なら、これほど具体的で客観的な犯罪が目前に迫っていれば、サイムも我に返り、神秘的な震えなどすべて消え去ったはずだ。鉄片と轟音を上げるガスによって、少なくとも二人の肉体が引き裂かれるのを防がねばならない――それ以外は考えなかっただろう。だが実際には、このころまでに第三の恐怖が芽生えていた。道徳的嫌悪よりも、社会的責任感よりも、鋭く現実的な恐怖だった。ごく単純に、フランス大統領やロシア皇帝を案じるだけの余裕がなかった。自分自身を恐れ始めていたのである。話し手の大半はサイムをほとんど気に留めず、今では顔を寄せ合い、ほぼ一様に深刻な表情で議論していた。時おり、ぎざぎざの稲妻が斜めに空を裂くように、秘書の笑みが一瞬、斜めに顔を横切るだけだった。だが執拗に続くあることが、初めはサイムを不安にさせ、ついには恐怖に陥れた。議長がずっと彼を見ていた。じっと、底知れぬ強い興味をもって。巨漢はまったく静かだったが、青い目は飛び出さんばかりで、常にサイムへ注がれていた。
サイムは立ち上がり、バルコニーから飛び降りたくなった。議長の目に見つめられると、自分がガラスでできているように感じられた。日曜日が何らかの無言で異常な方法によって、自分がスパイだと見抜いたことを、サイムはほとんど疑わなかった。バルコニーの縁から下を見ると、すぐ真下に警官が立ち、ぼんやりと明るい柵と日差しを浴びた木々を眺めていた。
そのとき、これから何日にもわたって彼を苦しめることになる、大きな誘惑が襲ってきた。アナーキズムの君主たる強力で嫌悪すべき男たちを前にしているうちに、か弱く空想的な詩人グレゴリー――アナーキズムの単なる唯美主義者――のことを、ほとんど忘れていた。今や彼を、幼いころに一緒に遊んだ相手のような、昔ながらの親しみをもって思い出しさえした。だが自分が今なお、重大な約束によってグレゴリーに縛られていることも思い出した。今まさに実行しかけていることを、決してしないと約束したのだ。このバルコニーから飛び降りて、あの警官に話しかけたりはしないと。サイムは冷たい石の欄干から、冷えた手を離した。魂は道徳的な迷いの眩暈に揺れた。悪党の結社に軽率に立てた誓い、その糸を断ち切りさえすれば、残る生涯は眼下の広場のように明るく開けたものとなる。一方で、時代遅れの名誉を守りさえすれば、知性そのものが拷問室であるこの人類の大敵の手へ、一インチずつ引き渡されていく。広場を見下ろせば、常識と秩序の柱たる、頼もしい警官がいる。朝食卓へ目を戻せば、議長が相変わらず、耐えがたい大きな目で静かに彼を観察していた。
激流のような思考のなかで、二つだけ頭をよぎらない考えがあった。第一に、ひとりで立ち向かい続ければ、議長と評議会に自分が叩き潰されるという事実を、疑おうとは一度も思わなかった。ここは公の場所であり、計画は不可能に見えるかもしれない。だが日曜日は、どこか何らかの場所に鉄の罠を仕掛けておきもせず、これほど悠然と振る舞う男ではない。名もなき毒か、突然の交通事故か、催眠術か、あるいは地獄の火によって、日曜日は必ずサイムを襲える。この男に逆らえば、おそらく自分は死ぬ。この椅子の上でたちまち硬直するかもしれず、ずっと後になって、何でもない病気で死ぬかもしれない。今すぐ警察を呼び、全員を逮捕し、すべてを話し、イングランドの全力を彼らへ差し向ければ、おそらく逃げおおせる。それ以外に道はない。彼らは明るく賑やかな広場を見下ろすバルコニーに集う紳士たちだったが、人気のない海を見渡す船上の武装海賊と一緒にいるのと同じくらい、サイムには安全と思えなかった。
もうひとつ、決して思い浮かばない考えがあった。精神的に敵側へ取り込まれることなど、まるで頭になかったのである。知性と力を軟弱に崇拝することに慣れた現代人の多くなら、この偉大な人格に圧倒され、忠誠心を揺るがされたかもしれない。日曜日を超人と呼んだかもしれない。そんな生き物が想像できるとすれば、確かに彼は幾分それらしく見えた。歩く石像のように、大地を揺るがす茫洋さを備えていた。あまりに露骨で見抜かれない壮大な計画と、あまりに率直で理解できない巨大な顔を持つ彼は、人間を超えた何かと呼ばれたかもしれない。だがサイムは、どれほど病的な状態にあっても、そうした現代的な卑屈さにまで堕ちることはできなかった。誰と同じく、巨大な力を恐れる程度には臆病だった。だがそれを崇拝するほど臆病ではなかった。
男たちは話しながら食べており、その食べ方にもそれぞれの性質が表れていた。ブル博士と侯爵は、冷たい雉肉やストラスブール風パイといった、卓上の上等な品を何気なく、型どおりに食べていた。一方、秘書は菜食主義者で、生のトマト半分と、ぬるい水を四分の三ほど入れたグラスを前に、計画中の殺人について熱心に語っていた。老教授は、胸の悪くなるような第二の幼年期を思わせる流動食を口にしていた。そしてこの点でも、議長日曜日はただ質量だけで圧倒するという、奇妙な優位を保っていた。二十人分を食べた。恐ろしいほど瑞々しい食欲で、信じがたい量を平らげるため、ソーセージ工場を眺めているようだった。しかもクランペットを一ダース飲み込んだ後でも、コーヒーを一クォート(約〇・九五リットル)飲み干した後でも、いつの間にか大きな頭を傾け、サイムを見つめているのだった。
「時々思うんだが」と侯爵は、ジャムを塗ったパンを大きくかじりながら言った。「ナイフでやったほうがいいんじゃないかね。最高の仕事の大半は、ナイフで成し遂げられてきた。フランス大統領にナイフを突き刺し、ぐりぐり回すというのも、新鮮な感覚だろうしな。」
「君は間違っている」と秘書は黒い眉を寄せた。「ナイフは、個人的な暴君に対する、古い個人的怨恨の表現にすぎない。ダイナマイトは我々にとって最良の道具であるだけでなく、最良の象徴でもある。それはキリスト教徒の祈りにとっての香煙と同じほど、我々を完全に象徴している。ダイナマイトは膨張する。広がるからこそ破壊する。思想もまた、広がるからこそ破壊するのだ。人間の脳は爆弾だ!」秘書は突然、奇妙な激情を解き放ち、自分の頭蓋を激しく殴りつけて叫んだ。「私の脳は昼も夜も爆弾のようだ。膨張せねばならない! 膨張せねばならない! たとえ宇宙を粉々にしようとも、人間の脳は膨張せねばならないのだ。」
「宇宙を壊すのは、まだ御免だな」と侯爵は間延びした声で言った。「死ぬ前に、いやらしいことをたっぷりやりたい。昨日もベッドでひとつ思いついた。」
「いや、結局のところ何も残らないのなら」とブル博士はスフィンクスのような笑みで言った。「やる価値はほとんどなさそうだ。」
老教授は濁った目で天井を見つめていた。
「何をしても無価値だということを」と教授は言った。「人はみな心の底で知っている。」
奇妙な沈黙が落ち、それから秘書が言った――
「とはいえ、話が逸れている。問題は、水曜日がどう一撃を下すかだけだ。当初の爆弾案には全員賛成だろう。具体的な手順としては、明日の朝、まず彼が――」
巨大な影が落ち、その言葉はぷつりと途切れた。議長日曜日が立ち上がり、一同の上の空を埋め尽くすように見えた。
「その話をする前に」と彼は小さく静かな声で言った。「個室へ移ろう。きわめて重大な話がある。」
ほかの誰よりも先に、サイムが立ち上がった。ついに選択の瞬間が来た。拳銃を頭へ突きつけられたのだ。眼下の歩道では、朝は明るいものの冷え込んでいたため、警官が退屈そうに足を動かし、踏み鳴らす音が聞こえた。
通りの手回しオルガンが突然、勢いよく陽気な曲を奏で始めた。サイムは、戦いを告げる軍用ラッパを聞いたかのように、身を張り詰めて立った。どこから来たとも知れない、超自然的な勇気が全身に満ちていった。その軽快な音楽には、貧しい人々の活力と俗っぽさ、そして理屈を超えた勇気が満ちているようだった。彼らは汚れた通りのどこにあっても、キリスト教世界の礼節と慈愛にすがり続けている。警官になるという若気のいたずらは、もう頭から消えていた。変わり者の紳士たちで構成された、風変わりな警官隊の代表だとも、暗い部屋に住む老いた奇人の代理だとも思わなかった。だが、日々手回しオルガンの音楽に合わせ、戦場へ進軍する、通りのありふれた善良な人々すべての使節なのだとは感じた。そして人間であることへのこの高い誇りが、説明のつかぬ力でサイムを押し上げ、周囲の怪物じみた男たちより無限に高い場所へ立たせた。少なくとも一瞬、彼らのだらしなく広がる奇癖のすべてを、平凡という星明かりの頂から見下ろしていた。勇者が強大な獣に対して、賢者が強力な誤謬に対して抱く、無意識で根源的な優越感を、彼ら全員に対して感じた。自分には議長日曜日ほどの知力も体力もないと分かっていた。だがその瞬間、それは虎の筋肉がないことや、犀のような角が鼻に生えていないことと同じくらい、どうでもよかった。議長は間違っており、手回しオルガンは正しいという究極の確信が、すべてを呑み込んだ。『ローランの歌』にある、反論不能で恐るべき自明の一句が脳内で鳴り響いた――
「異教徒は誤り、キリスト教徒は正しい。」
古い鼻音のフランス語で語られるその言葉には、巨大な鉄が鳴り、呻くような響きがある。自らの弱さという重荷から魂が解き放たれると同時に、死を受け入れるという明確な決意が固まった。手回しオルガンの民が古い世界の義務を守れるなら、自分にも守れる。約束を守るというこの誇りは、まさに悪党に対して約束を守ることにあった。暗い部屋へ降り、彼らには理解すらできないもののために死ぬ。それが、この狂人どもに対する最後の勝利となるのだ。手回しオルガンは、オーケストラ全体の活力と入り交じった響きで、行進曲を奏でているようだった。そして生を誇るあらゆるラッパの下から、死を誇る太鼓が、低く轟くのを聞くことができた。
陰謀者たちはすでに、開いた窓から奥の部屋へ一列に入っていった。サイムは最後に続いた。外見は平静だったが、頭と体のすべてが、浪漫的な律動に脈打っていた。議長は一同を、使用人が使いそうな不規則な脇階段から下へ導き、薄暗く、寒々とした無人の部屋へ入った。卓と長椅子があり、捨てられた重役会議室のようだった。全員が入ると、議長は扉を閉め、鍵を掛けた。
真っ先に口を開いたのは、決して妥協しないゴーゴリだった。言葉にならない不満が、今にも爆発しそうだった。
「ゾウ! ゾウ!」彼は曖昧な興奮に駆られて叫んだ。強いポーランド訛りは、ほとんど理解不能になっていた。「隠れないと言う。自分たち見せると言う。全部、何もない。大事な話したいとき、自分たち暗い箱へ逃げ込む!」
議長は外国人の支離滅裂な皮肉を、すっかり上機嫌で受け止めたようだった。
「まだ要領が分からないのだな、ゴーゴリ」と父親らしい口調で言った。「我々があのバルコニーで馬鹿話をしているのを一度聞けば、その後どこへ行こうと気にしなくなる。初めからここへ来ていれば、従業員全員が鍵穴に耳をつけていただろう。君は人間というものをまるで知らんらしい。」
「私は人類のため死ぬ」とポーランド人は興奮のあまり舌をもつれさせて叫んだ。「そして彼らの圧政者殺す。こんな隠れごとの遊び、気にしない。私は広場の真ん中で暴君打ち倒す。」
「なるほど、なるほど」と議長は親切そうに頷き、長い卓の上座へ腰を下ろした。「まず人類のために死に、それから起き上がって圧政者を打ち倒す。なら問題ない。さて、その美しい感情を抑え、ほかの紳士たちと一緒にこの卓へ着いてもらえるかね。今朝初めて、知性のある言葉が語られようとしているのでな。」
最初に召集を受けて以来ずっと見せてきた、動揺を帯びた素早さで、サイムは真っ先に腰を下ろした。ゴーゴリは「ゴムプロマイズ」について茶色い髭のなかでぶつぶつ言いながら、最後に座った。これから落ちようとしている鉄槌を予感しているのは、サイムだけらしかった。もっともサイム自身は、せめて立派な演説をしようと考えながら処刑台へ上る男のような気分でいるにすぎなかった。
「同志諸君」と議長は突然立ち上がって言った。「この茶番はもう十分に引き延ばした。諸君をここへ呼んだのは、あまりに単純で衝撃的なことを告げるためだ。二階の給仕たちでさえ――我々の軽口にはとうに慣れている彼らでさえ――私の声に、これまでにない真剣さを聞き取るかもしれない。同志諸君、我々は計画を論じ、場所を挙げていた。ほかのことを言う前に提案するが、その計画と場所については、この会議で採決せず、信頼できるひとりの同志へ全面的に委ねるべきだ。土曜日同志、ブル博士を推したい。」
全員が議長を見つめた。そして次の言葉を聞くと、全員が椅子の上でびくりとした。声は大きくなかったが、生々しく劇的な強調があった。日曜日は卓を叩いた。
「計画と場所について、この会議ではもう一言たりとも話してはならない。我々が何をしようとしているのか、ほんの些細なことも、この場では口にしてはならない。」
日曜日は生涯をかけて配下を驚かせてきた。だが本当の意味で驚かせたのは、これが初めてであるかのようだった。サイムを除く全員が、熱に浮かされたように身動きした。サイムだけは硬直して腰掛け、ポケットの中へ手を入れ、装填済みの拳銃の柄を握っていた。襲われたなら、命を高く売るつもりだった。少なくとも、議長が死すべき人間なのか確かめてやる。
日曜日は滑らかに続けた――
「自由の祝宴で自由な発言を禁じる理由は、ひとつしかありえないと諸君も理解するだろう。部外者に立ち聞きされることは問題ではない。冗談だと思うからだ。だが死活に関わる問題となるのは、実際に我々のなかに、我々の一員でない者がいる場合だ。我々の重大な目的を知りながら、それを共有していない者、つまり――」
秘書が突然、女のような悲鳴を上げた。
「ありえない!」跳び上がりながら叫んだ。「そんなはずは――」
議長は巨大な魚の鰭のような、大きく平たい手を卓へ叩きつけた。
「そうだ」と彼はゆっくり言った。「この部屋にはスパイがいる。この卓には裏切り者がいる。もう言葉は費やさない。その名は――」
サイムは椅子から半ば立ち上がり、引き金へしっかり指を掛けた。
「その名はゴーゴリだ」と議長は言った。「あそこにいる毛むくじゃらの偽物――ポーランド人のふりをしている男だ。」
ゴーゴリは両手に拳銃を握って立ち上がった。同時に三人の男がその喉元へ飛びかかった。教授でさえ立ち上がろうとした。だがサイムには、その場面がほとんど見えなかった。慈悲深い闇に目を覆われたからだ。激しい安堵に全身を震わせ、麻痺したように椅子へ沈み込んでいた。
第七章 ド・ウォームズ教授の不可解な行動
「座れ!」日曜日は、生涯に一、二度しか使わなかった声で言った。抜いた剣さえ取り落とさせる声だった。
立ち上がっていた三人はゴーゴリから離れ、当の得体の知れない人物も席へ戻った。
「さて、君」と議長は、まったくの他人に話しかけるような、てきぱきした口調で言った。「チョッキの上のポケットへ手を入れ、何が入っているか見せてくれないかね?」
自称ポーランド人は、もつれた黒髪の下でやや青ざめていたが、見たところ平然と、二本の指をポケットへ差し入れ、青い細長いカードを取り出した。それが卓上に置かれたのを見て、サイムは再び外の世界へ意識を戻した。カードは卓の反対側にあり、何が書かれているのかまるで読めなかったものの、サイム自身のポケットにある青いカード――反アナーキスト警察隊へ加わったときに渡されたカードと、驚くほどよく似ていた。
「哀れなスラヴ人よ」と議長は言った。「ポーランドの悲劇の子よ。そのカードを前にしてなお、この一同のなかで君が――いわば余計者であることを否定するつもりかね?」
「はいよ!」つい先ほどまでゴーゴリだった男は言った。異国風の毛の森から、明瞭で商売人めいた、ややロンドン下町風の声が飛び出したため、全員がびくりとした。中国人が突然スコットランド訛りで喋り出したような、理屈に合わない驚きだった。
「自分の立場は十分に理解しているようだな」と日曜日は言った。
「もちろん」とポーランド人は答えた。「現行犯でお縄ってやつでしょう。ただ、俺ほどポーランド人の訛りをうまく真似られるポーランド人はいないと思いますがね。」
「それは認めよう」と日曜日は言った。「君自身の訛りは真似できまい。もっとも私は風呂で練習するつもりだが。カードと一緒に髭も置いていってもらえるかね?」
「いいですとも」とゴーゴリは答え、一本の指で毛むくじゃらの頭部を丸ごと剥ぎ取った。下から現れたのは、薄い赤毛と、青白く小生意気な顔だった。「暑かったんでね」と付け加えた。
「公平に言って」と日曜日は、ある種の野蛮な称賛を込めて言った。「その下でも、なかなか冷静だったようだ。さて、よく聞け。私は君が気に入っている。だから君が苦しみながら死んだと聞けば、二分半ほど不愉快になるだろう。警察にであれ、ほかの誰にであれ、我々のことを話したなら、私はその二分半の不快を味わうことになる。君自身が味わう不快については、詳しく述べまい。ではごきげんよう。段差に気をつけたまえ。」
ゴーゴリに扮していた赤毛の刑事は、一言も発せず立ち上がると、完全に無頓着な様子で部屋を出ていった。だが驚きに打たれたサイムには、その余裕が咄嗟に装われたものだと分かった。扉の外でわずかによろめく音がしたからだ。去りゆく刑事は、段差に気をつけなかったのである。
「時間がない」と議長は、自分にまつわるほかのあらゆる物と同じく、あるべき大きさを超えて見える時計を一瞥し、最も陽気な口調で言った。「私はすぐ行かねばならん。人道主義者の集会で議長を務めるのだ。」
秘書は眉を痙攣させながら彼を振り返った。
「スパイが去った今」と少し険しい声で言った。「計画の詳細をさらに話し合うべきではありませんか?」
「いや、その必要はないと思う」と議長は、控えめな地震のような欠伸をした。「このままでいい。土曜日に決めさせろ。私は行かねばならん。次の日曜、ここで朝食だ。」
だが先ほどの騒々しい一幕のため、秘書のほとんど剥き出しの神経は、すっかり逆立っていた。彼は犯罪においてさえ、几帳面な人間のひとりだった。
「議長、異議を申し立てます。この手順は規則に反します」と秘書は言った。「あらゆる計画は評議会の全員で審議する。それが我々の結社の根本規則です。もちろん、実際に裏切り者がいる場で、あなたが先を見越しておられたことは十分に理解していますが――」
「秘書君」と議長は真顔で言った。「その頭を家へ持ち帰り、蕪と一緒に煮れば、役に立つかもしれん。断言はできんが、ひょっとすると役に立つ。」
秘書は馬のような怒りを見せ、のけぞった。
「私にはまったく理解できません――」と激しい憤りを込めて言い始めた。
「そこだ、そこだ」と議長は何度も大きく頷いた。「君がまさしく失敗しているのはそこだ。理解できていない。踊る驢馬め!」立ち上がって吠えた。「君はスパイに立ち聞きされたくなかったのだろう? 今は立ち聞きされていないと、どうして分かる?」
そう言うと、不可解な嘲りに全身を震わせ、肩で道を開けながら部屋を出ていった。
残された男のうち四人は、議長の言葉の意味を少しも理解できないらしく、口を開けて後ろ姿を見送った。サイムだけは、かすかに理解していた。そしてそのわずかな理解が、骨の髄まで彼を凍らせた。議長の最後の言葉に意味があるなら、結局のところ、サイムは疑いを抱かれずに済んだわけではない。日曜日はゴーゴリのように糾弾することこそできないものの、ほかの者たちのようには信頼していないという意味なのだ。
残る四人は、程度の差こそあれ不平を言いながら立ち上がり、昼食を求めてそれぞれ別の場所へ向かった。すでに正午を大きく過ぎていた。教授が最後に、ひどくゆっくり、苦しそうに出ていった。サイムはほかの全員が去った後も長いこと座り、自分の奇妙な立場について考え続けた。落雷からは逃れたものの、依然として暗雲の下にいる。やがて立ち上がり、ホテルを出てレスター・スクエアへ向かった。明るく冷たい日は、ますます冷え込んでいた。通りへ出ると、雪片がいくつか舞ってきたので驚いた。仕込み杖と、グレゴリーの携帯品の残りはまだ持っていたが、外套は脱ぎ捨て、どこかへ置き忘れていた。蒸気曳船の上かもしれず、バルコニーかもしれない。そのため雪がすぐやむことを期待しながら、ひとまず通りから引き返し、小さく脂じみた理髪店の戸口で雨宿りならぬ雪宿りをした。正面の飾り窓には、夜会服を着た病的な蝋人形の女以外、何も飾られていなかった。
だが雪はしだいに密度を増し、激しく降り始めた。蝋の女を一目見ただけで十分に気が滅入ったサイムは、代わりに白く無人の通りを眺めた。すると驚いたことに、店の外でじっと立ち、飾り窓を見つめている男がいた。山高帽にはクリスマス神父の帽子のように雪が積もり、長靴と足首の周りには白い吹き溜まりが盛り上がっている。それでも男を、汚れた夜会服姿の色褪せた蝋人形から引き離せるものは、何ひとつないようだった。こんな天候のなか、あんな店を覗いて立っている人間がいるだけでも、サイムには十分驚きだった。だが何気ない驚きは突然、個人的な衝撃へ変わった。そこに立っているのが、麻痺した老教授ド・ウォームズだと気づいたのだ。この年齢と身体の者がいるべき場所とは、到底思えなかった。
人間性を失ったこの同胞団の倒錯についてなら、サイムは何でも信じる心構えができていた。だがいくら彼でも、教授があの蝋の女に恋をしたとは信じられなかった。ただ、この男の病が――それが何であれ――一時的な硬直か、恍惚状態の発作を引き起こしたのだろうと考えるほかなかった。しかしこの場合、特に同情的な気遣いを抱く気にはなれなかった。それどころか、教授は卒中持ちで、手の込んだびっこを引いて歩くのだから、逃げ出して何マイルも引き離すのは簡単だと、むしろ喜んだ。サイムは何よりもまず、たとえ一時間でも、この毒気に満ちた空気から抜け出したかった。そうすれば考えをまとめ、方針を立て、グレゴリーとの約束を守るべきか否か、最終的に決断できる。
舞い踊る雪のなかをぶらぶら歩き、二、三本の通りを上り、さらに二、三本を下って、ソーホーの小さなレストランへ昼食を取りに入った。小ぶりで風変わりな料理を四皿、物思いに耽りながら食べ、赤ワインを半瓶飲み、最後にブラックコーヒーと黒い葉巻を前にして、それでも考え続けた。レストランの上階に席を取り、そこはナイフの触れ合う音と、外国人たちのお喋りで満ちていた。昔はこうした無害で善良な異国人を、全員アナーキストだと思っていたことを思い出した。本物を思い出し、身震いした。だがその震えにさえ、逃げ延びた者の心地よい羞恥があった。ワイン、ありふれた食事、馴染み深い場所、自然に振る舞い、よく喋る人々の顔。それらのおかげで、七曜日評議会は悪い夢だったようにさえ思えた。もちろん客観的な現実であることは分かっていたが、少なくとも遠い現実だった。恥ずべき七人を最後に見た場所との間には、高い家々と人の多い通りが横たわっている。サイムは自由なロンドンで自由の身となり、自由な人々に交じってワインを飲んでいた。少し軽やかになった動作で帽子と杖を取り、階段をぶらぶら下りて、一階の店内へ入った。
その部屋へ入るなり、サイムは衝撃を受け、その場へ釘づけになった。何も映さない窓と、雪に覆われた白い通りのすぐそば、小さな卓に、老アナーキストの教授が座り、牛乳のグラスを前にしていた。青黒い顔を上向け、瞼を垂らしている。一瞬、サイムは寄りかかっていた杖と同じほど硬直した。それから闇雲に急ぐ身振りで教授の脇をすり抜け、扉を勢いよく開け、背後で叩きつけるように閉めると、雪のなかへ立った。
「あの老いぼれの死体は、俺を尾けているのか?」黄色い口髭を噛みながら自問した。「あの部屋に長居しすぎたから、鉛のような足でも追いつけたんだ。ありがたいことに、少し速足で歩けば、あんな男などティンブクトゥほど遠くに置き去りにできる。それとも俺の考えすぎか? 本当に尾けていたのか? まさか日曜日も、足の悪い男をよこすほど馬鹿ではあるまい。」
杖をひねり、振り回しながら、コヴェント・ガーデンの方角へきびきび歩き出した。大市場を横切るころには雪がいっそう激しくなり、午後の空が暗くなり始めるにつれ、目も開けられず、方角も分からないほどになった。雪片は銀色の蜂の群れのように彼を苦しめた。目や髭へ入り込み、すでに苛立っている神経へ、執拗で無益な刺激を加え続けた。大股でフリート・ストリートの入口まで来たころには、とうとう我慢できなくなった。日曜にも開いている喫茶店を見つけ、避難するため中へ入った。口実として、またブラックコーヒーを一杯注文した。注文を終えるや否や、ド・ウォームズ教授が重々しく足を引きずって店へ入り、苦労して腰を下ろし、牛乳を一杯注文した。
サイムの杖は大きな音を立てて手から落ち、内部の鋼を露わにした。だが教授は振り返らなかった。普段は冷静なサイムが、田舎者が手品を見るように、文字どおりぽかんと口を開けていた。後を尾ける辻馬車は見ていない。店の外で車輪の音も聞かなかった。人間の目に映る限り、男は徒歩で来たのだ。だが老人は蝸牛のようにしか歩けず、サイムは風のように歩いた。単純な算術にさえ矛盾する事態に半ば正気を失い、跳び上がって杖を掴むと、まだ口もつけていないコーヒーを残し、揺れる扉を押して外へ飛び出した。銀行へ向かう乗合馬車が、異様な速さでがらがらと通り過ぎていく。追いつくには百ヤード(約九十一メートル)を猛烈に走らねばならなかったが、どうにか飛び乗った。泥よけ板の上でふらつき、しばらく喘いでから、上階へよじ登った。座って半分ほど経つと、背後から重苦しい喘息のような息遣いが聞こえた。
勢いよく振り返ると、乗合馬車の階段から、雪に汚れ、濡れそぼった山高帽が少しずつ高く上ってきた。その鍔の影には、ド・ウォームズ教授の近眼の顔と、震える肩があった。教授はいつもどおり慎重に座席へ身を落ち着け、防水布の膝掛けで顎まで包んだ。
老人のよろめく身体と曖昧な手の動き、ためらいがちな身振りと怯えたような停止。そのすべてが、彼が無力であり、肉体的には最後の痴呆状態にあることを、疑問の余地なく示していた。一インチずつ動き、小さく息を呑みながら、慎重に腰を下ろした。それなのに、時間と空間と呼ばれる哲学的実体が、実用上の存在すらまるで持たないのでない限り、この男が乗合馬車を走って追いかけたことは、まったく疑いようがなかった。
サイムは揺れる車上で真っすぐ立ち上がり、刻一刻と暗さを増す冬空を狂ったように見つめてから、階段を駆け下りた。側面から飛び降りたいという本能的な衝動を、かろうじて抑えていた。
振り返ることも考えることもできないほど混乱し、兎が穴へ飛び込むように、フリート・ストリート脇の小さな中庭のひとつへ駆け込んだ。理解不能なびっくり箱の老人が本当に追っているなら、この小路の迷宮でじきに撒けるだろうと、漠然と考えたのだ。通りというより裂け目のような、曲がりくねった路地へ出たり入ったりした。左右交互に二十回ほど角を曲がり、想像を絶する多角形を描いたところで立ち止まり、追跡の音がしないか耳を澄ませた。何も聞こえない。そもそも小路には音もなく雪が積もり、音などほとんどするはずがなかった。だがレッド・ライオン・コートのどこか裏手で、精力的な市民が二十ヤード(約十八メートル)ほどにわたり雪を除け、濡れて光る石畳を露出させた場所があるのに気づいていた。通り過ぎたときには気にも留めず、ただ迷宮のさらに別の腕へ飛び込んだだけだった。しかし数百ヤード先で再び立ち止まって耳を澄ませたとき、心臓まで止まった。あのごつごつした石畳の方角から、地獄のびっこが突く杖の音と、苦しげな足音が聞こえたのだ。
頭上の空は雪雲に覆われ、ロンドンは時刻には早すぎる闇と圧迫感に沈んでいた。サイムの両側にそびえる路地の壁は、窓も特徴もなく、小窓も、軒のようなものさえなかった。この家々の巣箱から飛び出し、もう一度、開けた街灯のある通りへ出たいという衝動に駆られた。だが大通りへ突き当たるまで、長いあいだ当てもなく歩き、角を曲がり続けた。ようやく出た場所は、考えていたよりずっと先だった。広大で空虚に見えるラドゲート・サーカスへ出て、空に鎮座するセント・ポール大聖堂を見た。
初めは、疫病が街を一掃したかのように大通りが無人なので驚いた。それから、ある程度の人気のなさは当然だと自分に言い聞かせた。第一に、吹雪は危険なほど深くなっており、第二に、今日は日曜日だからだ。そして「日曜日」という言葉を思った途端、サイムは唇を噛んだ。その言葉は今後、卑猥な駄洒落のように穢されてしまった。天高く雪の白い霧が立ち込める下で、街全体の空気は、海中の人間が見るような、ひどく奇妙な緑の薄明へ変わっていた。セント・ポールの暗い丸屋根の背後では、閉ざされた陰気な夕日が、煙めいて不吉な色を放っていた――病的な緑、死んだ赤、腐食した青銅色。それらは雪の堅固な白さを際立たせる程度にだけ明るかった。だがその陰鬱な色彩を真後ろにして、大聖堂の黒い巨体がそびえていた。そして大聖堂の頂には、アルプスの峰にしがみつくように、雪がでたらめに飛び散り、大きな染みとなって残っていた。偶然積もったものだったが、ちょうど丸屋根を最頂部から半ば覆い、巨大な球体と十字架を、完璧な銀色に縁取っていた。それを見た途端、サイムはすっと背筋を伸ばし、思わず仕込み杖で敬礼した。
あの邪悪な人影、自分の影が、速かろうと遅かろうと背後から忍び寄っていることは分かっていた。だが、もうどうでもよかった。
空が暗くなっていくなか、大地のこの高みだけが明るい。それは人間の信仰と勇気を象徴しているように思えた。悪魔たちは天を占領したかもしれない。だが十字架はまだ占領していない。この踊り、跳び、追いかけてくる麻痺患者の秘密を、力ずくで暴いてやろうという衝動が新たに湧いた。中庭からサーカスへ出る入口で立ち止まり、杖を手にして、追跡者へ向き直った。
ド・ウォームズ教授は、背後の不規則な路地の角をゆっくり曲がって現れた。不自然な姿が孤独なガス灯を背景に縁取られ、童謡に登場する想像力豊かな人物――「曲がった一マイルを歩いた曲がった男」を、否応なく思い起こさせた。
曲がりくねった通りを縫ってきたせいで、実際に身体まで捻じ曲げられたように見えた。持ち上げた眼鏡と、上向いた辛抱強い顔へ街灯の光を受けながら、少しずつ近づいてくる。サイムは聖ゲオルギウスが竜を待つように、最後の説明か死を待つ人間のように、教授を待ち受けた。老教授は彼のすぐそばまで来ると、沈んだ瞼を瞬きさえせず、まったくの他人のように通り過ぎた。
この無言で予想外の無邪気さには、サイムを最後の激怒へ駆り立てるものがあった。男の色のない顔と態度は、一連の尾行がすべて偶然だったと主張しているかのようだった。苦々しさと、少年じみた嘲笑の爆発との中間にあるような活力が、電流のごとくサイムを貫いた。老人の帽子を叩き落とすような乱暴な身振りをし、「捕まえられるものなら捕まえてみろ」といったことを叫び、白く開けたサーカスを全力で駆け去った。もはや隠れることはできない。肩越しに振り返ると、老紳士の黒い姿が、一マイル競走に勝つ選手のような長く弾む歩幅で追ってくるのが見えた。だが跳ねる身体の上に載った頭だけは、講師の頭を道化師の身体へ載せたように、相変わらず青白く、厳粛で、職業的だった。
この常軌を逸した追跡はラドゲート・サーカスを横切り、ラドゲート・ヒルを上り、セント・ポール大聖堂を回り、チープサイド沿いに続いた。サイムは、これまで見た悪夢を残らず思い出した。それから川の方角へ逃れ、最後にはほとんど波止場近くまで来た。明かりのついた低い酒場の黄色い窓を見つけ、中へ飛び込んでビールを注文した。外国人の船乗りたちが点在する、汚らしい酒場だった。阿片が吸われても、ナイフが抜かれてもおかしくない場所だ。
一瞬後、ド・ウォームズ教授が店へ入り、慎重に腰を下ろして、牛乳を一杯注文した。
第八章 教授の説明
ガブリエル・サイムがようやく椅子へ腰を落ち着け、その正面にも、上がった眉と鉛色の瞼を持つ教授が動かぬものとして居座ると、恐怖が完全に蘇った。あの恐るべき評議会から来た理解不能な男は、結局のところ、間違いなく彼を追っていた。麻痺患者としての顔と、追跡者としての顔を併せ持つなら、その対照によっていっそう興味深い人物にはなるかもしれないが、安心できる人物には到底ならない。もし何か重大な事故によって、教授が自分の正体を見抜いてしまうのなら、自分が教授の正体を見抜けないことなど、ほとんど慰めにはならなかった。教授が牛乳に口をつける前に、サイムは錫のジョッキに入ったエールを丸ごと飲み干した。
とはいえ、ひとつの可能性が彼に希望を与えると同時に、身動きを取れなくしていた。この追跡劇は、サイムへのわずかな疑いとさえ、別のことを意味している可能性がある。何か決まりきった形式か、合図なのかもしれない。あの馬鹿げた駆けっこは、本来なら理解すべき友好的な信号なのかもしれない。あるいは儀式なのかもしれない。新しいロンドン市長がいつもチープサイドを護衛されて進むように、新しい木曜日はいつもチープサイドを追いかけられるのかもしれない。探りを入れるための質問を選びかけたところで、正面の老教授が突然、単刀直入に遮った。サイムが最初の外交的な質問を口にするより先に、老アナーキストは何の前触れもなく、いきなり尋ねた――
「君は警官か?」
ほかに何を予想していたとしても、これほど露骨で現実的な言葉だけは、サイムも予想していなかった。並外れた機転をもってしても、やや不器用な冗談めかした返答をするのが精いっぱいだった。
「警官?」曖昧に笑いながら言った。「どうして私と警官を結びつけたんです?」
「推論は実に単純だ」と教授は辛抱強く答えた。「警官に見えたからだ。今もそう思っている。」
「レストランで、間違えて警官の帽子を持ってきましたか?」サイムは荒々しく笑った。「どこかに番号札でも貼りついていますか? 私の長靴が油断なく見張っているように見えるんですか? なぜ私は警官でなければならない? お願いですから、郵便配達人にしてください。」
老教授は希望を一切与えない重々しさで首を振ったが、サイムは熱っぽい皮肉を続けた。
「いや、あなたのドイツ哲学の繊細さを、私が誤解したのかもしれない。警官とは相対的な言葉なのかもしれません。進化論的な意味では、類人猿から警官への移行があまりにも緩やかなので、私にはその境目がまるで見分けられない。猿は、警官になりうるものにすぎない。クラパム・コモンにいる独身婦人も、警官になっていたかもしれないものにすぎないのかもしれない。警官になっていたかもしれない者なら、別に構いません。ドイツ思想のなかなら、何者になっても構わない。」
「君は警察に勤めているのか?」老人は、サイムの即興的で必死の軽口をすべて無視して言った。「刑事なのか?」
サイムの心臓は石になったが、顔色はまるで変わらなかった。
「その推測は馬鹿げています」と言い始めた。「いったいなぜ――」
老人は麻痺した手で、ぐらつく卓を激情のまま叩き、危うく壊しかけた。
「はっきり質問したのが聞こえなかったのか、この口先だけのスパイめ!」甲高く狂った声で叫んだ。「貴様は警察の刑事なのか、違うのか?」
「違う!」サイムは絞首台の落とし戸に立つ男のように答えた。
「誓うのか」老人は身を乗り出した。死んだような顔が、忌まわしいほど生き生きしてきた。「誓うのか! 誓うのか! 偽りを誓ったなら、地獄へ堕ちると誓うか? 悪魔が貴様の葬式で踊るようにすると誓うか? 悪夢が貴様の墓に腰掛けるようにすると誓うか? 本当に間違いはないのか? 貴様はアナーキスト、爆弾魔だ! 何より、いかなる意味でも刑事ではないのだな? イギリス警察の者ではないのだな?」
角張った肘を卓のずっと向こうまで伸ばし、大きく力の抜けた手を耳の横へ鰭のように立てた。
「私はイギリス警察の者ではない」とサイムは狂気じみた冷静さで言った。
ド・ウォームズ教授は、親切そうに力が抜けたような、奇妙な様子で椅子へもたれた。
「それは残念だ」と言った。「私は警察の者だからな。」
サイムは真っすぐ跳び上がり、背後の長椅子を大きな音とともに押し飛ばした。
「あなたが何だって?」声を詰まらせて言った。「何だって?」
「私は警官だ」と教授は初めて満面に笑い、眼鏡越しに顔を輝かせた。「だが君の考えでは、警官とは相対的な言葉にすぎない。だからもちろん、私と君には何の関係もない。私はイギリス警察に所属している。だが君はイギリス警察に所属していないと言うのだから、私に言えるのは、爆弾魔のクラブで君に会ったということだけだ。となると、私は君を逮捕すべきなのだろうな。」
そう言うと、サイム自身のチョッキのポケットに入っている青いカード――警察から与えられた権限の証――と寸分違わぬカードを、サイムの前の卓へ置いた。
一瞬、宇宙が完全に上下逆さまになり、すべての木が下向きに伸び、すべての星が足の下へ来たように感じた。それから、正反対の確信がゆっくり訪れた。この二十四時間、宇宙は本当に上下逆さまだったのだ。そして今、転覆していた宇宙がようやく正しい向きへ戻った。この一日中逃げ続けてきた悪魔は、同じ家に属する兄にすぎず、今や卓の向こうでもたれ、サイムを笑っている。さしあたり詳しいことを尋ねようとはしなかった。耐えがたい危機の圧迫感をもって自分を追ってきた影が、ただ追いつこうとしていた友人の影にすぎなかった――その幸福で馬鹿馬鹿しい事実だけを理解した。同時に、自分が愚か者であり、自由の身でもあることを知った。病的な状態から回復するときには、必ずある種の健全な屈辱が伴うものだ。こうした状況には、三つの選択肢しか残らなくなる瞬間がある。第一は悪魔的な高慢を保ち続けること、第二は泣くこと、第三は笑うこと。サイムの自尊心は数秒間、第一の道にしがみついていたが、やがて突然、第三を選んだ。自分のチョッキのポケットから青い警察証を取り出し、卓上へ放った。それから黄色い顎髭の先が天井を指しそうなほど頭を反らし、野蛮な哄笑を上げた。
その狭い穴蔵は、ナイフや皿やジョッキの音、喧しい声、突然の取っ組み合いや逃走で絶えず満ちていた。それでもサイムの笑いにはホメロス的な何かがあり、半ば酔った男たちの多くが振り返った。
「旦那、何を笑ってるんだ?」波止場の労働者がひとり、不思議そうに尋ねた。
「自分をさ」とサイムは答え、歓喜の反動に苦しむように、また笑い出した。
「しっかりしろ」と教授は言った。「さもないとヒステリーを起こすぞ。もう少しビールを飲め。私も付き合おう。」
「牛乳を飲んでいないじゃないか」とサイムは言った。
「私の牛乳!」相手は、すべてを焼き尽くし、底知れぬほど軽蔑した口調で言った。「私の牛乳だと! 忌々しいアナーキストどもの目が届かない場所で、あんな胸の悪くなる代物に目をくれると思うのか? この部屋では全員がキリスト教徒だ。もっとも」とよろめく群衆を見回して付け加えた。「厳格な信徒ではないかもしれんが。牛乳を飲み干せだと? 畜生、ああ、きれいに片づけてやるとも!」そう言うとグラスを卓から叩き落とし、ガラスの砕ける音とともに、銀色の液体を飛び散らせた。
サイムは幸福そうな好奇心を浮かべ、彼を見つめていた。
「やっと分かった」と叫んだ。「もちろん、あなたは老人ですらないんだな。」
「ここでは顔を外せない」とド・ウォームズ教授は答えた。「少々手の込んだ扮装なのでな。私が老人かどうかは、私が決めることではない。先の誕生日で三十八歳になった。」
「いや、私が言いたいのは」とサイムは苛立たしげに言った。「身体のどこも悪くないんだな。」
「いや」と相手は淡々と答えた。「風邪を引きやすい。」
こうした話を聞くサイムの笑いには、安堵から来る荒々しい弱々しさがあった。麻痺した教授が、実際には舞台へ出るように老人の扮装をした若い役者なのだという考えを笑った。だが胡椒入れが倒れただけでも、同じくらい大声で笑っただろうとも感じていた。
偽教授は酒を飲み、偽の髭を拭った。
「あのゴーゴリという男も」と尋ねた。「我々の仲間だと知っていたか?」
「私が? いや、知らなかった」とサイムは少し驚いて答えた。「だが、あなたも知らなかったのか?」
「死人と同じくらい何も知らなかった」とド・ウォームズを名乗る男は答えた。「議長が私のことを言っているのだと思い、長靴の中で震えていた。」
「私は私のことだと思っていた」とサイムは、やや向こう見ずな笑いを浮かべて言った。「ずっと拳銃へ手を掛けていたよ。」
「私もだ」と教授は陰気に言った。「ゴーゴリも、見るからにそうだった。」
サイムは声を上げ、卓を叩いた。
「では、あそこには三人いたんじゃないか!」と叫んだ。「七人のうち三人なら、十分に戦える人数だ。三人だと分かってさえいれば!」
ド・ウォームズ教授の顔は暗くなり、目を上げなかった。
「我々は三人だった」と言った。「三百人いたとしても、何もできなかっただろう。」
「三百人対四人でもか?」サイムは、いささか騒々しく嘲った。
「ああ」と教授は厳粛に言った。「三百人対日曜日でもだ。」
その名を聞いただけで、サイムは冷たく真剣になった。唇から笑いが消えるより先に、心から笑いが死んでいた。忘れがたい議長の顔が、カラー写真のような鮮烈さで脳裏へ飛び込んできた。そして日曜日と配下全員との違いに気づいた。ほかの者たちの顔は、どれほど獰猛で邪悪でも、ほかの人間の顔と同じく、記憶のなかで徐々にぼやけていく。だが日曜日の顔だけは、離れている間にますます現実味を増すようだった。描かれた肖像画が、ゆっくり生き始めるかのように。
二人はしばらく黙り、それから突然シャンパンが泡立つような勢いで、サイムの言葉が溢れ出した。
「教授」と叫んだ。「こんなことは耐えられない。あなたはあの男を恐れているのか?」
教授は重い瞼を持ち上げ、ほとんど天上的な誠実さを宿す、大きく見開かれた青い目でサイムを見つめた。
「ああ、恐れている」と穏やかに言った。「君もだ。」
サイムは一瞬、言葉を失った。それから侮辱を受けた男のように真っすぐ立ち上がり、椅子を押し退けた。
「ああ」言い表しようのない声で言った。「そのとおりだ。私はあの男を恐れている。だから神にかけて誓う。恐れているあの男を捜し出し、見つけるまで追い、口を殴ってやる。たとえ天を玉座とし、大地を足台としていようとも、必ず引きずり下ろす。」
「どうやって?」教授は目を見開いた。「なぜ?」
「恐れているからだ」とサイムは言った。「人は、自分が恐れるものを宇宙に残しておくべきではない。」
ド・ウォームズは盲いた驚きのような表情で、ぱちぱちと目を瞬いた。何か言おうとしたが、サイムは低い声で、それでいて人間離れした高揚を底に流しながら続けた――
「恐れてもいないものを打ち倒すなど、誰がわざわざ身を屈めて行う? ありふれた賞金稼ぎの拳闘家のように、ただ勇敢であることへ身を落とす者がいるか? 木のように恐れを知らぬものへと、誰が堕ちる? 自分が恐れるものと戦え。シチリアの山賊へ臨終の秘蹟を授けた、イギリス人牧師の古い話を覚えているだろう。死の床で大盗賊はこう言った。『金はやれないが、一生役立つ忠告をやろう。刃に親指を添え、上へ向けて突け』。だから私もあなたに言う。上へ向けて突け。たとえ星々を突くことになろうとも。」
相手は天井を見た。扮装に伴う癖のひとつだった。
「日曜日は恒星だ」と言った。
「流れ星になるところを見せてやる」とサイムは言い、帽子をかぶった。
その仕草に宿る決意が、教授を曖昧な動きで立ち上がらせた。
「君は」とある種の善意ある困惑とともに尋ねた。「自分がいったいどこへ行くのか、分かっているのか?」
「ああ」とサイムは短く答えた。「パリで爆弾が投げられるのを阻止しに行く。」
「どうやって阻止するか、考えはあるのか?」と相手は尋ねた。
「ない」とサイムは同じきっぱりした調子で言った。
「もちろん覚えているだろうが」と、自称ド・ウォームズは髭を引っ張り、窓の外を見ながら続けた。「我々がいささか慌ただしく解散したとき、凶行に関する手配はすべて、侯爵とブル博士の二人に委ねられた。侯爵は今ごろ、もう海峡を渡っているだろう。だがどこへ行き、何をするのかは、議長でさえ知っているか怪しい。当然、我々は知らない。知っているのはブル博士だけだ。」
「畜生!」サイムは叫んだ。「しかも彼がどこにいるか、我々には分からない。」
「いや」と相手は、奇妙な上の空の口調で言った。「私は彼の居場所を知っている。」
「教えてくれるか?」サイムは目を輝かせて尋ねた。
「そこまで連れていこう」と教授は言い、掛け釘から自分の帽子を取った。
サイムは硬直したような興奮を浮かべ、彼を見つめた。
「どういう意味だ?」鋭く尋ねた。「私と来るのか? 危険を冒すのか?」
「若者よ」と教授は快活に言った。「君が私を臆病者だと思っているのを見ると、愉快になる。それについては一言だけ、それも君自身の哲学的な修辞法をそっくり真似て言おう。君は、議長を引きずり下ろすことが可能だと考えている。私は不可能だと知っている。それでも挑むつもりだ」そして酒場の扉を開けた。凍えるような空気が吹き込み、二人は連れ立って、波止場近くの暗い通りへ出た。
雪の大半は溶けるか、踏み潰されて泥になっていた。それでも所々に塊が残り、暗がりでは白というより灰色に見えた。狭い通りはぬかるみ、水溜まりだらけだった。そこには燃える街灯が不規則に、偶然に映り込み、崩壊した別世界の欠片のように見えた。増していく光と影の混乱を縫って歩きながら、サイムはほとんど目眩を覚えた。だが連れは、通りの突き当たりで、街灯に照らされた川面が一、二インチの炎の帯のように見える方角へ、かなり軽快に歩いていった。
「どこへ行くんだ?」
サイムは尋ねた。
「今は」と教授は答えた。「すぐそこの角を曲がり、ブル博士がもう寝たかどうか確かめに行く。健康に気を遣う男で、早寝なのだ。」
「ブル博士!」サイムは叫んだ。「角を曲がった所に住んでいるのか?」
「いや」と友人は答えた。「実際にはかなり離れた川向こうに住んでいる。だがここから、もう寝たかどうか分かる。」
そう言いながら角を曲がり、炎の斑点を散らした薄暗い川へ向き合うと、杖で対岸を指した。この地点のサリー側には、高い集合住宅の巨大な一群が、テムズ川へ突き出し、ほとんど川へ覆いかぶさるように並んでいた。明かりのついた窓が点在し、工場の煙突のように、狂気じみた高さまでそびえている。独特の均衡と位置取りのため、ひときわ目立つ建物の一画は、百の目を持つバベルの塔のようだった。サイムはアメリカの摩天楼を一度も見たことがなかったので、夢のなかの建物を思い浮かべるほかなかった。
見つめていると、無数の明かりを灯す塔の最上部の光が、突然消えた。黒いアルゴス[訳注:ギリシャ神話に登場する、全身に多数の目を持つ巨人]が、無数の目のひとつでサイムに瞬きしたかのようだった。
ド・ウォームズ教授は踵を軸にくるりと向きを変え、杖で長靴を叩いた。
「遅かった」と言った。「健康的な博士は、もう寝た。」
「どういうことだ?」サイムは尋ねた。「では、あそこに住んでいるのか?」
「ああ」とド・ウォームズは言った。「今は見えない、あの特定の窓の向こうにな。さあ、夕食を食べに行こう。訪ねるのは明日の朝だ。」
それ以上の議論もなく、教授は幾つもの裏道を先導し、やがてイースト・インディア・ドック・ロードの光と喧騒のなかへ出た。この界隈に詳しいらしい教授は、明るい商店の列が急に奥へ引き、唐突な薄闇と静けさを形作っている場所へ進んだ。そこには修繕もされていない古い白壁の宿が、道路から二十フィート(約六メートル)ほど奥まって建っていた。
「上等なイギリスの宿は、化石のように、偶然あちこちへ残っている」と教授は説明した。「以前、ウェスト・エンドでもまともな店を見つけたことがある。」
「すると」とサイムは笑って言った。「ここはそれに対応する、イースト・エンドのまともな店なのか?」
「そうだ」と教授は恭しく言い、中へ入った。
二人はそこで、夕食も睡眠も十分に取った。得体の知れない店の人々が上手に料理した豆とベーコン、地下蔵から驚くべきことに出てきたブルゴーニュが、新たな同志と安らぎを得たというサイムの感覚を、完成させた。この試練を通じ、根本にあった恐怖は孤立だった。そして孤立と、味方がひとりいることとの間に口を開ける深淵は、言葉で表せない。四は二の二倍であることを、数学者には認めてもよい。だが二は一の二倍ではない。二は一の二千倍である。だからこそ、百の不都合があろうとも、世界は必ず一夫一婦制へ戻るのだ。
グレゴリーに川辺の小さな酒場へ連れていかれた時から始まる、常軌を逸した物語のすべてを、サイムは初めて吐き出すことができた。ごく古い友人へ語るときのように、気ままに、たっぷりと、贅沢な独白として語った。一方、ド・ウォームズ教授を演じていた男も、同じくらい隠し立てなく話した。彼自身の物語も、サイムのものに劣らず馬鹿げていた。
「あなたの扮装は見事だな」とサイムはマコンのグラスを空けながら言った。「ゴーゴリのものより、ずっといい。彼は最初から、少し毛深すぎると思っていた。」
「芸術理論の違いだ」と教授は物思わしげに答えた。「ゴーゴリは理想主義者だった。抽象的、あるいはプラトン的なアナーキストの理想像へ扮装した。だが私は写実主義者だ。肖像画家なのだ。いや、実のところ、私を肖像画家と呼ぶだけでは不十分だ。私は肖像画そのものなのだ。」
「意味が分からない」とサイムは言った。
「私は肖像画だ」と教授は繰り返した。「今ごろナポリにいると思われる、名高いド・ウォームズ教授の肖像画だ。」
「彼そっくりに扮装しているという意味か」とサイムは言った。「だが、自分の鼻を勝手に使われていることを、本人は知らないのか?」
「もちろん、よく知っている」と友人は快活に答えた。
「では、なぜあなたを告発しない?」
「私が彼を告発したからだ」と教授は答えた。
「説明してくれ」とサイムは言った。
「喜んで。私の話を聞いても構わないのならな」と高名な外国人哲学者は答えた。「私は役者を職業としており、本名はウィルクスという。舞台に立っていたころは、さまざまなボヘミアンや悪党と付き合った。競馬界の片隅に触れることもあれば、芸術家崩れのごろつきと交わることもあり、時には政治亡命者とも会った。追放された夢想家たちが集うどこかの巣窟で、偉大なドイツ人ニヒリスト哲学者、ド・ウォームズ教授を紹介された。彼について分かったのは、おぞましい容姿くらいで、それだけは注意深く観察した。宇宙における破壊原理こそ神であると証明した人物だと聞いた。そのため、あらゆるものを引き裂く、猛烈かつ不断のエネルギーが必要だと主張していた。エネルギーこそ万物である、と彼は言った。足が悪く、近眼で、身体の一部が麻痺していた。会ったときの私はふざけた気分で、この男があまりに嫌いだったので、真似をしてやろうと決めた。画家なら風刺画を描いただろう。私は役者にすぎないので、風刺画を演じることしかできなかった。汚らしい老教授本人を、途方もなく誇張したつもりの姿へ扮装した。彼の支持者で満ちた部屋へ入ったときは、爆笑で迎えられるか、あるいは彼らの頭がおかしすぎるなら、侮辱への怒号で迎えられると思っていた。ところが私が入ると、敬意に満ちた沈黙が訪れ、最初の言葉を発した後には、感嘆の囁きが続いた。その驚きは言い表せない。完璧な芸術家の呪いが、私へ降りかかったのだ。繊細すぎた。真に迫りすぎていた。彼らは私を、本物の偉大なニヒリスト教授だと思った。当時の私は健全な精神を持つ若者だったから、正直、これは打撃だった。だが立ち直るより先に、崇拝者が二、三人、憤りを放ちながら駆け寄ってきて、隣室で私への公然たる侮辱が行われたと告げた。どんな侮辱か尋ねると、生意気な男が、とんでもない私の物真似をするために扮装しているという。私は適量を超えてシャンパンを飲んでおり、一瞬の愚かな思いつきから、最後まで成り行きを見届けようと決めた。その結果、本物の教授が部屋へ入ってきたとき、彼を迎えたのは一同の睨みと、眉を上げ、凍てつく眼差しを向ける私自身だった。
「衝突が起きたのは、言うまでもない。周囲の悲観主義者たちは、どちらが本当に弱々しいか確かめるため、教授から教授へ不安げに目を走らせた。だが私が勝った。相手のような健康の悪い老人が、人生の盛りにある若い役者ほど、見事に弱々しく振る舞えるはずもない。分かるだろう、本物は実際に麻痺していたから、その明確な制約の範囲で動かねばならず、私ほど景気よく麻痺することができなかった。それから知性の面で私の主張を打ち砕こうとした。私はごく単純な手で応戦した。彼が、自分以外には誰にも理解できないことを言うたび、私は自分にすら理解できないことを返した。『進化とは否定にすぎないという原理を、君が導き出せたとは思えん。そこには分化に不可欠な空隙の導入が内在するからだ』と彼は言った。私はひどく軽蔑した調子で答えた。『それはすべてピンクヴェルツから読んだのだろう。内巻が優生学的に機能するという概念は、とっくにグルンペが論破した』。ピンクヴェルツやグルンペなどという人物は存在しないと、わざわざ言うまでもない。ところが周囲の人々は――私には少々意外だったが――彼らをよく覚えているらしかった。そこで教授は、学識的で神秘的な方法を使うと、良心にやや欠ける敵のなすがままになると悟り、もっと大衆的な機知へ逃げた。『なるほど』と嘲って言った。『君はイソップの偽の豚のように勝つわけだ』。『そしてあなたは』私は笑って答えた。『モンテーニュの針鼠のように負ける』。モンテーニュに針鼠など登場しないことは、言うまでもあるまい。『君のくだらん言葉はうまく外れるな』と彼は言った。『その髭も外れるだろう』。これはまったく事実で、しかもかなり気の利いた言葉だったから、私にはまともな返答がなかった。だが大声で笑い、でたらめに『汎神論者の長靴のようにな』と答えると、勝者の名誉を一身に負って踵を返した。本物の教授は追い出されたが、暴力は振るわれなかった。ただし、ひとりの男が非常に辛抱強く、彼の鼻を引き剥がそうとした。今では本物の教授は、愉快な詐欺師としてヨーロッパ中で歓迎されているらしい。本人が真剣に怒れば怒るほど、なおさら面白がられるわけだ。」
「なるほど」とサイムは言った。「一晩の悪ふざけで、あの汚らしい付け髭を着けたのは理解できる。だが、それ以来ずっと外さなかった理由は分からない。」
「それが残りの話だ」と物真似役は言った。「敬意に満ちた拍手に見送られて一同と別れた後、暗い通りをびっこを引いて歩いた。早く十分に遠くまで行き、人間らしく歩けるようになりたいと願いながらな。ところが驚いたことに、角を曲がりかけたとき、肩を叩かれた。振り返ると、巨大な警官の影の下にいた。出頭してもらう、と言われた。そこで麻痺したような姿勢を取り、甲高いドイツ訛りで叫んだ。『そうだ、私は求められている――世界の虐げられた人々にな。君は偉大なアナーキスト、ド・ウォームズ教授であるという容疑で、私を逮捕するのだ』。警官は無表情のまま、手にした紙を確認した。『いいえ、旦那』と礼儀正しく言った。『少なくとも、厳密には違います。名高いアナーキスト、ド・ウォームズ教授ではないという容疑で、あなたを逮捕します』。それが犯罪になるとしても、二つの容疑のうちでは明らかに軽いほうだったので、疑問は抱きつつも、それほど落胆せず男についていった。幾つもの部屋を通され、ついには警察官の前へ連れていかれた。彼はアナーキズムの中枢に対する重大な作戦が開始されており、私の成功した扮装は公共の安全にとって大きな価値を持ちうる、と説明した。そして十分な給料と、この小さな青いカードを提示した。話した時間は短かったが、きわめて強靱な常識とユーモアを持つ男だという印象を受けた。だが個人的なことは、あまり話せない。というのも――」
サイムはナイフとフォークを置いた。
「分かっている」と言った。「暗い部屋で話したからだ。」
ド・ウォームズ教授は頷き、グラスを空にした。
第九章 眼鏡の男
「ブルゴーニュは愉快な酒だな」と、教授は悲しげに言い、グラスを置いた。
「そうは見えませんね」とサイム。「まるで薬みたいに飲んでいるじゃないですか。」
「この態度は勘弁してくれたまえ」と教授は陰気に言った。「私の立場はいささか奇妙でね。心の中では、少年のような陽気さが今にも弾けそうなのだ。だが、麻痺した教授をあまりにもうまく演じすぎて、今ではやめられなくなってしまった。だから友人たちと一緒で、変装する必要などまるでないときでさえ、ゆっくりしゃべり、額にしわを寄せずにはいられない――まるで本当に自分の額であるかのようにな。つまり私は心から幸福にもなれるが、ただし麻痺したような幸福でしかない。胸の中には弾むような歓声が湧き上がるのに、口から出るとまるで別物になってしまう。私が『元気を出せよ、相棒!』と言うのを聞かせてやりたいものだ。きっと君も涙を流すぞ。」
「もう流していますよ」とサイム。「しかしそれはそれとして、あなたは本当に少し心配しているように思えてならない。」
教授はわずかに身を震わせ、サイムをじっと見つめた。
「君は実に頭の切れる男だ」と言った。「君と仕事ができるのは喜ばしい。そう、頭の中にかなり重苦しい雲がかかっている。重大な問題に向き合わねばならんのだ」そう言うと、禿げた額を両手に埋めた。
やがて低い声で言った――
「君はピアノを弾けるか?」
「ええ」とサイムは素朴に驚きながら答えた。「タッチはいいほうだと言われます。」
相手が何も言わないので、さらに付け加えた――
「これで重苦しい雲も晴れたことと思います。」
長い沈黙の後、教授は両手の作る洞窟のような影の奥から言った――
「タイプライターを打てても同じことだった。」
「どうも」とサイム。「お褒めにあずかり光栄です。」
「よく聞け」と教授は言った。「そして明日、誰に会わねばならないかを忘れるな。君と私は明日、ロンドン塔から王室の宝物を盗み出すよりはるかに危険なことを試みる。きわめて鋭敏で、きわめて強く、きわめて邪悪な男から、秘密を盗み出そうというのだ。もちろん議長は別として、あのゴーグルをかけてにやにや笑う小男ほど、心底ぎょっとさせられ、手ごわい人間はいないと思う。秘書に見られるような、死に至るまで白熱した情熱、アナーキズムのためなら狂った殉教も辞さないという熱狂は、あの男にはないのかもしれん。しかし秘書のその狂信には、人間らしい哀感があり、ほとんど救いとさえ言えるところがある。だがあの小柄な博士には、秘書の病よりさらに不気味な、野蛮な正気がある。あの忌まわしいほどの精力と活力に気づかなかったか。ゴムまりのように弾み回る。間違いない。日曜日は、この暴挙の計画をすべてブル博士の丸く黒い頭に封じ込めたとき、眠ってはいなかったのだ――そもそも、あの男は眠ることがあるのか?」
「それで」とサイムは言った。「その世にも稀な怪物は、私がピアノを弾いてやれば、おとなしくなると?」
「馬鹿を言うな」と導き手は言った。「ピアノの話をしたのは、指が素早く、しかも一本ずつ独立して動くようになるからだ。サイム、この面会を切り抜け、正気か命かのどちらかを保って帰りたいなら、あの獣に悟られない合図を二人の間で決めておく必要がある。五本の指に対応する簡単なアルファベット暗号を作ってみた――こうだ、見ろ」そう言って、木のテーブルの上で指を波打たせた。「B、A、D。bad、『まずい』だ。これは頻繁に必要になるだろう。」
サイムはもう一杯ワインを注ぎ、その仕組みを研究し始めた。謎解きにかけては頭の回転が異常に速く、手品にかけては手先も異常に器用だったので、テーブルや膝を何気なく叩いているように見せながら簡単な伝言を送る方法を覚えるのに、さほど時間はかからなかった。しかしワインと仲間は、いつもサイムの滑稽な創意を刺激した。やがて教授は、熱を帯びたサイムの頭脳を通じて途方もない活力を得たこの新言語を、持て余すことになった。
「いくつか単語専用の合図も必要です」とサイムは真剣に言った。「使いそうな単語、微妙な意味の違いを表す言葉です。私の好きな単語は coeval、『同時代の』です。あなたは?」
「いい加減、ふざけるのはやめてくれ」と教授は哀れっぽく言った。「これがどれほど深刻なことか、君にはわかっていない。」
「lush も要るな」とサイムは賢しげに首を振った。「『青々と茂った』――草なんかに使う言葉です、わかるでしょう?」
「我々がブル博士と草について話すとでも思っているのか?」と教授は激怒した。
「その話題へ持っていく方法はいくつもあります」とサイムは思案顔で言った。「しかも不自然に聞こえないよう、その単語を差し挟めます。たとえばこうです。『ブル博士、革命家であるあなたなら、かつてある暴君が我々に草を食えと勧めたことをご存じでしょう。そして実際、我々の多くは、夏の青々と茂った瑞々しい草を眺めながら……』。」
「これは悲劇なのだと理解しているか?」と教授は言った。
「完全に」とサイムは答えた。「悲劇の中では常に道化を演じるべきです。ほかにいったい何ができるんです? あなたの言語がもっと幅広く使えればよかったのに。指から足の指にまで拡張できないでしょうか? そうすると会話の途中で靴と靴下を脱がなければならず、どれほどさりげなくやったとしても――」
「サイム」と友人は峻厳かつ簡潔に言った。「寝ろ!」
しかしサイムは、ベッドに入ってからもかなり長いあいだ起きていて、新しい暗号の習得に励んだ。翌朝、東の空がまだ闇に閉ざされているうちに目を覚ますと、灰色の髭を生やした仲間が幽霊のように枕元に立っていた。
サイムは瞬きをしながらベッドに起き上がった。それからゆっくりと意識をまとめ、寝具を払いのけて立ち上がった。奇妙なことに、昨夜の安全も親密さも、寝具とともに体から滑り落ちていき、自分は冷たい危険の空気の中に立っているように思えた。仲間に対する信頼と忠誠は今も揺るがなかった。しかしそれは、処刑台へ向かう二人の男が互いに寄せる信頼だった。
「さて」とサイムは無理に明るい声を出し、ズボンをはきながら言った。「あなたの暗号の夢を見ましたよ。考案するのに時間がかかりましたか?」
教授は答えず、冬の海の色をした目で正面を見つめていた。そこでサイムは質問を繰り返した。
「ねえ、これを全部考え出すのに時間がかかったんですか? 私はこういうものが得意なほうですが、それでも丸一時間は頭を絞りました。あなたはその場で全部覚えたんですか?」
教授は沈黙していた。目は大きく見開かれ、顔には固まった、ごくかすかな笑みが浮かんでいた。
「どれくらいかかったんです?」
教授は動かなかった。
「畜生、返事もできないのか?」サイムは突然怒鳴った。その怒りの底には、恐怖めいたものが潜んでいた。教授に答えられたのかどうかはともかく、答えなかった。
サイムは、羊皮紙のようにこわばった顔と、虚ろな青い目を見つめ返した。最初に浮かんだのは、教授が発狂したのだという考えだった。しかし次に浮かんだ考えは、さらに恐ろしかった。そもそも自分は、軽率にも友人として受け入れたこの奇妙な生き物について、何を知っている? アナーキストたちの朝食会に出席し、馬鹿げた話を聞かせたという以外に、何を知っている? ゴーゴリのほかにも味方がいたなど、なんとありそうにないことか! この沈黙は、宣戦布告を劇的に演出しているのではないか? この金剛石のような凝視は、三重の裏切り者が最後の寝返りを打った末に浮かべた、恐るべき嘲笑ではないのか? サイムは立ち尽くし、情け容赦のない沈黙の中で耳を澄ませた。廊下の外で、自分を捕らえに来た爆弾犯たちが、ひそかに身じろぎする音さえ聞こえる気がした。
そのとき視線が下へ落ち、サイムはどっと笑い出した。教授本人は彫像のように声もなく立っていたが、物言わぬ五本の指は、死んだようなテーブルの上で生き生きと踊っていた。サイムは語る手のきらめく動きを見つめ、その伝言をはっきり読み取った――
「これでしか話さない。慣れておく必要がある。」
サイムは安堵の苛立ちをこめて返事を叩いた――
「了解。朝飯を食いに出よう。」
二人は無言で帽子とステッキを手にした。しかしサイムは仕込み杖を取ると、強く握りしめた。
二人はコーヒーの屋台に立ち寄り、コーヒーと粗末で分厚いサンドイッチを数分で腹へ詰め込むと、川を渡った。灰色の光が少しずつ増してゆく中、川はアケロン[訳注:ギリシャ神話で冥界を流れる川]のように荒涼としていた。対岸から見ていた巨大な建物の麓に着くと、二人は無言のまま、むき出しの石段を数えきれぬほど上り始めた。ときおり手すりの上で短い言葉を交わすときだけ、足を止めた。一階分か二階分上るたびに窓があり、その窓ごとに、青ざめた悲劇的な夜明けが、ロンドンの上へ苦しげに身を起こしていくのが見えた。どの窓から見ても、無数のスレート屋根が、雨の後の灰色に荒れた海、その鉛色のうねりのように広がっていた。サイムは、今回の新たな冒険には、これまでの荒唐無稽な冒険よりもなお恐ろしい、冷たい正気の気配があることを、しだいに強く感じた。たとえば昨夜、高くそびえる集合住宅は夢の塔のように見えた。だが今、うんざりするほど果てしなく続く階段を上っていると、そのほとんど無限の連なりに気圧され、途方に暮れた。しかしそれは、夢や、誇張や妄想かもしれないものが持つ、熱い恐怖ではなかった。この無限はむしろ、算術の空虚な無限に似ていた。思考できないのに、思考には不可欠なもの。あるいは恒星までの距離について天文学が述べる、眩暈を起こさせるような数字に似ていた。彼は理性の館を上っていた。不合理そのものより醜悪な館を。
ブル博士の部屋がある階へ着くころ、最後の窓から見えたのは、荒々しく白い夜明けだった。その縁には、赤い雲というより赤土のような、粗い赤色の層が連なっていた。そしてブル博士の殺風景な屋根裏部屋に入ると、そこは光で満たされていた。
この空虚な部屋と厳しい夜明けを見ているうち、サイムの脳裏には歴史上の何かが、半ば思い出されぬままつきまとっていた。屋根裏部屋と、テーブルに向かって書き物をしているブル博士を目にした瞬間、それが何だったかを思い出した――フランス革命だ。赤と白が重苦しく混じる朝空を背景に、ギロチンの黒い輪郭が立っていてしかるべきだった。ブル博士は白いシャツと黒い半ズボンしか身につけていなかった。短く刈った黒髪の頭は、たった今かつらから抜け出してきたようにも見えた。マラーか、あるいはもっとだらしないロベスピエールであってもおかしくなかった。
しかし、まともに眺めると、そのフランスめいた幻想は消えた。ジャコバン派は理想主義者だった。この男には、殺人的な唯物主義があった。座っている位置のために、その姿もいくらか以前とは違って見えた。片側から射す強い朝の白光が、くっきりした影を作り、バルコニーの朝食会で見たときより顔を青白く、体つきを角張って見せていた。そのため両目を覆う二枚の黒いレンズは、頭蓋骨に空いた黒い眼窩のようにも見え、博士を髑髏そのものに見せていた。実際、もし死神自身が木のテーブルで書き物をするとしたら、この姿だったに違いない。
二人が入ってくると、博士は顔を上げ、いかにも明るく微笑んだ。そして教授が言っていたとおり、ばねのような素早さで立ち上がった。二人に椅子を用意すると、ドアの後ろの釘へ行き、ざらついた濃色のツイードの上着とチョッキを身につけた。きちんとボタンを留め、戻ってきてテーブルの前に座った。
物静かで上機嫌なその態度を前に、二人の敵は手も足も出なかった。教授はしばし苦労してから、ようやく沈黙を破った。「こんなに朝早く邪魔をしてすまない、同志」と言い、ゆっくりとしたド・ウォームズ教授の口調を慎重に取り戻した。「パリでの一件については、もちろん手配をすべて済ませているだろうね?」
そして限りなくゆっくりと付け加えた。「一刻たりとも遅れることを、到底許容できなくする情報が入ったのだ。」
ブル博士はまた微笑んだが、何も言わず二人を見つめ続けた。教授は、疲れきった一語一語の前に間を置きながら続けた――
「どうか、私があまりにも唐突だとは思わないでくれたまえ。しかし私は、計画を変更するよう勧告する。もし変更するには遅すぎるなら、できる限りの支援を集め、君の工作員を追うべきだ。同志サイムと私は、ある出来事を経験した。それを詳しく語るには、行動に移すために残された時間より長くかかるかもしれない。だが、我々が論じるべき問題を理解するうえで不可欠だと君が本当に考えるなら、時間を失う危険を冒してでも、一部始終を詳しく説明しよう。」
教授は文を引き延ばし、耐えがたいほど長く、ぐずぐずとしゃべっていた。実務家である小柄な博士を苛立たせ、我慢の爆発によって本心をさらけ出させようとしていたのだ。しかし小柄な博士はただ見つめ、微笑み続けたため、独白はひどく骨の折れる仕事になった。サイムは新たな吐き気と絶望を覚え始めた。博士の微笑と沈黙は、半時間前に教授から突きつけられた、硬直した凝視と恐ろしい沈黙とはまるで違っていた。教授の扮装と道化じみた振る舞いには、いつもただグロテスクなもの――黒い人形のような滑稽さがあった。サイムは昨日の激しい苦悩を、子供のころお化けを怖がった記憶のように思い出した。しかし今は昼の光がある。ここにいるのは、健康で肩幅の広い、ツイードを着た男だ。醜い眼鏡という偶然を除けば、何も奇妙ではない。睨んでもいなければ、歯をむき出して笑ってもいない。ただ静かに微笑み、一言もしゃべらない。そのすべてに、耐えがたい現実感があった。強まってゆく日差しの下で、博士の肌の色も、ツイードの模様も、写実小説の細部が不当に重要になるように、異様なまでに膨れ上がっていった。だが微笑みはほんのかすかで、首の傾け方も礼儀正しい。ただ一つ不気味なのは、その沈黙だった。
「先ほど言ったとおり」と教授は、重い砂をかき分けるように話を再開した。「我々の身に起こり、侯爵について情報を求めるきっかけとなった事件は、君としても詳しく語らせたほうがよいと考えるかもしれない。しかしこれは、私よりも同志サイムの身に起こったことなので――」
まるで賛美歌の歌詞のように、一語一語を長く引き延ばしていた。しかし見守っていたサイムは、教授の長い指が、ぐらつくテーブルの縁を素早く叩くのを見た。伝言を読み取った。「君が続けろ。この悪魔に、もう何もかも吸い尽くされた!」
サイムは急場へ飛び込み、恐怖に駆られたときいつも湧いてくる、即興の虚勢を発揮した。
「ええ、実際にその目に遭ったのは私です」と早口で言った。「幸運にも一人の刑事と話す機会がありまして、帽子のおかげで、私を堅気の人間だと思ってくれたのです。そこで堅気という評判を確固たるものにしようと、サヴォイへ連れていって、ひどく酔わせました。酒が回ると親しげになり、一日か二日のうちにフランスで侯爵を逮捕するつもりだと、はっきり教えてくれたのです。
「ですから、あなたか私が足取りをつかまなければ――」
博士はなおも、この上なく親しげに微笑み、その眼鏡に守られた目は依然として何も明かさなかった。教授は、自分が説明を再開するとサイムへ合図し、同じ念入りな落ち着きでまた話し始めた。
「サイムはすぐにこの情報を私のもとへ持ってきた。そして我々は、君がこの情報をどう活用するつもりか確認するため、一緒にここへ来た。私には、疑いようもなく緊急に――」
そのあいだずっとサイムは、博士が教授を見つめるのとほとんど同じほどじっと博士を見つめていた。ただし微笑みはなかった。動かぬ愛想のよさが生む緊張に、二人の同志の神経が切れかかったそのとき、サイムは突然身を乗り出し、何気ないふうにテーブルの縁を叩いた。仲間への伝言はこうだった。「直感がある。」
教授は独白をほとんど途切れさせず、「なら、その上に座っていろ」と返した。
サイムは打電した。「とてつもない直感だ。」
相手は答えた。「とてつもない戯言だ!」
サイムは言った。「私は詩人だ。」
相手は言い返した。「君は死人だ。」
サイムの顔は黄色い髪の生え際まで真っ赤になり、目は熱っぽく燃えていた。言ったとおり、彼には直感があり、それは目眩にも似た確信へ高まっていた。象徴的な打音を再開し、友人へ伝えた。「私の直感がどれほど詩的か、あなたにはほとんどわかっていない。春の訪れにときおり感じる、あの不意打ちのような趣がある。」
そして友人の指に現れる返事を読んだ。返事はこうだった。「地獄へ落ちろ!」
教授はそれから、博士へ向けた通常の言葉による独白を再開した。
「むしろこう言うべきかもしれない」とサイムは指で語った。「青々と茂る森の奥で、不意に海の匂いを嗅いだときに似ている。」
仲間は返答する価値もないと無視した。
「あるいは」とサイムは叩いた。「美しい女の情熱的な赤毛のように、明白で確かなものだ。」
教授は話し続けていたが、その途中でサイムは行動を決意した。テーブル越しに身を乗り出し、無視することのできない声で言った――
「ブル博士!」
つややかで微笑を浮かべた博士の頭は動かなかった。しかし黒い眼鏡の下で、視線がサイムへ走ったと二人は断言できた。
「ブル博士」とサイムは、妙に正確で礼儀正しい声で言った。「ちょっとお願いを聞いていただけますか? 眼鏡を外していただけないでしょうか?」
教授は椅子の上で勢いよく振り向き、驚愕が凍りついたような怒りでサイムを見つめた。命も財産もすべてテーブルへ投げ出した男のように、サイムは顔を燃え立たせて身を乗り出した。博士は動かなかった。
数秒間、針の落ちる音さえ聞こえそうな沈黙が続いた。その沈黙を一度だけ、遠くテムズ川を行く汽船の汽笛が破った。やがてブル博士は、なおも微笑みながらゆっくり立ち上がり、眼鏡を外した。
サイムは成功した爆発から身を引く化学の講師のように、わずかに後ずさりしながら跳ね起きた。目は星のように輝き、一瞬、声も出せず指を差すことしかできなかった。
教授も、自分が麻痺患者のはずだったことを忘れて飛び上がっていた。椅子の背に寄りかかり、目の前で博士が蟇蛙に変わったかのように、疑わしげにブル博士を見つめた。実際、それに劣らぬほどの大変身だった。
二人の刑事の前に座っていたのは、ひどく少年めいた若者だった。率直で明るい榛色の目、あけっぴろげな表情、都会の事務員めいたロンドン下町風の服装。そして、ひどく善良で少々平凡な人間であることを疑わせない雰囲気。微笑みはまだ浮かんでいたが、それは赤ん坊が生まれて初めて見せた笑顔のようだった。
「やはり私は詩人だった!」サイムは恍惚として叫んだ。「私の直感は教皇と同じく無謬だとわかっていたんだ。眼鏡だった! 何もかも眼鏡のせいだったんだ。あの忌まわしい黒い目に、健康そうで陽気なほかの部分が組み合わさって、死者の中にいる生きた悪魔に見せていたんだ。」
「確かに、妙なほど印象が変わる」と教授は震える声で言った。「しかしブル博士の計画については――」
「計画なんぞ知るか!」我を忘れたサイムは怒鳴った。「こいつを見ろ! 顔を見ろ、襟を見ろ、そのありがたい靴を見ろ! まさか、こんな代物がアナーキストだと思うのか?」
「サイム!」相手は不安に身を切られたように叫んだ。
「ええい、神に誓って」とサイムは言った。「この危険は私が引き受ける! ブル博士、私は警察官だ。これが身分証だ」そう言うと、青いカードをテーブルへ投げ出した。
教授はなおも、すべてが破綻したのではないかと恐れていた。しかし忠実だった。自分の公式な身分証を取り出し、友人のものの隣へ置いた。すると三人目の男がどっと笑い出し、その朝初めて二人は声を聞いた。
「君たちがこんなに早く来てくれて、本当にうれしいよ」と、学生のような軽い調子で言った。「これでみんな一緒にフランスへ出発できる。そうとも、僕もれっきとした警察の人間だ」そして形式上のことにすぎないというように、青いカードを二人へ軽く弾き飛ばした。
きびきびと山高帽をかぶり、小鬼めいた眼鏡をかけ直すと、博士はあまりにも素早くドアへ向かったので、二人も反射的に後へ続いた。サイムは少し上の空だったが、戸口をくぐると突然、石の廊下へ杖を打ちつけ、甲高く響かせた。
「だが全能の神よ!」と叫んだ。「これが全部本当なら、あの忌々しい評議会には、忌々しい爆弾犯より、忌々しい刑事のほうが多かったことになるぞ!」
「簡単に戦えたな」とブルは言った。「四対三だったんだから。」
教授は階段を下りていたが、下から声が上がってきた。
「いや」と声は言った。「四対三ではなかった――それほど運はよくない。我々は四人で、〈一人〉を相手にしていたのだ。」
ほかの二人は無言で階段を下りた。
ブルと呼ばれた若者は、持ち前の無邪気な礼儀正しさから、通りへ出るまで最後尾を譲らなかった。しかし外へ出ると、頑健で素早い本性が無意識に現れ、鉄道案内所へ向かって先頭を足早に歩きながら、肩越しに二人へ話しかけた。
「仲間ができるってのは愉快だな」と言った。「たった一人で、怖くて半死半生だったんだ。危うくゴーゴリに両腕を回して抱きつくところだった。そんなことをしたら軽率だったろうけどね。ひどく怯えていたからって、軽蔑しないでくれよ。」
「青い地獄にいる青い悪魔どもが総出で」とサイムは言った。「私の真っ青な恐怖に力を貸してくれたよ! だが最悪の悪魔は、君とその地獄のゴーグルだった。」
若者はうれしそうに笑った。
「傑作だったろ?」と言った。「実に単純な発想さ――僕が考えたんじゃない。そんな頭はないからね。ほら、僕は刑事になりたかったんだ。とりわけ爆弾テロ対策の仕事に就きたかった。でもそのためには、爆弾犯に変装できる人間が必要だった。ところが連中は、何がどうなっても僕が爆弾犯に見えることはないと口を揃えた。歩き方からして堅気で、後ろ姿は大英帝国憲法そっくりだと言うんだ。健康的すぎる、楽天的すぎる、信用できそうで親切そうすぎると、スコットランド・ヤードでは散々な呼ばれようだった。もし犯罪者だったなら、正直者そっくりの外見を利用して大儲けできただろう。だが不運にも正直者だから、犯罪者らしく見せて捜査に役立てる可能性は、万に一つもないと言われたよ。ところが最後に、警察の上層部にいる年寄りの前へ連れていかれた。頭の切れ方が半端じゃなさそうな爺さんだった。そこでほかの連中は、見込みがないとさんざん論じた。一人は、もじゃもじゃの髭なら僕の感じのいい笑顔を隠せるだろうかと言い、もう一人は、顔を黒く塗れば黒人のアナーキストに見えるかもしれないと言った。するとその爺さんが、実にとんでもないことを口にした。『色つき眼鏡を一つかけさせれば十分だ』と断言したんだ。『今のこいつは、天使のような給仕少年に見える。色つき眼鏡をかけさせてみろ。子供は姿を見ただけで悲鳴を上げるぞ』って。そして本当にそうなったんだ、いやはや! 目を隠しただけで、笑顔も広い肩も短い髪も、何もかもが僕を立派な小悪魔に見せた。さっきも言ったとおり、やってしまえば奇跡みたいに単純な話さ。だが本当に奇跡的なのはそこじゃない。この一件には心底仰天することが一つあって、今も考えると頭がくらくらする。」
「何だ?」とサイムが尋ねた。
「教えよう」と眼鏡の男は答えた。「僕をひと目で見抜き、あのゴーグルが髪や靴下とどう調和するかまでわかった警察の大物は――神に誓って、僕を一度も見ていなかったんだ!」
サイムの目が突然きらりと光った。
「どういうことだ?」と尋ねた。「話をしたんじゃなかったのか。」
「したとも」とブルは明るく言った。「だが石炭貯蔵庫みたいに真っ暗な部屋で話したんだ。これはさすがに想像できなかったろう。」
「考えも及ばなかった」とサイムは厳粛に言った。
「確かに斬新な発想だ」と教授も言った。
新たな仲間は、実務となると旋風のようだった。案内所では、ドーバー行き列車について要点だけを手短に尋ねた。情報を得るや一行を辻馬車へ押し込み、息つく暇もない過程をまともに理解させぬまま、自分もろとも鉄道の客車へ収まっていた。会話が自由に流れ始めたころには、もうカレー行きの船に乗っていた。
「もともと」とブルは説明した。「昼飯を食べにフランスへ行く手筈にはしていたんだ。でも一緒に食べる相手ができてうれしいよ。ほら、あの獣の侯爵には、爆弾を持たせて先に送り出すしかなかったんだ。どうやったのか神のみぞ知るだが、議長が僕を見張っていたからね。いつか詳しく話すよ。息が詰まるような話だった。逃れようとするたび、どこかに議長がいるんだ。クラブの張り出し窓から笑いかけていたり、乗合馬車の屋根から帽子を取って挨拶したり。何と言おうと勝手だが、あの男は悪魔に魂を売ったんだ。一度に六か所にいられるんだから。」
「それで侯爵を送り出したわけだな」と教授が尋ねた。「かなり前か? 追いつけるだろうか?」
「ああ」と新たな案内役は答えた。「全部時間を計算してある。僕らが着くころにも、まだカレーにいる。」
「だがカレーで追いついたら」と教授は言った。「どうするつもりだ?」
この質問を受け、ブル博士の顔が初めて曇った。少し考えてから言った――
「理屈の上では、警察を呼ぶべきなんだろうな。」
「私は御免だ」とサイム。「理屈の上では、その前に入水自殺しなければならない。真の現代的悲観主義者である哀れな男に、警察には言わないと名誉にかけて約束した。詭弁には疎いが、現代的悲観主義者との約束は破れない。子供との約束を破るようなものだ。」
「私も同じ船に乗っている」と教授。「警察へ話そうとしたが、馬鹿げた誓いを立てていたため話せなかった。役者だったころの私は、あらゆる面でろくでなしだったのだ。偽証と反逆だけが、まだ犯していない犯罪だ。それまでやったら、善悪の区別がつかなくなる。」
「僕も一通り悩んだ」とブル博士。「そして決心した。秘書に約束したんだ――知っているだろう、逆さまに笑う男さ。諸君、あの男は人間として生まれた者のうち、最も徹底して不幸な人間だ。消化器のせいか、良心か、神経か、宇宙哲学のせいかは知らないが、あいつは呪われている。地獄の中にいるんだ! そんな男に背を向け、追い詰めることはできない。癩病患者を鞭打つようなものだ。僕は狂っているのかもしれないが、そう感じるんだから仕方がない。これで話はおしまいだ。」
「狂っているとは思わない」とサイム。「最初に君が――したときから、そう決めるとわかっていた。」
「何だって?」とブル博士。
「初めて眼鏡を外したときからだ。」
ブル博士はかすかに微笑むと、甲板を横切り、陽光に輝く海を眺めた。それから踵を気楽に鳴らしながら戻ってきて、三人の間に親しい沈黙が下りた。
「さて」とサイムは言った。「我々はみな同種の道徳、あるいは不道徳を持っているらしい。ならば、そこから生じる事実に向き合ったほうがいい。」
「そうだな」と教授も同意した。「まったくそのとおりだ。それに急がねばならん。フランスからグレ・ネ岬が突き出して見えてきた。」
「そこから生じる事実とは」とサイムは真剣に言った。「この惑星で、我々三人は孤立しているということだ。ゴーゴリは神のみぞ知るどこかへ消えた。議長に蠅のように叩き潰されたのかもしれない。評議会では三対三、橋を守ったローマ人たちのようなものだ。だが我々のほうがさらに不利だ。第一に、彼らは組織へ助けを求められるが、我々にはそれができない。第二に――」
「向こうの三人のうち一人は」と教授が言った。「人間ではない。」
サイムはうなずき、しばし沈黙してから言った――
「私の考えはこうだ。明日の正午まで侯爵をカレーへ足止めするため、何かしなければならない。二十もの策を考えた。爆弾犯だと告発することはできない。それは合意済みだ。些細な容疑で拘束させることもできない。我々も出頭する必要があるし、顔を知られているから、罠だと嗅ぎつけるだろう。アナーキストの仕事を口実に引き止めることもできない。その手なら多くのことを信じるだろうが、皇帝が無事パリを通過するあいだカレーに留まれ、という話は呑まない。誘拐して自分たちで閉じ込める手もある。しかしここでは名士だ。護衛も同然の友人たちが大勢いる。本人も非常に強く勇敢で、成功するかはわからない。私に思いつく唯一の策は、侯爵に有利な事柄を、逆に利用することだ。社会的に大いに尊敬されている貴族だという事実を利用する。友人が多く、上流社会に出入りしているという事実を利用するんだ。」
「いったい何の話をしている?」と教授が尋ねた。
「サイム家が初めて史料に現れるのは十四世紀です」とサイム。「しかし先祖の一人が、バノックバーンではブルース王の後ろに従って馬を走らせたという伝承がある。千三百五十年以降の家系図は明確です。」
「頭がおかしくなったぞ」と小柄な博士は目を見開いた。
「我が家の紋章は」とサイムは平然と続けた。「『銀地に赤の山形帯、帯上に地と同色の三つの交差十字』。標語はいくつかあります。」
教授はサイムのチョッキを荒々しくつかんだ。
「もう岸のすぐそばだぞ」と言った。「船酔いしたのか、それとも場違いな冗談を言っているのか?」
「私の発言は、痛々しいほど実際的です」とサイムは悠然と答えた。「サン・テュスタシュ家も非常に古い。侯爵は自分が紳士であることを否定できない。私が紳士であることも否定できない。そして私の社会的地位に疑いの余地がないことを示すため、最初の機会に侯爵の帽子を叩き落とすつもりです。おや、もう港に着いた。」
強い日差しの下、三人は半ば呆然として上陸した。ロンドンではブルがそうしたように、今度はサイムが先頭に立ち、海を望む遊歩道らしき道を進んだ。やがて豊かな緑に包まれ、海を見下ろすいくつかのカフェへたどり着いた。先を歩く足取りにはわずかに気取ったところがあり、杖を剣のように振っていた。カフェの並びのいちばん端を目指しているようだったが、突然立ち止まった。鋭い身振りで二人に沈黙を命じると、手袋をはめた指一本で、花咲く木々の下にあるカフェのテーブルを示した。そこにはサン・テュスタシュ侯爵が座っていた。濃い黒髭の中で歯を輝かせ、精悍な褐色の顔は淡黄色の麦わら帽子に影を落とされ、紫色の海を背景にくっきり浮かんでいた。
第十章 決闘
サイムは仲間たちとカフェのテーブルに着いた。青い目は眼下の明るい海のようにきらめき、喜ばしげな苛立ちとともにソミュールのボトルを注文した。どういうわけか、妙に浮かれた気分だった。もともと不自然なほど上機嫌だったが、ソミュールが減るにつれて気分はさらに高揚し、半時間もすると口から流れ出るのは戯言の奔流となった。恐るべき侯爵と自分との間でこれから交わされる会話の筋書きを作るのだと言い張り、鉛筆で猛烈に書きつけた。それは印刷された問答集のように質問と回答を並べたもので、サイムは異常な早口で読み上げた。
「私が近づく。侯爵が帽子を取るより先に、こちらが帽子を取る。私は言う。『サン・テュスタシュ侯爵とお見受けします』。彼は言う。『高名なサイム氏でいらっしゃいますな』。そして極上のフランス語で『ご機嫌いかがです?』と言う。私は極上のロンドン下町訛りで答える。『相変わらずサイムさ――』。」
「ああ、もう黙れ」と眼鏡の男は言った。「しっかりして、その紙切れを捨てろ。本当は何をするつもりなんだ?」
「でもすばらしい問答集なんだ」とサイムは哀れっぽく言った。「読ませてくれよ。質問と答えは四十三個しかないし、侯爵の返事には、とてつもなく機知に富んだものもある。私は敵にも公平でありたいんだ。」
「そんなものが何の役に立つ?」ブル博士は苛立って尋ねた。
「私の挑戦へつながるんだ、わからないのか」とサイムは満面の笑みで言った。「侯爵が三十九番目の返答をする。それは――」
「ひょっとして君は」と教授が重々しく素朴に尋ねた。「侯爵が、君の書いた四十三個の台詞を全部言うとは限らない、という可能性を考えたことがあるか? そうなれば、君の警句はいささか取ってつけたように聞こえるだろうな。」
サイムは晴れやかな顔でテーブルを叩いた。
「なるほど、まったくそのとおりだ」と言った。「思いもしなかった。あなたの知性は並外れている。名を成すでしょうな。」
「ああ、ふくろうみたいに酔っぱらってる!」と博士。
「となれば」とサイムは平然と続けた。「私と、私が殺したい男との間の氷を砕くため――そう表現してよければ――別の手段を採るしかない。しかも対話の進行は、一方の当事者だけでは予測できないのだから――あなたが深遠な慧眼をもって指摘したように――唯一の方法は、片方ができる限り対話のすべてを一人でやってしまうことだろう。よし、そうしてやる!」
そして突然立ち上がった。黄色い髪が、かすかな潮風になびいた。
木立のどこかに隠れたカフェ・シャンタン[訳注:歌や音楽を楽しませるフランス式の野外カフェ]では楽団が演奏しており、ちょうど女歌手が歌い終えたところだった。熱を帯びたサイムの頭には、金管楽団の騒々しい響きが、かつて死ぬために立ち上がったレスター・スクエアの手回しオルガン、その軋みとうなりのように聞こえた。侯爵が座る小卓へ目を向けた。今や侯爵には二人の連れがいた。フロックコートに絹の帽子を身につけた、厳めしいフランス人たちだ。一人はレジオン・ドヌール勲章[訳注:フランス最高位の国家勲章]の赤い略章をつけており、明らかに社会的地位の確かな人々だった。その黒く円筒形の服装に囲まれると、ゆったりした麦わら帽子と明るい春服の侯爵は、ボヘミアンのように、野蛮人のようにすら見えた。しかし、紛れもなく侯爵に見えた。いや、獣のようなしなやかさ、侮蔑をたたえた目、紫の海を背に誇らしげに上げた頭を見れば、王とさえ言えただろう。ただし、少なくともキリスト教徒の王ではない。奴隷制が自然に思われていた時代、地中海と、自らのガレー船と、うめき声を上げる奴隷たちを見下ろした、半ばギリシャ人、半ばアジア人の浅黒い専制君主。まさしくそのような暴君の金褐色の顔が、暗緑色のオリーブと燃えるような青空を背景に、こうして浮かび上がっただろうとサイムは思った。
「集会に演説でもするつもりか?」サイムが立ったまま動かないのを見て、教授は苛立たしげに尋ねた。
サイムは発泡酒の最後の一杯を飲み干した。
「そのとおり」と言い、侯爵と二人の連れを指差した。「あの集会にな。あの集会は気に入らない。あの集会の、でかくて醜い、マホガニー色の鼻を引っ張ってやる。」
足取りは完全に確かとは言えなかったが、素早く歩み寄った。侯爵はサイムを見ると、黒いアッシリア人めいた眉を驚きに持ち上げたが、礼儀正しく微笑んだ。
「サイム氏でいらっしゃいますな」と言った。
サイムは一礼した。
「そしてあなたがサン・テュスタシュ侯爵でいらっしゃる」と優雅に言った。「お鼻を引っ張らせていただきたい。」
身を乗り出して実行しようとしたが、侯爵は椅子を倒しながら後ろへ跳び退き、シルクハットの二人がサイムの両肩をつかんだ。
「この男が私を侮辱した!」サイムは事情を説明する身振りで言った。
「あなたを侮辱?」赤い略章の紳士が叫んだ。「いつです?」
「たった今」とサイムは無謀に言った。「私の母を侮辱した。」
「あなたの母上を!」紳士は信じられない様子で声を上げた。
「まあ、とにかく」とサイムは一点を譲った。「私の叔母を。」
「しかし侯爵が、たった今あなたの叔母上を侮辱できるはずがないでしょう?」もう一人の紳士が、もっともな驚きを示した。「ずっとここに座っていたのですから。」
「ああ、彼の言ったことだ!」サイムは暗い声で言った。
「私は何も言っていない」と侯爵。「楽団について少し話しただけだ。ワーグナーは上手に演奏されれば好きだと言っただけだ。」
「私の家族への当てこすりだ」とサイムは断固として言った。「叔母はワーグナーを下手に弾いた。つらい話題なのだ。そのことで、我が家はいつも侮辱されている。」
「実に奇妙な話ですな」と、勲章をつけた紳士は侯爵を疑わしげに見て言った。
「ああ、間違いありません」とサイムは真剣に言った。「あなた方の会話は、叔母の弱点をほのめかす不吉な当てこすりで埋め尽くされていました。」
「馬鹿げている!」二人目の紳士が言った。「少なくとも私は、この半時間、黒髪のあの娘の歌が好きだという以外は何も言っていない。」
「ほら、まただ!」サイムは憤然と言った。「叔母の髪は赤かった。」
「私には」と相手は言った。「あなたが侯爵を侮辱する口実を探しているだけに思えます。」
「いやはや!」サイムはくるりと向き直って相手を見た。「なんて賢い人なんだ!」
侯爵は虎のように目を燃え上がらせて立ち上がった。
「私に喧嘩を売ろうというのか!」と叫んだ。「私と戦う口実を探していると! 神に誓って、それほど長く探さねばならなかった男は一人もいない。この方々に介添人をお願いしよう。日没までまだ四時間ある。今夕、戦おうではないか。」
サイムは見事なまでに優雅な礼をした。
「侯爵」と言った。「そのご対応は、名声と血筋にふさわしい。私が身を委ねる方々と、しばし相談することをお許しください。」
大股で三歩進み、仲間のもとへ戻った。シャンパンに煽られた襲撃を目撃し、愚劣な説明を聞いていた二人は、戻ってきたサイムの顔つきに心底驚いた。今やすっかり酔いがさめ、わずかに青ざめ、激しいまでに実際的な低い声で話したからだ。
「やったぞ」としわがれた声で言った。「あの獣と決闘することになった。だが、よく見て、注意深く聞け。話している時間はない。二人が私の介添人だ。すべて任せる。決闘は必ず明日の七時以降だと、断固として主張してくれ。そうすればパリ行き七時四十五分発に乗るのを阻止できる。あれを逃せば、犯罪もしくじる。時間と場所のわずかな違いくらいで、二人との交渉を拒めはしない。だが、あいつはこう出る。途中の駅に近く、列車へ乗り込める場所を決闘場に選ぶはずだ。剣の達人だから、列車に間に合ううちに私を殺せると踏む。だが私も剣はうまい。少なくとも列車を逃すまでは、相手を食い止められると思う。その後は腹いせに私を殺すかもしれない。わかったか? よろしい。それでは私の魅力的な友人たちを紹介しよう」そして二人を遊歩道の向こうへ急いで連れていき、それまで本人たちも聞いたことのない、いかにも貴族的な二つの名前で侯爵の介添人に紹介した。
サイムはときおり、普段の性格にはまるでそぐわない、異様なほど常識的な発作に襲われた。それは――眼鏡についての衝動をそう呼んだように――詩的直感であり、ときには予言の域にまで高まった。
今回、サイムは相手の方策を正しく読み切っていた。侯爵は介添人から、サイムが決闘できるのは朝だけだと知らされると、自分と首都での爆弾投擲との間に、突然障害が生じたことを十分理解したはずだ。当然、この異議を友人たちへ説明するわけにはいかない。そこでサイムの予測どおりの手を選んだ。鉄道から遠くない小さな牧草地を指定するよう介添人を説得し、最初の立ち合いで決着をつけられると信じたのだ。
決闘場へひどく落ち着き払って現れた侯爵を見て、旅程について何か不安を抱いていると見抜ける者はいなかっただろう。両手をポケットへ入れ、麦わら帽子を後頭部へずらし、精悍な顔を厚かましいほど日にさらしていた。しかし、剣のケースを運ぶ介添人だけでなく、旅行鞄と昼食籠を運ぶ二人の召使いまで後ろに従えていることは、見知らぬ者にも奇妙に映ったかもしれない。
まだ早い時刻なのに、太陽は何もかもを暖かさで満たしていた。一行全員がほとんど膝まで埋もれるほどの丈高い草の中で、春の花々が金銀に燃えているのを見て、サイムはぼんやり驚いた。
侯爵を除く全員が暗く厳粛なモーニング姿で、黒い煙突のような帽子をかぶっていた。とりわけ小柄な博士は、黒眼鏡まで加わって、笑劇に出てくる葬儀屋のようだった。葬列か教会行きのような服装と、野の花々がいたるところに咲き乱れる、豊かで輝かしい草地との滑稽な対照を、サイムは意識せずにいられなかった。しかし実際、この黄色い花と黒い帽子との滑稽な対照は、黄色い花と暗黒の仕事との悲劇的な対照を象徴していたにすぎない。右手には小さな森があった。はるか左手には鉄道線路が長い弧を描いて延びていた。それこそ侯爵の目的地であり逃げ道であって、いわばサイムは侯爵から線路を守っているのだった。正面では、黒服の敵たちの向こうに、色づいた雲のような、小さなアーモンドの花木が見えた。淡い海の輪郭を背に花開いていた。
レジオン・ドヌール勲章の受章者――デュクロワ大佐という名らしかった――は教授とブル博士へ非常に礼儀正しく歩み寄り、どちらかが相当の傷を負った時点で勝負を終えてはどうかと提案した。
しかしブル博士は、この方針についてサイムから入念な指示を受けていたので、片方が戦闘不能になるまで続けるべきだと、ひどく威厳のある態度とひどく下手なフランス語で主張した。侯爵を戦闘不能にせず、自分も戦闘不能にされないまま、少なくとも二十分は持ちこたえられるとサイムは踏んでいた。二十分たてばパリ行き列車は通り過ぎる。
「剣技と勇気をもって広く知られるサン・テュスタシュ氏にとっては」と教授は厳粛に言った。「どちらの方式を採るかなど、どうでもよいことに違いありません。こちらの当事者には、より長い立ち合いを要求する強い理由があります。その理由は、微妙な性質のため明言できませんが、その公正かつ名誉ある性質については私が――」
「ペストめ!」背後の侯爵が吐き捨てた。その顔は突然険しくなっていた。「話はやめて始めようではないか」そして杖で背の高い花の頭を斬り落とした。
サイムはその粗暴な焦燥を理解し、本能的に肩越しに振り返って、列車が見え始めていないか確かめた。しかし地平線に煙はなかった。
デュクロワ大佐は膝をつき、ケースの錠を開け、そっくりな二本の剣を取り出した。剣身は日光を受け、二筋の白い炎に変わった。一本を侯爵へ差し出すと、侯爵は無造作に奪い取った。もう一本をサイムへ差し出すと、サイムは受け取り、しならせ、威厳を損なわぬ範囲でできるだけ時間をかけて構えた。
それから大佐はもう一組の剣を取り出し、一本を自ら持ち、もう一本をブル博士へ渡して、両者を所定の位置につかせた。
両当事者は上着とチョッキを脱ぎ、剣を手に立っていた。介添人たちも抜剣し、戦いの線の両側へ立ったが、暗いフロックコートと帽子を身につけた姿は、なおも陰鬱だった。両者は礼を交わした。大佐が静かに「始め!」と言い、二本の剣身が触れ、震える音を立てた。
噛み合った鉄の衝撃が腕を駆け上がった瞬間、この物語を満たしてきた幻想的な恐怖は、ベッドで目覚めた男から夢が落ちていくように、サイムから消え去った。それらを、神経の生んだ妄想として明瞭に順序立てて思い返した――教授への恐怖は、悪夢における暴君的な偶然への恐怖だった。博士への恐怖は、科学の息苦しい真空への恐怖だった。前者は、どんな奇跡でも起こりうるという古い恐怖。後者は、奇跡など決して起こりえないという、より絶望的で現代的な恐怖。しかし、それらが空想にすぎないと悟った。今や死への恐怖という巨大な事実、その粗野で無慈悲な常識と向き合っていたからだ。一晩中、断崖から転落する夢を見て、絞首刑になる朝に目を覚ました男のような心地だった。敵が突き出した剣身の溝を陽光が走るのを見、二枚の鋼の舌が二つの生き物のように震えながら触れ合うのを感じた瞬間、敵が恐るべき剣士であり、おそらく自分の最期の時が来たのだと悟った。
周囲の大地すべて、足元の草にさえ、奇妙で鮮烈な価値を感じた。生あるものすべての中に、生命への愛を感じた。草が伸びる音さえ聞こえるようだった。自分が立っているこの瞬間にも、草地では新しい花々が芽吹き、つぼみを破っているように思えた――血のような赤、燃える金、そして青の花々が、春の壮麗な行列を完成させていく。そして侯爵の静かに見据える、催眠術めいた目からほんの一瞬でも視線が逸れるたび、空の境に立つ小さなアーモンドの木立が見えた。もし何かの奇跡で助かったなら、永遠にあの木の前に座り、ほかにはこの世の何一つ望まなくてもよいと思った。
しかし大地も空も、すべてが失われゆくものの生きた美しさを帯びる一方、頭のもう半分はガラスのように澄み切っていた。そして自分でもできると思っていなかったほどの、機械仕掛けめいた技量で敵の切っ先をかわしていた。一度、敵の切っ先が手首を走り、細い血の筋を残したが、気づかれなかったのか、暗黙のうちに無視された。ときおり反撃し、一度か二度、切っ先が相手へ届いたような手応えさえ感じた。しかし剣にもシャツにも血がついていないので、勘違いだったのだろうと思った。そのとき中断が入り、状況が変わった。
すべてを失う危険を冒し、侯爵は静かな凝視を途切れさせ、右手の鉄道線路を肩越しに一瞥した。次いで悪鬼の顔へ変貌してサイムへ向き直り、二十本の武器を振るうように戦い始めた。攻撃はあまりにも速く激しく、一本の輝く剣が、輝く矢の雨に見えた。サイムには線路を見る余裕がなかった。しかし見る必要もなかった。侯爵が突如として狂ったように戦い始めた理由は推測できた――パリ行き列車が見えたのだ。
しかし侯爵の病的な力は暴走し、自らを裏切った。二度、サイムは防御しながら、相手の切っ先を戦闘範囲のはるか外へ弾いた。そして三度目の反撃はあまりにも速く、今度こそ命中したことに疑いはなかった。サイムの剣は、貫いた侯爵の体重を受けて、実際にしなったのだ。
庭師が地面に鋤を突き刺したと確信するように、サイムは敵へ剣を突き刺したと確信していた。ところが侯爵はよろめきもせず一撃から跳び退き、サイムは馬鹿のように自分の剣先を見つめた。血はまったくついていなかった。
張りつめた沈黙が一瞬あり、今度はサイムが、燃え上がる好奇心に満たされて猛烈に相手へ襲いかかった。初めに見抜いたとおり、総合的には侯爵のほうが優れた剣士なのだろう。しかし今の侯爵は取り乱し、不利に陥っているようだった。荒々しく、それどころか弱々しく戦い、尖った鋼より列車を恐れているかのように、何度も線路へ目をやった。一方のサイムは、激しくはあっても慎重さを保ち、知的な憤怒に駆られて戦った。血のつかない自分の剣という謎を、どうしても解きたかった。そのため侯爵の胴よりも、喉や頭を狙った。一分半後、切っ先が顎の下から首へ入るのを感じた。だが抜いた剣はきれいなままだった。半ば狂乱し、もう一度突いた。侯爵の頬に血まみれの傷痕を残すはずの一撃だった。だが傷はなかった。
一瞬、サイムの天は再び超自然的な恐怖で暗くなった。この男は、魔力で命を守られているに違いない。しかしこの新たな霊的恐怖は、自分を追いかけた麻痺患者に象徴される、精神世界の単なる逆転よりも恐ろしかった。教授はただの小鬼だった。この男は悪魔だ――ひょっとすると〈悪魔〉そのものではないか! ともかく一つだけ確かなのは、人間の剣が三度も突き刺さりながら、何一つ痕を残さなかったことだ。その考えに至ると、サイムは背筋を伸ばした。彼の中にある善なるものすべてが、強風が木々の間で歌うように、高く空中で歌い上げた。自らの物語に現れた、人間的なものすべてを思った――サフラン・パークの中国提灯、庭にいた娘の赤い髪、波止場でビールをがぶ飲みしていた実直な船乗りたち、そばに立つ忠実な仲間たち。ひょっとすると自分は、そうした清新で親切なものすべての代表として選ばれ、全創造物の敵と剣を交えるのかもしれない。「結局」と胸中で言った。「私は悪魔以上の存在だ。私は人間だ。サタン自身にもできない唯一のことができる――死ぬことができる」その言葉が頭をよぎったとき、かすかな遠い汽笛が聞こえた。それは間もなく、パリ行き列車の轟音となるだろう。
サイムは再び戦い始めた。天国を求めて息を切らすイスラム教徒のように、超自然的な軽やかさで。列車が近づくにつれ、パリで人々が花のアーチを組み立てている光景が見える気さえした。地獄から門を守る自分も、膨れ上がる轟音と、偉大な共和国の栄光に加わった。列車の轟きとともに思考はますます高く昇り、その音は誇らしげに、長く鋭い汽笛で締めくくられた。列車が止まった。
突然、全員が仰天するなか、侯爵は剣の間合いから完全に外れるほど後方へ跳び、剣を投げ捨てた。その跳躍は驚異的だった。直前にサイムが侯爵の腿へ剣を突き刺していたことを考えれば、なおさら驚異的だった。
「止めろ!」侯爵は、一瞬誰もが従わずにいられない声で言った。「言いたいことがある。」
「どうしたのです?」デュクロワ大佐は目を見張った。「卑怯な行為でもあったのですか?」
「どこかで卑怯なことが行われています」と、少し青ざめたブル博士。「こちらの当事者は少なくとも四度、侯爵を傷つけた。それなのに侯爵は何ともない。」
侯爵は、ぞっとするほど辛抱強げな様子で片手を上げた。
「どうか話をさせてくれ」と言った。「かなり重要なことだ。サイム氏」そう続け、対戦相手へ向き直った。「記憶が正しければ、今日我々が戦っているのは、あなたが私の鼻を引っ張りたいという――私には不合理と思えた――希望を表明したからだ。そこでお願いだが、今すぐ、できる限り早く私の鼻を引っ張っていただけないだろうか? 列車に乗らねばならない。」
「断固抗議します。あまりにも規則外れだ」とブル博士は憤慨した。
「確かに前例にはいささか反する」とデュクロワ大佐は、当事者を痛ましげに眺めて言った。「記録上、一例だけはあったと思います。ベレガルド大尉とツンプト男爵の決闘で、一方の要請により途中で武器を交換した。しかし鼻を武器と呼ぶのは難しいでしょうな。」
「私の鼻を引っ張るのか、引っ張らないのか?」侯爵は業を煮やした。「さあ、早く、サイム氏! やりたかったのだろう。やれ! 私にとってどれほど重要か、あなたには想像もつかない。そう自分勝手になるな! 頼んでいるのだから、今すぐ鼻を引っ張れ!」そして魅惑的な微笑とともに、わずかに身を乗り出した。息を切らし、うめき声を上げるパリ行き列車は、隣の丘の向こうにある小さな駅へ、軋りながら入っていた。
サイムはこの冒険で幾度も味わった感覚に襲われた――恐ろしくも崇高な波が天まで盛り上がり、今まさに崩れ落ちようとしている感覚。半分しか理解できない世界を歩きながら、二歩前へ出て、この異様な貴族のローマ人めいた鼻をつかんだ。力いっぱい引っ張ると、鼻は手の中へ取れた。
サイムは厚紙の鼻を指に挟んだまま、馬鹿げた厳粛さで数秒間それを見つめた。その痴呆じみた光景を、太陽と雲と、木々に覆われた丘が見下ろしていた。
侯爵が朗らかな大声で沈黙を破った。
「私の左眉を何かに使いたい方がいれば」と言った。「差し上げますよ。デュクロワ大佐、ぜひ私の左眉をお受け取りください! いつ何時、役に立つかわかりませんからな」そして浅黒いアッシリア人めいた眉を一本、褐色の額の半分ほどと一緒に厳粛に引き剥がし、礼儀正しく大佐へ差し出した。大佐は怒りで真っ赤になり、声も出なかった。
「もし知っていたなら」と大佐は口ごもった。「体に詰め物をして戦う臆病者の介添人を務めていると知っていたなら――」
「ああ、わかっています、わかっています!」侯爵は自分のさまざまな部位を、無謀にも決闘場の左右へ放り投げながら言った。「あなたは誤解している。しかし今は説明できない。列車が駅へ入ったと言っているんだ!」
「そうとも」とブル博士は激しく言った。「そして列車は駅を出る。あなたを乗せずに出発する。どんな悪魔の仕事へ行くつもりか、我々にはよく――」
謎めいた侯爵は絶望的な仕草で両手を上げた。古い顔の半分を剥ぎ取り、その下から別の顔が半分、目を剥いてにやついている。陽光の中に立つ奇怪な案山子だった。
「私を発狂させる気か?」と叫んだ。「列車が――」
「あの列車には乗せない」とサイムは断固として言い、剣を握った。
荒々しい人影はサイムへ向き直り、口を開く前に、崇高な努力へ全身を結集しているように見えた。
「この、でかくて、太った、忌々しい、目のかすんだ、へまばかりする、騒々しい、脳なしの、神に見放された、よぼよぼの、大馬鹿野郎め!」と一息に言った。「この、でかくて間抜けな、桃色顔の、亜麻頭のカブ野郎! この――」
「あの列車には乗せない」とサイムは繰り返した。
「いったい何が悲しくて」と相手は怒鳴った。「私が列車に乗りたがると思うんだ?」
「すべてわかっている」と教授は厳しく言った。「パリへ行って爆弾を投げるつもりだ!」
「エリコへ行ってジャバウォックを投げるんだ!」相手は髪をかきむしりながら叫んだ。その髪は簡単に取れた。「私が何者なのかもわからないほど、全員そろって脳軟化症にかかったのか? 本気であの列車に乗りたいと思っていたのか? パリ行き列車など二十本通り過ぎても構わん。パリ行き列車なんぞくたばれ!」
「では何を気にしていた?」と教授が言いかけた。
「何を気にしていたかだと? 私が気にしていたのは列車に乗れるかではない。列車が私を捕まえるかどうかだ。そして今や、神に誓って、捕まってしまった!」
「残念ながら」とサイムは自制して言った。「あなたの発言は、私の頭に何の印象も伝えてこない。元の額の残骸と、かつて顎だったものの一部を取り除けば、意味がもっと明瞭になるかもしれない。精神の明晰さは、さまざまな形で完成されるものだ。列車に捕まったとはどういう意味だ? 私の文学的想像力のせいかもしれないが、なぜかその言葉には意味があるべきだと感じる。」
「あらゆる意味だ」と相手は言った。「そしてあらゆるものの終わりだ。今や我々は、日曜日の掌の上にいる。」
「我々!」教授は呆然としたように繰り返した。「『我々』とはどういう意味だ?」
「警察に決まっている!」侯爵はそう言うと、頭皮と顔の半分を引き剥がした。
中から現れた頭は、英国警察でよく見かける、金髪をきれいに撫でつけた、なめらかな髪の頭だった。しかし顔は恐ろしいほど青ざめていた。
「私はラトクリフ警部だ」と、荒々しさすれすれの性急さで言った。「私の名は警察ではかなり知られているし、君たちも警察の人間だと十分わかる。だが私の身分に少しでも疑いがあるなら、身分証がある」そう言って、ポケットから青いカードを引き出し始めた。
教授は疲れた身振りをした。
「ああ、見せなくていい」とうんざりした声で言った。「紙追い遊びの目印を全部まかなえるほど、もう持っている。」
ブルという小男には、単なる陽気な俗物に見える多くの男と同じく、突如として趣味のよい振る舞いを見せるところがあった。ここでは確かに彼が場を救った。この目も眩むような変身劇のただ中で、介添人らしい厳粛さと責任感をもって進み出て、侯爵の二人の介添人へ語りかけた。
「諸君」と言った。「我々全員、皆さんに心から謝罪しなければなりません。しかし断言します。皆さんは、想像しておられるような低俗な悪ふざけの犠牲になったのではありません。まして名誉ある男にふさわしくない何かに巻き込まれたのでもない。時間を無駄にしたのではありません。世界を救う手助けをしたのです。我々は道化ではなく、巨大な陰謀と戦う、追い詰められた男たちです。アナーキストの秘密結社が、野兎のように我々を狩っている。飢えやドイツ哲学のため、ときおり爆弾を投げるような不幸な狂人たちではない。富と権力と狂信を備えた教団、東洋的悲観主義の教団であり、人類を害虫のように滅ぼすことを神聖な使命と考えているのです。どれほど激しく狩られているかは、私が謝罪しているこのような変装や、皆さんを巻き込んだこのような奇行へ追い込まれていることから、お察しいただけるでしょう。」
侯爵の若いほうの介添人――黒い口髭を生やした小柄な男――が礼儀正しく一礼して言った――
「もちろん謝罪は受け入れます。しかし今度は、これ以上皆さんの難事へ同行することを辞退し、おはようございますと申し上げる私をお許しいただきたい! 知人であり、同じ町に住む名士が戸外でばらばらになる光景は珍しく、概して一日分として十分です。デュクロワ大佐、私は決してあなたの行動へ影響を与えるつもりはありません。しかし現在の交友関係はいささか異常だという点でご同意いただけるなら、私はこれから歩いて町へ戻ります。」
デュクロワ大佐は機械的に動きかけたが、突然白い口髭を引っ張って叫んだ――
「いや、断じて御免だ! この方々が本当に、そんな卑劣な破壊者どものせいで苦境にあるのなら、最後まで付き合う。私はフランスのために戦った。文明のために戦うことすらできないなら情けない。」
ブル博士は帽子を取り、公衆集会のように振り回して歓声を上げた。
「あまり大声を出すな」とラトクリフ警部。「日曜日に聞かれるかもしれない。」
「日曜日!」ブルは叫び、帽子を落とした。
「そうだ」とラトクリフ。「連中と一緒かもしれない。」
「誰と?」とサイム。
「あの列車から降りてきた連中だ」と相手。
「まるで荒唐無稽な話だ」とサイムは言いかけた。「だいたい――しかし、何ということだ」突然、遠くの爆発を目にした男のように叫んだ。「神よ! もし本当なら、アナーキスト評議会にいた連中は、全員そろってアナーキズムの敵だったことになる! 議長と直属の秘書以外、一人残らず刑事だった。いったいどういうことだ?」
「どういうことだと!」新たな警官は信じがたいほど激しく言った。「我々は死の一撃を受けたということだ! 日曜日を知らないのか? あの男の冗談は、いつもあまりにも大きく単純で、誰も思いつくことさえないと知らないのか? 強敵を全員最高評議会へ入れ、そのうえで最高ではないよう仕組む――これほど日曜日らしいことがあるか? あの男はすべての企業連合を買収し、すべての海底電信を押さえ、すべての鉄道路線を支配している――とりわけ、〈あの〉鉄道路線を!」そう言って、震える指で小さな途中駅を指した。「運動全体をあの男が操っていた。世界の半分が、あの男のために決起する準備を整えていた。だが、抵抗するかもしれない人間が、ほんの五人ほどいた……そこであの老悪魔は、その五人を最高評議会へ放り込み、互いの監視に時間を浪費させたのだ。我々が馬鹿だったのではない。我々の馬鹿さ加減そのものが、あいつの計画だった! 日曜日は教授がサイムをロンドン中追い回すことも、サイムがフランスで私と決闘することも知っていた。そして我々五人の馬鹿が、目隠し鬼ごっこをする忌々しい赤ん坊の群れのように互いを追い回しているあいだ、あいつは巨額の資本を結合し、主要な電信網を奪っていたのだ。」
「それで?」サイムは不思議なほど落ち着いて尋ねた。
「それで」と相手は突然穏やかになって答えた。「今日の我々が、牧歌的な美しさと極端な孤独に満ちた野原で、目隠し鬼ごっこをしているところを見つけた。おそらく、あいつはもう世界を手に入れた。残るはこの野原と、ここにいる馬鹿どもを捕まえるだけだ。そしてあの列車が到着することに私が反対した本当の理由を、どうしても知りたいのなら教えよう。たった今、日曜日か秘書が、あの列車から降りたからだ。」
サイムは思わず叫び、一同は遠い駅へ目を向けた。かなり大勢の人間が、こちらへ向かって動いているらしいことは確かだった。しかしあまりに遠く、何者なのかまるで見分けられなかった。
「亡きサン・テュスタシュ侯爵には」と新しい警官は革のケースを取り出しながら言った。「オペラグラスを常に携帯する習慣があった。議長か秘書のどちらかが、あの群衆を連れて我々を追ってくる。警察を呼んで誓いを破りたいという誘惑に駆られずに済む、静かですてきな場所へ追い詰めてくれたわけだ。ブル博士、あなたのたいそう装飾的な眼鏡より、こちらのほうがよく見えるのではないかな。」
警部は双眼鏡を博士へ渡した。博士はすぐ眼鏡を外し、双眼鏡を目へ当てた。
「あなたの言うほど悪い状況ではあるまい」と教授はやや動揺しながら言った。「確かにかなりの人数だが、ただの観光客かもしれない。」
「普通の観光客が」とブルは双眼鏡を覗いたまま尋ねた。「顔の半分、口元近くまで覆う黒い仮面をつけるか?」
サイムはその手から双眼鏡をほとんど奪い取り、覗き込んだ。迫りくる群衆の大半は、確かにごく普通の人間に見えた。しかし先頭にいる指導者らしき二、三人が、口元近くまで覆う黒い半面をつけているのも事実だった。この変装は、特にこれほど離れていればきわめて完全で、前方で話している男たちの、髭を剃った顎や下顎から何かを判断するのは不可能だった。だがやがて、話しながら全員が笑った。そのうち一人は、片側だけで笑った。
第十一章 犯罪者、警察を追う
サイムは、ほとんど凄惨なほどの安堵とともに双眼鏡を目から離した。
「ともかく、議長はいない」と言い、額を拭った。
「しかし、連中は地平線の彼方にいるではありませんか」と、困惑した大佐は目を瞬いた。ブルの性急ながら礼儀正しい説明から、まだ半分しか立ち直っていなかった。「あれだけの人間の中から、議長を見分けられるものなのですか?」
「あれだけの人間の中に白象がいれば見分けられるでしょう!」サイムはいささか苛立って答えた。「おっしゃるとおり、連中は地平線にいる。しかし議長が一緒に歩いていたら……神に誓って、この大地が揺れると思いますよ。」
一瞬の間を置き、ラトクリフと呼ばれる新参者が暗い決然とした声で言った――
「もちろん議長はいない。いてくれたほうがどれほどましか。おそらく議長は今ごろ、凱旋してパリを進んでいるか、セント・ポール大聖堂の廃墟に腰を下ろしている。」
「馬鹿げている!」とサイム。「我々がいないあいだに何か起きたかもしれない。だが、そんな勢いで世界を一気に奪えるはずがない。確かに」そう付け加え、小さな駅へ向かって延びる遠い野原を疑わしげにしかめ面で見た。「確かに、こちらへ群衆が向かっているようではある。だが、君の言うほどの大軍ではない。」
「ああ、あれか」と新しい刑事は軽蔑的に言った。「いや、大した戦力ではない。だが率直に言えば、我々の価値に合わせて、ぴったり算出された戦力だ――日曜日の宇宙では、我々など大した存在ではないのだよ。海底電信も電報も、あいつ自身がすべて押さえている。しかし最高評議会を殺すことなど、絵葉書を出すような些事と考えて、直属の秘書に任せたのだ」そう言って草へ唾を吐いた。
それからほかの者たちへ向き直り、やや厳しい口調で言った――
「死にも大いに利点はある。だが、もう一つの選択肢を好む者がいるなら、私の後ろを歩くよう強く勧める。」
そう言うと、広い背中を向け、無言の活力をみなぎらせて森へ大股で進んだ。ほかの者たちは一度だけ肩越しに振り返り、男たちの黒い雲が駅から離れ、謎めいた統制のもと平原を横切ってくるのを見た。肉眼でもすでに、先頭の顔に黒い染みが見えた。身につけた仮面だった。一同は向き直って指導者の後を追った。ラトクリフはすでに森へ入り、きらめく木々の間へ消えていた。
草に降り注ぐ日差しは乾いて暑かった。そのため森へ飛び込むと、暗い水溜まりへ身を投じる潜水夫のように、ひやりとした影の衝撃を受けた。森の中は、砕けた陽光と揺れる影で満ちていた。それらは震える帳のようになり、映画のちらつきが生む目眩を思わせた。一緒に歩く実体ある人影さえ、その上で踊る日向と日陰の模様のため、サイムにはほとんど見えなかった。あるときは男の頭だけがレンブラントの絵のような光に照らされ、ほかの部分はすべて消えた。次の瞬間には、黒人の顔に、白く強烈な両手だけが浮かんだ。元侯爵は古い麦わら帽子を目深にかぶっていた。つばの黒い影が顔をまっすぐ二分し、追っ手たちと同じ黒い半面をつけているように見えた。その幻想はサイムを圧倒する驚異の感覚に、さらに色を添えた。この男は仮面をつけているのか? そもそも誰かが仮面をつけているのか? 誰かは、何者かでありうるのか? 男たちの顔が白と黒へ交互に変わり、人影がまず陽光の中で膨れ上がってから、形なき夜へ溶けていくこの魔法の森。この明暗だけの混沌は――外の明瞭な昼光の後では――サイムが三日間歩き回ってきた世界を完全に象徴しているように思えた。男たちが髭や眼鏡や鼻を外し、別人へ変わる世界。侯爵を悪魔だと信じていたときに感じた、悲劇的な自信は、侯爵が味方だと知った今、奇妙にも消え去っていた。これほど混乱させられた末では、そもそも味方とは何か、敵とは何かと問いたい気分だった。見かけと異なるものなど、何かあるのか? 侯爵は鼻を外し、刑事になった。同じように頭を外し、化け物になったとしてもおかしくないのではないか? 結局、あらゆるものは、この惑わせる森、この闇と光の踊りに似ているのではないか? すべてはただの一瞥。その一瞥は常に予想外で、常に忘れ去られる。ガブリエル・サイムは、陽光の斑点が散る森の奥で、多くの近代画家が見つけたものを発見していた。現代人が印象主義と呼ぶもの。それは宇宙のどこにも床を見いだせない、究極の懐疑主義の別名だった。
悪夢の中の男が、叫んで目を覚まそうと必死になるように、サイムは突然力を振り絞り、この最後にして最悪の幻想を振り払おうとした。苛立たしげな大股の二歩で、侯爵の麦わら帽子をかぶった男――今やラトクリフと呼びかけるようになった男――へ追いついた。わざとらしいほど明るい大声で、底なしの沈黙を破り、会話を始めた。
「お尋ねしてもよければ」と言った。「我々はいったい、世界のどこへ向かっているんだ?」
魂に生じた疑念があまりにも本物だったため、仲間が気取らない人間らしい声で答えるのを聞き、心からうれしく思った。
「ランシーの町を抜け、海へ下りなければならない」とラトクリフ。「あの地方は、連中の側についている可能性がいちばん低いと思う。」
「さっきから、いったい何を言っている?」サイムは叫んだ。「現実の世界を、そんなふうに支配できるはずがない。労働者の多くがアナーキストだとは思えないし、仮にそうでも、ただの暴徒が近代的な軍隊や警察に勝てるはずがない。」
「ただの暴徒だと!」新たな友人は軽蔑的に鼻を鳴らした。「暴徒や労働者階級こそ問題だというような口ぶりだな。アナーキズムが到来するなら貧者から来るという、永遠に愚劣な考えを持っている。なぜそうなる? 貧者は反逆者だったが、アナーキストだったことはない。まともな政府が存在することに、誰よりも大きな利害を持っている。貧しい者は、本当の意味で国に財産を持っている。金持ちは持っていない。ヨットでニューギニアへ逃げればいいからだ。貧者は、ときとして統治の仕方が悪いことに反対した。金持ちは常に、統治されること自体に反対してきた。貴族はいつでもアナーキストだった。諸侯の戦争を見ればわかる。」
「子供向け英国史の講義としては」とサイム。「なかなか結構だ。しかし、それが今の状況にどう当てはまるのか、まだ理解できない。」
「つまり」と情報提供者は言った。「日曜日爺さんの腹心の大半は、南アフリカとアメリカの百万長者なのだ。だから通信網をすべて掌握できた。そして反アナーキスト警察の最後の四人の闘士が、兎のように森を駆け抜ける羽目になっている。」
「百万長者なら理解できる」とサイムは考え深げに言った。「ほとんど全員が狂っているからな。だが、趣味に凝った邪悪な老紳士を数人抱き込むことと、キリスト教徒の大国を抱き込むことは別だ。日曜日がどこにでもいる、普通の健全な人間を改宗させようとしたなら、完全に手も足も出ないほうへ、顔から鼻がもげても賭けていい――比喩については失礼。」
「まあ」と相手は言った。「どういう人間を指すかによる。」
「たとえば」とサイム。「あの人間を改宗させることは絶対にできない」そう言って真正面を指差した。
一同は陽光に満ちた開けた場所へ出た。サイムには、そこが自らの正気へ最終的に帰還したことを表しているように思えた。そして森の空き地の中央には、その常識を、ほとんど恐ろしいほどの現実性をもって体現するような人影がいた。日に焼け、汗で汚れ、小さいが必要不可欠な労働の底知れぬ重さを顔に刻んだ、がっしりしたフランス人農夫が、手斧で木を切っていた。数ヤード(数メートル)先には荷車があり、すでに材木が半分ほど積まれていた。草を食む馬は主人と同じく勇敢だったが、自暴自棄ではなかった。主人と同じく裕福でさえあったが、それでもどこか悲しげだった。男はノルマン人で、平均的なフランス人より背が高く、ひどく角張っていた。その浅黒い人影は、四角く差し込む日光を背に暗く立ち、金地に描かれた労働の寓意画のようだった。
「サイム氏が言っている」とラトクリフはフランス人大佐へ声をかけた。「少なくともこの男は、決してアナーキストにならないそうだ。」
「その点ではサイム氏が正しい」とデュクロワ大佐は笑って答えた。「守るべき財産をたくさん持っているというだけでもね。しかし忘れていた。あなた方の国では、農民が裕福であることに慣れていないのでしたな。」
「貧しそうに見えるが」とブル博士は疑わしげに言った。
「そのとおり」と大佐。「だからこそ金持ちなのだ。」
「思いついたぞ」とブル博士が突然叫んだ。「いくら払えば、荷車に乗せてくれるだろう? あの犬どもは全員徒歩だ。すぐ引き離せる。」
「ああ、いくらでもやればいい!」サイムは勢い込んだ。「金なら山ほど持っている。」
「それはいけない」と大佐。「値段を交渉しなければ、君たちを決して尊敬しない。」
「値切ろうとするなら!」ブルは苛立たしげに言いかけた。
「値切るのは、自由人だからだ」と大佐。「君にはわかっていない。気前よくされても、意味を理解しない。彼は心づけをもらう立場ではないのだ。」
奇妙な追っ手たちの重い足音が背後から聞こえる気がしているのに、一同はその場でじれったく足を踏み鳴らしながら待たねばならなかった。その間、フランス人大佐とフランス人の木こりは、市の日さながらの悠長な冗談と値段交渉を交わしていた。しかし四分が過ぎるころには、大佐が正しかったとわかった。木こりは、過分な金をもらった客引きの曖昧な卑屈さではなく、正当な報酬を受け取った弁護士の真剣さで、一同の計画へ加わった。最善の策は、ランシーを見下ろす丘にある小さな宿へ向かうことだと教えた。宿の主人は元軍人で、晩年には敬虔な信徒となっており、必ず同情し、支援のためなら危険さえ冒してくれるという。そこで全員が積み上げられた材木の上へ乗り込み、粗末な荷車に揺られながら、森の反対側にある、より急な斜面を下っていった。重く、がたの来た乗り物だったが、十分な速さで走った。自分たちを追う者が何者にせよ、完全に引き離しつつあるという爽快な感覚を、すぐに味わった。そもそもアナーキストたちが、これほど多くの追随者をどこで手に入れたのかという謎は、依然として解けていなかった。あの一人がいるというだけで十分だった。秘書の歪んだ笑みを一目見ただけで、彼らは逃げ出したのだ。サイムはときおり肩越しに振り返り、追跡してくる軍勢を見た。
森がまず疎らになり、それから距離とともに小さくなるにつれ、その向こう、さらに上にある陽光に照らされた斜面が見えた。その斜面を、四角い黒い群衆が、一匹の巨大な甲虫のように今も動いていた。非常に強い日差しと、望遠鏡のように鋭い自分の目のおかげで、サイムはこの人間の集団をはっきり見ることができた。一人一人の人影まで見えた。しかし一人の人間のように動くさまに、ますます驚かされた。街頭のありふれた群衆のように、暗色の服と地味な帽子を身につけているらしかった。しかし普通の暴徒なら当然そうするように、散らばり、広がり、さまざまな経路をばらばらに辿って襲ってくるのではなかった。恐ろしく邪悪な、木製の硬さをもって進んでいた。目を見開いた自動人形の軍隊のように。
サイムはその点をラトクリフへ指摘した。
「そうだ」と警官は答えた。「あれが規律だ。日曜日の力だ。本人は五百マイル(約八百キロメートル)離れたところにいるかもしれないが、あいつへの恐怖が神の指のように全員へ置かれている。そうだ、規則正しく歩いている。そしてきっと規則正しく話し、規則正しく考えている。だが我々にとって重要なのはただ一つ。連中が規則正しく消えつつあるということだ。」
サイムはうなずいた。農夫が馬を鞭打つにつれ、追っ手たちの黒い染みが、どんどん小さくなっているのは事実だった。
陽光の満ちる風景は、全体としては平坦だったが、森の向こう側では、重い波のような斜面が海へ向かって落ち込んでいた。その様子はサセックス丘陵の裾野とどこか似ていた。唯一の違いは、サセックスなら道は小川のように折れ曲がり、角張っていたはずだが、ここではフランスの白い道が、滝のように真正面へ落ちていることだった。荷車はかなり傾きながら、この一直線の下り坂をがらがらと走った。数分後、道がさらに急になると、眼下にランシーの小さな港と、海の巨大な青い弧が見えた。旅する敵の雲は、地平線から完全に姿を消していた。
馬と荷車がニレの木立を回って急旋回すると、馬の鼻先が「ル・ソレイユ・ドール」亭という小さなカフェの外、そのベンチに座っていた老紳士の顔へぶつかりかけた。
農夫はぶっきらぼうに謝り、御者台から降りた。ほかの者たちも一人ずつ降り、途切れ途切れの礼儀正しい言葉を老紳士へかけた。その鷹揚な態度から、小さな酒場の主人であることは明白だった。
白髪で、林檎のような顔をした老人だった。眠たげな目と灰色の口髭を持ち、太っていて、座って暮らすことを好み、ひどく無邪気だった。フランスでよく見かけるが、カトリック圏のドイツではさらによく見かける型の人物だ。パイプも、ビールのジョッキも、花も、蜂の巣箱も、老人を取り巻くすべてが、代々受け継がれた平和を思わせた。ただし客たちが酒場の居間へ入り、ふと見上げると、壁には剣が掛かっていた。
大佐は旧友として宿の主人へ挨拶し、足早に酒場の居間へ入ると、儀礼的な飲み物を注文しながら腰を下ろした。その行動に現れた軍人らしい決断力がサイムの興味を引いた。隣へ座り、老主人が外へ出た隙に、好奇心を満たそうとした。
「大佐、お尋ねしてもよければ」と低い声で言った。「なぜここへ来たのです?」
デュクロワ大佐は、剛毛のような白い口髭の奥で微笑んだ。
「理由は二つあります」と言った。「まずは、重要性では劣るが、実用性では勝るほうから話しましょう。我々がここへ来たのは、二十マイル(約三十二キロメートル)以内で馬を手に入れられる唯一の場所だからです。」
「馬!」サイムはさっと顔を上げた。
「そうです」と大佐。「あなた方が本当に敵を引き離したいなら、馬を使うしかない。もちろんポケットに自転車や自動車が入っているなら別ですが。」
「どこを目指すよう勧めます?」サイムは疑わしげに尋ねた。
「疑問の余地はありません」と大佐。「町の向こうにある警察署へ、全速力で向かうべきです。多少人を欺くような事情のもと、私が介添人を務めた友人は、全般的蜂起の可能性を大幅に誇張しているように思えます。しかし彼といえども、国家憲兵隊と一緒なら安全ではないとは、まさか主張しないでしょう。」
サイムは重々しくうなずいた。それから不意に言った――
「では、ここへ来たもう一つの理由は?」
「もう一つの理由は」とデュクロワは厳粛に言った。「死が近いかもしれないときには、善良な人間を一人か二人見ておくのもよいからです。」
サイムは壁を見上げ、粗末な筆致ながら哀感のある宗教画を見た。それから言った――
「おっしゃるとおりです」そしてほとんど間を置かず、「誰か、馬の手配はしましたか?」
「ええ」とデュクロワ。「入った瞬間に指示したことは間違いありません。あなた方の敵には急いでいるような印象がなかった。しかし実際には、よく訓練された軍隊のように驚くほど速く動いていた。アナーキストにこれほどの規律があるとは思いませんでした。一刻も無駄にはできません。」
そう言い終えるか終えないかのうちに、青い目と白髪の老主人がのんびりと部屋へ入ってきて、外で六頭の馬に鞍を置いたと告げた。
デュクロワの助言に従い、ほかの五人は携帯できる食料とワインをいくらか用意し、手に入る唯一の武器として決闘用の剣を持った。そして蹄の音を鳴らしながら、急勾配の白い道を下っていった。侯爵が侯爵だったころに荷物を運んでいた二人の召使いは、全員の合意により、カフェで酒を飲むため置いていかれた。召使いたち自身にも、まったく異存はなかった。
このころには午後の太陽が西へ傾いていた。その光の中、サイムには老主人の頑丈な姿がどんどん小さくなっていくのが見えた。それでも老人は立ったまま、銀色の髪を日差しに輝かせ、無言で一行を見送っていた。大佐がたまたま口にした言葉のせいで、サイムの頭には固定観念めいた迷信的な予感が残っていた。ひょっとすると、この老人こそ、地上で目にする最後の誠実な他人なのではないか。
サイムはまだ、その小さくなっていく人影を見つめていた。背後にそびえる急斜面の巨大な緑の壁を背景に、白い炎に触れられた灰色の染みのように立っていた。そして宿の主人の後ろ、丘の頂を見つめていると、黒服の男たちからなる行軍中の軍勢が姿を現した。善良な老人とその家の上に、飛蝗の黒雲のように垂れ込めている。馬に鞍を置いたのは、少しも早すぎなかった。
第十二章 無政府状態に陥った大地
かなり険しい下り坂にもかまわず馬を疾駆させた一行は、ほどなく徒歩で進む男たちを再び大きく引き離し、ついにはランシーの最初の建物群が追手の姿を視界から遮った。とはいえ、長い騎行だった。町の中心部に着くころには、西の空が夕焼けの色と気配に染まり始めていた。警察署へ直行する前に、道すがら役に立ちそうな者をもう一人、仲間に加えてはどうかと大佐が提案した。
「この町の金持ち五人のうち、四人はありふれた詐欺師だ」と大佐は言った。「世界中どこでも、割合は似たようなものだろう。残る一人は私の友人で、実に立派な男だ。しかも我々にとってさらに重要なことに、自動車を持っている。」
「残念ながら」と教授は陽気な調子で言い、いつ黒い這うような一団が現れてもおかしくない白い街道を振り返った。「午後のご挨拶に伺う時間はなさそうですな。」
「ルナール博士の家なら、ここから三分もかからない」と大佐は言った。
「危険は」とブル博士が言った。「二分もかからないところまで来ています。」
「そうだ」とサイムは言った。「このまま速く走れば、連中は徒歩なのだから振り切れる。」
「彼は自動車を持っている」と大佐は繰り返した。
「だが借りられるとは限らない」とブル。
「いや、彼は完全に君たちの味方だ。」
「留守かもしれない。」
「黙れ」とサイムが突然言った。「あの音は何だ?」
一秒間、全員が騎馬像さながらに身じろぎもせず、さらに一秒――二秒、三秒、四秒――天も地も等しく静まり返ったかに思えた。やがて一同の耳は、極度に研ぎ澄まされた注意のなか、街道の彼方から響く、言葉では言い表せない震えと鼓動を捉えた。それが意味するものは、ただ一つ――馬だ!
大佐の顔が一瞬で変わった。雷に打たれ、それでも傷一つ負わなかったかのようだった。
「やられたな」と大佐は軍人らしい簡潔な皮肉を込めて言った。「騎兵を迎え撃つ用意をしろ!」
「どこで馬を手に入れたんだ?」とサイムは尋ね、機械的に自分の馬を駆け足へ移らせた。
大佐はしばらく黙ったのち、張りつめた声で言った――
「二十マイル(約三十二キロメートル)以内で馬を手に入れられる場所は『ソレイユ・ドール』だけだと、私は厳密な意味で言ったのだ。」
「まさか!」とサイムは激しく叫んだ。「あの人がそんなことをするものか。あの白髪の老人が。」
「無理強いされたのかもしれない」と大佐は静かに言った。「連中は少なくとも百人はいる。だからこそ我々は全員、これから自動車を持つ友人ルナールを訪ねるのだ。」
そう言うなり、大佐は突然馬を街角へ向け、轟くような速さで通りを駆け下った。ほかの者たちもすでに全速力に近かったが、宙を飛ぶような馬の尾を追うのに苦労した。
ルナール博士は、急な坂道の頂上に立つ、背の高い快適な邸宅に住んでいた。そのため一行が玄関先で馬を下りると、町のすべての屋根の上にそびえる、緑一色の丘の稜線と、そこを横切る白い街道とが再び見えた。街道にはまだ何の影もない。それを見て一同は安堵の息をつき、呼び鈴を鳴らした。
ルナール博士は、晴れやかな顔に褐色の髭を蓄えた男だった。寡黙ながらきわめて勤勉な専門職階級――イギリス以上にフランスで完全な形を保っている階級――の好例である。事情を説明されると、博士は元侯爵の狼狽をまるで相手にせず、フランス人らしい堅実な懐疑精神をもって、アナーキストの全面蜂起など到底あり得ないと言った。「アナーキーなど」と肩をすくめ、「子供じみた戯れだ!」
「Et ça――では、あれは?」と大佐が突然叫び、博士の肩越しに指をさした。「あれも子供じみた戯れかね?」
全員が振り返ると、丘の頂から黒い騎兵の弧が、アッティラの軍勢さながらの勢いで押し寄せてくるのが見えた。疾走しているにもかかわらず隊列は乱れず、先頭列の黒い面頬は、制服の線のように水平に揃っていた。しかし、黒い方陣そのものは同じでも、速度を増した今、傾斜した地図のような丘の斜面に、以前とは異なる衝撃的な一点がはっきり見えた。騎手の大半は一団となっていたが、一人だけが隊列をはるかに先行し、手と踵を狂乱のように動かして馬をますます急がせている。追う者ではなく、追われる者かと見まがうほどだった。だが、これほど遠くからでも、その姿には狂信的で疑いようのない何かがあり、一同はそれが秘書本人だと悟った。「教養ある議論を打ち切るのは残念だが」と大佐は言った。「二分以内に、君の自動車を貸してもらえるかね?」
「諸君は全員、気が触れているのではないかという気がする」とルナール博士は人好きのする笑みを浮かべた。「だが狂気ごときに友情を妨げさせてなるものか。車庫へ回ろう。」
ルナール博士は温厚な男で、途方もない富を持っていた。部屋はクリュニー美術館さながらで、自動車も三台所有していた。もっとも、フランス中産階級らしい質素な趣味の持ち主だったので、車はめったに使っていないようだった。焦りに焦った友人たちが調べてみると、三台のうち一台でも動かせると確信するまで、かなり時間がかかった。ようやく苦労して一台を博士邸前の通りへ引き出した。薄暗い車庫から出てみると、熱帯の夜さながらの唐突さで、すでに黄昏が降りていたので一同は驚いた。思っていた以上に長く車庫にいたのか、それとも異様な雲の天蓋が町の上に集まったのか。急な通りを見下ろすと、海から薄い霧が這い上がってくるように見えた。
「今しかない」とブル博士が言った。「馬の音がする。」
「いや」と教授が訂正した。「馬が一頭だ。」
耳を澄ますと、石畳を鳴らして急速に近づくその音は、騎馬隊全体のものではないと分かった。隊列をはるか後方に置き去りにした、ただ一人の騎手――狂気の秘書の馬だ。
サイムの家族は、質素な暮らしに行き着く人々の多くがそうであるように、かつて自動車を所有しており、サイムは車の扱いを一通り心得ていた。すでに運転席へ飛び乗り、顔を紅潮させ、長く使われていなかった機械を捻ったり引いたりしていた。一本のハンドルに全力をかけたのち、まったく静かな声で言った――
「駄目らしい。」
その言葉と同時に、一人の男が街角を曲がって突進してきた。疾駆する馬上で矢のように硬直し、その速さも硬さもまさしく一本の矢だった。顎が外れたように突き出る笑みを浮かべ、仲間たちが詰め込まれた停止中の車の横へ馬を寄せると、車の前部に手をかけた。秘書だった。その口は勝利の厳粛さに、真一文字に結ばれていた。
サイムはハンドルに全体重をかけていた。聞こえるのは、残る追手が町へなだれ込む轟きだけだった。そのとき不意に、鉄を引き裂くような絶叫が響き、車が前へ跳んだ。秘書は鞘から一気に抜かれるナイフさながら、鞍からきれいに引き抜かれた。凄まじく足をばたつかせながら二十ヤード(約十八メートル)も引きずられ、怯えた馬よりはるか前方の路上へ平たく投げ出された。車が見事な曲線を描いて街角を曲がるとき、ほかのアナーキストたちが通りを埋め、倒れた指導者を抱き起こすのが辛うじて見えた。
「なぜこんなに暗くなったのか、どうにも分からん」と、やがて教授が低い声で言った。
「嵐になるんだろう」とブル博士。「せめて前を見るためにも、この車に明かりがあればよかったんだが。」
「あるぞ」と大佐は言い、車の床から、明かりの入った重く古風な彫鉄のランタンを拾い上げた。明らかに骨董品であり、もともとは何らかの半宗教的な用途に使われていたらしい。側面の一つには、粗削りな十字架の浮彫があった。
「いったいどこで手に入れたんです?」と教授が尋ねた。
「車と同じところだ」と大佐は含み笑いをした。「私の親友からだ。こちらの友人がハンドルと格闘しているあいだに、私は玄関階段を駆け上がり、ポーチに立っていたルナールと話した。覚えているだろう。『ランプを用意する時間はないだろうな』と私が言うと、彼は自邸の玄関ホールにある美しいアーチ天井を、人のよい顔で瞬きながら見上げた。そこから精巧な鉄細工の鎖で吊られていたのが、このランタンだ。彼の宝物庫にある百の至宝の一つだった。ところが彼は力任せにそれを天井から引き剥がし、彩色板を砕き、その勢いで青い花瓶を二つも落とした。それから鉄のランタンを私に渡し、私は車に積み込んだ。ルナール博士は知り合っておく価値のある男だと言った私の言葉に、間違いはなかっただろう?」
「そのとおりだ」とサイムは真顔で答え、重いランタンを車の前部に吊るした。近代的な自動車と、奇妙な教会風のランプとの対照には、一行の置かれた状況全体を象徴する何かがあった。これまで彼らは町の最も静かな一角を通り、出会ったのはせいぜい一人か二人の歩行者だけで、この町が平和なのか敵対的なのかを知る手がかりは得られなかった。だが今や、家々の窓に一つ、また一つと明かりが灯り、暮らしと人間の存在がいっそう強く感じられるようになった。ブル博士は逃走を先導した新たな刑事へ向き直り、持ち前の親しみ深い笑みを見せた。
「この明かりを見ると、少し気が楽になるな。」
ラトクリフ警部は眉を寄せた。
「私を安心させる明かりは、一組しかない」と彼は言った。「町の向こうに見える警察署の明かりだ。神のご加護があれば、十分後には着けるだろう。」
そのとき、ブルの煮え立つような良識と楽天性が、一気に噴き出した。
「ああ、何もかも狂人のたわ言だ!」と彼は叫んだ。「普通の家に住む普通の人々までアナーキストだと本気で思っているなら、あんたはアナーキスト以上の狂人だ。引き返して連中と戦えば、町中が我々に味方して戦ってくれる。」
「いや」と相手は揺るぎない単純さで言った。「町中が連中の味方をする。じき分かる。」
二人が話しているあいだ、教授は突然興奮して身を乗り出していた。
「あの音は何だ?」と教授は言った。
「後ろの馬だろう」と大佐。「もう振り切ったと思ったが。」
「後ろの馬だって! 違う」と教授は言った。「馬ではないし、後ろでもない。」
教授が言い終わるか終わらないかのうちに、前方の通りの突き当たりを、光りながらがたがた鳴る二つの影が横切った。一瞬で消えたが、誰の目にも自動車だとはっきり分かった。教授は青ざめて立ち上がり、あれはルナール博士の車庫にあった残り二台の車だと断言した。
「間違いなく博士の車だった」と教授は目を血走らせて繰り返した。「しかも仮面の男たちで満員だった!」
「馬鹿な!」と大佐が怒った。「ルナール博士が連中に車を渡すものか。」
「無理強いされたのかもしれない」とラトクリフは静かに言った。「町中が連中の側なのだ。」
「まだそんなことを信じているのか?」と大佐は信じられない様子で尋ねた。
「じきに全員が信じる」と相手は絶望的な落ち着きで答えた。
困惑した沈黙がしばらく続き、やがて大佐が唐突に話を再開した――
「いや、信じられん。まるででたらめだ。平和なフランスの町に暮らす、ごく普通の人々が――」
その言葉は、目のすぐ前と思えるほど近くで炸裂した轟音と閃光に断ち切られた。車が走り去ったあとには白煙がひと塊、宙に漂い、サイムの耳元を銃弾が唸って通り過ぎた。
「何ということだ!」と大佐。「誰かが我々を撃ったぞ。」
「会話を中断するほどのことではない」と陰気なラトクリフが言った。「どうぞ話をお続けください、大佐。たしか、平和なフランスの町に暮らす普通の人々について話しておられた。」
目を見開いた大佐には、もはや皮肉を気にする余裕などなかった。通りの四方へせわしなく目を走らせた。
「異常だ」と大佐は言った。「あまりにも異常だ。」
「好みのうるさい者なら」とサイムが言った。「不愉快とさえ呼ぶかもしれない。ともあれ、この通りの先、野原に見える明かりが憲兵隊だろう。もうすぐ着く。」
「いや」とラトクリフ警部。「我々は永遠に着かない。」
彼は立ち上がり、鋭く前方を見据えていた。今は腰を下ろし、疲れた仕草で滑らかな髪を撫でつけた。
「どういう意味だ?」とブルが鋭く尋ねた。
「永遠に着かないという意味だ」と悲観論者は穏やかに答えた。「武装した男たちが、すでに二列になって道を塞いでいる。ここからでも見える。私が言ったとおり、町は武装蜂起したのだ。自分の正確さがもたらす、この上なく甘美な慰めに浸るほかない。」
そう言ってラトクリフは車内にゆったり腰を下ろし、煙草に火をつけた。だがほかの者たちは興奮して立ち上がり、道の先を見つめた。計画が怪しくなるにつれサイムは車の速度を落とし、ついには海へ向かって急降下する脇道の角で停車させた。
町の大半は影に沈んでいたが、太陽はまだ沈み切っていなかった。水平に射す光が入り込める場所では、すべてが燃えるような黄金色に塗られていた。この脇道には、夕日の最後の光が、劇場の人工照明のように鋭く細く差し込んでいた。それは五人の友人を乗せた車を捉え、燃える戦車のように照らし出した。だが通りのほかの部分、とりわけ両端は深い黄昏に沈み、数秒のあいだ何も見えなかった。やがて最も目の利くサイムが、小さく苦々しい口笛を吹いて言った。
「本当だ。あの通りの端を、群衆だか軍隊だか、そんなものが塞いでいる。」
「だとしても」とブルは苛立たしげに言った。「何か別のものに決まっている。模擬戦か、市長の誕生日か、そんなところだ。このような場所に住む普通の陽気な人々が、ポケットにダイナマイトを入れて歩き回るなど、信じられんし信じるつもりもない。サイム、もう少し進め。連中を見てみよう。」
車はさらに百ヤード(約九十一メートル)ほどのろのろ進んだ。すると突然、ブル博士が甲高い哄笑を上げ、一同はぎょっとした。
「何だ、この大間抜けども!」とブルは叫んだ。「俺が何と言った? あの群衆は牛みたいに従順だ。そうでないとしても、我々の味方だ。」
「なぜ分かる?」と教授は目を凝らした。
「この節穴め」とブルは叫んだ。「先頭にいるのが誰か見えないのか?」
全員がもう一度目を凝らした。すると大佐が声を詰まらせて叫んだ――
「ルナールじゃないか!」
たしかに、ぼんやりした人影が一列になって道を横切っており、姿ははっきり見えなかった。だが一団より十分前に出て、偶然夕日の光を浴びながら行ったり来たりしているのは、紛れもなくルナール博士だった。白い帽子をかぶり、長い褐色の髭を撫で、左手には拳銃を握っていた。
「私はなんという馬鹿だ!」と大佐は叫んだ。「もちろん、あの愛すべき男は我々を助けに出てきてくれたのだ。」
ブル博士は笑いをこらえきれず、手の剣を杖のように無造作に振り回していた。車から飛び降り、両者の間を走って横切りながら叫んだ――
「ルナール博士! ルナール博士!」
次の瞬間、サイムは自分の目が頭の中で狂ったのだと思った。博愛の人ルナール博士が、わざわざ拳銃を持ち上げ、ブルに二発撃ったからだ。銃声が通りじゅうに響き渡った。
この凶悪な発砲から白煙が一筋立ち上るのとほぼ同時に、冷笑家ラトクリフの煙草からも長い白煙が立ち上った。ほかの者同様、彼もわずかに青ざめたが、笑みを浮かべていた。銃弾に頭皮すれすれをかすめられたブル博士は、恐怖の気配すら見せず、道の真ん中に立ち尽くしていた。やがてごくゆっくり振り返り、這うように車へ戻ると、穴が二つ開いた帽子のまま乗り込んだ。
「さて」と煙草を吸う男がゆっくり言った。「今はどう思う?」
「思うに」とブル博士は正確に答えた。「私はピーボディ・ビルディング二一七号室のベッドに寝ていて、もうすぐ飛び起きるのだろう。でなければ、ハンウェルの小さな壁張りの独房に座っていて、医者も私の症例を持て余しているのだ。だが、私が何を思っていないか知りたいなら教えよう。私はあんたのようには思わない。普通の人々の大多数が、薄汚い現代思想家の一群だなどとは思わないし、これからも絶対に思わない。いいか、私は民主主義者だ。日曜日が平均的な土方や店員を一人でも改宗させられるとは、今も信じていない。そうだ、私が狂っているのかもしれない。だが人類は狂っていない。」
サイムは普段めったに表に出さない真摯さを、鮮やかな青い目に宿してブルを見た。
「君は実に立派な男だ」と言った。「自分の正気だけではない正気を信じられる。そして人類については君が正しい。農民や、あの陽気な老宿屋主人のような人々については。だがルナールについては間違っている。私は初めから疑っていた。あの男は合理主義者で、そのうえ悪いことに金持ちだ。義務と宗教が本当に破壊されるとき、それを行うのは金持ちだろう。」
「もう本当に破壊されている」と煙草をくわえた男は言い、両手をポケットに入れて立ち上がった。「悪魔どもが来るぞ!」
車内の男たちは、彼の夢見るような視線の先を不安げに見た。すると道の端にいた隊列全体がこちらへ進軍してくるのが見えた。先頭ではルナール博士が、髭を風になびかせながら猛烈な勢いで進んでいた。
大佐は我慢ならぬとばかりに叫んで車を飛び降りた。
「諸君」と大佐は叫んだ。「こんなことは信じられん。悪ふざけに違いない。私ほどルナールを知っていれば――ヴィクトリア女王を爆弾魔と呼ぶようなものだ。あの男の人格を理解していれば――」
「ブル博士は」とサイムが皮肉に言った。「少なくとも、その人格を帽子に叩き込まれましたな。」
「あり得んと言っているのだ!」と大佐は地団駄を踏んだ。
「ルナールに説明させる。私に説明させてやる」と言い、ずかずか前へ進んだ。
「そう急ぐな」と煙草の男は間延びした声で言った。「じきに我々全員へ説明してくれる。」
だが性急な大佐はすでに声の届かぬところまで進み、前進してくる敵へ向かっていた。興奮したルナール博士は再び拳銃を上げたが、相手が誰か分かるとためらった。大佐は必死の身振りで抗議しながら、博士と正面から向かい合った。
「無駄だ」とサイムは言った。「あの年老いた異教徒からは何も聞き出せない。私は、ブルの帽子を弾丸が一直線に貫いたように、連中の真ん中を車で突っ切ることを提案する。全員死ぬかもしれないが、連中も相当数道連れにしなければならん。」
「そいつは駄目だ」とブル博士は言った。誠実な美徳に突き動かされるほど、その口調は庶民的になった。「気の毒な連中は勘違いしてるのかもしれねえ。大佐に機会をやろう。」
「では引き返すかね?」と教授が尋ねた。
「いや」とラトクリフは冷たい声で言った。「後ろの通りも押さえられている。実を言えば、あちらにも君の友人が一人見えるようだぞ、サイム。」
サイムは素早く振り返り、自分たちが通ってきた道を見つめた。暗がりの中、不揃いな騎馬の一団が集結し、こちらへ疾駆してくるのが見えた。先頭の鞍の上で剣が銀色に閃き、近づくにつれて、老いた男の髪も銀色に光った。次の瞬間、サイムは何もかも粉砕するような勢いで車を反転させ、ただ死ぬことだけを望む男のように、海へ下る急な脇道を突進した。
「いったい何が起きた?」と教授が叫び、サイムの腕を掴んだ。
「明けの明星が堕ちた!」とサイムは言った。その車は流れ星のように闇を駆け下りていった。
ほかの者にはその言葉の意味が分からなかった。だが上の通りを振り返ると、敵の騎兵が街角を曲がり、坂を駆け下りてくるのが見えた。その先頭を走るのは、人のよい宿屋主人だった。夕日の燃えるように無垢な光を顔いっぱいに浴びていた。
「世界が狂った!」と教授は言い、両手で顔を覆った。
「違う」とブル博士は金剛石のように揺るぎない謙虚さで言った。「狂ったのは私だ。」
「どうする?」と教授が尋ねた。
「現時点では」とサイムは科学者のように冷静に答えた。「街灯柱に激突することになりそうだ。」
次の瞬間、自動車は破局的な衝撃とともに鉄製の物体へ突っ込んだ。そのまた次の瞬間には、四人の男が金属の混沌の下から這い出していた。海岸遊歩道の端に真っすぐ立っていた、背の高い細身の街灯柱は、折れた木の枝のように曲がり、捻れていた。
「まあ、何かは壊した」と教授はかすかに笑った。「少しは慰めになる。」
「あなたもアナーキストになりつつあるな」とサイムは言い、洒落者の本能で服の埃を払った。
「誰もがそうだ」とラトクリフは言った。
そう話しているうちに、白髪の騎手とその一団が上から轟音を立てて駆け下りてきた。ほぼ同時に、黒々と連なる男たちが叫びながら海岸沿いを走ってきた。サイムは剣を一本掴んで歯にくわえ、さらに二本を両脇に挟み、四本目を左手に、ランタンを右手に持つと、高い遊歩道から下の浜辺へ飛び降りた。
ほかの者たちも、その断固たる行動を当然のように受け入れてあとに続き、上には残骸と集まりつつある群衆とを残した。
「まだ一度だけ機会がある」とサイムは口から剣を外して言った。「この大混乱が何を意味するにせよ、警察署なら我々を助けるはずだ。だが道を押さえられているから、そこへは行けない。しかし、このすぐ先には海へ突き出した桟橋か防波堤がある。ホラティウスが橋を守ったように、あそこならどこより長く防衛できる。憲兵隊が出動するまで持ちこたえるのだ。ついてこい。」
一同は、ざくざくと浜を進むサイムに続いた。一、二秒もすると、靴の下で砕けるものは浜の砂利ではなく、幅広く平らな石に変わった。薄暗く沸き立つ海へ一本の腕のように突き出た、長く低い突堤を進み、その先端に達したとき、自分たちの物語の果てへ来たように感じた。彼らは振り返り、町と向き合った。
町は騒乱の中で変貌していた。たった今飛び降りてきた高い遊歩道の全域を、黒く轟く人間の奔流が埋め尽くしていた。腕が波打ち、顔が燃え、こちらを求めて手を伸ばし、睨みつけている。長い黒い列のところどころには松明やランタンが灯っていた。だが炎に照らされていない憤怒の顔にも、最も遠い人影にも、最も影に沈んだ身振りにも、組織だった憎悪が見て取れた。彼らが万人から呪われているのは明らかだった。だが、なぜなのかは分からなかった。
猿のように小さく黒く見える二、三人の男が、彼らと同じように縁を飛び越え、浜へ下りた。深い砂を掻き分け、恐ろしい叫びを上げながら進み、無闇に海へ入ろうとした。ほかの者もそれに倣い、男たちの黒い大群全体が、黒蜜のように縁から流れ落ち始めた。
浜辺にいる男たちの先頭に、サイムは自分たちの荷馬車を御していた農夫を見つけた。農夫は巨大な荷馬車馬にまたがって波打ち際へ入り、こちらへ斧を振り回した。
「農民まで!」とサイムは叫んだ。「中世以来、蜂起などしていなかったのに。」
「たとえ今、警察が来ても」と教授は悲しげに言った。「この群衆には何もできない。」
「馬鹿な!」とブルは必死に言った。「町にはまだ人間らしい人々が残っているはずだ。」
「いや」と絶望した警部は言った。「人類はまもなく絶滅する。我々が最後の人間だ。」
「そうかもしれん」と教授は上の空で答えた。それから夢見るような声で付け加えた。「『愚者列伝』の末尾は、どういう詩だったかな?
『公の炎も、私(ひそ)かな灯も、もはや輝く勇気なく、
人の光も、神の一瞥も、ついに残らず!
見よ、汝(なんじ)の恐るべき帝国、混沌は蘇る。
創造を打ち消す汝の言葉を前に、光は死ぬ。
偉大なる無政府の王よ、汝の手が幕を下ろし、
普遍の闇がすべてを葬る。』。」
「待て!」とブルが突然叫んだ。「憲兵が出てきた。」
警察署の低い明かりは、急ぎ動く人影によって遮られ、寸断されていた。闇を通して、統制された騎兵隊の武具がぶつかり、鳴る音が聞こえた。
「群衆へ突撃するぞ!」とブルは歓喜とも不安ともつかぬ声で叫んだ。
「違う」とサイム。「遊歩道に沿って隊列を組んでいる。」
「騎兵銃を外した!」とブルは興奮して踊り上がった。
「そうだ」とラトクリフ。「そして我々を撃つ。」
言うなり、長く連なる銃声が弾け、彼らの前の石の上を弾丸が雹のように跳ねた。
「憲兵まで連中に加わった!」と教授は叫び、額を叩いた。
「私は壁張りの独房にいる」とブルは断固として言った。
長い沈黙が流れた。やがてラトクリフは、灰紫色に膨れ上がる海を眺めながら言った――
「誰が狂人で、誰が正気かなど、もう何の意味がある? 我々はじき全員死ぬ。」
サイムは彼へ向き直って言った――
「では、完全に絶望したのか?」
ラトクリフ氏は石のような沈黙を守った。やがてようやく、静かに言った――
「いや。妙なことに、完全には絶望していない。どうしても頭から追い払えない、狂気じみた小さな希望が一つだけある。この惑星の全力が我々に敵対している。それでも、この馬鹿げた小さな希望まで、すでに絶望的なのだろうかと考えずにはいられない。」
「何に、あるいは誰に希望を託している?」とサイムは興味を引かれて尋ねた。
「一度も見たことのない男に」と相手は鉛色の海を見ながら答えた。
「言いたいことは分かる」とサイムは低い声で言った。「暗い部屋の男だ。だが日曜日は、もう彼を殺しているだろう。」
「かもしれない」と相手は揺るぎなく言った。「だが、もしそうなら、日曜日が殺すのに苦労した唯一の男だ。」
「話は聞こえた」と背を向けた教授が言った。「私もまた、見たことのないものへ必死にしがみついている。」
内省に沈み、盲いたように立っていたサイムが、突然振り返り、眠りから覚めた男のように叫んだ――
「大佐はどこだ? 我々と一緒だと思っていた!」
「大佐! そうだ」とブルも叫んだ。「いったい大佐はどこだ?」
「ルナールと話しに行った」と教授。
「あの獣どもの中に置き去りにはできない」とサイムは叫んだ。「もし死ぬなら、紳士らしく――」
「大佐を憐れむ必要はない」とラトクリフが青ざめた冷笑を浮かべた。「至極快適にしている。彼は――」
「違う! 違う! 違う!」とサイムは半狂乱で叫んだ。「大佐までだなんて! 絶対に信じない!」
「自分の目なら信じるか?」と相手は尋ね、浜を指さした。
追手の多くは拳を振りながら海へ入っていたが、波が荒く、桟橋までは届かなかった。しかし二、三人の人影が石の通路の入口に立ち、慎重に進んでいるように見えた。偶然向けられたランタンの光が、先頭の二人の顔を照らした。一人は黒い半仮面をつけていた。その下で口が神経の狂乱に引きつり、黒い顎髭の房が、落ち着きなく生きたもののようにぐるぐる動いていた。もう一人は、デュクロワ大佐の赤い顔と白い口髭だった。二人は真剣に協議していた。
「そうだ、彼まで向こうへ行った」と教授は言い、石の上に腰を下ろした。「すべてが失われた。私もだ! 自分の肉体の仕組みすら信じられない。自分の手が勝手に跳ね上がり、私を殴るような気がする。」
「私の手が跳ね上がるときは」とサイムは言った。「ほかの誰かを殴るときだ。」
そして片手に剣、もう片手にランタンを持ち、大佐に向かって桟橋を大股に進んだ。
最後の希望も疑念も打ち砕くかのように、近づくサイムを見た大佐が拳銃を向けて撃った。弾丸はサイムを外れたが剣に命中し、柄元から折った。サイムはなおも突進し、鉄のランタンを頭上に振り上げた。
「ヘロデ王の前に立つユダめ!」と言って大佐を殴り、石の上へ叩き倒した。それから秘書へ向き直った。秘書の恐ろしい口は、もはや泡を噴かんばかりだった。サイムがあまりにも厳然と、あまりにも強く人を制する仕草でランプを掲げたため、秘書は一瞬凍りついたようになり、否応なく聞かされた。
「このランタンが見えるか?」とサイムは恐ろしい声で叫んだ。「刻まれた十字架が、その中で燃える炎が見えるか? お前が作ったのではない。お前が火を灯したのでもない。お前より優れた人々、信じ、従うことのできた人々が、鉄のはらわたを捻り、火の伝説を守ってきたのだ。お前が歩く通りの一つとして、身につける糸の一本として、このランタンと同じように作られなかったものはない。汚物と鼠を崇めるお前の哲学を否定することによって作られたのだ。お前には何一つ作れない。壊すことしかできない。お前たちは人類を滅ぼす。世界を滅ぼす。それで満足しろ。だが、この古いキリスト教のランタンだけは壊させない。猿どもの帝国には決して探し出す知恵のない場所へ行かせてやる。」
サイムはランタンで秘書を一度殴り、よろめかせた。それから二度頭上で振り回し、はるか沖へ投げ飛ばした。ランタンは轟くロケットのように燃え上がりながら落ちていった。
「剣を!」とサイムは叫び、炎のような顔を背後の三人へ向けた。「我々の死ぬ時が来た。この犬どもへ突撃しよう。」
三人の仲間も剣を手に続いた。サイムの剣は折れていたが、漁師の拳から棍棒をもぎ取り、その男を投げ倒した。あと一瞬で群衆の正面へ身を投じ、滅びるところだった。だがそのとき、思いがけぬ出来事が起きた。秘書はサイムの演説以来、打たれた頭を手で押さえ、呆然と立っていた。ところが突然、黒い仮面を剥ぎ取ったのである。
ランプの光の中に現れた青白い顔に浮かんでいたのは、怒りというより驚きだった。秘書は不安げながらも威厳を込めて手を上げた。
「何か行き違いがある」と言った。「サイム君、どうやら君は自分の立場を理解していない。法の名において君を逮捕する。」
「法だと?」とサイムは言い、棍棒を落とした。
「もちろんだ!」と秘書。「私はスコットランド・ヤードの刑事だ。」
そう言ってポケットから小さな青いカードを取り出した。
「では我々が何者だと思っていた?」と教授は尋ね、両腕を上げた。
「諸君は」と秘書は硬い口調で言った。「私が確かな事実として知るかぎり、最高アナーキスト評議会の一員だ。私は諸君の一人に変装し――」
ブル博士は剣を海へ放り投げた。
「最高アナーキスト評議会など、初めから存在しなかったんだ」と言った。「我々は馬鹿な警官の集まりで、互いを見張り合っていただけだ。そして我々を散弾で穴だらけにしてくれた、この善良な人々は、我々を爆弾魔だと思っていた。群衆についてだけは、自分が間違うはずがないと分かっていたんだ。」
ブルは両側の彼方まで広がる巨大な群衆へ、晴れやかな笑みを向けた。
「庶民は決して狂わない。私自身が庶民だから分かる。さあ岸へ戻って、ここにいる全員に一杯おごるぞ。」
第十三章 議長の追跡
翌朝、困惑しながらも上機嫌な五人は、ドーバー行きの船に乗った。哀れな老大佐には、多少不平を言う理由があったかもしれない。存在しない二つの派閥のために戦う羽目になり、そのあげく鉄のランタンで殴り倒されたのだから。だが大佐は度量の大きな老紳士だった。どちらの陣営もダイナマイトとは無関係だったことに大いに安堵し、すこぶる愛想よく桟橋で一行を見送った。
和解した五人の刑事には、互いに説明すべきことが百もあった。秘書はサイムに、想定上の敵へ共謀者として近づくため、そもそもなぜ仮面をかぶることになったのかを説明しなければならなかった。
サイムはサイムで、なぜ文明国をあれほどの速さで逃げ回ったのかを説明しなければならなかった。だが説明可能な細部の問題すべてを超えて、説明不能な中心的問題が山のようにそびえていた。いったい、すべては何を意味していたのか? 彼らが全員無害な警官なら、日曜日とは何者なのか? 世界を掌握していなかったのなら、いったい何を企んでいたのか? ラトクリフ警部は、この点について依然として悲観的だった。
「日曜日爺さんの小細工については、君たち同様、私にもさっぱり分からん」と彼は言った。「だが日曜日がほかに何者であれ、罪なき善良な市民ではない。くそっ! あの顔を覚えているか?」
「認めよう」とサイムは答えた。「私はあの顔を一度たりとも忘れられなかった。」
「まあ」と秘書が言った。「じき分かるだろう。明日は次の総会だからな。秘書としての職務に詳しいことは勘弁してくれ。」
そう言って、いささか凄惨な笑みを浮かべた。
「君の言うとおりだろう」と教授は考え込んだ。「本人から聞けば分かるかもしれない。だが正直に言えば、日曜日に本当は何者なのか尋ねるのは、少々怖い。」
「なぜだ?」と秘書が尋ねた。「爆弾が怖いのか?」
「いや」と教授。「教えてくれるかもしれないのが怖い。」
「酒でも飲もう」と沈黙のあとでブル博士が言った。
船と列車での旅のあいだ、一同は終始にぎやかに飲み騒いでいたが、本能的にまとまって行動した。常に一行の楽天家だったブル博士は、五人全員がヴィクトリア駅から同じハンサム馬車に乗れると、ほかの四人を説得しようとした。しかし却下され、一行は四輪馬車に乗り、ブル博士は御者台で歌った。翌朝早くレスター・スクエアで行われる朝食会に近いよう、旅の終点にはピカデリー・サーカスのホテルを選んだ。だが、それでもその日の冒険は完全には終わらなかった。皆で寝ようという提案に不満だったブル博士は、十一時ごろ、ロンドンの美を眺め味わおうとホテルの外へぶらりと出た。ところが二十分後には戻ってきて、ロビーで大騒ぎを始めた。初めは宥めようとしたサイムも、やがてまったく新たな注意をもってその報告を聞かざるを得なくなった。
「本当に見たんだ!」とブル博士は、舌のもつれるような強調をつけて言った。
「誰を?」とサイムは素早く尋ねた。「まさか議長か?」
「そこまでひどくない」とブル博士は不必要に笑った。「そこまでひどくない。ここへ連れてきた。」
「誰を連れてきた?」とサイムは苛立って尋ねた。
「毛むくじゃらの男」と相手は明晰に答えた。「毛むくじゃらだった男――ゴーゴリだ。ほら、ここにいる。」
そう言って嫌がる男の肘を引っ張り、前へ押し出した。それは五日前、薄い赤毛と青白い顔をさらし、正体を暴かれた偽アナーキストの第一号として評議会を退出した、まさにあの若者だった。
「なぜ私につきまとう?」と若者は叫んだ。「スパイとして追放したではないか。」
「我々は全員スパイなんだ!」とサイムは囁いた。
「全員スパイだ!」とブル博士は叫んだ。「一緒に飲もう。」
翌朝、再結集した六人の大隊は、レスター・スクエアのホテルへ向かって重々しく行進した。
「これなら心強い」とブル博士。「六人で、一人の男に真意を問いに行くのだからな。」
「もう少し奇妙な話だと思う」とサイム。「六人の男が一人の男に、自分たちの真意を問いに行くのだ。」
一行は黙って広場へ曲がった。ホテルは反対側の角にあったが、小さなバルコニーと、そこには大きすぎるように見える人影がすぐ目に入った。日曜日は一人、頭を垂れて座り、新聞を熱心に読んでいた。だが、議長を否決しに来た評議員たちは、天上の百の目に見張られているかのように広場を横切った。
一行は方針をめぐって激しく議論していた。仮面を外したゴーゴリを外に残して外交的に話を始めるか、それとも中へ連れていき、最初から火薬庫を爆発させるか。サイムとブルの影響で後者に決まったが、秘書は最後まで、なぜそれほど無謀に日曜日へ挑むのかと問い続けた。
「理由は至って単純だ」とサイム。「怖いから無謀に挑むのだ。」
一同は黙ってサイムに続き、暗い階段を上った。そして全員同時に、朝の広々とした陽光と、日曜日の笑顔の広々とした陽光の中へ出た。
「素晴らしい!」と日曜日は言った。「皆に会えて実にうれしい。なんと見事な日だろう。ロシア皇帝は死んだかね?」
たまたま先頭にいた秘書は、威厳ある怒りを爆発させようと身構えた。
「いいえ」と厳しい声で言った。「虐殺など起きていません。そのような胸の悪くなる光景についての知らせを持ってきたのではない。」
「胸の悪くなる光景?」と議長は明るく問いかけるように微笑んだ。「ブル博士の眼鏡のことかね?」
秘書は一瞬息を詰まらせた。議長は滑らかに訴えかけるような調子で続けた――
「もちろん、我々にはそれぞれ意見があり、目もある。しかし本人の前で、それを胸が悪くなるなどと呼ぶのは、いくら何でも――」
ブル博士は眼鏡をむしり取り、机の上で叩き割った。
「私の眼鏡は卑劣だ」と言った。「だが私は違う。顔を見ろ。」
「見慣れれば愛着の湧く顔なのだろう」と議長。「実際、君の上では育っている。生命の樹に実った野生の果実へ、私ごときが文句をつけられようか。いつか私の上にも育つかもしれん。」
「ふざけている時間はない」と秘書が乱暴に割って入った。「我々は、すべての意味を知るために来た。あなたは誰だ? 何者だ? なぜ我々全員をここへ集めた? 我々が誰で何者なのか知っているのか? 共謀者を演じる半端な狂人なのか、それとも愚者を演じる利口な男なのか? 答えろ。」
「受験者は」と日曜日は呟いた。「問題用紙にある十七問のうち、八問にだけ答えればよい。察するところ、君は私に、私が何者で、君たちが何者で、この机が何で、この評議会が何で、ついでにこの世界が何のためにあるのかまで説明させたいらしい。よろしい。一つの神秘についてだけ、覆いを引き裂いてやろう。自分たちが何者か知りたいのなら、君たちは善意だけは人一倍強い、若い間抜け驢馬の一団だ。」
「では、あなたは?」とサイムは身を乗り出した。「あなたは何者だ?」
「私か? 私が何者かだと?」と議長は咆哮した。そして頭上に弧を描き、今にも砕け落ちようとする巨大な波のように、信じがたい高さまでゆっくり立ち上がった。「私が何者か知りたいのか? ブル、君は科学者だ。あの木々の根元を掘り返し、その真実を突き止めろ。サイム、君は詩人だ。あの朝の雲を凝視するがいい。だが言っておく。最後の一本の木の真実と、最も高い雲の真実を突き止めても、私の真実には届かない。海を理解しても、私はなお謎のままだ。星が何であるかを知っても、私が何者かは分からない。世界の始まりから、あらゆる人間が狼を追うように私を狩ってきた――王も賢者も、詩人も立法者も、すべての教会も、すべての哲学も。だが私はいまだ捕まっていない。私が追い詰められて振り向くころには、空が落ちるだろう。皆には十分追跡を楽しませてやった。これからもそうする。」
誰かが動くより早く、この怪物じみた男は巨大なオランウータンのように、バルコニーの手すりを越えて身を翻した。しかし落下する直前、鉄棒にぶら下がるようにもう一度体を引き上げ、大きな顎をバルコニーの縁から突き出して厳かに言った――
「私が何者かについて、一つだけ教えてやろう。私こそ暗い部屋の男、君たち全員を警官にした男だ。」
そう言うとバルコニーから落ち、巨大なゴム毬のように下の敷石で弾み、アランブラ劇場の角へ向かって跳ねるように走り去った。そこでハンサム馬車を呼び止め、中へ飛び込んだ。六人の刑事は、最後の宣言に雷撃を受けたように立ち尽くし、陽光の中で顔を土気色にしていた。だが日曜日が馬車へ消えると、サイムの実際的な感覚が蘇った。足を折りかねないほど無謀にバルコニーから飛び降り、別の馬車を呼んだ。
サイムとブルが同じ馬車へ飛び乗り、教授と警部が次の一台へ、秘書と元ゴーゴリが三台目へ辛うじて乗り込んだ。こうして彼らは、逃げる議長を追うサイムを追った。日曜日は北西へ向かって一行を狂奔させた。御者は通常以上の報酬を提示されたらしく、命知らずの速度で馬を急かしていた。だがサイムは上品に構えている気分ではなかった。自分の馬車で立ち上がり、「泥棒を捕まえろ!」と叫び続けた。そのため群衆が馬車と並んで走り、警官も止めて事情を聞こうとし始めた。こうしたすべてが議長の御者にも影響を与え、御者は疑わしげな顔をして、速歩まで速度を落とした。客と筋道立てて話そうと小窓を開け、その拍子に長い鞭を馬車の前へ垂らした。日曜日は身を乗り出して鞭を掴み、激しく御者の手からもぎ取った。そして自ら馬車の前部に立ち上がると、馬を鞭打ち、大声で吠えたため、彼らは空飛ぶ嵐のように通りを駆け抜けた。通りから通りへ、広場から広場へ、この途方もない乗り物が旋回していった。客が馬を急かし、御者が必死で止めようとしている馬車である。残る三台の馬車は――馬車についてそう表現してよければ――息を切らす猟犬のように追った。店も街路も、がたつく矢のように後方へ飛び去った。
速度が最高潮に達したとき、日曜日は立っていた泥除け板の上で振り返った。大きな笑顔の頭を馬車から突き出し、白髪を風に鳴らしながら、巨大な悪童さながら追手へ恐ろしい顔を作ってみせた。それから素早く右手を上げると、紙の球をサイムの顔へ投げつけ、姿を消した。サイムは反射的に払い除けながらもそれを受け止め、丸められた二枚の紙だと気づいた。一枚は自分宛て、もう一枚はブル博士宛てで、後者の名前のあとには非常に長い、おそらく多少皮肉の込められた肩書の文字列が続いていた。ともかくブル博士の宛名は本文よりはるかに長かった。本文には次の言葉しかなかったからだ――
「それで、マーティン・タッパーを今はどう思う?」
「あの老いぼれ狂人は何を言いたいんだ?」とブルは文字を見つめた。「君のには何と書いてある、サイム?」
サイムへの伝言は少なくとももう少し長く、次のとおりだった――
「助祭長による干渉めいた事態を、私ほど遺憾に思う者はいないだろう。 そうならないことを願っている。しかし最後にもう一度だけ聞く。 君のゴム靴はどこだ? あまりにもひどいではないか。 とりわけ叔父上があれほど言ったあとだというのに。」
議長の御者は馬をある程度制御し直したらしく、一行がエッジウェア・ロードへ曲がるころには追手がわずかに距離を詰めた。そこで一同にとって天の配剤とも思える足止めが起きた。あらゆる種類の車両が左右へ避け、あるいは停止していた。長い道路の向こうから、消防車の接近を告げる紛れもない轟音が迫り、数秒後には真鍮の雷霆さながらに走り過ぎたのである。しかし、いかに速く通り過ぎようとも、日曜日はすでに馬車から飛び出し、消防車へ跳びついて捕まり、その上へ身を引き上げていた。騒々しい遠方へ消えてゆくとき、驚いた消防士へ身振りを交えて説明している姿が見えた。
「追え!」とサイムは吠えた。「今度こそ見失いようがない。消防車なら見間違えん。」
一瞬呆気に取られていた三人の御者は馬に鞭を入れ、遠ざかる獲物との距離をわずかに縮めた。議長はこの接近に応え、消防車の後部へ移って何度も頭を下げ、投げキスをした。最後にはきちんと折り畳んだ手紙を、ラトクリフ警部の胸元へ投げ入れた。警部が苛立ちを隠さず開くと、こう書かれていた――
「直ちに逃げろ。君のズボン吊りの真相は露見した。――友人。」
消防車はさらに北へ進み、一行の知らない一帯へ入った。木々の影が落ちる高い柵沿いを走っていたとき、六人は驚きながらもいささか安堵した。議長が消防車から飛び降りたからだ。新たな気まぐれによるものか、乗せていた者たちの抗議が強まったためかは分からなかった。だが三台の馬車がそこへ追いつく前に、日曜日は巨大な灰色の猫のように高い柵を登り、向こう側へ身を投げ、木の葉の闇へ消えていた。
サイムは激しい身振りで馬車を止め、飛び降り、自分も柵へ取りついた。片脚を柵の向こうへかけ、仲間たちもあとを追い始めたとき、影の中で真っ青に光る顔を彼らへ向けた。
「ここはいったいどこだ?」と尋ねた。「あの老悪魔の家だろうか? 北ロンドンに屋敷を持っていると聞いたことがある。」
「むしろ好都合だ」と秘書は険しい顔で言い、足場に足をかけた。「自宅にいるところを捕まえられる。」
「いや、そうではない」とサイムは眉を寄せた。「実に恐ろしい音が聞こえる。悪魔どもが笑い、くしゃみをし、悪魔じみた鼻をかんでいるような音だ!」
「犬が吠えているだけだろう」と秘書。
「それなら甲虫が吠えていると言ったらどうだ!」とサイムは激昂した。「蝸牛が吠える! ゼラニウムが吠える! あんなふうに吠える犬を聞いたことがあるか?」
サイムが手を上げると、藪の中から長く唸る咆哮が響いた。皮膚の下へ潜り込んで肉を凍らせるような音、周囲の大気全体を脈打たせる、低く震える咆哮だった。
「日曜日の犬なら、ただの犬ではあるまい」とゴーゴリは言い、身震いした。
サイムはすでに反対側へ飛び降りていたが、なお苛立たしげに耳を澄ませていた。
「では、あれを聞け」と言った。「あれが犬か――誰かの飼い犬だと言うのか?」
突然苦痛を受けた生き物たちが抗議し、騒ぎ立てるような、しわがれた絶叫が耳を打った。続いて遥かなこだまのように、長い鼻声のラッパに似た音が響いた。
「奴の家なら地獄で当然だ!」と秘書。「そして地獄なら、私は入る!」
ほとんど一振りで高い柵を飛び越えた。
ほかの者たちも続いた。絡み合う草木と低木を突き抜け、開けた小道へ出た。何も見えなかったが、ブル博士が突然両手を打ち合わせた。
「何だ、この馬鹿ども!」と叫んだ。「ここはロンドン動物園だ!」
一同が荒々しい獲物の痕跡を求めて慌ただしく辺りを見回していると、制服姿の飼育係が、私服の男とともに小道を走ってきた。
「こちらへ来ませんでしたか?」と飼育係は息を切らした。
「何が?」とサイム。
「象です!」と飼育係。「象が狂って逃げ出した!」
「老人を乗せたまま逃げたんです」ともう一人の見知らぬ男が息を切らして言った。「白髪の気の毒な老人を!」
「どんな老人だ?」とサイムは大いに興味をそそられて尋ねた。
「薄い灰色の服を着た、非常に大柄で太った老人です」と飼育係は勢い込んで答えた。
「なるほど」とサイム。「もし本当にそういう種類の老人なら、つまり灰色の服を着た、大柄で太った老人に間違いないのなら、私の言葉を信じていい。象が老人を連れ去ったのではない。老人が象を連れ去ったのだ。あの男が駆け落ちに同意しないかぎり、あの男をさらえる象など神にも造れん。畜生、あそこだ!」
今度こそ疑いようがなかった。二百ヤード(約百八十三メートル)ほど離れた芝地の向こうを、巨大な灰色の象が恐ろしい歩幅で突進していた。群衆が叫びながら、追いつけぬまま背後を駆け回っている。象の鼻は船の斜檣のように硬く前へ突き出され、最後の審判のラッパさながらに鳴り響いていた。吠え、跳ね回る動物の背には、スルタンのように悠然と日曜日議長が座り、手にした鋭い何かで突き刺して、象を猛烈な速さへ駆り立てていた。
「止めろ!」と群衆が絶叫した。「門から出てしまう!」
「山崩れでも止めろと言うのか!」と飼育係。「もう門を出た!」
その言葉と同時に、最後の衝突音と恐怖の咆哮が響いた。巨大な灰色の象がロンドン動物園の門を破り、新種の高速乗合馬車のようにオールバニー・ストリートを暴走し始めたのだ。
「何てことだ!」とブルは叫んだ。「象があれほど速く走れるとは知らなかった。見失わないためには、またハンサム馬車だな。」
象が消えた門へ向かって走りながら、サイムは通り過ぎる檻の中の奇妙な動物たちが、眩いパノラマのように目へ飛び込んでくるのを感じた。あとになって、なぜあれほど鮮明に見えたのか不思議に思った。とりわけ、馬鹿げた袋状の喉を垂らしたペリカンを見たのを覚えていた。なぜペリカンが慈愛の象徴なのかと考えたが、ペリカンを褒めるには相当な慈愛が必要だからではないかと思った。また、サイチョウも覚えていた。それは単に巨大な黄色い嘴であり、その後ろに小鳥が縛りつけられているようにしか見えなかった。すべてを合わせると、自然はいつも実に謎めいた冗談を仕掛けている、という説明しがたいほど鮮烈な感覚が生まれた。日曜日は、星を理解したとき自分を理解できると言った。だが大天使でさえ、サイチョウを理解しているのだろうかとサイムは思った。
不幸な六人の刑事は馬車へ飛び乗り、長く続く街路に恐怖を撒き散らす象を追った。今度の日曜日は振り返らず、無自覚な背中をどっしりと見せつけていた。それができるとすれば、以前の嘲弄以上に一同を苛立たせた。だがベーカー・ストリートへ入る直前、日曜日が少年のように、また受け取るつもりで球を投げるかのように、何かを高く空へ放るのが見えた。だが彼らは猛烈な速度で走っていたため、それははるか後方、ゴーゴリの乗った馬車の近くへ落ちた。手がかりかもしれないという微かな希望からか、それとも説明不能な衝動からか、ゴーゴリは馬車を止め、それを拾った。自分宛ての、かなり大きな包みだった。しかし調べてみると、かさばっていたのは、無価値な紙を三十三枚、互いに巻きつけていたためだった。最後の包み紙を破ると、小さな紙片が現れ、こう書かれていた――
「その言葉は、たしか『桃色』だったと思う。」
かつてゴーゴリと呼ばれていた男は何も言わなかった。だが手足の動きは、馬へさらなる奮闘を促す男のようだった。
街路から街路へ、地区から地区へ、空飛ぶ象の驚異は進み、あらゆる窓に群衆を呼び寄せ、交通を左右へ追いやった。そして、この狂気じみた衆人環視の中を、三台の馬車はなお懸命に追い続けた。やがて馬車まで行列の一部、あるいはサーカスの宣伝だと思われるようになった。一行は距離の感覚が信じがたいほど縮む速さで進み、サイムはまだパディントンにいるつもりでいたのに、ケンジントンのアルバート・ホールを目にした。人けのない貴族街サウス・ケンジントンでは、象の足取りはいっそう速く軽やかになり、ついには巨大なアールズ・コート・エキシビションの大観覧車が空にそびえる一角へ向かった。大観覧車はますます大きくなり、星々の車輪のように天を満たした。
象は馬車を引き離した。一行は幾つもの角を曲がるうちに象を見失い、アールズ・コート・エキシビションの門の一つへ着いたところで、完全に行く手を塞がれた。前方には巨大な群衆がいた。その真ん中には巨大な象がおり、この種の形の定まらぬ生き物らしく、体を上下させ、震わせていた。だが議長は消えていた。
「どこへ行った?」とサイムは地面へ滑り降りながら尋ねた。
「紳士はエキシビションへ駆け込みました!」と係員が呆然と答えた。それから傷つけられたような声で付け加えた。「妙な紳士でしたよ。馬を押さえていてくれと言って、これを渡しました。」
係員は嫌そうに、折り畳まれた紙を差し出した。宛名には「中央アナーキスト評議会秘書殿」とあった。
激怒した秘書が引き裂くように開くと、中にはこう書かれていた――
「鰊(にしん)が一マイル走ったなら、
秘書はにっこり笑うべし。
鰊が空を飛ぼうとすれば、
秘書はその場で死ぬべし。
田舎の諺。」
「いったい全体どうして」と秘書は言い始めた。「あの男を中へ入れた? ここでは狂った象に乗った客が普通に来るのか? いったい――」
「見ろ!」とサイムが突然叫んだ。「あそこを見ろ!」
「何をだ?」と秘書は荒々しく尋ねた。
「係留気球だ!」とサイムは狂ったように指さした。
「なぜ係留気球なんぞ見なければならん?」と秘書。「係留気球の何がおかしい?」
「何も」とサイム。「係留されていないこと以外はな!」
一同は、子供の風船のように紐で繋がれ、エキシビションの上空で揺れ膨らんでいる気球を見上げた。一秒後、籠のすぐ下で紐が二つに切れた。自由になった気球は、石鹸の泡のように悠々と漂い去った。
「一万の悪魔め!」と秘書は絶叫した。「奴が乗り込んだ!」
そう言って空へ拳を振った。
偶然の風に運ばれ、気球は一行の真上へ来た。議長の大きな白い頭が縁から覗き、慈愛に満ちた目で彼らを見下ろすのが見えた。
「何ということだ!」と教授は言った。白い髭と羊皮紙のような顔から決して切り離せない、老人めいた口調だった。「何ということだ! 帽子の上に何か落ちたような気がする!」
教授は震える手を上げ、その棚から捻れた紙片を取った。ぼんやり開くと、相思相愛の結び目と、次の言葉が記されていた――
「あなたの美しさに心を動かされずにはいられませんでした。―― 小さなスノードロップより。」
短い沈黙ののち、サイムは髭を噛みながら言った――
「まだ負けていない。あの忌々しい代物も、どこかには降りる。追うぞ!」
第十四章 六人の哲学者
ロンドンから五マイル(約八キロメートル)ほど離れた場所で、ずぶ濡れになった六人の刑事が、緑の野原を横切り、花咲く生垣を突き破りながら進んでいた。一行の楽天家は初め、ハンサム馬車で南イングランドを横断し、気球を追おうと提案した。だが気球がどこまでも道路沿いに進むのを拒み、御者たちはそれ以上に頑として気球を追うのを拒むという事実に、ついには納得させられた。そこで疲れを知らぬ苛立ち切った旅人たちは、黒い藪を突き抜け、耕された畑を掻き分けて進み、ついには誰も浮浪者と見間違えようがないほど突飛な姿になった。サリーの緑の丘陵は、サフラン・パークを出発したときサイムが身につけていた、見事な薄灰色の礼服が崩壊し、悲劇的な最期を迎えるのを目撃した。揺れる枝に殴られてシルクハットは鼻の上で潰れ、引き止める棘に燕尾を肩まで引き裂かれ、イングランドの泥が襟まで跳ね上がっていた。それでもサイムは黄色い髭を突き出し、無言の激しい決意をもって進み続けた。その目は、夕焼けの盛りに夕雲のような色へ染まった、漂うガスの球から離れなかった。
「何にせよ」とサイムは言った。「実に美しい!」
「異様なまでに、奇妙なまでに美しい!」と教授。「あの忌々しいガス袋が破裂すればいいのに!」
「いや」とブル博士。「破裂しないでほしい。爺さんが怪我をするかもしれん。」
「怪我だと!」と執念深い教授。「怪我だと! 私が追いついてやれるほどの怪我ではない。小さなスノードロップだと!」
「どういうわけか、あの人に怪我をしてほしくない」とブル博士。
「何だと!」と秘書は苦々しく叫んだ。「あれが暗い部屋にいた我々の男だという話を、まさか信じるのか? 日曜日なら自分は誰だとでも言うぞ。」
「信じるかどうかは分からない」とブル博士。「だが、そういう意味ではない。日曜日爺さんの気球に破裂してほしくないのは――」
「何だ?」とサイムは苛立たしげに促した。「なぜだ?」
「その、本人があまりにも気球そっくりだからだ」とブル博士は苦しげに言った。「我々全員へ青いカードを渡したのと同一人物だという話は、一言も理解できない。何もかも無意味になってしまう。だが誰に知られてもかまわん。私は邪悪だったころから、日曜日爺さん本人にずっと親しみを感じていた。まるで巨大な弾む赤ん坊のようでな。この奇妙な親しみをどう説明すればいい? だからといって、あの男と死に物狂いで戦うのをやめたわけではない! 太っているから好きだったと言えば伝わるだろうか?」
「伝わらない」と秘書。
「今分かった」とブルは叫んだ。「太っているのに軽いからだ。まるで気球だ。我々は太った人間を重いと思いがちだが、あの男なら空気の精を相手に踊れた。今やっと自分の言いたいことが分かった。中程度の力は暴力に現れるが、至高の力は軽やかさに現れる。昔からの思考実験と同じだ――象が飛蝗のように空へ跳び上がれたら、何が起きるか?」
「我々の象は」とサイムは空を見上げた。「飛蝗のように空へ跳び上がった。」
「そして、どういうわけか」とブルは結んだ。「だから私は日曜日爺さんを嫌いになれない。違う、力への崇拝だとか、そんな馬鹿な話ではない。あれには一種の陽気さがある。何かよい知らせを抱え、今にも弾けそうな陽気さだ。春の日に、そう感じたことはないか? 自然が悪戯するのは知っている。だが、その日にかぎって、善意の悪戯だと分かるんだ。私は聖書を読んだことはないが、皆に笑われるあの一節は文字どおりの真実だ。『高き山々よ、なぜ汝らは跳ねるのか?』山は本当に跳ねる――少なくとも跳ねようとしている……なぜ私は日曜日が好きなのか? ……どう説明すればいい? ……あの男は、とんでもない大物だからだ。」
長い沈黙ののち、秘書が奇妙に張りつめた声で言った――
「君は日曜日をまったく知らない。たぶん君が私より善良で、地獄を知らないからだ。私は初めから激しい気質で、少々病的でもあった。暗闇に座し、我々全員を選んだ男が私を選んだのは、共謀者らしい狂気を顔いっぱいに浮かべていたからだ――笑っても口元が歪み、笑っても目が陰鬱だったからだ。だが私の中には、このアナーキストたち全員の神経に呼応する何かがあったに違いない。初めて日曜日を見たとき、あの男が私に示したのは、君の言う空気のような生命力ではなかった。万物の本性に潜む、醜悪で悲しい何かだった。私は黄昏の部屋で煙草を吸う彼を見つけた。茶色いブラインドを下ろした部屋で、我々の主人が暮らす親しみ深い闇よりも、無限に憂鬱な場所だった。あの男は長椅子に腰を下ろしていた。巨大な人間の塊で、暗く、形が崩れていた。私の言葉を一切口を挟まず、身じろぎすらせずに聞いていた。私は最も情熱的な訴えを浴びせ、最も雄弁な問いを投げかけた。長い沈黙ののち、その〈もの〉が震え始めた。何か隠された病に体を揺さぶられているのかと思った。忌まわしい生きたゼリーのように震えていた。生命の起源となる下等な肉体について、それまで読んだすべてを思い出した――深海の肉塊や原形質を。物質の最終形態、最も形なく、最も恥ずべき姿に見えた。震えを見ながら、せめてこのような怪物でも惨めになれるのだと自分に言い聞かせるほかなかった。だがそのとき、この獣じみた山が孤独な笑いに震え、その笑いが私へ向けられているのだと分かった。あれを赦せと言うのか? 自分より下等で、同時に自分より強い何かに笑われるのは、決して些細なことではない。」
「どう考えても君たちは大げさに言いすぎている」とラトクリフ警部の明瞭な声が割って入った。「日曜日議長が知性にとって恐ろしい男なのは確かだ。だが身体的には、君たちが言うほどバーナム一座の見世物ではない。私を迎えたのは、ごく普通の事務室だった。灰色の格子柄の上着を着て、白昼堂々、普通に話した。だが日曜日には、少々ぞっとするところがある。部屋は整頓され、服装もきちんとし、すべてが秩序正しく見える。ところが、あの男はひどく上の空になる。時には大きな輝く目が、完全に何も見なくなる。何時間も、こちらがいることを忘れる。悪人が上の空になるというのは、少しばかり恐ろしすぎる。我々は悪人を警戒心の強いものだと考える。心から誠実に夢想へ沈む悪人など想像できない。悪人が自分自身と二人きりでいるところを、想像する勇気がないからだ。上の空の人間とは、気立てのよい人間を意味する。たまたま君に気づけば、詫びてくれる男だ。だが、たまたま君に気づいたら殺す、上の空の男に耐えられるか? 神経にこたえるのはそこだ。放心と残酷さの組み合わせだ。人間は原生林を通るとき、ときに同じものを感じてきた。そこにいる動物たちが、無垢であると同時に無慈悲だと感じるのだ。無視することもあれば、殺すこともある。上の空の虎と客間で丸十時間過ごすのは、どんな気分だろうな?」
「ではゴーゴリ、君は日曜日をどう思う?」とサイムが尋ねた。
「主義として日曜日のことは考えない」とゴーゴリはあっさり言った。「真昼の太陽を見つめないのと同じだ。」
「なるほど、それも一つの見方だ」とサイムは考え込んだ。「教授はどう思う?」
教授は頭を垂れ、杖を引きずりながら歩いており、まったく答えなかった。
「目を覚ましてください、教授!」とサイムは親しげに言った。「日曜日をどう思うか聞かせてください。」
教授はようやく、ひどくゆっくりと口を開いた。
「私はあることを考えている」と言った。「だが明瞭には言えない。いや、むしろ自分でも明瞭には考えられない。だが、おおよそこういうことだ。知ってのとおり、私の若いころの人生は、少々広がりすぎ、締まりがなさすぎた。
「さて、日曜日の顔を見たとき、あまりに大きすぎると思った――誰もがそう思う。だが私は同時に、あまりに締まりがないとも思った。顔があまりに巨大で、焦点を合わせられず、一つの顔として捉えることさえできない。目は鼻からあまりに離れ、もはや目ではなかった。口はあまりに孤立し、口だけで考えなければならなかった。何もかも説明するのが難しすぎる。」
教授は杖を引きずったまま少し黙り、それから続けた――
「こう言えばいい。夜道を歩いていて、街灯と、明かりの灯る窓と、雲とが合わさり、完全で疑いようのない一つの顔に見えたことがある。天上にその顔を持つ者がいるなら、再会したとき私は必ず分かる。ところが少し歩くと、顔など存在しなかったと分かった。窓は十ヤード(約九メートル)先、街灯は千ヤード(約九百十四メートル)先、雲は世界の向こうにあった。日曜日の顔も私から逃げた。偶然できた絵がそうするように、左右へ逃げ去った。だからあの顔は、そもそも顔など存在するのかと、私に疑わせた。ブル、君の顔が本当に顔なのか、それとも遠近法でそう見える組み合わせなのか、私には分からない。君の忌々しい眼鏡の黒い円盤は、一方がすぐ近くにあり、もう一方は五十マイル(約八十キロメートル)先にあるのかもしれない。ああ、唯物論者の疑念など一文の価値もない。日曜日は最後にして最悪の疑念、精神主義者の疑念を私に教えた。私はたぶん仏教徒なのだろう。そして仏教は信条ではない。疑念だ。哀れな親愛なるブルよ、私は君に本当に顔があるとは信じていない。物質を信じるだけの信仰が、私にはない。」
サイムの目はなおも、さまよう球体へ注がれていた。夕日の中で赤く染まり、もっと薔薇色で、もっと無垢な別世界のように見えた。
「皆の説明には、奇妙な共通点があると気づいたか?」とサイムは言った。「誰もが日曜日をまるで異なるものとして捉えている。だが比較できるものは、誰にとっても一つしかない――宇宙そのものだ。ブルには春の大地のように見え、ゴーゴリには真昼の太陽のように見える。秘書は形なき原形質を思い、警部は原生林の無頓着さを思う。教授は移り変わる風景に似ていると言う。奇妙だ。だがさらに奇妙なのは、私も議長について独自の奇妙な考えを抱き、やはり日曜日を世界全体と同じように考えていることだ。」
「もう少し速く歩け、サイム」とブル。「気球は気にするな。」
「初めて日曜日を見たとき」とサイムはゆっくり言った。「私に見えたのは背中だけだった。そして背中を見ただけで、世界最悪の男だと分かった。首と肩は猿じみた神のように粗暴だった。頭は雄牛のように垂れ、ほとんど人間とは思えなかった。実のところ私は即座に、これは人間ではなく、人間の服を着た獣なのだという、吐き気のするような妄想に取り憑かれた。」
「続けろ」とブル博士。
「すると奇妙なことが起きた。私は街路から、バルコニーに座る彼の背中を見ていた。それからホテルへ入り、反対側へ回って、陽光の中にある顔を見た。あの顔は誰に対してもそうだったように、私を怯えさせた。だが粗暴だったからではない。邪悪だったからでもない。逆だ。あまりに美しかったから、あまりに善良だったから、私は怯えたのだ。」
「サイム」と秘書が叫んだ。「具合でも悪いのか?」
「英雄的な戦争ののち、公正な裁きを下す古代の大天使の顔のようだった。目には笑いがあり、口元には名誉と悲しみがあった。背後から見たのと同じ白髪、同じ巨大な灰色の肩だった。だが背後から見たとき、私は彼が獣だと確信した。正面から見たときには、神だと分かった。」
「パンは」と教授が夢見るように言った。「神であり、獣でもあった。」
「あのときも、それ以後も、そして常に」とサイムは独り言のように続けた。「それが私にとっての日曜日の謎だった。そして世界の謎でもある。恐ろしい背中を見ると、気高い顔は仮面にすぎないと確信する。だがほんの一瞬でも顔を見れば、背中のほうが冗談にすぎないと分かる。悪はあまりに悪いため、善は偶然だとしか思えない。善はあまりに善いため、悪にもきっと説明がつくと確信する。だが昨日、私が馬車を目指して日曜日と競走し、ずっと真後ろを走ったとき、すべてが一つの頂点に達した。」
「そのとき考える余裕があったのか?」とラトクリフ。
「一つだけ」とサイムは答えた。「常軌を逸した考えを抱く余裕があった。目もなく、表情もない後頭部こそ、本当は彼の顔なのだという思いに突然取り憑かれた――目のない恐ろしい顔が、私を凝視しているのだと! そして前を走る人影は、実は後ろ向きに走りながら踊っているのだと思った。」
「恐ろしい!」とブル博士は身震いした。
「恐ろしいでは足りない」とサイム。「まさに私の人生で最悪の瞬間だった。だがその十分後、彼が馬車から頭を出し、ガーゴイルのようなしかめ面をしたとき、私は分かった。あれは子供たちとかくれんぼをして遊ぶ父親のようなものなのだと。」
「ずいぶん長い遊びだ」と秘書は言い、壊れた靴へ眉をひそめた。
「聞いてくれ」とサイムは異様なまでに力を込めて叫んだ。「世界全体の秘密を教えようか? 我々は世界の背中しか知らないのだ。何もかも背後から見ているから、残酷に見える。あれは木ではなく、木の背中だ。あれは雲ではなく、雲の背中だ。あらゆるものが身をかがめ、顔を隠しているのが分からないか? もし正面へ回り込めさえすれば――」
「見ろ!」とブルが大声で叫んだ。「気球が降りてくる!」
ずっと目を離していなかったサイムに、叫ぶ必要はなかった。巨大な光る球体が突然空中でよろめき、体勢を立て直すと、沈む太陽のように木々の向こうへゆっくり降りていくのが見えた。
疲れ切った旅のあいだ、ほとんど一言も発しなかったゴーゴリと呼ばれる男が、突然、道を失った魂のように両手を上げた。
「死んだ!」と叫んだ。「今になって分かった。あの人は私の友だった――暗闇にいる私の友だった!」
「死んだだと!」と秘書は鼻を鳴らした。「そう簡単に死体では見つからん。籠から放り出されたなら、野原で転げ回る仔馬のように、面白がって脚を蹴っているところを見つけるだろう。」
「蹄を打ち鳴らしながら」と教授。「仔馬はそうする。パンもそうだった。」
「またパンか!」とブル博士は苛立った。「あなたはパンが万物だとでも思っているらしい。」
「そのとおりだ」と教授。「ギリシャ語ではな。パンとは『すべて』を意味する。」
「忘れるな」と秘書は下を向いたまま言った。「同時に『パニック』も意味する。」
サイムは誰の叫びも聞かずに立っていた。
「あそこへ落ちた」と短く言った。「追うぞ!」
それから何とも言い表しようのない身振りをして付け加えた――
「ああ、もし死ぬことで我々全員を出し抜いたのなら! あの男らしい悪戯だ。」
サイムは新たな活力を得て遠くの木々へ向かい、大股で歩き始めた。ぼろ布と化した服の切れ端が風にはためいた。ほかの者たちは、足の痛みと疑念を抱えながらあとに続いた。ほぼ同時に、六人全員が、小さな野原にいるのは自分たちだけではないと気づいた。
四角い草地の向こうから、背の高い男が近づいてきた。王笏のように奇妙に長い杖へ身を預けている。上等だが古風な半ズボンの服を着ており、その色は森の影に時折見られる、青と紫と灰色の中間の色合いだった。髪は白みがかった灰色で、一見すると半ズボンと相まって、粉を振ってあるように見えた。男はごく静かに進んできた。頭上に降りた銀の霜さえなければ、森の影の一つに見えただろう。
「皆様」と男は言った。「すぐそこの道に、主人が皆様のための馬車を待たせております。」
「君の主人とは誰だ?」とサイムは立ち止まったまま尋ねた。
「皆様はその名をご存じだと聞いております」と男は丁重に答えた。
沈黙が流れ、やがて秘書が言った――
「馬車はどこだ?」
「待ち始めて、まだほんの数分です」と見知らぬ男。「主人はたった今、帰宅したばかりです。」
サイムは自分の立つ緑の野原を左右に見渡した。生垣は普通の生垣、木々も普通の木々に見えた。だがサイムは、妖精の国へ囚われた男のような気分だった。
謎めいた使者を上から下まで眺めたが、分かったことは二つしかなかった。男の上着が紫色の影とまったく同じ色であること。そして男の顔が、赤と褐色と黄金色に染まった空とまったく同じ色であることだ。
「案内しろ」とサイムは短く言った。紫の上着を着た男は無言で背を向け、生垣の切れ目へ歩いていった。その向こうから、白い道の光が突然差し込んだ。
六人の放浪者が大通りへ出ると、白い道は、長く連なる馬車らしきものに塞がれていた。パーク・レーンのどこかの邸宅へ続く道を埋めるような、馬車の列だった。その脇には豪奢な召使いたちが一列に並び、全員が灰青色の制服をまとっていた。だがその立ち姿には、普通の紳士の召使いには似つかわしくない威厳と自由の気配があり、むしろ偉大な王に仕える高官や大使のようだった。待っていた馬車は六台、一台ずつ、ぼろぼろで惨めな六人のために用意されていた。従者は全員、宮廷服のように剣を帯びていた。そして一人が馬車へ這い込むたび、一斉に剣を抜き、鋼の閃光とともに敬礼した。
「いったい、これは何なんだ?」と別れる際、ブルがサイムに尋ねた。「また日曜日の冗談か?」
「分からない」とサイムは答え、自分の馬車のクッションへ疲れ切って沈み込んだ。「だが、もしそうなら、君が言っていた種類の冗談だ。善意の冗談だよ。」
六人の冒険者は数多くの冒険をくぐり抜けてきた。だがこの最後の、快適さという冒険ほど、完全に彼らの足元をさらったものはなかった。物事が荒っぽく進むことには、全員がすっかり慣れていた。ところが突然すべてが順調に進み始めたため、彼らは完全に呑み込まれてしまった。馬車が何なのか、弱々しく想像することさえできなかった。ただ、それが馬車であり、クッションのある馬車だと分かれば十分だった。自分たちを案内した老人が何者なのかも想像できなかった。だが確かに馬車へ導いてくれた、それだけで十分だった。
サイムはすべてを放棄し、流れゆく木々の闇を馬車で進んだ。何かできるあいだは髭の生えた顎を激しく突き出していたが、何もかも自分の手を離れた途端、率直に崩れ落ちるようにクッションへ身を預けた。それはいかにもサイムらしかった。
馬車がどれほど豊かな道へ自分を運んでいるか、サイムはひどくゆっくり、ひどくぼんやりと理解し始めた。公園かもしれない場所の石門を通り、両側を木々に覆われながらも、森よりはいくらか整然とした丘を、徐々に登り始めたのが見えた。すると健やかな眠りからゆっくり目覚める者のように、あらゆるものへの喜びが胸の中で育ち始めた。生垣は生垣がそうあるべき姿――生きた壁――だと感じた。生垣は人間の軍隊に似ている。統制されているが、だからこそいっそう生命に満ちている。生垣の向こうに高い楡(にれ)の木々が見え、少年たちが登ったなら、どれほど幸せだろうとぼんやり思った。やがて馬車が道を曲がると、突然、そして静かに、一軒の細長く低い屋敷が見えた。長く低い夕雲のように、穏やかな夕日の中で柔らかく色づいていた。のちに六人の友人たちは記憶を照らし合わせ、言い争った。しかし、説明できない何らかの形で、その場所が少年時代を思い出させたという点では全員の意見が一致した。この楡の梢だったのか、あの曲がりくねった小道だったのか。この果樹園の一角だったのか、あの窓の形だったのか。だが誰もが、母親を覚えるより前から、この場所を覚えていたと断言した。
やがて馬車が大きく低い、洞窟のような玄関へ乗りつけると、同じ制服を着た別の男が迎えに出た。ただし、その上着の灰色の胸には銀の星をつけていた。この威厳ある人物は、困惑したサイムへ言った――
「お部屋に軽食をご用意しております。」
驚きによる催眠のような眠りに支配されたまま、サイムは恭しく案内する従者のあとについて、大きな樫の階段を上った。入ったのは、サイムのために特別に設計されたかのような、豪華な一続きの部屋だった。ネクタイを直し、髪を撫でつけようと、自分の階級に染みついた普通の本能から、長い鏡へ近づいた。そこで初めて、自分がどれほど恐ろしい姿になっているかを見た。枝に打たれた傷から血が顔を流れ、髪は茂りすぎた黄色い草のぼろ布のように逆立ち、服は長く揺れる裂け目だらけだった。すると謎全体が突如として立ち上がった。いったいどうやってここへ来たのか、どうやって再び出ていけばよいのかという、単純な問いとして。そのまさに同じ瞬間、サイムの従僕に任命されていた青い服の男が、ひどく厳粛に言った――
「お召し物をご用意いたしました。」
「服だと!」とサイムは皮肉に言った。「私にはこれ以外の服などない。」
そう言ってフロックコートの長い裂け端を二本、魅惑的な花綱のように持ち上げ、バレエ少女さながらに回転する仕草をした。
「主人からお伝えするよう仰せつかっております」と従者。「今夜は仮装舞踏会がございますので、私が用意した衣装をお召しになるようにとのことです。それまでのあいだ、ブルゴーニュ・ワインを一本と、冷製の雉肉をご用意しております。晩餐まではまだ数時間ございますので、どうかご遠慮なさらぬようにと主人が申しております。」
「冷製の雉はうまいものだ」とサイムは考えながら言った。「ブルゴーニュも飛び切りうまい。だが正直に言えば、今の私がそのどちらよりも知りたいのは、この騒ぎがいったい何を意味するのか、そして君がどんな衣装を用意したのかだ。どこにある?」
従者は長椅子のような台から、ドミノ外套に似た、孔雀のような青い長衣を持ち上げた。前面には大きな黄金の太陽が飾られ、ところどころに燃える星と三日月が散らされていた。
「木曜日の扮装をなさることになっております」と従僕は幾分親しげに言った。
「木曜日の扮装!」とサイムは考え込んだ。「あまり暖かそうな衣装ではないな。」
「いえ、暖かい衣装でございます」と相手は熱心に言った。「木曜日の衣装はとても暖かいものです。顎まで留められますので。」
「もう何一つ分からん」とサイムは溜息をつき、椅子へ腰を下ろした。「不快な冒険に長く慣れすぎて、快適な冒険には参ってしまう。それでも、太陽と月を全身に散らした緑の服を着て、なぜ私が特に木曜日らしくなるのか、尋ねるくらいは許されるだろう。太陽も月も、ほかの曜日に輝くと思うのだが。そういえば昔、火曜日に月を見たことがある。」
「失礼いたします」と従僕。「聖書もご用意しております。」
そう言うと、敬意を込めて硬く伸ばした指で、創世記第一章の一節を示した。サイムは不思議に思いながら読んだ。週の第四日と、太陽および月の創造とを結びつけた箇所だった。ただし、ここではキリスト教の安息日である日曜日から数えていた。
「ますます途方もないことになってきた」とサイムは椅子に座ったまま言った。「冷製の雉とブルゴーニュ、緑の服と聖書を用意する、この人々は何者だ? 何もかも用意するのか?」
「はい。何もかもでございます」と従者は厳かに答えた。「衣装をお召しになるのをお手伝いいたしましょうか?」
「ああ、その忌々しい代物を着せてくれ!」とサイムは苛立たしげに言った。
だがサイムは、この芝居じみた仮装を軽蔑するふりをしながらも、青と金の衣が体の周りへ落ちかかると、自分の動きに奇妙な自由と自然さを感じた。剣まで帯びなければならないと知ると、少年の日の夢が胸に蘇った。部屋を出る際、身振り一つで衣の襞を肩へ払い、剣を斜めに突き出し、吟遊詩人さながらの伊達男ぶりを見せた。この仮装は人を隠すのではなく、その本質を露わにするものだった。
第十五章 告発者
廊下を大股で進んでいたサイムは、大階段の最上段に立つ秘書の姿を見た。これほど気高く見えたことはかつてない。身を包むのは、星一つない夜のように黒い長衣。その中央を、ただ一条の光さながら、純白の幅広い帯がまっすぐ流れ落ちている。全体として、ひどく厳粛な聖職者の祭服を思わせた。天地創造の第一日が、闇から光だけを生み出した日であることを思い出すのに、記憶を探ったり聖書を開いたりする必要はなかった。祭服そのものが、その象徴を明らかにしていたからだ。同時にサイムは、この純白と漆黒の意匠が、青白く禁欲的な秘書の魂をいかに完璧に表しているかを感じた。人間離れした誠実さと、冷ややかな狂熱――それゆえに彼は、いともたやすくアナーキストと戦いながら、同じほどたやすくアナーキストの一人に見せかけることができたのである。新しい環境がどれほど心安く、歓待に満ちていようと、その目がなお険しいことに、サイムはほとんど驚かなかった。エールの香りも果樹園の匂いも、この男が理にかなった問いを発するのをやめさせることはできないのだ。
もしサイムが自分の姿を見ることができたなら、自分もまた、初めてほかの誰でもない本来の自分に見えていると気づいただろう。秘書が、原初の形なき光を愛する哲学者を表しているとすれば、サイムは、光に一つ一つ異なる姿を与え、それを太陽と星とに分かとうとする詩人の典型だった。哲学者はときに無限を愛する。だが詩人が愛するのは、つねに有限である。詩人にとって偉大な瞬間とは、光の創造ではなく、太陽と月の創造なのだ。
二人で広い階段を下りてゆく途中、ラトクリフ警部に追いついた。警部は狩人のような春の緑をまとい、その衣には木々の絡み合う緑の模様が描かれていた。彼が象徴するのは、大地と緑の草木が造られた第三日である。親しみを失わぬ皮肉をたたえた、四角く分別のある顔も、その日にいかにもふさわしく思えた。
一行は、別の幅広く低い門から、古い英国風の大庭園へと案内された。そこには松明と篝火があふれ、その揺らめく光の下で、思い思いの仮装をした大勢の人々が、壮大な謝肉祭の踊りを繰り広げていた。自然界にあるあらゆる形が、狂気じみた衣装となって再現されているかのようだった。巨大な羽根をつけて風車に扮した男、象に扮した男、気球に扮した男。後の二人は、あの滑稽な冒険の続きを仲よく演じているように見えた。さらにサイムは、奇妙な胸騒ぎとともに、自分の体の二倍もある嘴をつけ、巨大なサイチョウに扮した踊り手まで目にした。それは、ロンドン動物園の長い道を駆け抜けていたとき、生きた疑問符のように彼の想像に焼きついた、あの奇怪な鳥だった。だが、そんなものはほかに千もあった。踊る街灯、踊る林檎の木、踊る船。野原や街路にあるありふれたものすべてが、狂った音楽家の荒々しい調べに駆り立てられ、永遠のジグを踊り始めたかのようだった。ずっと後、サイムが中年となり、穏やかな暮らしに落ち着いてからも、街灯や林檎の木や風車を見るたび、それらがあの仮面舞踏の宴から迷い出た浮かれ客のように思えてならなかった。
踊り手たちで生き物のように波打つ芝生の片側には、昔風の庭園にある段丘のような、緑の土手が設けられていた。
その上には三日月形に、七脚の大椅子――七つの曜日の玉座が並んでいた。ゴーゴリとブル博士はすでに席についており、教授は今まさに自分の椅子へ上がるところだった。ゴーゴリ、すなわち火曜日の素朴さは、水を分けた創造の日を意匠とする衣装によって、見事に象徴されていた。額のところで左右に分かれ、足もとまで流れ落ちる灰色と銀色の衣は、さながら一面の雨だった。教授が表すのは、鳥と魚――まだ粗野な生命の形――が造られた日である。くすんだ紫の衣には、目を剥いた魚や、けばけばしい熱帯の鳥が、縦横無尽に描かれていた。底知れぬ幻想と疑念とが、彼のうちで一つになっているのだ。天地創造の最後の日を表すブル博士は、赤と金の紋章獣で覆われた上着をまとい、その紋章の頂には、後ろ足で立つ人間が配されていた。博士は満面の笑みを浮かべて椅子に深くもたれ、まさに水を得た楽天家そのものだった。
さすらってきた男たちは一人ずつ土手を上り、奇妙な椅子に腰を下ろした。一人が座るたび、謝肉祭の群衆から、王を迎えるときのような熱狂のどよめきが上がった。杯が打ち鳴らされ、松明が振られ、羽根飾りの帽子が宙へ放られた。これらの玉座を与えられた男たちは、尋常ならざる栄冠を戴いた者たちだった。だが中央の椅子だけは空いていた。
その左にはサイムが、右には秘書が座っていた。秘書は空の玉座越しにサイムを見つめ、唇を引き結んで言った――
「まだ、あの方が野原で死んでいないとは限らない。」
その言葉を耳にしたほとんど同じ瞬間、サイムは眼前に広がる人の顔の海に、恐ろしくも美しい変化が走るのを見た。まるで自分の頭の背後で、天が開いたかのようだった。だが実際には、日曜日が影のように音もなく列の前を通り、中央の席に腰を下ろしただけだった。身にまとっているのは、飾り気のない、純白の恐るべき衣。額にかかる髪は、銀の炎のように輝いていた。
長いあいだ――何時間にも思えた――人類そのものにも似た巨大な仮面の群れが、行進曲と歓喜の音楽に合わせ、彼らの前で揺れ、足を踏み鳴らしつづけた。踊る一組一組が、それぞれ独立した恋物語のようだった。妖精が郵便ポストと踊り、百姓娘が月と踊っている。どれも『不思議の国のアリス』さながらに馬鹿げていながら、恋物語のように真摯で、優しかった。しかし、ついに密集した群衆もまばらになり始めた。連れ立った者たちは庭の小径へ散策に出かけ、あるいは、魚を煮る大鍋のような巨大な容器から、温めた古いエールや葡萄酒の香り高い混ぜ物が湯気を立てる、建物の一角へと流れていった。それらすべての上、屋根に組まれた黒い枠台では、鉄籠の中の巨大な篝火が轟々と燃え、何マイル(数キロメートル)も先まで大地を照らしていた。その火は、灰色や褐色の大森林に、家庭の炉辺のような親しい光を投げかけ、頭上の夜の空虚さまで温もりで満たしているようだった。だがその火も、やがて衰えるに任された。薄暗い人影は大釜の周りにますます集まり、あるいは笑い声と足音を響かせながら、古い館の奥の廊下へ消えていった。ほどなく庭に残る者は十人ほどとなり、やがて四人になった。最後に、はぐれていた浮かれ客が仲間を呼びながら館へ駆け込んだ。火は消えかかり、ゆっくりと力強く、星々が姿を現した。そして七人の奇妙な男たちだけが、石の椅子に座る七体の石像のように取り残された。誰一人、一言も口をきかなかった。
語り出すのを急ぐ様子もなく、彼らは沈黙のうちに虫の羽音と、遠くで鳴く一羽の鳥の歌を聞いていた。やがて日曜日が口を開いたが、その声はあまりにも夢見るようで、話を始めたというより、それまでの会話をそのまま続けているかのようだった。
「飲み食いは後にしよう。しばらくは、こうして一緒にいようではないか。悲しいほど互いを愛し、あまりにも長く戦ってきた我々だけで。私の記憶にあるのは、幾世紀にもわたる英雄的な戦いばかりだ。その中で君たちは、いつも英雄だった――叙事詩に次ぐ叙事詩、『イリアス』に次ぐ『イリアス』。そして君たちは、つねに戦友だった。つい最近のことだったのかもしれないし――時間など意味を持たぬからな――世界の始まりのことだったのかもしれない。私は君たちを戦いへ送り出した。私は、造られたものが何一つ存在しない闇の中に座り、君たちにとっては、勇気と、人の本性に逆らうほどの徳を命じる声でしかなかった。君たちは闇の中でその声を聞いた。だが二度と聞くことはなかった。天の太陽がその声を否定し、大地と空が否定し、人間のあらゆる知恵が否定した。そして白日の下で君たちに会ったとき、私自身もまた、その声を否定した。」
サイムは椅子の上で鋭く身じろぎした。だがそれ以外は沈黙のまま、理解を超えた男は語りつづけた。
「だが君たちは、人間だった。全宇宙が拷問の機械と化し、君たちからそれを引きずり出そうとしても、君たちは秘めた誇りを忘れなかった。君たちがどれほど地獄に近づいていたか、私は知っていた。木曜日よ、君が悪魔王サタンと剣を交えたことも知っている。水曜日よ、君が希望の絶えた時に私の名を呼んだことも。」
星明かりの庭を、完全な沈黙が支配した。すると、黒々とした眉の秘書が、容赦のない顔で椅子ごと日曜日に向き直り、荒々しい声で言った――
「あなたは何者なのです。いったい、何なのですか。」
「私は安息日だ」と、日曜日は身じろぎもせず答えた。「私は神の平安である。」
秘書は跳ねるように立ち上がり、高価な長衣を手の中で握り潰した。
「おっしゃる意味は分かっています」と彼は叫んだ。「だからこそ、私はあなたを許せないのです。あなたは満足であり、楽観であり、何と呼ぶのでしたか――そう、究極の和解だ。だが私は和解していない。暗い部屋にいた男があなただったのなら、なぜ同時に日曜日でもあったのです。陽光を侮辱するような存在でもあったのです。最初から我々の父であり、友だったのなら、なぜ同時に最大の敵でもあったのです。我々は泣き、恐怖に駆られて逃げた。鉄が我々の魂を貫いた――それなのに、あなたが神の平安だと! ああ、神が怒りによって国々を滅ぼしたとしても、その怒りなら私は許せる。だが神の平安だけは、許すことができない。」
日曜日は一言も答えず、ただひどくゆっくりと、その石の顔をサイムへ向けた。まるで何かを問いかけるように。
「いや」とサイムは言った。「私はそこまで激しくは思わない。ここで葡萄酒と歓待を与えてくれたことだけでなく、何度も見事な追走劇と、思いきり暴れられる喧嘩をさせてくれたことにも感謝している。だが、知りたい。私の魂も心も、この古い庭のように幸福で静かだ。それでも理性だけは、まだ叫びつづけている。私は知りたいのだ。」
日曜日がラトクリフに目を向けると、警部は澄んだ声で言った――
「あなたが両方の側に立って、自分自身と戦っていたなんて、あまりにも馬鹿げているように思えます。」
ブルが言った――
「私には何も分からん。だが幸せだ。実を言うと、もう眠りそうだ。」
「私は幸せではない」と、教授は頭を両手で抱えて言った。「分からないからだ。あなたは私を、地獄のあまりにも近くまで迷い込ませた。」
するとゴーゴリが、子供そのものの無垢さで言った――
「どうしてあんなにひどく傷つかなければならなかったのか、知りたい。」
それでも日曜日は答えず、巨大な顎を片手に載せ、遠くを見つめていた。やがて、ようやく言った――
「君たちの訴えは、順番に聞いた。さて、もう一人、訴えに来た者がいるようだ。彼の話も聞こうではないか。」
大きな火籠の中で消えかけた炎が、燃える黄金の棒のように最後の長い光を放ち、薄暗い芝生を横切った。その炎の帯を背景に、黒衣の人影が近づいてくる脚が、完全な漆黒の輪郭となって浮かび上がった。館の召使いたちが着ていたものと同じ、膝丈の半ズボンを備えた体にぴったりの上等な服らしい。ただし青ではなく、一点の曇りもない黒だった。召使いたちと同じく、脇には一種の剣を下げていた。七人の半円のすぐそばまで来て、彼らを見上げるために顔を上げたとき、ようやくサイムは雷に打たれたような鮮明さで、その顔を見た。広く、ほとんど猿めいた、旧友グレゴリーの顔。ぼさぼさの赤毛と、人を侮辱するような笑み。
「グレゴリー!」サイムは息を呑み、椅子から半ば立ち上がった。「では、こいつこそ本物のアナーキストだ!」
「そうだ」とグレゴリーは、危険なまでに感情を抑えて言った。「俺が本物のアナーキストだ。」
「『さて、ある日のこと』」本当に眠りに落ちかけているらしいブルが、低くつぶやいた。「『神の子たちが主の前に出るために集まったとき、サタンもまたその中に来た』。」
「そのとおりだ」とグレゴリーは言い、ぐるりと一同を見回した。「俺は破壊者だ。できるものなら世界を破壊してやる。」
大地のはるか底に埋もれていた悲哀が、サイムの胸で揺り動かされた。彼は途切れ途切れに、脈絡もなく言った。
「ああ、なんて不幸な男だ」と彼は叫んだ。「幸せになろうとしてくれ! 君の赤い髪は、妹さんと同じだ。」
「俺の赤毛は、赤い炎となって世界を焼き尽くす」とグレゴリーは言った。「俺ほど何もかもを憎んでいる人間はいないと思っていた。だが分かった。俺が何より憎んでいるのは、お前だ!」
「私は一度も君を憎んだことなどない」と、サイムはひどく悲しげに言った。
すると、この理解しがたい生き物の内から、最後の雷鳴が炸裂した。
「お前だと!」彼は叫んだ。「お前が憎んだことなどあるものか。お前は生きたことすらないのだからな。最初から最後まで、お前たち全員が何者なのか、俺には分かっている――権力を握る連中だ! お前たちは警察だ――青い制服に金ボタンをつけた、でっぷり太ってにこにこしている大男どもだ! お前たちは法だ。そして一度も打ち破られたことがない。だが生きている自由な魂の中に、ただお前たちが一度も打ち破られたことがないというだけの理由で、お前たちを打ち砕きたいと願わぬ者がいるか? 反逆する俺たちは、政府のこの犯罪、あの犯罪について、疑いもなくあらゆる戯言を並べる。だが、そんなものはすべて愚かだ! 政府の唯一の罪は、統治することそのものだ。最高権力の許されざる罪は、それが最高であることだ。お前たちが残酷だから呪うのではない。親切だから呪うのでもない――もっとも、そのことで呪ってやってもいいがな。俺がお前たちを呪うのは、お前たちが安全だからだ! お前たちは石の椅子に座り、ただの一度もそこから下りたことがない。お前たちは天の七天使であり、苦しみなど味わったことがない。ああ、全人類を支配するお前たちよ。もしお前たちが一時間でも、俺のような真の苦悶を味わったのだと感じられるなら、何もかも許してやれるのに――」
サイムは頭のてっぺんから爪先まで震えながら、跳ねるように立ち上がった。
「すべてが分かった」と彼は叫んだ。「存在するすべてが。なぜ地上のものは、一つ一つ互いに争うのか? なぜ世界の小さなものはどれも、世界そのものと戦わなければならないのか? なぜ一匹の蠅が、全宇宙と戦わなければならないのか? なぜ一本の蒲公英が、全宇宙と戦わなければならないのか? 私があの恐るべき曜日の評議会で、たった一人にならなければならなかったのと同じ理由だ。法に従うすべてのものが、アナーキストの栄光と孤独を得るためだ。秩序のために戦う者も、爆弾を投げる者と同じほど勇敢で善良な人間となるためだ。サタンの真の嘘を、この冒涜者の顔へ叩き返すためだ。涙と拷問によって、我々がこの男に『嘘をつくな!』と言う権利を勝ち取るためだ。この告発者に『我々も苦しんだ』と言う権利を買うのなら、どれほどの苦悶でも大きすぎはしない。
「我々が一度も打ち砕かれたことがないなど、嘘だ。我々は車輪にかけられ、引き裂かれた。この玉座から一度も下りたことがないなど、嘘だ。我々は地獄へ下った。この男が傲慢にも現れ、我々を幸福だと告発したまさにその瞬間にも、我々は忘れようのない惨苦を訴えていたではないか。その誹謗を私は退ける。我々は幸福などではなかった。彼に告発された、法を守る偉大な衛兵たちの一人一人について、私が保証できる。少なくとも――」
そこで目を向けたサイムは、日曜日の巨大な顔に浮かぶ、奇妙な微笑を不意に見た。
「あなたは」と、サイムは恐ろしい声で叫んだ。「あなたは、苦しんだことがあるのか?」
見つめるうち、巨大な顔は恐るべき大きさへ膨れ上がった。子供のころのサイムを悲鳴を上げさせた、メムノンの巨像の仮面よりも大きくなった。さらに、さらに大きくなり、空全体を満たした。次の瞬間、すべてが暗黒に沈んだ。その闇が彼の意識を完全に打ち砕く直前、どこか遠くから、以前どこかで聞いたありふれた聖句を唱える声が聞こえたように思えた。「あなたがたは、わたしが飲む杯を飲むことができるか?」
物語の中の人物が幻から目覚めるとき、たいていは、眠り込んだとしても不思議ではない場所にいるものだ。椅子の上であくびをするか、野原から打ち身だらけの体を起こす。だがサイムの体験は、心理的にはるかに奇妙なものだった――そもそも彼の経験したことに、この地上の意味で現実でないものが少しでもあったのなら、だが。というのも、日曜日の顔の前で気を失ったことは後になってもつねに思い出せたのに、意識を取り戻した瞬間については、まったく記憶がなかったからだ。彼に思い出せるのは、いつからともなく、ごく自然に、自分が気心の知れた話し相手と田舎道を歩いているのだと知っていたことだけだった。その道連れも、つい先ほどまでの劇の登場人物だった。赤毛の詩人、グレゴリーである。二人は旧友のように連れ立って歩き、何か取るに足りないことを話していた。だがサイムは、自分の肉体に不思議な軽やかさを、精神には水晶のような単純明快さを感じていた。それは、自分の言うこと、することのすべてを超越しているようだった。彼は、あり得ないほど素晴らしい知らせを手にしているような気がした。その知らせの前では、ほかのすべてが些事となる――しかし、愛おしくてたまらない些事となるのだった。
万物の上に夜明けが訪れようとしていた。その色彩は鮮やかでありながら、おずおずとしていた。まるで自然が初めて黄色を試し、初めて薔薇色を試しているかのようだった。吹く風はあまりにも清らかで甘く、空から吹いてくるとは思えなかった。むしろ空に開いた穴を通り抜けてきた風のようだった。道の両側に、サフラン・パークの赤く不揃いな建物が立ち現れるのを見て、サイムは素朴な驚きを覚えた。ロンドンのこんな近くまで歩いてきたとは、思いもしなかった。彼は本能に導かれるまま、早起きの鳥たちが跳ね、さえずる白い道を進み、柵に囲まれた庭の前に出た。そこにいたのはグレゴリーの妹――金赤色の髪の娘だった。朝食前の庭で、娘らしい無意識の厳粛さをたたえながら、ライラックを切っていた。
公開日: 2026-07-15