オズのオズマ
カンザスのドロシー・ゲイル、黄色いめんどり、かかし、ブリキの木こり、ティックトック、臆病なライオン、お腹をすかせたトラ、そして、とても名を挙げきれないほど多くの善良な人々とともに繰り広げたオズマの冒険を、ここに忠実に記す
L・フランク・ボーム作
『オズの魔法使い』『オズの国』ほかの著者

ジョン・R・ニール画

Copyright, 1907, by L. Frank Baum. 無断複製を禁ず

わたしの物語を読んでくれるすべての少年少女たちへ――なかでも、とりわけドロシーという名の皆さんへ――愛をこめて本書を捧げる。
著者より
この新しい「オズの本」が生まれたのは、子どもである友人たちのおかげだ。前作の『オズの国』も、やはりそうだった。かわいらしい手紙の数々には、「ドロシーのことをもっと知りたい」と書かれている。また、「臆病なライオンはどうなったの?」「そのあと、オズマは何をしたの?」とも尋ねてくる――もちろん、「そのあと」とは、オズマがオズの国の統治者となったあとのことだ。なかには筋書きまで提案して、「ドロシーをもう一度オズの国へ行かせてください」とか、「オズマとドロシーを会わせて、一緒に楽しく過ごさせたらどうですか?」などと言う子もいる。
実際、小さな友人たちの願いをすべてかなえようとすれば、その望みを満たすために何十冊もの本を書かなければならないだろう。できるものなら、ぜひそうしたい。子どもたちが読むのを楽しんでくれているのと同じくらい、わたしもこの物語を書くのが楽しいからだ。
さて、ここには「ドロシーについてのさらなるお話」がある。昔なじみのかかしやブリキの木こり、臆病なライオン、オズマ、そのほかのみんなについても語られている。そしてまた、奇妙で風変わりな新しい仲間たちのことも、たっぷり登場する。この物語が出版される前に読んだ小さな友人のひとりは、わたしにこう言った。「ボームさん、ビリーナは、いかにもオズらしいですね。ティックトックと、お腹をすかせたトラもそうです。」
この評価が偏りのない正しいものであり、幼い読者たちにもこの新しい物語を「いかにもオズらしい」と感じてもらえたなら、書いた甲斐があったと心からうれしく思う。けれどおそらく、読者の皆さんから、歓迎すべき手紙がさらに届くことだろう。『オズのオズマ』をどんなふうに気に入ったか、詳しく教えてくれる手紙が。
ともかく、そう願っている。
L・フランク・ボーム
マカタワ、1907年

鶏小屋の少女

風が激しく吹きつけ、海の水を揺さぶって、水面にさざ波を立てた。すると風はそのさざ波の端を押し広げ、波へと変えた。さらに波をあちらこちらへ追い立て、ついには大うねりにしてしまった。うねりは恐ろしいほど高く盛り上がり、家の屋根さえ越えた。なかには高い木のてっぺんに届くほどのものまであり、まるで山々のようだった。そして巨大なうねりと、うねりとの間に開いた谷間は、深い峡谷のようだった。
いたずら好きの風が、なんの理由もないのに引き起こした大海原の狂乱――水が荒れ狂い、ぶつかり、砕け散る騒ぎは、ついに恐ろしい嵐となった。海の嵐というものは、奇妙な悪ふざけをいくつもしでかし、大きな被害をもたらしかねない。
風が吹きはじめたころ、海のはるか沖を一隻の船が進んでいた。波が転がり、のたうち、ますます大きくなるにつれて、船は上下に揺れ、右へ左へと傾き、手荒く翻弄された。船乗りたちでさえ、風にさらわれたり、海へ真っ逆さまに投げ出されたりしないよう、綱や手すりにしっかりつかまっていなければならなかった。
しかも空には雲が厚く垂れこめ、日の光さえ通さなかった。そのため昼間だというのに夜のように暗くなり、嵐の恐ろしさはいっそう増した。
船長は怖がってはいなかった。これまでにも嵐を経験し、そのたびに無事、船を切り抜けさせてきたからだ。しかし乗客が甲板に残ろうとすれば危険だとわかっていたので、全員を船室へ入れ、嵐が過ぎるまではそこにいるよう命じた。そして、気を強く持ち、怖がらずにいれば、きっと何事もなく済むと告げた。
さて、その乗客のなかに、ドロシー・ゲイルというカンザス生まれの少女がいた。ドロシーはヘンリーおじさんとともに、まだ一度も会ったことのない親戚を訪ねるため、オーストラリアへ向かっていた。実を言うと、ヘンリーおじさんはあまり健康ではなかった。カンザスの農場であまりにも働きすぎたため体を壊し、弱って神経も疲れていたのだ。そこでエムおばさんを家に残し、雇い人たちの監督と農場の世話を任せ、自分ははるばるオーストラリアへ行って、いとこたちを訪ね、ゆっくり休むことにしたのだった。
ドロシーはぜひ旅に同行したがった。ヘンリーおじさんも、ドロシーがいればよい話し相手となり、気持ちを明るくしてくれるだろうと考え、連れていくことにした。幼いながら、ドロシーはなかなか旅慣れていた。以前、竜巻にさらわれ、故郷から遠く離れた不思議なオズの国まで運ばれたことがあり、その奇妙な国で数々の冒険に出会った末、ようやくカンザスへ帰ってきたのだ。だから何が起きても簡単には怖がらなかった。風がうなり、口笛を吹き、波が転げ回って船を揺さぶりはじめても、少女はその大騒ぎを少しも気にしなかった。
「もちろん、船室にいなくちゃいけないわ」と、ドロシーはヘンリーおじさんやほかの乗客たちに言った。「嵐が終わるまで、できるだけ静かにしていましょう。船長さんが、甲板へ出たら風に吹き飛ばされて、海へ落ちるかもしれないって言ってたもの。」
そんな事故に遭う危険を冒したい者など、もちろんひとりもいなかった。そこで乗客たちはみな、暗い船室に身を寄せ合ったまま、嵐の絶叫や、帆柱と索具のきしむ音に耳を傾けた。そして船が横へ傾くたび、互いにぶつからないよう懸命にこらえていた。
ドロシーがもう少しで眠りに落ちそうになったとき、ふと目を覚まし、ヘンリーおじさんがいないことに気づいた。どこへ行ったのか、まるで見当がつかない。おじさんは体が丈夫ではなかったので、ドロシーは心配になり、うっかり甲板へ出てしまったのではないかと不安になった。もしそうなら、すぐに戻ってこないかぎり、たいへんな危険にさらされる。
本当のところ、ヘンリーおじさんは小さな寝台に横になりに行ったのだが、ドロシーはそれを知らなかった。エムおばさんから、おじさんの面倒をよく見るよう言いつけられたことだけを思い出した。そこで嵐がいよいよ激しくなり、船が本当に恐ろしい勢いで突っ込んだり跳ね上がったりしているにもかかわらず、すぐに甲板へ出て、おじさんを捜すことにした。実際、甲板へ続く階段を上るだけでも精いっぱいだった。ようやく上へ出ると、風がすさまじい勢いで襲いかかり、服の裾を引きちぎりそうになった。それでもドロシーは、嵐に立ち向かうことに、どこか胸の躍るような興奮を感じていた。手すりにしっかりつかまりながら暗闇に目を凝らすと、それほど遠くないところで、男らしい人影が帆柱にしがみついているのがぼんやり見えた。あれはおじさんかもしれない。そこでドロシーは、ありったけの声で叫んだ。
「ヘンリーおじさん! ヘンリーおじさん!」
「ヘンリーおじさん! ヘンリーおじさん!」
ドロシーは叫んだ
けれど風が狂ったように金切り声を上げ、うなりつづけていたため、自分の声さえほとんど聞こえなかった。当然、男にも聞こえなかったらしく、身じろぎひとつしなかった。
ドロシーは、あそこまで行かなければと決心した。そこで嵐が一瞬弱まった隙に、前方へ駆け出した。そこには大きな四角い鶏小屋が、綱で甲板に縛りつけられていた。無事そこまでたどり着き、鶏を入れておく大箱の桟をしっかりつかんだ――そのとたん、幼い少女が自分の力に逆らったことに腹を立てたかのように、風はいきなり猛威を倍増させた。怒れる巨人のような叫び声を上げ、鶏小屋をつないでいた綱を引きちぎると、桟にしがみついたドロシーごと高々と空へ持ち上げた。鶏小屋は縦に横に、ぐるぐると宙を舞い、しばらくすると船から遠く離れた海面へ落ちた。すると巨大な波がそれをつかまえ、泡立つ山頂まで押し上げたかと思えば、今度は深い谷底へ滑り落とした。まるで波が退屈しのぎに弄ぶ、ただのおもちゃのようだった。
もちろんドロシーは、すっかり水をかぶった。それでも一瞬たりとも冷静さを失わなかった。頑丈な桟をしっかり握りつづけ、目に入った水をぬぐうと、風が鶏小屋の屋根を吹き飛ばしてしまったことに気づいた。哀れな鶏たちは四方八方へ羽ばたきながら飛ばされ、柄のない羽根ばたきのように見えた。鶏小屋の底は厚い板でできていたため、ドロシーがつかまっているのは、桟の囲いがついた筏のようなものだった。それは少女ひとりの重さなら、難なく浮かべてくれた。喉に入った水をせき出し、息を整えると、ドロシーはなんとか桟を乗り越え、鶏小屋の頑丈な木の底板の上に立った。底板は少女を危なげなく支えてくれた。
「まあ、自分の船ができちゃった!」ドロシーは思った。突然こんな目に遭ったというのに、怖がるよりも面白がっていた。そして鶏小屋が大波の頂まで昇ると、自分が吹き飛ばされてきた船を捜して、あたりを懸命に見回した。
そのころには、船はもう、はるか彼方まで離れていた。船上の誰も、まだドロシーがいなくなったことに気づいていないのかもしれない。少女の奇妙な冒険についても、知る者はいないのだろう。鶏小屋は波間の谷底へ運ばれ、次の頂へ昇ったとき、船はあまりに遠く、小さなおもちゃの舟のように見えた。やがて暗がりのなかへ完全に消えてしまった。そこでドロシーは、ヘンリーおじさんと離れ離れになったことを悲しんで、ため息をついた。そして次には何が起こるのだろうと考えはじめた。
今、ドロシーは大海原の胸の上で、揺られつづけている。浮かんでいられるのは、板張りの底と桟の囲いしかない、みすぼらしい木の鶏小屋だけ。開いた桟の隙間からは、ひっきりなしに水しぶきが入り込み、少女を肌までずぶぬれにした! お腹がすいても――そして、きっとまもなく空腹になるはずだった――食べる物は何もない。飲める真水も、着替えられる乾いた服もなかった。
「まったくもう!」ドロシーは笑いながら叫んだ。「ずいぶん困ったことになったわね、ドロシー・ゲイル! ここからどうやって抜け出せばいいのか、さっぱりわからないわ!」
その苦難に追い打ちをかけるかのように、夜が忍び寄り、頭上の灰色の雲は墨を流したような黒へ変わっていった。しかし風は、いたずらにようやく満足したのか、この海で吹くのをやめ、世界のどこか別の場所で何かを吹き飛ばそうと、急いで去っていった。もう揺さぶられなくなった波は、しだいに静まり、おとなしくなっていった。
鶏小屋で漂流するドロシー
嵐が静まったのは、ドロシーにとって幸運だったと思う。そうでなければ、いくら勇敢な少女でも、命を落としていたかもしれない。ドロシーと同じ立場なら、多くの子どもは泣き出し、絶望に打ちひしがれていただろう。けれどドロシーはこれまでにも数多くの冒険に出会い、そのたび無事に切り抜けてきたので、このときも特別に怖がろうとは思わなかった。確かにぬれていて、居心地は悪かった。それでも先ほどお話ししたため息をひとつついただけで、いつもの明るさをなんとか取り戻し、どんな運命が待っていようと辛抱強く待とうと決めた。
やがて黒雲が流れ去り、頭上に青い空が現れた。その真ん中では銀色の月が優しく輝き、小さな星々は、ドロシーが目を向けるたび、楽しげにまたたいた。鶏小屋はもう激しく揺れず、波の上を穏やかに進んだ――まるで揺り籠に揺られているようだった。そのためドロシーの立つ床にも、桟の隙間から入った水が押し寄せなくなった。それに気づいた少女は、ここ数時間の興奮ですっかり疲れ果てていたこともあり、眠るのが力を取り戻す最良の方法であり、時を過ごすいちばん楽な手段だと考えた。床は湿っていて、自分も絞れるほどぬれていたが、幸いここは暖かな気候で、少しも寒くはなかった。そこで鶏小屋の隅に腰を下ろし、桟に背をもたせかけた。そして目を閉じる前に、親しげな星々へうなずいてみせると、ものの三十秒で眠りに落ちた。

黄色いめんどり

奇妙な音でドロシーは目を覚ました。目を開けてみると、夜は明け、澄みきった空から明るい日差しが降り注いでいた。ドロシーは夢のなかで再びカンザスへ戻り、昔の農家の庭で、子牛や豚や鶏たちに囲まれて遊んでいた。そのため最初、眠い目をこすりながら、本当にそこへ帰ってきたのだと思った。
「コッコッコッ、コケーコッ! コッコッコッ、コケーコッ!」
ああ、また聞こえた。ドロシーを起こした、あの奇妙な音だ。間違いなく、めんどりの鳴き声だった! けれど大きく見開いた目に最初に映ったのは、鶏小屋の桟越しに広がる、今は静かで穏やかな青い海だった。すると考えは、危険と苦難に満ちた昨夜へ舞い戻った。そして自分が嵐にさらわれ、油断のならない見知らぬ海を漂う身なのだと思い出した。
「コッコッコッ、コケェェーコッ!」
「何の音?」ドロシーは叫び、勢いよく立ち上がった。
「卵を一つ産んだだけよ」と、小さいながらも鋭く、はっきりした声が答えた。あたりを見回すと、鶏小屋の反対側の隅に、黄色いめんどりがうずくまっているのを見つけた。
「まあ!」ドロシーは驚いて声を上げた。「あなたも一晩中ここにいたの?」
「もちろん」と、めんどりは翼をばたつかせ、あくびをしながら答えた。「鶏小屋が船から吹き飛ばされたとき、あたしは爪とくちばしで、この隅に必死にしがみついたの。水に落ちたら、きっと溺れるとわかっていたから。もっとも、あれだけ水をかぶったんだから、結局もう少しで溺れるところだったけどね。生まれてから、あんなにぬれたことは一度もないわ!」
「ええ」とドロシーも同意した。「しばらくは、ずいぶんぬれたわよね。でも今は、もう気持ちよくなった?」
「あまりね。お日さまのおかげで、あたしの羽根も、あなたの服も乾いてきたし、朝の卵を産んで少し気分はよくなったけど。けれど、こんな大きな池に浮かんだまま、あたしたち、これからどうなるのかしら?」
「わたしも知りたいわ」とドロシーは言った。「でも教えて。どうしてあなた、お話しできるの? めんどりは、コッコッとかコケコッコーとか鳴くだけだと思ってた。」
「それがね」と黄色いめんどりは考え深げに答えた。「あたしは一生、コッコッ、コケコッと鳴いてきたけれど、覚えているかぎり、今朝までひと言もしゃべったことはなかったの。でもさっき、あなたに質問されたら、答えるのが世界でいちばん自然なことのように思えた。それで口を利いたら、あなたやほかの人間たちと同じように、ずっとしゃべりつづけられるみたい。変でしょう?」
「とっても」とドロシーは答えた。「ここがオズの国だったら、それほど変だとは思わないわ。あのおとぎの国では、たくさんの動物がお話しできるから。でも、この海はきっとオズからずいぶん遠いはずよ。」
「あたしの文法はどう?」黄色いめんどりは心配そうに尋ねた。「あなたから見て、ちゃんと正しく話せている?」
「ええ」とドロシーは言った。「初心者にしては、とても上手よ。」
「それを聞いて安心したわ」と、黄色いめんどりは打ち明け話をするような口調でつづけた。「どうせ話すなら、正しく話すに越したことはないもの。赤い雄鶏は、あたしのコッコッという鳴き方も、コケコッという鳴き方も完璧だと、よく言ってくれたわ。だから今度は、ちゃんと話せているとわかって安心した。」
「なんだかお腹がすいてきたわ」とドロシーは言った。「もう朝ごはんの時間なのに、朝ごはんがないわね。」
「あたしの卵を食べてもいいわよ」と黄色いめんどりは言った。「あたしにはいらないから。」
「卵をかえしたくないの?」少女は驚いて尋ねた。
「ええ、ちっとも。どこか静かな場所に、暖かくて居心地のよい巣があって、その下にパン屋の一ダース分の卵がそろっていなければ、卵をかえしたいとは思わないわ。パン屋の一ダースは十三個のことよ。めんどりにとっては縁起のよい数なの。だから、この卵は食べてしまって構わないわ。」
「まあ、火を通さなきゃ、とても食べられないわ」とドロシーは叫んだ。「でも、ご親切はとってもうれしい。ありがとう。」
「どういたしまして」とめんどりは落ち着いて答え、羽づくろいをはじめた。
しばらくの間、ドロシーは立ったまま、広い海を眺めていた。それでもまだ卵のことを考えていたらしく、やがて尋ねた。
「かえすつもりがないのに、どうして卵を産むの?」
「あたしの習慣だからよ」と黄色いめんどりは答えた。「羽が生え替わる時期を除けば、毎朝、新鮮な卵を一つ産むのが、あたしの誇りなの。きちんと卵を産むまでは、朝のコケコッをやりたい気分になれないし、コケコッと鳴けなかったら、あたしは幸せではいられないわ。」
「不思議ね」と少女は考えながら言った。「でも、わたしはめんどりじゃないんだから、わからなくても仕方ないわね。」
「もちろんよ。」
それからドロシーは再び黙り込んだ。黄色いめんどりは話し相手になり、少しは慰めにもなった。けれど、それでも大海原にいるのは、たまらなく心細かった。
しばらくすると、めんどりは飛び上がり、鶏小屋のいちばん上の桟に止まった。ドロシーが底板に座ると、その桟は頭より少し高いところにあった。ここしばらく、ドロシーはずっと座っていたのだ。
「あら、陸までそれほど遠くないわ!」めんどりが叫んだ。
「どこ? どこにあるの?」ドロシーは興奮して飛び上がった。
「あちら、少し先よ」と、めんどりはある方角へ首を振りながら答えた。「あっちへ流されているみたいだから、お昼までには、また乾いた地面の上に立てるはずよ。」
「それはうれしいわ!」ドロシーは小さなため息をついて言った。開いた桟から入ってくる海水で、足や脚が今もときどきぬれていたからだ。
黄色いめんどり
「あたしもうれしい」と連れは答えた。「ぬれためんどりほど、みじめなものは世界にないもの。」
浮かぶ鶏小屋から少女が眺めた陸地は、刻々とはっきりしてきたので、かなりの速さで近づいているらしかった。そして、とても美しい土地だった。水際には白い砂と小石の広い浜があり、その奥には岩山がいくつかそびえていた。さらにその向こうには、森の縁を示す緑の木々が帯のように連なっていた。しかし家は一軒も見えず、この未知の土地に人が住んでいるという気配もなかった。
「何か食べる物が見つかるといいんだけど」と、ドロシーは流れ着こうとしている美しい浜を熱心に眺めながら言った。「朝ごはんの時間は、とっくに過ぎちゃったもの。」
「あたしも少しお腹がすいたわ」と黄色いめんどりも言った。
「どうして卵を食べないの?」少女が尋ねた。「あなたなら、わたしと違って、食べ物を料理しなくていいでしょう?」
「あたしを共食いする野蛮人だと思ってるの?」めんどりは憤慨して叫んだ。「いったい、あたしのどんな言動が、そんな侮辱を招いたというの!」
「ごめんなさい、ええと、奥さま――奥さま――そういえば、お名前を伺ってもよろしいですか?」少女は尋ねた。
「あたしの名前はビルよ」と黄色いめんどりは、いささかぶっきらぼうに言った。
「ビル! でも、それは男の子の名前よ。」
「それがどうしたの?」
「あなたは女のめんどりでしょう?」
「もちろんよ。でも、あたしが卵からかえったばかりのころは、めんどりになるのか、雄鶏になるのか、誰にもわからなかったの。それで、あたしが生まれた農場の男の子がビルと名づけた。そして、ひと腹のひよこのなかで黄色いのはあたしだけだったから、かわいがってくれたのよ。大きくなって、ほかの雄鶏みたいに時を告げたり喧嘩したりしないとわかっても、男の子は名前を変えようとは思わなかった。農家の人たちも、庭の生き物たちも、みんなあたしを『ビル』と呼んだわ。だから、ずっとビルと呼ばれてきたし、ビルがあたしの名前なの。」
「でも、それじゃ間違ってるわ」とドロシーは真剣に言った。「よかったら、あなたを『ビリーナ』と呼ぶことにする。最後に『イーナ』をつければ、女の子の名前になるでしょう。」
「ああ、ちっとも構わないわ」と黄色いめんどりは答えた。「どう呼ばれたって、その名前があたしを指しているとわかりさえすれば、なんの問題もないもの。」
「それじゃ、ビリーナ。わたしの名前はドロシー・ゲイル――友達ならドロシー、知らない人ならゲイルさんよ。あなたは好きなら、ドロシーと呼んでいいわ。もう岸がすぐそこね。残りは歩いて渡れるくらい浅いと思う?」
「もう少し待ちなさいな。日差しは暖かくて気持ちがいいし、急ぐことはないわ。」
「でも足がずぶぬれで、ぐっしょりしてるの」と少女は言った。「服はだいたい乾いたけど、足が乾くまでは本当に気持ちよくなれないわ。」
それでもめんどりの助言どおり待っていると、まもなく大きな木の鶏小屋は砂浜にそっとこすれて止まり、危険な航海は終わった。
漂流者たちが岸へ上がるまで、そう時間はかからなかった。黄色いめんどりはすぐ砂地へ飛び移ったが、ドロシーは高い桟を乗り越えなければならなかった。それでも田舎育ちの少女にとっては、たいした芸当ではない。無事に上陸すると、ドロシーはぬれた靴と靴下を脱ぎ、日差しで暖まった浜辺に広げて乾かした。
それから腰を下ろし、ビリーナを眺めた。ビリーナは鋭いくちばしで砂や小石をつつき、丈夫な爪でかき起こしては、ひっくり返していた。
「何をしてるの?」ドロシーが尋ねた。
「もちろん、朝ごはんを捜してるのよ」と、めんどりは忙しくつつきながらつぶやいた。
「なんて恐ろしいの!」
ドロシーは叫んだ
「何が見つかるの?」少女は興味深そうに尋ねた。
「太った赤アリや、砂虫、それに、ときどき小さなカニもいるわ。どれも甘くておいしいのよ、本当に。」
「なんて恐ろしいの!」ドロシーは衝撃を受けた声で叫んだ。
「何が恐ろしいの?」めんどりは首を上げ、片方の輝く目で連れを見つめながら尋ねた。
「だって、生きているものや、気味の悪い虫、這い回るアリなんかを食べるなんて。恥ずかしいと思わなくちゃ!」
「まあまあ!」めんどりは困惑した口調で答えた。「あなたって本当に変わってるわね、ドロシー! 生きているものは、死んだものよりずっと新鮮で体にいいのよ。それに人間だって、いろいろな死んだ生き物を食べるじゃない。」
「食べないわ!」ドロシーは言った。
「食べるでしょう」とビリーナは答えた。「子羊も、羊も、牛も、豚も、それに鶏まで食べるじゃない。」
「でも、人間は料理するもの」とドロシーは勝ち誇って言った。
「それで何が違うの?」
「ずいぶん違うわ」と少女は、少し真面目な口調で言った。「何が違うのか、うまく説明できないけど、ちゃんと違うの。それに、とにかく、人間は虫みたいな恐ろしいものは絶対に食べないわ。」
「でも、その虫を食べる鶏を食べるでしょう」と黄色いめんどりは、奇妙な声でコケッと笑って言い返した。「だから人間だって、あたしたち鶏と同じくらい悪いわ。」
これにはドロシーも考え込んだ。ビリーナの言うことは確かに正しく、もう少しで朝ごはんを食べる気が失せるところだった。黄色いめんどりのほうは、忙しそうに砂をつつきつづけ、その献立にすっかり満足しているようだった。
やがて水際近くまで来ると、ビリーナは砂へ深くくちばしを突っ込んだ。だが次の瞬間、すぐに引き抜き、身震いした。
「痛い!」ビリーナは叫んだ。「今度は金属にぶつかったわ。もう少しで、くちばしが折れるところだった。」
「たぶん石よ」とドロシーは無頓着に言った。
「ばかを言わないで。石と金属の違いくらい、あたしにだってわかるわよ」とめんどりは言った。「ぶつかったときの感触が違うもの。」
「でも、こんな荒れ果てた無人の海岸に、金属なんてあるはずないわ」と少女は言い張った。「どこなの? わたしが掘り出して、自分のほうが正しいと証明してあげる。」
ビリーナは、自分の言い方では「くちばしをつまずかせた」場所を教えた。ドロシーが砂を掘ると、やがて何か硬い物に触れた。そこで手を差し入れ、それを引っ張り出したところ、大きな金の鍵だとわかった。かなり古そうだったが、今も明るく輝き、形も完全なままだった。
「だから言ったでしょう?」めんどりは勝ち誇ってコケッと笑った。「ぶつかったものが金属かどうか、あたしにはわかる? それとも、これが石だとでも?」
「確かに金属ね」と少女は答え、見つけた奇妙な品を考え深げに眺めた。「純金だと思うわ。きっと長い間、砂のなかに隠れていたのね。どうしてここに来たと思う、ビリーナ? それに、この謎めいた鍵はいったい何を開けるのかしら?」
「さあね」とめんどりは答えた。「錠前や鍵のことなら、あたしよりあなたのほうが詳しいはずよ。」
ドロシーはあたりを見回した。その一帯には家らしいものが何もなかった。けれど、どんな鍵にも合う錠前があり、どんな錠前にも何かの役目があるはずだと考えた。もしかすると、この岸辺を歩いた遠い土地の住人が、鍵をなくしたのかもしれない。
そんなことを考えながら、少女は鍵を服のポケットへ入れた。それから、日差しですっかり乾いた靴下と靴を、ゆっくり身につけた。
「ねえ、ビリーナ」と少女は言った。「ちょっとあたりを見て、朝ごはんが見つからないか捜してみるわ。」

砂に書かれた文字

水際から少し離れ、木立のほうへ歩いていくと、ドロシーは白い砂が平らに広がる場所へ出た。その表面には、棒で砂に文字を書くときのように、奇妙なしるしが記されていた。
「何て書いてあるの?」少女は、隣をいささか気取った足取りで進む黄色いめんどりに尋ねた。
「どうして、あたしにわかるの?」めんどりは答えた。「字は読めないわ。」
「あら! 読めないの?」
「もちろんよ。学校へ行ったことがないもの。」
「まあ、わたしは行ったことがあるけど」とドロシーは認めた。「でも文字が大きくて、間がずいぶん離れているから、単語を読み取るのが難しいわ。」
それでも一文字ずつ注意深く見ていき、ついに砂にはこう書かれているとわかった。
「車輪人に用心せよ!」
「ずいぶん変ね」と、ドロシーがその言葉を読み上げると、めんどりは言った。「車輪人って、何だと思う?」
「車輪で動く人たちじゃないかしら。きっと手押し車か、乳母車か、荷車を持ってるのよ」とドロシーは言った。
「自動車かもしれないわ」と黄色いめんどりが言った。「乳母車や手押し車に用心する必要はないけれど、自動車は危険よ。あたしの友達も何羽か、ひかれたことがあるもの。」
「自動車じゃありえないわ」と少女は答えた。「ここは新しくて荒れ果てた土地で、路面電車も電話もないもの。ここの人たちは、まだ発見されていないに違いないわ――そもそも人がいるならだけど。だから自動車なんてあるはずないと思う、ビリーナ。」
「そうかもしれないわね」と黄色いめんどりは認めた。「今度はどこへ行くの?」
「あの木々のところ。果物か木の実が見つからないか、見に行くの」とドロシーは答えた。
少女は砂の上を踏みしめ、近くにそびえる小さな岩山の麓を回って、やがて森の端へ着いた。
最初、ドロシーはひどくがっかりした。手前に生えていたのは、どれもプニータやポプラやユーカリで、果物も木の実もまったくつけていなかったからだ。けれどそのうち、もう絶望しかけたころ、食べ物をたっぷり恵んでくれそうな二本の木を見つけた。
一本には、四角い紙の箱がびっしり実っていた。どの枝にも房になってつき、いちばん大きく熟した箱には「昼食」と、整った浮き彫りの文字で記されていた。この木は一年中実をつけるらしい。枝によっては昼食箱の花が咲き、別の枝には、まだ青くて小さな昼食箱がついていた。明らかに、もっと大きくなるまでは食べるのに向いていなかった。
この木の葉は、すべて紙ナプキンだった。お腹をすかせた少女の目には、なんとも魅力的に映った。
けれど昼食箱の木の隣は、さらに不思議だった。ブリキの夕食桶が大量に実り、中身が詰まって重いため、頑丈な枝がその重みでしなっていた。小さい桶は濃い茶色で、それより大きなものは、くすんだブリキ色だった。しかし本当に熟したものは、明るいブリキ色の桶となり、降り注ぐ日差しを受けて美しくきらめいていた。
ドロシーは大喜びし、黄色いめんどりでさえ、驚いたと認めた。
少女はつま先立ちになり、いちばん見事で大きな昼食箱を一つもぎ取った。それから地面に座り、急いで箱を開けた。中には白い紙で一つずつきれいに包まれたハムサンドイッチ、スポンジケーキ、ピクルス、新しいチーズ一切れ、そしてリンゴが入っていた。それぞれに別々の茎がついていて、箱の内側からもぎ取らなければならなかった。けれど、どれもたいへんおいしく、ドロシーは昼食箱の中身を最後のひとかけらまで食べ尽くした。
「昼食は、きっちり言えば朝ごはんじゃないけど」と、隣に座って興味深そうに眺めているビリーナに言った。「でも、お腹がすいていれば、朝から夕ごはんだって食べられるし、文句なんか出ないわ。」
「その昼食箱、ちゃんと熟していたんでしょうね」と黄色いめんどりは心配そうに言った。「青い物を食べて病気になることは、とても多いのよ。」
少女は昼食箱を一つもぎ取った
「ええ、きっと熟してたわ」とドロシーは言った。「ピクルスだけは別だけど、ピクルスは青くなくちゃいけないもの、ビリーナ。でも、どれも本当にすばらしい味だった。教会の野外昼食会より、こっちのほうがいいわ。それじゃ今度は、またお腹がすいたときのために、夕食桶を一つ取っておく。それから出発して、この国を探検し、ここがどこなのか調べましょう。」
「ここがどこの国か、まったくわからないの?」ビリーナが尋ねた。
「さっぱり。でも聞いて。ここは、おとぎの国に違いないと思うの。そうでなければ、木に昼食箱や夕食桶が実るはずないもの。それにビリーナ、カンザスみたいに妖精がまったくいない文明国では、めんどりのあなたが話せるはずもないわ。」
「もしかすると、ここはオズの国かもしれないわ」と、めんどりは考え深げに言った。
「いいえ、それはありえない」と少女は答えた。「わたしはオズの国へ行ったことがあるけど、あそこは誰にも渡れない恐ろしい砂漠に、ぐるりと囲まれているもの。」
「それなら、どうやってオズから出たの?」ビリーナが尋ねた。
「銀の靴を持っていて、それが空を飛んで運んでくれたの。でも、なくしてしまったわ」とドロシーは言った。
「ああ、そうなの」と黄色いめんどりは、信じていない口調で言った。
「それに」と少女は話をつづけた。「オズの国の近くに海岸はないわ。だからここは、きっと別のおとぎの国よ。」
話しながら、丈夫そうな取っ手のついた、明るく美しい夕食桶を選び、枝からもぎ取った。それから黄色いめんどりを連れ、木陰を出て海岸へ向かった。
二人が砂地を半ばまで渡ったとき、ビリーナが突然、恐怖に満ちた声で叫んだ。
「あれは何?」

ドロシーがすばやく振り返ると、木々の間から延びる小道を通って、これまで目にしたこともないほど奇妙な人物が近づいてくるのが見えた。
姿は人間に似ていた。ただし四つん這いで歩いて――いや、転がっていた。その脚は腕と同じ長さで、まるで獣の四本脚のように見えた。けれどドロシーが見つけたのは、獣ではなかった。色とりどりの刺繍を施した、たいそう華麗な服をまとい、頭の横には麦わら帽子を粋に傾けていたからだ。しかし人間とは異なり、その手足の先には丸い車輪が生えていた。そして、その車輪を使って平らな地面をたいへんな速さで転がってきた。のちにドロシーは、その奇妙な車輪が、人間の手足の爪と同じ硬い物質からできていることを知った。また、この不思議な種族は、生まれつきこのような姿をしていることも知った。けれど、これから少女に多くの厄介事をもたらす運命にある種族のひとりを初めて目にしたとき、きらびやかな服を着たその人物は、足だけでなく手にもローラースケートをつけているのだと思った。
「逃げて!」黄色いめんどりは叫び、ひどくおびえて羽ばたいた。「車輪人よ!」
「車輪人よ!」
「車輪人?」ドロシーは叫んだ。「いったい何なの?」
「砂に書かれた警告を忘れたの? 『車輪人に用心せよ!』って。逃げなさいってば――早く!」
そこでドロシーは走り出し、車輪人は甲高く荒々しい叫び声を上げ、全速力であとを追った。
走りながら肩越しに振り返ると、森から車輪人の大集団が続々と現れるのが見えた――何十人も、さらに何十人も。みな見事なぴったりした服を身にまとい、奇妙な叫び声を上げながら、すばやく転がってくる。
「絶対につかまっちゃう!」少女は息を切らした。もぎ取った重い夕食桶を、今も抱えていた。「もうあまり走れないわ、ビリーナ。」
「この丘に登るのよ――早く!」めんどりが言った。見ると、森へ向かう途中に通り過ぎた、崩れたぎざぎざの岩山がすぐ近くにあった。黄色いめんどりはすでに岩の間を羽ばたいており、ドロシーもできるかぎり懸命にあとを追った。険しく荒れた斜面を、半分よじ登り、半分転がるようにして進んだ。
まさに間一髪だった。先頭の車輪人が、ドロシーのすぐあとに丘へたどり着いたのだ。しかし少女が岩をよじ登る一方で、その怪物は怒りと悔しさの咆哮を上げ、ぴたりと止まった。
するとドロシーの耳に、黄色いめんどりが、いかにもめんどりらしくコケコケと笑う声が聞こえた。
「急がなくていいわよ」とビリーナは叫んだ。「岩の間までは追ってこられないから、もう安全よ。」
ドロシーはすぐに立ち止まり、平たい大岩へ腰を下ろした。すっかり息が上がっていた。
残りの車輪人たちも丘の麓へたどり着いたが、荒くとがった岩の上では車輪が転がらないらしく、ドロシーとめんどりが逃げ込んだ場所まで追うことはできなかった。しかし連中は小さな丘をぐるりと取り囲んだ。そのため少女とビリーナは完全な囚われの身となり、下りればつかまってしまう。
怪物たちは前輪をドロシーに向かって、脅すように振った。どうやら恐ろしい叫び声を上げるだけでなく、言葉も話せるらしく、何人かがこう怒鳴った。
「いつか必ずつかまえてやる! 覚悟しておけ! つかまえたら、ずたずたに引き裂いてやるぞ!」
「どうして、そんなにひどいことをするの?」ドロシーが尋ねた。「わたしはこの国へ来たばかりで、あなたたちに何も悪いことをしていないわ。」
「何もしていないだと!」連中の頭らしい者が叫んだ。「我々の昼食箱と夕食桶をもぎ取ったではないか! 盗んだ夕食桶を、今も手に持っているではないか!」
「一つずつ、もらっただけよ」とドロシーは答えた。「お腹がすいていたし、あの木があなたたちのものだとは知らなかったの。」
「そんなことは言い訳にならん」と、ひときわ豪華な服を着た頭は言い返した。「我々の許しなく夕食桶をもいだ者は、ただちに死なねばならぬ。それがこの国の掟だ。」
「信じちゃだめよ」とビリーナが言った。「あの木が、こんな恐ろしい連中のものだとは思えないわ。悪さなら何でもしそうな連中だもの。あなたが夕食桶を取っていなくても、やっぱりあたしたちを殺そうとしたはずよ。」
「わたしもそう思う」とドロシーは同意した。「でも、これからどうすればいいの?」
「ここにいるのよ」と黄色いめんどりは勧めた。「少なくとも、餓死するまでは車輪人から安全だわ。それまでには、いろいろなことが起きるかもしれないもの。」

機械人間ティックトック

一時間ほどすると、車輪人の一団は大半が森へ戻り、丘を見張る三人だけが残った。三人は大きな犬のように体を丸め、砂の上で眠ったふりをした。しかしドロシーもビリーナも、その策略にはだまされなかった。そこで安全な岩の間にとどまり、狡猾な敵には目もくれなかった。
やがて丘の上を羽ばたいていためんどりが、「まあ、道があるわ!」と叫んだ。
そこでドロシーは、すぐにビリーナの止まっている場所までよじ登った。確かにそこには、岩の間を切り開いた滑らかな道があった。丘の頂から麓まで、コルク抜きのようにぐるぐると巻きついているようだった。荒々しい巨岩の間を右へ左へ曲がっていたが、道はどこまでも平らで歩きやすかった。
最初、ドロシーは、なぜ車輪人がこの道を転がってこないのだろうと不思議に思った。しかし道をたどって丘の麓まで下りると、その端を大きな岩がいくつも塞いでいるのを見つけた。そのため外からは道が見えず、車輪人もその道を使って丘へ登れなかったのだ。
そこでドロシーは道を引き返し、丘の頂までたどった。そこには、周囲のどの岩よりも大きな、丸い岩がぽつんと立っていた。道はその大岩のすぐそばで終わっていたため、そもそも何のために造られたのか、少女にはしばらくわからなかった。けれど、ずっと真面目な様子でついてきて、今はドロシーの後ろにある岩の先へ止まっていためんどりが、ふいに言った。
「何だか扉みたいに見えない?」
「何が扉みたいなの?」少女は尋ねた。
「ほら、目の前にある岩の割れ目よ」とビリーナは答えた。ビリーナの丸い小さな目はたいへん鋭く、何でも見抜いてしまうようだった。「片側を上へ延び、反対側を下へ降り、上と下にも横向きに走っているわ。」

「何が?」
「だから、割れ目よ。蝶番は見当たらないけれど、きっと岩の扉だと思うわ。」
「あら、本当ね」とドロシーは言った。ようやく初めて岩の割れ目に気づいたのだ。「それに、これは鍵穴じゃない、ビリーナ?」そう言って、扉の脇にある丸く深い穴を指さした。
「もちろんよ。鍵さえあれば、開けて中に何があるのか見られるのに」と黄色いめんどりは答えた。「もしかしたら、ダイヤモンドやルビー、きらめく金の山でいっぱいの宝物庫かもしれないし、それとも――」
「それで思い出したわ」とドロシーは言った。「岸で拾った金の鍵よ。この鍵穴に合うと思う、ビリーナ?」
「試してみればわかるわ」とめんどりが言った。
そこでドロシーは服のポケットを探り、金の鍵を取り出した。それを岩の穴へ差し込んで回すと、突然、鋭い音がカチリと響いた。続いて少女の背筋がぞくぞくするほど重々しくきしみながら、岩の正面が蝶番のついた扉のように外側へ倒れ、すぐ内側にある小さな暗い部屋が姿を現した。
「まあ、怖い!」ドロシーは叫び、狭い道で下がれるだけ後ずさった。
岩の狭い部屋のなかに、人間の姿が立っていたのだ――少なくとも、薄暗い光のなかでは人間に見えた。背丈はドロシーと同じくらいしかなく、体は球のように丸く、磨き上げた銅でできていた。頭と手足も銅製で、昔の騎士が着た鎧のように、関節を金属の覆いで包まれ、奇妙な仕組みで胴体とつながっていた。ぴくりとも動かずに立ち、光が当たる部分は、純金でできているかのようにきらめいていた。
「この銅の人は、まるで生きていないわ。」
「怖がらなくていいわ」と、止まり木の上からビリーナが呼びかけた。「生きてはいないもの。」
「本当ね」と少女は答え、長く息をついた。
「家の農場にあった古いやかんと同じで、ただ銅でできているだけよ」とめんどりはつづけた。首を右へ左へ傾け、丸い小さな両目で、その物体を調べていた。
「前にね」とドロシーは言った。「ブリキでできた人と知り合いだったの。ニック・チョッパーという木こりよ。でも、わたしたちと同じように生きていたわ。もともとは本物の人間として生まれたけど、少しずつブリキの体になったから――最初は脚、次は指、それから耳というふうにね。斧で何度も事故を起こして、うっかり自分の体を切り刻んでしまったからなの。」
「ふうん」とめんどりは鼻を鳴らした。話を信じていないようだった。
「でも、この銅の人は」とドロシーは大きな目で見つめながら、話をつづけた。「まるで生きていないわ。何のために造られたのか、どうしてこんな変な場所に閉じ込められていたのかしら。」
「謎ね」とめんどりは言い、くちばしで翼の羽根を整えるために首をねじった。
ドロシーは銅の人の背中を見るため、小部屋のなかへ足を踏み入れた。すると両肩の間に、印刷された札が下がっているのを見つけた。札は首の後ろにある小さな銅の突起から吊るされていた。それを外して明るい道へ戻り、平たい岩に腰を下ろして、書かれた文字を読んだ。
「何て書いてあるの?」めんどりが興味深そうに尋ねた。
ドロシーは難しい単語を苦労して読み解きながら、札を声に出して読んだ。そこには、こう書かれていた。
スミス&ティンカー社製
特許取得・複動式・超高感度・思考生成・完全会話型
機械人間
当社独自の時計仕掛けを搭載。思考し、会話し、行動し、生きること以外は何でもこなします。
エヴの国エヴナにある当社工場でのみ製造。あらゆる特許侵害は、法律に従い、ただちに訴追されます。
「まあ、変なの!」黄色いめんどりは言った。「この内容、全部本当だと思う?」
「わからないわ」とドロシーは答えた。札には、まだつづきがあった。「聞いて、ビリーナ。」
使用方法:
思考させるには――時計人間の左腕の下、「一」の印がある箇所のぜんまいを巻いてください。
会話させるには――時計人間の右腕の下、「二」の印がある箇所のぜんまいを巻いてください。
歩行および行動させるには――背中の中央、「三」の印がある箇所のぜんまいを巻いてください。
注――本機構は、千年間完全に作動することを保証します。
「まあ、びっくり!」黄色いめんどりは驚きのあまり息をのんだ。「この銅の人が、その半分でもできるなら、とてつもない機械だわ。でも、きっとほかの特許商品と同じで、全部でたらめよ。」
「ぜんまいを巻いてみない?」ドロシーが言った。「そうすれば、何をするかわかるわ。」
「時計仕掛けの鍵はどこ?」ビリーナが尋ねた。
「札を見つけた突起に掛かってる。」
「それなら」とめんどりは言った。「試して、動くか確かめましょう。千年間保証されているそうだけど、この岩の中に何年立っていたのか、あたしたちにはわからないもの。」
ドロシーはすでに、ぜんまいの鍵を突起から外していた。
ドロシーは「一」のぜんまいを巻いた
「どれから巻けばいい?」少女は札の説明をもう一度見ながら尋ねた。
「『一』だと思うわ」とビリーナは答えた。「それで考えるようになるんでしょう?」
「ええ」とドロシーは言い、左腕の下にある「一」のぜんまいを巻いた。
「何も変わらないみたい」と、めんどりは厳しい目で観察しながら言った。
「それはそうよ。今はただ考えているだけだもの」とドロシーは言った。
「何を考えているのかしら。」
「お話のぜんまいも巻くわ。そうすれば、教えてくれるかもしれない。」
そこでドロシーが「二」のぜんまいを巻くと、機械人間は唇以外、体のどこも動かさず、すぐに話しはじめた。
「お・は・よ・う、ご・ざ・い・ま・す、ち・い・さ・な、お・じょ・う・さ・ん。お・は・よ・う、ご・ざ・い・ま・す、め・ん・ど・り・お・く・さ・ん。」
声はいささかかすれ、きしんでいた。言葉はすべて同じ調子で発せられ、抑揚がまるでなかった。それでもドロシーにもビリーナにも、言っていることは完全に理解できた。
「おはようございます」と二人は丁寧に答えた。
「わ・た・し・を、た・す・け・て、く・れ・て、あ・り・が・と・う」と、機械は同じ単調な声でつづけた。その声は、子どもが握ると鳴き声を出すおもちゃの子羊や猫のように、体内のふいごで動いているらしかった。

「どういたしまして」とドロシーは答えた。それから好奇心に駆られ、尋ねた。「どうして、この場所に閉じ込められたの?」
「な・が・い、は・な・し・で・す・が、み・じ・か・く、お・は・な・し、し・ま・しょ・う。わ・た・し・は、せ・い・ぞ・う・しゃ、ス・ミ・ス&ティ・ン・カー・しゃ・か・ら、エ・ヴォ・ル・ド、と・い・う、ざ・ん・こ・く・な、エ・ヴ・の・お・う・に、か・わ・れ・ま・し・た。お・う・は、め・し・つ・か・い・た・ち・を、し・ぬ・ま・で、な・ぐ・る・ひ・と・で・し・た。し・か・し、わ・た・し・を、こ・ろ・す・こ・と・は、で・き・ま・せ・ん・で・し・た。わ・た・し・は、い・き・て、い・な・かっ・た・か・ら・で・す。し・ぬ・た・め・に・は、ま・ず、い・き・て、い・な・け・れ・ば、な・り・ま・せ・ん。で・す・か・ら、い・く・ら、な・ぐ・ら・れ・て・も、わ・た・し・に、が・い・は、な・く、ど・う・の、か・ら・だ・が、き・れ・い・に、み・が・か・れ・る、だ・け・で・し・た。
「こ・の、ざ・ん・こ・く・な、お・う・に・は、う・つ・く・し・い、つ・ま・と、じゅ・う・に・ん・の、う・つ・く・し・い、こ・ど・も・が、い・ま・し・た――お・と・こ・の・こ、ご・に・ん・と、お・ん・な・の・こ、ご・に・ん・で・す。し・か・し、あ・る・と・き、お・う・は、い・か・り・に、ま・か・せ、か・ぞ・く・を、ぜ・ん・い・ん、ノー・ム・の・お・う・に、う・り・わ・た・し・ま・し・た。ノー・ム・の・お・う・は、ま・ほ・う・で、か・れ・ら・を、べ・つ・の、す・が・た・に、か・え、ち・か・きゅ・う・で・ん・の、へ・や・を、か・ざ・る、か・ざ・り・も・の・に、し・ま・し・た。
「そ・の・あ・と、エ・ヴ・の・お・う・は、じ・ぶ・ん・の、わ・る・い、お・こ・な・い・を、く・や・み、つ・ま・と、こ・ど・も・た・ち・を、ノー・ム・の・お・う・か・ら、と・り・も・ど・そ・う・と、し・ま・し・た。し・か・し、う・ま・く、い・き・ま・せ・ん・で・し・た。そ・こ・で、ぜ・つ・ぼ・う・し、わ・た・し・を、こ・の・い・わ・に、と・じ・こ・め、か・ぎ・を、う・み・へ、な・げ・す・て、じ・ぶ・ん・も、あ・と・を、お・っ・て、と・び・こ・み、お・ぼ・れ・て、し・に・ま・し・た。」
「なんて恐ろしいの!」ドロシーは叫んだ。
「まっ・た・く、そ・の・と・お・り・で・す」と機械は言った。「と・じ・こ・め・ら・れ・た、わ・た・し・は、こ・え・の、ぜ・ん・ま・い・が、き・れ・る・ま・で、た・す・け・を、よ・び・ま・し・た。つ・ぎ・に、こ・う・ど・う・の、ぜ・ん・ま・い・が、き・れ・る・ま・で、こ・の、ち・い・さ・な、へ・や・を、い・っ・た・り、き・た・り、し・ま・し・た。そ・れ・か・ら、う・ご・か・ず、し・こ・う・の、ぜ・ん・ま・い・が、き・れ・る・ま・で、か・ん・が・え・ま・し・た。そ・の・あ・と・は、あ・な・た・が、も・う・い・ち・ど、ぜ・ん・ま・い・を、ま・く・ま・で、な・に・も、お・ぼ・え・て、い・ま・せ・ん。」
「とても不思議なお話ね」とドロシーは言った。「やっぱりエヴの国は、わたしが思ったとおり、本物のおとぎの国なのね。」
銅の人は岩の洞窟から歩み出た
「も・ち・ろ・ん、そ・う・で・す」と銅の人は答えた。「わ・た・し・ほ・ど、か・ん・ぺ・き・な、き・か・い・は、お・と・ぎ・の・く・に・で、な・け・れ・ば、つ・く・れ・な・い・で・しょ・う。」
「カンザスでは、一度も見たことがないわ」とドロシーは言った。
「し・か・し、こ・の、と・び・ら・を、あ・け・る、か・ぎ・を、ど・こ・で、て・に、い・れ・た・の・で・す・か?」時計仕掛けの声が尋ねた。
「岸で見つけたの。たぶん波に打ち上げられたのね」とドロシーは答えた。「それじゃ、よかったら、今度は行動のぜんまいを巻くわ。」
「そ・れ・は、た・い・へ・ん、う・れ・し・い・で・す」と機械は言った。
そこで「三」のぜんまいを巻くと、銅の人はややぎこちなく、かくかくした動きで岩の洞窟から歩み出た。銅の帽子を脱いで丁寧にお辞儀し、ドロシーの前にひざまずくと、こう言った。
「こ・の・と・き・よ・り、わ・た・し・は、あ・な・た・の、ちゅ・う・じ・つ・な、し・も・べ・で・す。ご・め・い・れ・い・に・は、な・ん・で・も、よ・ろ・こ・ん・で、し・た・が・い・ま・す――ぜ・ん・ま・い・を、ま・い・て、く・れ・る・な・ら。」
「名前は何?」ドロシーが尋ねた。
「ティッ・ク・トッ・ク」と機械は答えた。「ぜ・ん・ま・い・を、ま・く・と、わ・た・し・の、と・け・い・じ・か・け・が、い・つ・も、ティッ・ク、トッ・ク、と、な・る・の・で、ま・え・の、しゅ・じ・ん・が、そ・う、な・づ・け・ま・し・た。」
「今も聞こえるわ」と黄色いめんどりは言った。
「わたしにも聞こえる」とドロシーは言った。それから少し心配そうに付け加えた。「鐘は鳴らさないわよね?」
「い・い・え」とティックトックは答えた。「わ・た・し・の、き・か・い・に、め・ざ・ま・し・べ・る・は、つ・い・て、い・ま・せ・ん。し・か・し、こ・と・ば・で、じ・こ・く・を、お・し・え・る・こ・と・は、で・き・ま・す。わ・た・し・は、ね・む・ら・な・い・の・で、あ・さ、あ・な・た・が、お・き・た・い、じ・こ・く・に、お・こ・す・こ・と・も、で・き・ま・す。」
「それはいいわね」と少女は言った。「でも、わたし、朝に起きたいと思ったことはないわ。」
「あたしが卵を産むまで、眠っていればいいわ」と黄色いめんどりが言った。「そのあと、あたしがコケッと鳴けば、ティックトックにも、あなたを起こす時間だとわかるでしょう。」
「ずいぶん早く卵を産むの?」ドロシーが尋ねた。
「八時ごろね」とビリーナは言った。「その時間なら、誰だって起きるべきだと思うわ。」

ドロシー、夕食桶を開ける

「さあ、ティックトック」とドロシーは言った。「まずしなければならないのは、この岩山から逃げる道を見つけることよ。下には車輪人がいて、わたしたちを殺すと脅してるの。」
「車・輪・人・を、お・そ・れ・る、り・ゆ・う・は、あ・り・ま・せ・ん」とティックトックは言った。先ほどより、言葉がゆっくりになっていた。
「どうして?」少女が尋ねた。
「か・れ・ら・は、じ・つ・は、お・お・お――お・お・お・お――」
ごぼごぼという音を立てて、突然、話が止まった。必死に両手を振り回したかと思うと、ふいにまったく動かなくなった。片腕を空中に上げ、もう片方は前へ硬く突き出し、銅の指を扇のようにいっぱいに広げていた。
「まあ!」ドロシーはおびえた声で言った。「いったい、どうしたの?」
「ぜんまいが切れたんでしょう」と、めんどりは落ち着いて言った。「あまりきつく巻かなかったのね。」
「どれくらい巻けばいいのか、わからなかったの」と少女は答えた。「でも次は、もっと上手にやってみるわ。」
ドロシーは銅の人の背後へ回り、首の後ろの突起から鍵を取ろうとした。けれど、そこにはなかった。
「なくなってる!」ドロシーはうろたえて叫んだ。
「何がなくなったの?」ビリーナが尋ねた。
「鍵よ。」
「あなたに深くお辞儀したとき、落ちたんでしょう」とめんどりは答えた。「あたりを捜せば、また見つかるわよ。」
ドロシーが捜し、めんどりも手伝った。やがて少女は、岩の割れ目に落ちているぜんまいの鍵を見つけた。
すぐにティックトックの声のぜんまいを巻き、今度は鍵が回るかぎり、何度も慎重に回した。時計のぜんまいを巻いたことがあるなら想像できるだろうが、これはなかなかの重労働だった。しかし機械人間は、最初の言葉で、これから少なくとも二十四時間は動くとドロシーを安心させた。
「さ・い・しょ、あ・な・た・は、す・こ・し・し・か、ま・き・ま・せ・ん・で・し・た」とティックトックは落ち着いて言った。「し・か・も、わ・た・し・は、エ・ヴォ・ル・ド・お・う・に、つ・い・て、な・が・い、は・な・し・を、し・ま・し・た。で・す・か・ら、ぜ・ん・ま・い・が、き・れ・て・も、ふ・し・ぎ・で・は、あ・り・ま・せ・ん。」

次に行動用の時計仕掛けを巻き直した。するとビリーナが、また鍵をなくさないよう、ティックトックの鍵はポケットに入れて持ち歩いたほうがよいと助言した。
「それじゃ」と、すべてが済むとドロシーは言った。「車輪人について、何を言おうとしていたのか教えて。」
「か・れ・ら・は、な・に・も、お・そ・ろ・し・く、あ・り・ま・せ・ん」と機械は言った。「じ・ぶ・ん・た・ち・が、と・て・も、お・そ・ろ・し・い、と、ひ・と・び・と・に、お・も・わ・せ・よ・う・と、し・て・い・ま・す。し・か・し、じ・っ・さ・い・に・は、た・た・か・う、ゆ・う・き・が、あ・る・も・の・に・は、ま・る・で、む・が・い・で・す。か・れ・ら・は、た・い・へ・ん、い・た・ず・ら・ず・き・な・の・で、あ・な・た・の・よ・う・な、ち・い・さ・な、お・ん・な・の・こ・を、き・ず・つ・け・よ・う・と、す・る・か・も、し・れ・ま・せ・ん。し・か・し、わ・た・し・が、こ・ん・ぼ・う・を、も・っ・て・い・れ・ば、す・が・た・を、み・た・だ・け・で、に・げ・だ・す・で・しょ・う。」
「棍棒は持っていないの?」ドロシーが尋ねた。
「も・っ・て、い・ま・せ・ん」とティックトックは答えた。
「この岩山には、そんな物はないわよ」と黄色いめんどりも言った。
「それじゃ、どうすればいいの?」少女が尋ねた。
「わ・た・し・の、し・こ・う・き・こ・う・を、し・っ・か・り、ま・い・て、く・だ・さ・い。べ・つ・の、ほ・う・ほ・う・を、か・ん・が・え・て、み・ま・す」とティックトックは言った。
そこでドロシーは思考機構を巻き直した。ティックトックが考えている間に、少女は夕食を食べることにした。ビリーナはすでに岩の割れ目をつつき、食べ物を捜していた。そこでドロシーは腰を下ろし、ブリキの夕食桶を開けた。
蓋には小さな容器がついていて、おいしそうなレモネードでいっぱいだった。その容器はコップで覆われており、外せばレモネードを飲むのに使えた。桶の中には、七面鳥の肉が三切れ、冷たいタンが二切れ、ロブスターサラダ、バターつきパンが四切れ、小さなカスタードパイ、オレンジ一個、大粒のイチゴ九個、それに木の実と干しブドウが入っていた。奇妙なことに、この夕食桶の木の実は、最初から殻が割れていた。そのためドロシーは、苦労せず中身を取り出して食べられた。
少女は岩の上にごちそうを広げ、夕食を食べはじめた。まずティックトックにも勧めたが、自分はただの機械だからと断られた。続いてビリーナにも分けようとしたが、めんどりは「死んだもの」について何かつぶやき、自分は虫やアリのほうがよいと言った。
「昼食箱の木と夕食桶の木は、車輪人のものなの?」少女は食事をしながら、ティックトックに尋ねた。
「も・ち・ろ・ん、ち・が・い・ま・す」と機械は答えた。「あ・の・き・は、エ・ヴ・の、お・う・け・の、も・の・で・す。も・っ・と・も、い・ま・は、お・う・け・が、あ・り・ま・せ・ん。エ・ヴォ・ル・ド・お・う・は、う・み・へ、と・び・こ・み、つ・ま・と、じゅ・う・に・ん・の、こ・ど・も・は、ノー・ム・の・お・う・に、す・が・た・を、か・え・ら・れ・た・か・ら・で・す。わ・た・し・の、か・ん・が・え・で・は、エ・ヴ・の・く・に・を、お・さ・め・る、も・の・は、い・ま、だ・れ・も、い・ま・せ・ん。お・そ・ら・く、そ・の・た・め、車・輪・人・は、あ・の・き・を、じ・ぶ・ん・た・ち・の、も・の・だ・と、しゅ・ちょ・う・し、ひ・る・しょ・く・や、ゆ・う・しょ・く・を、も・ぎ・と・っ・て、た・べ・て、い・る・の・で・しょ・う。し・か・し、き・は、お・う・の、も・の・で・す。す・べ・て・の、ゆ・う・しょ・く・お・け・の、そ・こ・に・は、お・う・け・の、も・じ『E』が、き・ざ・ま・れ・て、い・ま・す。」
ドロシーが桶を裏返すと、ティックトックの言ったとおり、王家の印がついていた。
「エヴの国に住んでいるのは、車輪人だけなの?」少女が尋ねた。
ドロシーはブリキの夕食桶を開けた
「い・い・え。か・れ・ら・が、す・ん・で・い・る・の・は、も・り・の、す・ぐ、む・こ・う・に、あ・る、ち・い・さ・な、ち・い・き・だ・け・で・す」と機械は答えた。「し・か・し、い・つ・も、い・た・ず・ら・ず・き・で、ず・う・ず・う・し・い、も・の・た・ち・で・し・た。む・か・し・の、しゅ・じ・ん、エ・ヴォ・ル・ド・お・う・は、そ・と・を、あ・る・く・と・き、か・れ・ら・を、お・と・な・し・く、さ・せ・る・た・め、い・つ・も、む・ち・を、も・ち・あ・る・い・て、い・ま・し・た。わ・た・し・が、つ・く・ら・れ・た、ば・か・り・の、こ・ろ、車・輪・人・は、わ・た・し・を、ひ・こ・う・と、し・た・り、あ・た・ま・で、つ・つ・い・た・り、し・ま・し・た。し・か・し、わ・た・し・は、か・れ・ら・に、こ・わ・せ・る・よ・う・な、や・わ・ら・か・い、ざ・い・りょ・う・で、で・き・て・い・な・い、と、す・ぐ・に、わ・か・り・ま・し・た。」
「とても丈夫そうだものね」とドロシーは言った。「誰が造ったの?」
「お・う・きゅ・う・の、あ・る、エ・ヴ・ナ・の、ま・ち・の、ス・ミ・ス&ティ・ン・カー・しゃ・で・す」とティックトックは答えた。
「あなたみたいな機械を、たくさん造ったの?」少女が尋ねた。
「い・い・え。か・れ・ら・が、か・ん・せ・い・さ・せ・た、ぜ・ん・じ・ど・う・し・き、き・か・い・に・ん・げ・ん・は、わ・た・し・だ・け・で・す」と答えた。「わ・た・し・の、せ・い・さ・く・しゃ・た・ち・は、た・い・へ・ん、す・ば・ら・し・い、は・つ・め・い・か・で、つ・く・る、も・の・は、ど・れ・も、ひ・じょ・う・に、げ・い・じゅ・つ・て・き・で・し・た。」
「きっとそうね」とドロシーは言った。「今もエヴナの町に住んでいるの?」
「ふ・た・り・と・も、も・う、い・ま・せ・ん」と機械は答えた。「ス・ミ・ス・さ・ん・は、は・つ・め・い・か・で、あ・る・と、ど・う・じ・に、が・か・で・し・た。あ・る・と・き、あ・ま・り・に、ほ・ん・も・の・そ・っ・く・り・な、か・わ・の、え・を、か・き・ま・し・た。そ・し・て、は・ん・た・い・が・わ・の、き・し・に、は・な・を、か・こ・う・と、て・を、の・ば・し・た・と・き、み・ず・に、お・ち、し・ん・で、し・ま・い・ま・し・た。」
「まあ、かわいそう!」少女は叫んだ。
「ティ・ン・カー・さ・ん・は」とティックトックはつづけた。「つ・き・に、は・し・ご・の、さ・き・を、か・け・ら・れ・る・ほ・ど、た・か・い、は・し・ご・を、つ・く・り・ま・し・た。そ・し・て、い・ち・ば・ん、う・え・の、だ・ん・に、た・ち、ち・い・さ・な、ほ・し・を、つ・み・と・っ・て、お・う・の、か・ん・む・り・の、と・が・っ・た、ぶ・ぶ・ん・に、は・め・こ・み・ま・し・た。し・か・し、つ・き・へ、つ・く・と、そ・こ・が、た・い・へ・ん、う・つ・く・し・い、ば・しょ・だ、と、わ・か・り、そ・こ・に、す・む・こ・と・に、き・め・ま・し・た。そ・こ・で、は・し・ご・を、ひ・き・あ・げ・て、し・ま・い、そ・れ・き・り、だ・れ・も、か・れ・を、み・て、い・ま・せ・ん。」
「この国にとって、大きな損失だったでしょうね」とドロシーは言った。そのころには、カスタードパイを食べていた。
「そ・う・で・し・た」とティックトックは認めた。「そ・し・て、わ・た・し・に、と・っ・て・も、お・お・き・な、そ・ん・し・つ・で・す。も・し、わ・た・し・が、こ・しょ・う・し・て・も、しゅ・う・り・で・き・る、ひ・と・が、ほ・か・に、い・る・と・は、お・も・え・ま・せ・ん。わ・た・し・は、た・い・へ・ん、ふ・く・ざ・つ・な・の・で・す。わ・た・し・の、か・ら・だ・の、な・か・が、ど・れ・ほ・ど、き・か・い・で、い・っ・ぱ・い・か、あ・な・た・に・は、そ・う・ぞ・う・も、つ・か・な・い・で・しょ・う。」
「想像はできるわ」とドロシーはあっさり言った。
「そ・れ・で・は」と機械はつづけた。「は・な・す・の・を、や・め、こ・の、い・わ・や・ま・か・ら、に・げ・る、ほ・う・ほ・う・を、ま・た、か・ん・が・え・な・け・れ・ば、な・り・ま・せ・ん。」
そこで邪魔されずに考えられるよう、半回転して背を向けた。
「わたしがこれまでに知っていた、いちばん頭のいい人は」と、ドロシーは黄色いめんどりに言った。「かかしだったわ。」
「ばかばかしい!」ビリーナがぴしゃりと言った。
「本当よ」とドロシーは言い張った。「オズの国で出会って、一緒にオズの大魔法使いの都まで旅をしたの。頭の中には藁しか詰まっていなかったから、脳みそをもらうためにね。でもわたしには、脳みそをもらう前も、もらったあとと同じくらい、上手に考えていたように思えたわ。」
「オズの国についての、そんなでたらめを、あたしに信じろと言うの?」ビリーナは尋ねた。少し機嫌が悪そうだった――もしかすると、虫があまり見つからなかったからかもしれない。
「どこがでたらめなの?」少女は尋ねた。今は木の実と干しブドウを食べ終えようとしていた。
「話す動物だの、生きているブリキの木こりだの、考えるかかしだの、そんなありえない話よ。」
「みんな本当にいるわ」とドロシーは言った。「わたしは自分の目で見たもの。」
「信じないわ!」めんどりは首を振りながら叫んだ。
「それは、あなたがものを知らないからよ」と少女は答えた。友達のビリーナにそう言われ、少し腹を立てていた。
「オ・ズ・の・く・に・で・は」とティックトックが二人のほうを向いて言った。「ど・ん・な、こ・と・で・も、あ・り・え・ま・す。あ・そ・こ・は、ふ・し・ぎ・な、お・と・ぎ・の・く・に・だ・か・ら・で・す。」
「ほら、ビリーナ! わたしの言ったとおりでしょう?」ドロシーは叫んだ。それから機械のほうを向き、熱心な口調で尋ねた。「ティックトック、オズの国を知ってるの?」
ティンカー、月を訪れる
「い・い・え。し・か・し、は・な・し・は、き・い・た・こ・と・が、あ・り・ま・す」と銅の人は言った。「オ・ズ・の・く・に・と、こ・の、エ・ヴ・の・く・に・を、へ・だ・て・て、い・る・の・は、ひ・ろ・い、さ・ば・く・だ・け・で・す。」
ドロシーは大喜びで手を打ち合わせた。
「うれしい!」少女は叫んだ。「昔の友達のすぐ近くにいるなんて、とても幸せだわ。ビリーナ、さっき話したかかしは、オズの国の王さまなのよ。」
「し・つ・れ・い・で・す・が、い・ま・は、お・う・で・は、あ・り・ま・せ・ん」とティックトックは言った。
「わたしがオズを出たときは、王さまだったわ」とドロシーは言い張った。
「そ・れ・は、し・っ・て、い・ま・す」とティックトックは言った。「し・か・し、オ・ズ・の・く・に・で、か・く・め・い・が、お・き、か・か・し・は、ジ・ン・ジャー・しょ・う・ぐ・ん、と・い・う、お・ん・な・へ・い・し・に、た・い・い・を、お・わ・れ・ま・し・た。そ・の・あ・と、ジ・ン・ジャー・も、オ・ズ・マ、と・い・う、ち・い・さ・な、お・ん・な・の・こ・に、た・い・い・を、お・わ・れ・ま・し・た。オ・ズ・マ・は、お・う・い・の、せ・い・と・う・な、け・い・しょ・う・しゃ・で、い・ま・は『オ・ズ・の・オ・ズ・マ』と・い・う、しょ・う・ご・う・で、く・に・を、お・さ・め・て、い・ま・す。」
「それは初耳だわ」とドロシーは考え深げに言った。「でも、わたしがオズの国を出てから、きっといろいろなことが起きたのね。かかしや、ブリキの木こりや、臆病なライオンは、どうなったのかしら。それに、このオズマという女の子はいったい誰なの? 今まで聞いたこともないわ。」
けれどティックトックは答えなかった。再び背を向け、考えをつづけていた。
ドロシーは、おいしい食べ物を無駄にしないよう、残りを桶へ戻した。黄色いめんどりは気取るのも忘れ、散らばったパンくずを一つ残らず拾い、かなり貪欲に食べた。つい先ほどまで、ドロシーの好む食べ物など軽蔑するふりをしていたのに。
やがてティックトックは、ぎこちないお辞儀をしながら二人のところへ来た。
「ど・う・ぞ、わ・た・し・に、つ・い・て・き・て、く・だ・さ・い」と機械は言った。「こ・こ・か・ら、エ・ヴ・ナ・の、ま・ち・ま・で、あ・ん・な・い、し・ま・す。そ・こ・な・ら、も・っ・と、か・い・て・き・に、す・ご・せ・る・で・しょ・う。ま・た、車・輪・人・か・ら、あ・な・た・が・た・を、ま・も・り・ま・す。」
「わかったわ」とドロシーはすぐに答えた。「いつでも行ける!」

ラングウィディアの首

一行は岩の間の道をゆっくり下っていった。先頭はティックトック、次にドロシー、そのあとを黄色いめんどりが小走りでついていった。
道の麓まで来ると、銅の人はかがみ込み、行く手を塞いでいた岩を軽々と放りのけた。それからドロシーを振り返って言った。
「ゆ・う・しょ・く・お・け・を、も・ち・ま・しょ・う。」
少女がすぐ右手に渡すと、銅の指が頑丈な取っ手をしっかりつかんだ。
こうして小さな行列は、平らな砂地へ進み出た。
丘を見張っていた三人の車輪人は、彼らを見つけると、たちまち荒々しい叫び声を上げた。そして一行を捕らえるか、行く手を阻もうとするかのように、すばやく転がってきた。だが先頭の一人が十分近づいたところで、ティックトックはブリキの夕食桶を振り回し、その奇妙な武器で車輪人の頭を鋭く殴りつけた。おそらく、それほど痛くはなかっただろう。けれど大きな音がしたため、車輪人は吠え声を上げ、横倒しになった。次の瞬間には車輪で立ち上がり、恐怖の叫び声を発しながら、出せるかぎりの速さで逃げていった。
「か・れ・ら・は、む・が・い・だ・と、い・っ・た・で・しょ・う」とティックトックは話しはじめた。だが、それ以上言う前に、別の車輪人が襲いかかってきた。ガン! 夕食桶が頭にぶつかり、麦わら帽子を12フィート(約3.7メートル)も先まで吹き飛ばした。こちらの車輪人にも、それで十分だった。最初の一人を追って逃げ出し、三人目は桶で殴られるのも待たず、車輪が回るかぎりの速さで仲間に加わった。
黄色いめんどりは喜びの声でコケッと鳴き、ティックトックの肩へ飛び乗ると、こう言った。
「お見事、銅のお友達! よく考えたものね。これで、あの醜い連中から解放されたわ。」
けれど、ちょうどそのとき、車輪人の大集団が森から転がり出てきた。数で押せば勝てると思ったらしく、ティックトックへ猛然と迫ってきた。ドロシーはビリーナを腕に抱き、しっかりと押さえた。機械は少女をよりよく守るため、左腕でその体を抱え込んだ。そこへ車輪人たちが襲いかかった。
ガラガラ、ガン、ガン! 夕食桶はあらゆる方向へ振り回された。車輪人たちの頭にぶつかるたび、あまりにも大きな音を立てたので、連中は痛がるよりも怖がり、大混乱に陥って逃げ出した。全員――ただし頭だけは例外だった。この車輪人は仲間につまずき、仰向けに倒れてしまった。再び車輪を下にして起き上がる前に、ティックトックが敵の豪華な上着の襟へ銅の指を食い込ませ、しっかり捕らえた。
「な・か・ま・た・ち・に、た・ち・さ・る・よ・う、い・い・な・さ・い」と機械は命じた。
車輪人の頭が命令をためらったので、ティックトックはテリア犬がネズミを振るように揺さぶった。すると車輪人の歯は、窓ガラスを打つ雹のように、がちがちと鳴った。ようやく息をつけるようになると、頭は仲間に転がり去れと叫んだ。連中はただちにそのとおりにした。
「さ・あ」とティックトックは言った。「あ・な・た・は、わ・た・し・た・ち・と、いっ・しょ・に、き・て、き・き・た・い、こ・と・に、こ・た・え・て、も・ら・い・ま・す。」

「こんな扱いをしたこと、きっと後悔するぞ」と車輪人は泣き言を言った。「俺は、とてつもなく凶暴な人間なんだ。」
「そ・の・こ・と・な・ら」とティックトックは答えた。「わ・た・し・は、た・だ・の、き・か・い・な・の・で、な・に・が、お・き・て・も、こ・う・か・い・も、よ・ろ・こ・び・も、か・ん・じ・ま・せ・ん。し・か・し、じ・ぶ・ん・が、お・そ・ろ・し・く、きょ・う・ぼ・う・だ、と、か・ん・が・え・る・の・は、ま・ち・が・い・で・す。」
「どうしてだ?」車輪人が尋ねた。
「ほ・か・の、だ・れ・も、そ・う・は、お・も・っ・て、い・な・い・か・ら・で・す。そ・の、しゃ・り・ん・の、せ・い・で、あ・な・た・が・た・は、だ・れ・も、き・ず・つ・け・る・こ・と・が、で・き・ま・せ・ん。こ・ぶ・し・が、な・い・の・で、ひ・っ・か・く・こ・と・も、か・み・を、ひ・っ・ぱ・る・こ・と・も、で・き・ま・せ・ん。け・る、あ・し・も、あ・り・ま・せ・ん。で・き・る・の・は、わ・め・い・た・り、さ・け・ん・だ・り、す・る・こ・と・だ・け・で・す。そ・ん・な・こ・と・で、だ・れ・か・を、き・ず・つ・け・る・こ・と・は、で・き・ま・せ・ん。」
するとドロシーがたいへん驚いたことに、車輪人はわっと泣き出した。
「これで俺も仲間も、永遠におしまいだ!」車輪人はすすり泣いた。「俺たちの秘密を知られてしまった。こんなに無力だから、助かる道はただ一つ。ものすごく凶暴で恐ろしいふりをし、砂に『車輪人に用心せよ』と警告を書いて、人々を怖がらせるしかないんだ。今までは誰でも怖がってくれた。けれど弱点を知られたからには、敵が襲いかかってきて、俺たちをひどく惨めで不幸な目に遭わせるだろう。」
「そんなことにはならないわ」とドロシーは叫んだ。美しい服を着た車輪人があまりに惨めそうだったので、かわいそうになったのだ。「ティックトックは秘密を守るし、ビリーナとわたしも誰にも言わない。ただし、子どもが近づいてきても、もう怖がらせたりしないと約束して。」
「しない――本当に、もうしない!」車輪人は約束した。泣きやみ、少し元気を取り戻した。「本当は悪い奴じゃないんだ。ただ、ほかの連中に襲われないよう、恐ろしいふりをしなくちゃならないだけなんだよ。」
エヴ王宮への道中
「そ・れ・は、か・な・ら・ず・し・も、ほ・ん・と・う・で・は、あ・り・ま・せ・ん」とティックトックは言い、森を抜ける道へ歩きはじめた。捕虜をしっかりつかんだままだったので、車輪人は隣をゆっくり転がっていった。「あ・な・た・も、な・か・ま・も、い・た・ず・ら・ず・き・で、こ・わ・が・る、も・の・を、こ・ま・ら・せ・る・の・が、す・き・で・す。ま・た、よ・く、ず・う・ず・う・し・く、い・や・な、た・い・ど・を、と・り・ま・す。し・か・し、そ・の、け・っ・て・ん・を、な・お・す・よ・う、ど・りょ・く・す・る・な・ら、あ・な・た・が・た・が、ど・れ・ほ・ど、む・りょ・く・か、だ・れ・に・も、い・い・ま・せ・ん。」
「もちろん努力するよ」と車輪人は熱心に答えた。「親切にしてくれて、ありがとう、ティックトックさん。」
「わ・た・し・は、た・だ・の、き・か・い・で・す」とティックトックは言った。「こ・う・か・い・も、よ・ろ・こ・び・も、か・ん・じ・な・い・の・と、お・な・じ・く、し・ん・せ・つ・に、す・る・こ・と・も、で・き・ま・せ・ん。わ・た・し・は、ぜ・ん・ま・い・を、ま・か・れ・た、と・お・り・に、う・ご・く・だ・け・で・す。」
「俺の秘密を守るよう、ぜんまいを巻かれているのか?」車輪人は心配そうに尋ねた。
「は・い。あ・な・た・が、き・ち・ん・と、ふ・る・ま・う、か・ぎ・り・は。し・か・し、お・し・え・て、く・だ・さ・い。い・ま、エ・ヴ・の・く・に・を、お・さ・め・て、い・る・の・は、だ・れ・で・す・か?」機械が尋ねた。
「統治者はいない」と車輪人は答えた。「王族は全員、ノームの王に囚われているからな。ただし、亡きエヴォルド王の姪であるラングウィディア姫が、王宮の一角に住み、王家の宝物庫から、自分が使えるだけの金を持ち出している。もっとも、ラングウィディア姫は正確には統治者ではない。何も統治していないからな。それでも今のところ、この国で統治者にいちばん近い存在ではある。」
「わ・た・し・は、か・の・じょ・を、お・ぼ・え・て、い・ま・せ・ん」とティックトックは言った。「ど・の・よ・う・な、す・が・た・で・す・か?」
「それは言えない」と車輪人は答えた。「二十回は会ったことがあるけれどな。ラングウィディア姫は見るたびに違う人物だから、臣下が姫だと見分けられるのは、いつも左手首から鎖で下げている美しいルビーの鍵だけだ。その鍵を見れば、ラングウィディア姫を目にしているとわかる。」
「それは変ね」とドロシーは驚いて言った。「そんなにたくさんの違うお姫さまが、みんな同じ人だというの?」
「正確には違う」と車輪人は答えた。「姫はもちろん、ひとりしかいない。しかし我々の前には、さまざまな姿で現れる。そして、どの姿も程度の差こそあれ美しい。」
「きっと魔女なのよ」と少女は叫んだ。
「そうは思わない」と車輪人は言った。「それでも、何か秘密があるのは確かだ。たいへんなうぬぼれ屋で、たいていは鏡に囲まれた部屋に住んでいる。どちらを向いても自分の姿を眺め、うっとりできるようにな。」
この言葉には、誰も答えなかった。ちょうど森を抜け、目の前に広がる景色へ注意を奪われていたからだ。そこは美しい谷間で、たくさんの果樹と緑の畑があり、かわいらしい農家があちらこちらに点在していた。広く滑らかな道が、あらゆる方角へ延びていた。
この美しい谷の中央、仲間たちが立つ場所から約1マイル(約1.6キロメートル)先に、王宮の高い尖塔がそびえていた。青空を背景に、明るくきらめいている。宮殿の周囲には花と低木に満ちた、魅力的な庭園が広がっていた。さらさらと音を立てる噴水がいくつも見え、白い大理石像の列に縁取られた、心地よさそうな散歩道もあった。
もちろんドロシーがこうした細部に気づき、その美しさを味わえるようになったのは、道を進み、王宮のかなり近くまで来てからだった。少女はなおも美しい景色を眺めながら、一行とともに敷地へ入り、王自身の住居へ通じる大きな正面扉へ近づいた。しかし残念なことに、扉は固く閉ざされていた。扉板には、次のような札が打ちつけられていた。
所有者不在。
左翼棟の三番目の扉をノックしてください。
「さ・あ」とティックトックは捕らえた車輪人に言った。「左・翼・棟・ま・で、み・ち・あ・ん・な・い・を、し・な・さ・い。」
扉板には札が打ちつけられていた
「わかった」と捕虜は同意した。「こっちの右側にある。」
「どうして左翼棟が右にあるの?」ドロシーは問い詰めた。車輪人がからかっているのではないかと思ったのだ。
「もともと翼棟は三つあったが、そのうち二つが取り壊された。だから右にある一つだけが残った[訳注:英語の“left”には「左」と「残された」の両義がある]というわけだ。客が来て自分を煩わせないようにする、ラングウィディア姫の仕掛けさ。」
捕虜は一行を翼棟まで案内した。機械人間はもう車輪人に用がなかったため、解放し、仲間のところへ帰ることを許した。車輪人はたちまち猛スピードで転がり去り、ほどなく見えなくなった。
ティックトックは翼棟の扉を数え、三番目を大きくノックした。
扉を開けたのは、華やかなリボンで飾った帽子をかぶる、小柄な侍女だった。侍女は丁寧にお辞儀し、尋ねた。
「皆さま、どのようなご用でしょう?」
「あなたがラングウィディア姫?」ドロシーが尋ねた。
「いいえ、お嬢さま。わたくしは姫さまの侍女でございます」と娘は答えた。
「お姫さまに会わせてもらえますか?」
「皆さまがお見えだとお伝えし、謁見をお許しくださるようお願いいたします」と侍女は言った。「どうぞお入りになり、応接間でお掛けください。」

そこでドロシーが中へ入り、機械もすぐあとにつづいた。しかし黄色いめんどりまで入ろうとすると、小柄な侍女は「しっ、しっ!」と叫び、ビリーナの顔へ前掛けをばたつかせた。
「自分こそ、しっしっ!」めんどりは怒って後ずさり、羽根を逆立てながら言い返した。「ほかに、まともな作法を知らないの?」
「あら、あなた、お話しになるのですか?」侍女は明らかに驚いて尋ねた。
「聞こえないの?」ビリーナはぴしゃりと言った。「その前掛けを下ろして、戸口からどきなさい。あたしも友達と一緒に入るんだから!」
「姫さまがお気に召しません」と侍女はためらいながら言った。
「姫が気に入ろうと、気に入るまいと、どうでもいいわ」とビリーナは答えた。そして大きな音を立てて翼をはためかせ、侍女の顔めがけてまっすぐ飛んだ。小さな召使いはすぐに頭を下げ、めんどりは無事、ドロシーの隣へたどり着いた。
「よろしいでしょう」と侍女はため息をついた。「この頑固なめんどりのせいで皆さまが破滅しても、わたくしを責めないでください。ラングウィディア姫を苛立たせるのは危険なのです。」
「わたしたちが待っていると、お伝えください」とドロシーは威厳をこめて頼んだ。「ビリーナはわたしの友達だから、どこへ行くにも一緒です。」
侍女はそれ以上何も言わず、豪華な調度の応接間へ一行を案内した。美しいステンドグラスの窓から、淡い虹色の光が差し込んでいた。
「こちらでお待ちください」と侍女は言った。「姫さまには、どのようなお名前をお伝えすればよろしいでしょう?」
「わたしはカンザスのドロシー・ゲイル」と少女は答えた。「こちらの紳士はティックトックという機械で、黄色いめんどりは友達のビリーナです。」
「姫さまがお気に召しません」と侍女は言った
小柄な侍女はお辞儀をして退出した。いくつもの廊下を抜け、大理石の階段を二つ上り、ようやく女主人の部屋へ着いた。
ラングウィディア姫の居間は、天井から床まで届く巨大な鏡で壁一面を覆われていた。天井も鏡ででき、床は磨き上げた銀で、上にあるものをすべて映し出した。そのためラングウィディアが安楽椅子に座り、マンドリンで柔らかな旋律を奏でると、その姿は壁、天井、床に何百回も映し出された。どちらへ顔を向けても、自分の容貌を眺め、褒めそやすことができた。姫はそれが大好きだった。ちょうど侍女が入ってきたときも、独り言をつぶやいていた。
「赤褐色の髪に、はしばみ色の目をしたこの首は、なかなか魅力的ね。このごろはあまり使っていなかったけれど、もっと頻繁につけるべきだわ。もっとも、わたくしの収集品のなかで最上とは言えないかもしれないけれど。」
「お客さまでございます、姫殿下」と侍女は深くお辞儀をして告げた。
「誰なの?」ラングウィディアはあくびをしながら尋ねた。
「カンザスのドロシー・ゲイル、ティックトック氏、そしてビリーナでございます」と侍女は答えた。
「ずいぶん奇妙な名前ばかりね!」姫はつぶやき、少し興味を抱きはじめた。「どんな者たちなの? カンザスのドロシー・ゲイルは美しい?」
「そう呼べなくもございません」と侍女は答えた。
「では、ティックトック氏は魅力的なの?」姫は尋ねつづけた。
「それは何とも申し上げられません、姫殿下。しかし、たいへん輝いておいでです。慈悲深き殿下、ご一同にお会いになりますか?」
「まあ、会ってもいいでしょう、ナンダ。でも、この首を眺めるのには飽きたわ。それに客が少しでも美しさを自慢できる者なら、わたくしを上回らないよう気をつけなくては。だから保管室へ行って、十七番に替えることにしましょう。あれがいちばん美しい姿だと思うの。あなたもそう思わなくて?」
「殿下の十七番は、この上なく美しゅうございます」とナンダは再びお辞儀をして答えた。
姫はまたあくびをした。それから言った。
「立つのを手伝ってちょうだい。」
そこで侍女は姫が立ち上がるのを助けた。実際には、ラングウィディアのほうが二人のうちで力が強かったのだが。それから姫は一歩ごとにナンダの腕へ重くもたれながら、銀の床をゆっくり横切り、保管室へ向かった。
ここで説明しておかなければならないが、ラングウィディア姫は三十の首を持っていた――ひと月の日数と同じ数である。もちろん一度につけられるのは一つだけだった。首をつなぐ体は一つしかなかったからだ。それらの首は、姫が「保管室」と呼ぶ場所に収められていた。そこは美しい化粧部屋で、ラングウィディアの寝室と鏡張りの居間のちょうど間にあった。首は一つずつ、ビロード張りの戸棚に入れられていた。戸棚は化粧部屋の壁沿いにずらりと並び、精巧な彫刻を施した扉には、外側に金の番号、内側に宝石で縁取られた鏡がついていた。
朝、姫が水晶の寝台から出ると、保管室へ行き、ビロード張りの戸棚を一つ開け、金の棚に載った首を取り出した。それから開いた扉の内側にある鏡を使い、曲がらぬよう、きちんとまっすぐに首をつけた。そのあと侍女たちを呼び、その日の服を着せてもらうのだった。姫はいつも簡素な白い衣装を身につけた。それなら、どの首にも似合ったからだ。好きなときに顔を替えられるので、さまざまな服を着ることには興味がなかった。ほかの女性たちは、いつも同じ顔をつけていなければならないため、いろいろなドレスを着たがるのだが。
鏡を使って、姫は首をつけた
もちろん三十の首は変化に富み、一つとして同じ形のものはなかったが、どれも並外れて美しかった。金髪、茶髪、深い赤褐色の髪、黒髪の首があった。しかし白髪は一つもなかった。目の色は青、灰、はしばみ色、茶、黒とそろっていたが、赤い目だけはなかった。どの目も明るく美しかった。鼻はギリシャ風、ローマ風、上向き、東洋風など、あらゆる型の美しさを備えていた。口もさまざまな大きさと形をしており、首が微笑むと真珠のような歯がのぞいた。えくぼは頬や顎など、もっとも愛らしく見える場所についていた。顔にそばかすのある首も一つ二つあり、その肌の鮮やかさをいっそう引き立てていた。
こうした宝物を収めるビロード張りの戸棚は、すべて一本の鍵で開いた。それは血のように赤い一個のルビーから削り出した、不思議な鍵だった。丈夫で細い鎖につながれ、姫の左手首に巻かれていた。
ナンダに支えられ、十七番の戸棚の前に立つと、姫はルビーの鍵で扉を開けた。そして今までつけていた九番の首を侍女に渡し、十七番を棚から取り出して、自分の首につなげた。それは黒髪と黒い瞳、真珠のように白く美しい肌を持っていた。これをつけたとき、自分がとりわけ美しく見えることをラングウィディアは知っていた。
十七番には、ただ一つ問題があった。この首についてくる気性――つややかな黒髪のどこかに隠れているらしい――が、燃えるように激しく、冷酷で、ひどく高慢だったのだ。そのため姫はしばしば不愉快なことをしでかし、別の首をつけたときに後悔する羽目になった。
しかし今日は、そのことを思い出さなかった。自分の美しさで客たちを驚かせられると確信し、応接間へ向かった。
ところが客を見て、姫はひどくがっかりした。ただのギンガムの服を着た小娘と、ぜんまいを巻かなければ動かない銅の人、それにラングウィディアがいちばん大切にしている裁縫籠のなかで満足そうに座る黄色いめんどりだけだったからだ。裁縫籠には、靴下を繕うときに使う陶器の卵が入っていた。
「まあ!」ラングウィディアは十七番の鼻を少し上向かせて言った。「てっきり、何か重要な者が訪ねてきたのだと思ったわ。」
「それなら間違ってないわ」とドロシーは言った。「わたし自身、ずいぶん重要な人間だもの。それにビリーナが卵を産んだときの鳴き声は、これまでに聞いたどんな鳴き声より誇らしげよ。ティックトックだって――」
「黙りなさい――黙りなさい!」姫は美しい瞳に怒りをきらめかせ、命じた。「よくもそんな無意味なおしゃべりで、わたくしを煩わせたものね!」
「なんて嫌な人なの!」そんな無礼な扱いに慣れていないドロシーは言った。
姫は少女をもっと注意深く見つめた。
「答えなさい」と姫は話をつづけた。「あなたには王家の血が流れているの?」
「それより立派です、奥さま」とドロシーは言った。「わたしはカンザスから来たんですもの。」
「ふん!」姫は鼻で笑った。「愚かな子ね。これ以上、わたくしを煩わせることは許しません。さっさと行きなさい、このおばかさん。ほかの誰かを困らせておいで。」
ドロシーは腹を立てすぎて、しばらく返す言葉も見つからなかった。椅子から立ち上がり、部屋を出ようとした。だが少女の顔をじっと調べていた姫が、先ほどより優しい声で呼び止めた。
「こちらへおいで。」
ドロシーはまったく怖がらず、言われたとおりにした。姫の前へ立つと、ラングウィディアはその顔を念入りに調べた。
「なかなか愛らしいわね」と、やがて姫は言った。「美しいとは、とても言えないけれど、わたくしの三十の首にはない種類の、独特のかわいらしさがある。だから、あなたの首をもらって、代わりに二十六番をあげることにしましょう。」
「そんなこと、絶対にさせないわ!」ドロシーは叫んだ。
「そんなこと、絶対にさせないわ!」
ドロシーは叫んだ
「断っても無駄よ」と姫はつづけた。「わたくしの収集品には、あなたの首が必要なの。それにエヴの国では、わたくしの望みが法律よ。二十六番はもともと、それほど気に入っていなかったから、ほとんど使っていないわ。それに実用上は、今つけている首と同じくらい、あなたの役に立つでしょう。」
「あなたの二十六番なんて、何も知らないし、知りたくもないわ」とドロシーはきっぱり言った。「わたしは人のお古をもらうのに慣れていないから、自分の首をこのまま使うわ。」
「断るというの?」姫は眉をひそめて叫んだ。
「もちろんよ」とドロシーは答えた。
「それなら」とラングウィディアは言った。「従う気になるまで、あなたを塔へ閉じ込めます。ナンダ」と侍女を振り返り、「軍隊を呼びなさい。」
ナンダが銀の呼び鈴を鳴らすと、鮮やかな赤い軍服を着た、大柄で太った大佐がすぐに入ってきた。その後ろには、やせた兵士が十人つづいた。全員が悲しげで気落ちした顔をし、たいへん憂鬱そうに姫へ敬礼した。
「その娘を北の塔へ連れていき、閉じ込めなさい!」姫はドロシーを指さして叫んだ。
「聞くことは従うこと」と大柄な赤服の大佐は答え、少女の腕をつかんだ。しかしその瞬間、ティックトックが夕食桶を振り上げ、大佐の頭を力いっぱい殴りつけた。大柄な士官はドスンと床へ尻餅をつき、ぼう然としながら、ひどく驚いた顔をした。
「助けろ!」大佐が叫ぶと、やせた兵士十人が指揮官を救おうと飛びかかった。
それからしばらく、たいへんな騒ぎになった。ティックトックは兵士七人を殴り倒し、兵士たちは絨毯の上のあちらこちらに転がっていた。だが突然、もう一度殴ろうと夕食桶を振り上げたまま、機械は止まり、完全に動かなくなった。
「こ・う・ど・う・の、ぜ・ん・ま・い・が、き・れ・ま・し・た」とティックトックはドロシーに呼びかけた。「は・や・く、ま・い・て、く・だ・さ・い。」
少女は言われたとおりにしようとしたが、そのころには大柄な大佐が、どうにか立ち上がっていた。大佐は少女をしっかりつかみ、ドロシーは逃げられなくなった。
「こ・れ・は、こ・ま・り・ま・し・た」と機械は言った。「す・く・な・く・と・も、あ・と、ろ・く・じ・か・ん・は、う・ご・く、は・ず・で・し・た。し・か・し、な・が・い、きょ・り・を、あ・る・き、車・輪・人・と、た・た・か・っ・た・た・め、い・つ・も・よ・り、は・や・く、ぜ・ん・ま・い・が、き・れ・た・の・で・しょ・う。」
「仕方ないわ」とドロシーはため息をついて言った。
「わたくしと首を交換する?」姫が迫った。
「絶対に嫌!」ドロシーは叫んだ。
「では、閉じ込めなさい」とラングウィディアは兵士たちに命じた。兵士たちはドロシーを王宮の北にある高い塔へ連れていき、その中へ厳重に閉じ込めた。そのあとティックトックを持ち上げようとしたが、機械はあまりにも頑丈で重く、びくとも動かせなかった。そこで応接間の中央に立たせたままにした。
「みんな、わたくしが新しい彫像を手に入れたと思うでしょう」とラングウィディアは言った。「だから、まったく問題ないわ。ナンダに、よく磨かせておきましょう。」
「めんどりは、どういたしましょう?」裁縫籠の中にいるビリーナを見つけた大佐が尋ねた。
「鶏小屋へ入れなさい」と姫は答えた。「いつか朝食に、揚げて食べることにするわ。」
「少々、肉が硬そうでございます、姫殿下」とナンダは疑わしそうに言った。
「ひどい中傷だわ!」ビリーナは大佐の腕のなかで必死にもがきながら叫んだ。「それに、あたしの品種の鶏は、どんなお姫さまにも毒になると言われているわよ。」
「それなら」とラングウィディアは言った。「揚げるのはやめて、卵を産ませるために飼っておきましょう。役目を果たさなければ、馬の水飲み桶に沈めてしまいなさい。」

オズのオズマ、救出へ

ナンダは夕食にパンと水をドロシーへ運んできた。ドロシーは、枕が一つと絹の掛け布しかない硬い石の寝台で眠った。
翌朝、塔の牢獄の窓から身を乗り出し、逃げ道がないか探してみた。現代の建物に比べれば、それほど高い部屋ではなかったが、それでも木々や農家を見下ろし、周囲の田園を広く見渡せるだけの高さはあった。
東には森が見え、その向こうには砂地が、さらに先には海が広がっていた。海岸には黒い点まで見える。あれは、この不思議な国へ流れ着いたときに乗っていた鶏小屋かもしれない、とドロシーは思った。
次に北を見ると、二つの岩山のあいだに深く狭い谷が横たわり、そのいちばん奥は三つ目の山によってふさがれていた。
西の方では、肥沃なエヴの国が宮殿からほど近いところで突然途切れ、その先には見渡すかぎり、何マイル(数キロメートル)も砂漠が続いていた。ドロシーは強い関心を抱きながら、この砂漠こそが、自分とすばらしいオズの国とを隔てる唯一のものなのだと思った。そして、この危険な荒れ地を渡りきった者は、自分以外に一人もいないと聞かされたことを、悲しく思い出した。一度目は竜巻が運んでくれ、帰りには魔法の銀の靴が助けてくれた。だが今は、竜巻も銀の靴もない。まったくもって絶望的な状況だった。なにしろドロシーは、感じの悪い姫の囚人となり、使い慣れた自分の頭を、サイズが合うかどうかもわからない古い頭と無理やり交換させられようとしているのだ。
どう考えても、オズの国の旧友たちが助けに来てくれる望みはなさそうだった。ドロシーは物思いに沈み、狭い窓から外を眺めた。砂漠には、生き物一匹動いていない。
いや、待って! 砂漠でたしかに何かが動いている――初めは目に入らなかった何かが。雲のようにも見え、銀色の点のようにも見え、今度は虹色の大きな塊となって、こちらへ急速に近づいてくる。
あれは、いったい何だろう?
やがて、ほんのわずかな時間のうちに、その光景は正体を見分けられるほどドロシーの近くまで迫ってきた。
幅広い緑の絨毯が砂漠の上にひとりでに広がり、その上を驚くべき行列が進んでくる。ドロシーは目を見開き、息をのんで見つめた。
先頭に来るのは、壮麗な黄金の戦車だった。大きなライオンと巨大なトラがそれを引き、肩を並べ、息の合った純血馬の二頭立てさながらに、優雅な足取りで駆けている。そして戦車の中には、銀色の薄絹を流れるようにまとい、可憐な頭に宝石の冠を戴いた美しい少女が、まっすぐに立っていた。片手には驚くべき二頭を操るサテンの手綱、もう片方には象牙の杖を握っている。杖の先は二股に分かれ、それぞれの先端には、きらめくダイヤモンドを隙間なく連ねて作った「O」と「Z」の文字が輝いていた。
その少女は、年齢も背丈もドロシーと変わらないように見えた。塔に囚われたドロシーはすぐに、この美しい御者こそ、つい先ほどティックトックから聞いたオズのオズマに違いないと悟った。
戦車のすぐ後ろには、旧友のかかしがいた。木製の木挽き馬に落ち着き払ってまたがっている。その馬は、生身の馬にも劣らぬ自然な動きで、跳ねたり駆けたりしていた。
その次にやってきたのは、ブリキの木こりことニック・チョッパーだった。漏斗形の帽子を無造作に左耳へ傾け、きらめく斧を右肩に担ぎ、全身は、ドロシーが初めて出会ったころと同じくらいまばゆく輝いていた。
ブリキの木こりは徒歩で、二十七人の兵士からなる一隊の先頭を進んでいた。兵士には痩せた者も太った者も、背の低い者も高い者もいたが、二十七人全員が、それぞれ異なる意匠と色の立派な軍服をまとっていた。どこを見ても、同じ服は二着となかった。
兵士たちの後ろでは緑の絨毯が再びひとりでに巻き取られていた。そのため行列の足元には、常に歩くのに必要なぶんだけ絨毯が広がり、命を奪う恐ろしい砂に足が触れずに済むのだった。
魔法の絨毯
目の前にあるのが魔法の絨毯だと、ドロシーにはすぐわかった。まもなく救い出され、心から愛するオズの友人たち――かかし、ブリキの木こり、臆病なライオン――と再会できるのだと思うと、希望と喜びで胸が高鳴った。
実のところ、行列の顔ぶれに気づいた瞬間から、ドロシーはもう助かったも同然だと感じていた。昔の仲間たちがどれほど勇敢で誠実か、よく知っていたからだ。それに、あのすばらしい国から来た者なら、ほかの面々もきっと親切で頼りになるに違いないと信じていた。
砂漠を最後の一歩まで渡りきり、美しく可憐なオズマから最後尾の兵士に至るまで、行列の全員がエヴの国の草原へ入ると、魔法の絨毯はひとりでに巻き上がり、跡形もなく消えた。
すると戦車の御者はライオンとトラを宮殿へ通じる広い道へ向け、その後に一行が続いた。ドロシーは胸を躍らせながら、なおも塔の窓から見つめていた。
一行は宮殿の正面玄関近くまで来て止まった。かかしは木挽き馬から下り、扉に取りつけられた札へ近づいて、そこに書かれた文を読もうとした。
すぐ頭上にいたドロシーは、もう黙っていられなかった。

「ここよ!」と、声のかぎりに叫んだ。「ドロシーはここよ!」
「どちらのドロシーだい?」かかしは上を見ようと頭を傾けすぎ、危うくバランスを崩して後ろへひっくり返りそうになった。
「もちろんドロシー・ゲイルよ。カンザスから来た、あなたのお友だち!」
「やあ、ドロシーじゃないか!」とかかしは言った。「いったいぜんたい、そんなところで何をしてるんだい?」
「何もしてないわ。することなんて何もないもの。助けて、お友だち――お願い、助けて!」
「今のところ、ずいぶん安全そうに見えるけどね」と、かかしは答えた。
「でも、わたしは囚人なの。鍵をかけられて、外へ出られないのよ」とドロシーは訴えた。
「それなら大丈夫」と、かかしは言った。「もっとひどい目に遭うことだってあるんだよ、ドロシー。よく考えてごらん。そこなら溺れる心配もないし、ホイーラーにひかれることも、リンゴの木から落ちることもない。そんな高いところにいられるなんて運がいい、と考える人だっているだろうさ。」
「わたしはそう思わないわ」と、ドロシーはきっぱり言った。「今すぐ下りて、あなたとブリキの木こりと臆病なライオンに会いたいの。」
「よろしい」と、かかしはうなずいた。「小さなお友だちの言うとおりにしよう。誰が君を閉じ込めたんだい?」
「ラングウィディア姫よ。とってもひどい人なの。」
会話を注意深く聞いていたオズマが、戦車からドロシーへ呼びかけた。
「姫はなぜ、あなたを閉じ込めたの?」
「それはね」とドロシーは声を上げた。「姫のコレクションにするためにわたしの頭をよこせ、代わりに古いお下がりの頭を受け取れって言うから、断ったのよ。」
「助けて、お友だち――お願い、助けて!」
「断って当然だわ」と、オズマはすぐに言った。「ただちに姫に会って、あなたを解放させましょう。」
「まあ、どうも、ほんとうにありがとう!」と、ドロシーは叫んだ。少女の姿をしたオズの統治者の優しい声を聞いたとたん、やがて心から大好きになるだろうとわかった。
オズマは戦車を棟の三番目の扉へ回し、ブリキの木こりが堂々と扉を叩いた。
侍女が扉を開けるや、オズマは象牙の杖を手に広間へ踏み入り、そのまま応接室へ向かった。ライオンとトラを除く全員が後に続いた。二十七人の兵士があまりに騒々しく、がちゃがちゃと音を立てたので、小さな侍女ナンダは悲鳴を上げて女主人のもとへ逃げていった。宮殿への無礼な侵入に激怒したラングウィディア姫は、なんの手助けも借りずに応接室へ駆け込んできた。
そして、オズから来た華奢で可憐な少女の前に立ちはだかり、叫んだ。
「よくも招きもせず、わたくしの宮殿へ入ってきましたね! 今すぐこの部屋から出ていきなさい。さもなければ、あなたも供の者も鎖につなぎ、いちばん暗い地下牢へ放り込みますよ!」

「なんとも危険なご婦人だね」と、かかしが小声でつぶやいた。
「少し神経が高ぶっているようだ」と、ブリキの木こりが答えた。
だが、オズマは怒り狂う姫に微笑んだだけだった。
「どうぞお座りください」と、静かに言った。「あなたに会うため、はるばる旅をしてきました。わたしの話を聞いてもらいます。」
「もらいますですって!」姫は金切り声を上げ、黒い瞳を怒りに燃え上がらせた――まだ十七番の頭をつけていたのだ。「このわたくしに命令するのですか!」
「もちろん」と、オズマは言った。「わたしはオズの国の統治者です。その気になれば、あなたの王国をすべて滅ぼせるほどの力があります。けれども、危害を加えるために来たのではありません。ノームの王の魔力に囚われたエヴの王族を救うために来たのです。王妃と子どもたちが囚人になっているという知らせが届きましたから。」
その言葉を聞くと、ラングウィディアはたちまち静かになった。
「叔母上と十人の王子王女たちを、本当に救ってくださるとよいのですが」と、姫は身を乗り出した。「本来の姿と身分を取り戻せば、あの方たち自身がエヴの王国を治められます。そうなれば、わたくしの悩みも面倒もずいぶん減るでしょう。今は毎日、少なくとも十分間も国事に割かねばならないのです。わたくしは、美しい頭を眺めることだけに、すべての時間を使いたいのですよ。」
「では、その件は後ほど話し合いましょう」と、オズマは言った。「あなたの叔母上と従兄弟たちを解放する方法を探します。ですがその前に、もう一人の囚人――あなたが塔へ閉じ込めた少女を解放してください。」
「なんとも危険なご婦人だね!」
かかしはつぶやいた
「もちろんです」と、ラングウィディアはあっさり言った。「すっかり忘れていました。だって、あれは昨日のことですもの。姫たる者、昨日したことを今日まで覚えていろと言われても困ります。ついてきなさい。すぐ囚人を解放しましょう。」
そこでオズマは姫に従い、二人は塔の部屋へ通じる階段を上っていった。
二人がいないあいだ、オズマの一行は応接室に残った。かかしが銅像と勘違いしたものへもたれかかっていると、突然、耳元で耳障りな金属音の声がした。
「足から、どいて、ください。磨いた、ところに、傷が、つきます。」
「おっと、失礼!」かかしは慌てて身を引いた。「君は生きているのかい?」
「いいえ」と、ティックトックは言った。「わたしは、ただの、機械です。けれど、きちんと、ねじを、巻けば、考え、話し、動けます。今は、動作用の、ねじが、切れていて、鍵は、ドロシーが、持っています。」
「それなら大丈夫」と、かかしは答えた。「ドロシーはすぐ自由になるし、そうしたら君の仕掛けを動かしてくれる。でも、生きていないなんて、さぞつらいだろうね。お気の毒に。」
「なぜ、ですか?」と、ティックトックが尋ねた。
「だって、僕みたいな脳みそがないじゃないか」と、かかしは言った。
「いいえ、あります」と、ティックトックは答えた。「わたしには、スミス&ティンカー社製、改良型、複合鋼鉄脳が、備わっています。それで、考えます。あなたには、どんな脳が、備わっていますか?」
「わからないな」と、かかしは認めた。「偉大なオズの魔法使いにもらったんだけど、入れてもらう前に調べる暇がなかったんだ。でも実によく働くし、良心もたいへん活発だよ。君には良心があるかい?」
「ありません」と、ティックトックは言った。
「すると心もないのだろう?」興味深く会話を聞いていたブリキの木こりが口を挟んだ。
「ありません」と、ティックトックは言った。
「それでは」と、ブリキの木こりは続けた。「残念ながら、君は友人のかかしや私より、はるかに劣っていると言わざるを得ない。我々は二人とも生きているし、かかしにはねじを巻かずとも働く脳がある。私の胸には、絶えず鼓動する立派な心があるからね。」
「おめでとう、ございます」と、ティックトックは答えた。「わたしが、あなたがたより、劣るのは、仕方ありません。わたしは、ただの、機械です。ねじを、巻かれれば、機械仕掛けが、作られたとおりに、動いて、務めを、果たします。わたしの中が、どれほど、機械で、いっぱいか、想像も、つかないでしょう。」
「だいたい想像はつくよ」と、かかしは機械人間を珍しそうに見た。「いつか君を分解して、どういう造りになっているか見てみたいな。」
「それだけは、どうか、おやめください」と、ティックトックは言った。「あなたには、わたしを、元どおりに、組み立てられません。そうなれば、わたしは、役に立たなく、なります。」
「えっ! 君は役に立つのかい?」かかしは驚いて尋ねた。
「たいへん」と、ティックトックは言った。
「それなら」と、かかしは親切にも約束した。「君の中身には絶対いたずらしないよ。僕は機械いじりが苦手だから、部品をごちゃ混ぜにしてしまいかねない。」
「ありがとう、ございます」と、ティックトックは言った。
ちょうどそのとき、オズマがドロシーの手を引いて部屋へ戻ってきた。そのすぐ後にはラングウィディア姫が続いていた。

お腹をすかせたトラ

ドロシーが真っ先にしたのは、かかしの胸へ飛び込むことだった。かかしは絵の具で描かれた顔を喜びで輝かせ、藁を詰めた胸にドロシーを抱きしめた。続いてブリキの木こりも抱きしめた――ただし、ほんのそっと。乱暴に力を入れれば、ブリキの腕で傷つけてしまうと知っていたからだ。
再会の挨拶が済むと、ドロシーはポケットからティックトックの鍵を取り出し、動作用のねじを巻いた。これで仲間たちを紹介されたとき、きちんとお辞儀ができる。そのあいだに、ティックトックがどれほど役に立ってくれたかを皆に話した。かかしとブリキの木こりは、もう一度機械人間と握手をし、友人を守ってくれたことに礼を言った。
それからドロシーは尋ねた。「ビリーナはどこ?」
「知らないよ」と、かかしは言った。「ビリーナって誰だい?」
「黄色い雌鶏で、わたしのお友だちなの」と、ドロシーは心配そうに答えた。「いったい、どうしちゃったのかしら?」
「裏庭の鶏小屋にいます」と、姫が言った。「わたくしの応接室は、雌鶏のいる場所ではありません。」
それ以上聞くのも待たず、ドロシーはビリーナを捜しに走った。扉のすぐ外には臆病なライオンがいて、大きなトラと並び、まだ戦車につながれていた。臆病なライオンは、両耳のあいだに生えた長い毛へ青いリボンの大きな蝶結びをつけ、トラは、ふさふさした先端のすぐ手前の尻尾に赤いリボンを結んでいた。
たちまちドロシーは、大きなライオンを喜んで抱きしめた。
「また会えて、ほんとうにうれしい!」
「私も会えてうれしいよ、ドロシー」と、ライオンは言った。「一緒にすばらしい冒険をしてきたね?」
「ええ、本当に」と、ドロシーは答えた。「元気だった?」
「相変わらず臆病だよ」と、ライオンはおとなしい声で答えた。「どんな小さなことにも驚いて、心臓がどきどきしてしまう。でも、私の新しい友人を紹介しよう。お腹をすかせたトラだ。」

「まあ! お腹がすいてるの?」ドロシーはもう一頭へ向き直った。トラはちょうど大あくびをしているところで、恐ろしい歯が二列もむき出しになり、誰でもぎょっとするほど大きな口を開けていた。
「ひどく腹ぺこだ」と、トラは答え、獰猛な音を立てて牙をかみ合わせた。
「だったら、何か食べればいいじゃない?」
「それでは無駄なのだ」と、トラは悲しそうに言った。「試してみたが、いつもまた腹が減る。」
「まあ、わたしだって同じよ」と、ドロシーは言った。「それでも食べつづけてるわ。」
「君が食べるのは害のないものだから、かまわない」と、トラは答えた。「だが私は獰猛な野獣だから、シマリスから丸々太った赤ん坊まで、ありとあらゆる哀れな小動物が食べたくなるのだ。」
「まあ、恐ろしい!」と、ドロシーは言った。
「まったくだろう?」お腹をすかせたトラは、長い赤い舌で唇を舐めた。「丸々太った赤ん坊! 聞くだけでおいしそうではないか? だが、一人も食べたことはない。良心が、そんなことは間違っていると告げるからだ。もし良心がなければ、私は赤ん坊を食べ、その後また腹をすかせるだろう。そうなれば、哀れな赤ん坊を何のためにもならず犠牲にしたことになる。いや、私は腹をすかせて生まれ、腹をすかせたまま死ぬのだ。だが良心に残り、後悔するような残酷な行いは決してしない。」
「あなた、とても善いトラなのね」と、ドロシーは大きな頭を撫でた。
「それは間違っている」と、トラは答えた。「善い獣ではあるかもしれないが、トラとしては情けないほど落第だ。トラとは本来、残酷で獰猛なもの。害のない生き物を食べるのを拒む私は、立派なトラなら決してしないような振る舞いをしている。だから森を離れ、友人の臆病なライオンと一緒になったのだ。」
お腹をすかせたトラ
「でも、ライオンは本当は臆病じゃないわ」と、ドロシーは言った。「とても勇敢に振る舞うところを見たことがあるもの。」
「すべて勘違いだよ」と、ライオンは真面目な顔で抗議した。「ときには勇敢に見えたかもしれないが、危険な目に遭って怖くなかったことなど、一度もない。」
「わたしだってないわ」と、ドロシーは正直に言った。「でも、ビリーナを自由にしてあげなくちゃ。また後でね。」
ドロシーは宮殿の裏庭へ走り、まもなく鶏小屋を見つけた。興奮した鶏たちが上げる、けたたましい鳴き声と時の声、気も狂わんばかりの騒音をたどっていけばよかった。
鶏小屋では何か騒ぎが起きているらしい。ドロシーが扉の隙間から覗くと、一群の雌鶏と雄鶏が隅にひとかたまりになり、羽毛の球のようなものが猛烈に回転するのを見つめていた。それは鶏小屋のあちらこちらへ跳ね回り、初めのうち、ドロシーには何なのかわからなかった。鶏たちの悲鳴で、耳が聞こえなくなりそうだった。
ところが突然、羽毛の塊が回転を止めた。驚いたことに、ビリーナが斑模様の雄鶏を地面へ組み伏せ、その上にうずくまっていた。二羽は一瞬、ぴくりとも動かなかった。やがて黄色い雌鶏は翼を震わせて羽並みを整え、勝ち誇った声を上げながら、反抗的に胸を張って扉へ歩いてきた。一方の斑模様の雄鶏は、乱れた羽を土の上へ引きずりながら足を引き、ほかの鶏たちの群れへ逃げていった。
「まあ、ビリーナ!」ドロシーはあきれた声を上げた。「喧嘩してたの?」
「ええ、どうやらね」と、ビリーナは言い返した。「わたしがまだ、くちばしでつついたり爪で引っかいたりできるのに、あの斑模様の悪党雄鶏がわたしに威張り散らし、この鶏小屋のボスを名乗るのを許すと思う? ビル様が許すもんですか!」
「ビルじゃなくてビリーナでしょ。それに俗っぽい言葉なんて、ちっとも品がないわ」と、ドロシーはたしなめた。「こっちへ来て、ビリーナ。外へ出してあげる。オズのオズマが来て、わたしたちを自由にしてくれたのよ。」
そこで黄色い雌鶏は扉へ来た。ドロシーが掛け金を外して通してやるあいだ、ほかの鶏たちは隅から黙って見つめ、近づこうともしなかった。
ドロシーは友だちを抱き上げ、声を上げた。
「ああ、ビリーナ! なんてひどい格好なの。羽がたくさん抜けてるし、片方の目はもう少しでつぶされるところだし、とさかから血が出てるじゃない!」
「こんなの、なんでもないわ」と、ビリーナは言った。「あの斑模様の雄鶏を見てよ! こてんぱんにしてやったでしょ?」
ドロシーは首を振った。
「わたし、こんなことには全然感心しないわ」と言い、ビリーナを抱いて宮殿へ向かった。「あんな下品な鶏たちとつき合うのはよくないわ。すぐにお行儀が悪くなって、立派な雌鶏じゃなくなっちゃう。」
「わたしがつき合いたいと言ったんじゃないわ」と、ビリーナは答えた。「悪いのは、あの意地悪な姫よ。でも、わたしはアメリカ合衆国育ちなんだから。身を守る爪を一本でも上げられるかぎり、エヴの国の片田舎の鶏なんかに踏みつけられたり、偉そうな顔をされたりしてたまるものですか。」
「わかったわ、ビリーナ」と、ドロシーは言った。「もうこの話はやめましょう。」
やがて臆病なライオンとお腹をすかせたトラのところへ戻り、ドロシーは黄色い雌鶏を二頭に紹介した。
「ドロシーの友人なら、誰でも歓迎するよ」と、ライオンは丁寧に言った。「今の姿を見るかぎり、君は私と違って臆病ではなさそうだ。」
「まあ、ビリーナ!」
ドロシーは叫んだ。「喧嘩してたの?」
「今の姿を見ると、よだれが出る」と、トラは貪るようにビリーナを見つめた。「いやはや! この顎でばりばり噛み砕けたら、さぞおいしいだろう。だが心配はいらない。君を食べても、ほんの一瞬しか空腹は収まらない。だから、食べるだけの価値はない。」
「ありがとう」と、雌鶏はドロシーの腕の中へさらに深く潜り込んだ。
「それに、正しいことではないからな」と、トラはビリーナをじっと見つめ、牙をかちりと鳴らしながら続けた。
「もちろんよ」と、ドロシーは慌てて叫んだ。「ビリーナはわたしのお友だちなんだから、どんなことがあっても絶対に食べちゃだめよ。」
「覚えておくよう努力しよう」と、トラは言った。「ただ、私はときどきうっかり忘れることがある。」
それからドロシーはビリーナを宮殿の応接室へ連れていった。そこでは、オズマに勧められたティックトックが、かかしとブリキの木こりのあいだに座っていた。向かいにはオズマとラングウィディア姫が座り、その隣にはドロシーのための空席が用意されていた。
この重要な一団を取り囲むようにオズ軍が並んでいた。ドロシーは二十七人の立派な軍服を眺めて言った。
「まあ、みんな将校みたいね。」
「一人を除いて、全員が将校だ」と、ブリキの木こりは答えた。「私の軍には将軍が八人、大佐が六人、少佐が七人、大尉が五人いて、それとは別に、彼らが指揮する一人の兵卒がいる。できれば兵卒も昇進させてやりたい。兵卒が公の場に出るべきではないと思うからね。それに、将校はたいてい普通の兵士より戦いがうまく、頼りになることにも気づいた。おまけに将校は見た目も立派で、我が軍に威厳を添えてくれる。」
「きっとそのとおりね」と、ドロシーはオズマの隣に座った。
「それでは」と、少女の姿をしたオズの統治者が宣言した。「この美しいエヴの国の王族を、長い幽閉から救い出す最善の方法について、厳粛なる会議を始めます。」

エヴの王族

最初に会議で発言したのは、ブリキの木こりだった。
「まず初めに」と、木こりは言った。「我らが高貴にして誉れ高き統治者、オズのオズマのもとへ、知らせが届いた。エヴの先王エヴォルドの妻と十人の子ども――五人の王子と五人の王女――がノームの王の奴隷となり、地下宮殿に囚われているという。また、エヴには彼らを解放できるほど力のある者がいないということだった。当然、我らがオズマは、哀れな囚人たちを救う冒険に乗り出そうと望まれた。だが長いあいだ、二つの国を隔てる大砂漠を越える方法が見つからなかった。ついには、我が国の友好的な魔法使い、善き魔女グリンダのもとを訪ねられた。事情を聞いたグリンダは、すぐオズマに魔法の絨毯を贈った。それは我々の足元で絶えず広がり、砂漠を快適に渡る道を作ってくれる。絨毯を受け取ると、慈悲深き統治者はただちに私へ軍を集めるよう命じられ、私はそのとおりにした。ここにいる勇敢な戦士たちは、オズでも最高の兵士から選び抜かれた精鋭だ。もしノームの王と戦わねばならなくなれば、すべての将校と兵卒は、死ぬまで勇猛果敢に戦うだろう。」
するとティックトックが口を開いた。
「なぜ、ノームの王と、戦うのですか?」と尋ねた。「王は、悪いことを、していません。」
「悪いことをしてないですって!」と、ドロシーは叫んだ。「母親である王妃と十人の子どもを閉じ込めるのが、悪いことじゃないの?」
「あの人たちは、エヴォルド王に、ノームの王へ、売られました」と、ティックトックは答えた。「悪いことを、したのは、エヴの王です。自分のしたことに、気づくと、海へ、飛び込んで、溺れ死にました。」
「それは初耳です」と、オズマは考え込みながら言った。「わたしは、すべてノームの王が悪いのだと思っていました。ですが、いずれにせよ、囚人たちは解放させなければなりません。」
「叔父のエヴォルドは、とても邪悪な男でした」と、ラングウィディア姫は断言した。「家族を売る前に溺れ死んでいたなら、誰も気にしなかったでしょう。ところが叔父は、長い命と引き換えに家族を強大なノームの王へ売り渡し、その後、海へ飛び込んで自分からその命を捨てたのです。」
「それなら」と、オズマは言った。「長い命を受け取らなかったのですから、ノームの王は囚人を返すべきです。どこに閉じ込められているのですか?」
「正確には誰にもわかりません」と、姫は答えた。「岩のロークワットという名の王は、この王国の北端にある大山の地下に、立派な宮殿を持っています。そして王妃と子どもたちを装飾品や置物に変え、部屋を飾るのに使っているのです。」
「知りたいんだけど」と、ドロシーは言った。「そのノームの王って、いったい何者なの?」
「わたしがお話ししましょう」と、オズマは答えた。「地下世界の統治者で、岩と、岩に含まれるすべてのものを支配していると言われています。その配下には何千何万ものノームがいます。奇妙な姿をしているけれど力の強い妖精で、王の炉や鍛冶場で働き、金や銀、そのほかの金属を作って岩の割れ目へ隠します。そのため、地上に住む者は苦労しなければ見つけられないのです。ダイヤモンドやルビー、エメラルドも作り、地中へ隠しています。だからノームの王国は驚くほど豊かで、わたしたちが持つ宝石や銀や金は、ノームの王が隠した土や岩の中から取り出したものなのです。」
「わかったわ」と、ドロシーは物知り顔で小さな頭をうなずかせた。
「わたしたちがたびたび宝を盗むので」と、オズマは続けた。「地下世界の統治者は、地上に住む者を好まず、決してわたしたちの前へ姿を現しません。岩のロークワット王に会いたければ、王自身の国を訪ねなければなりません。そこでは王が絶大な力を持っているため、危険な試みとなるでしょう。」
「でも、かわいそうな囚人たちのために」と、ドロシーは言った。「やるべきよ。」
「もちろんやるとも」と、かかしは答えた。「ただ、ノームの王の炉へ近づくには、僕も相当な勇気が必要だ。なにしろ僕の中身は藁だけで、火の粉一つでも飛んできたら、すっかり焼けてなくなってしまう。」
「炉の熱で私のブリキも溶けるかもしれない」と、ブリキの木こりは言った。「それでも私は行く。」
「わたくしは暑いのが苦手ですから」と、ラングウィディア姫は気だるそうにあくびをした。「家に残ります。でも、ぜひ成功していただきたいものです。この退屈な王国を治めることには、心底うんざりしていますから。美しい頭を眺めるために、もっと自由な時間が必要なのです。」
「あなたに来てもらう必要はありません」と、オズマは言った。「勇敢な仲間たちの助けを借りても目的を果たせないなら、あなたが旅に加わっても無駄でしょう。」
「まったくそのとおりです」と、姫はため息をついた。「では失礼して、頭の保管室へ戻ります。この頭はずいぶん長くつけていますから、別のものと取り替えたくなりました。」
姫が立ち去ると(誰一人として残念がらなかったことは言うまでもない)、オズマはティックトックに尋ねた。
「わたしたちと一緒に来てくれますか?」
「わたしは、牢獄から、救ってくれた、ドロシーの、奴隷です」と、機械人間は答えた。「ドロシーが、行くところへ、わたしも、行きます。」
「もちろん、わたしはお友だちと一緒に行くわ」と、ドロシーはすぐに言った。「こんな面白いこと、何があっても見逃したくないもの。ビリーナも行く?」
「もちろんよ」と、ビリーナは気のない調子で言った。背中の羽を整えるのに夢中で、あまり話を聞いていなかった。
「わたくしは暑いのが苦手ですから」と、ラングウィディアは言った
「熱なら、まさに彼女の得意分野だ」と、かかしは言った。「こんがり焼けば、今よりもっとよくなるだろうね。」
「それでは」と、オズマは言った。「明日の夜明けに、ノームの王国へ出発することにしましょう。それまでは休息を取り、旅の準備を整えます。」
ラングウィディア姫は客たちの前へ二度と姿を見せなかったが、宮殿の召使いたちはオズから来た一行をもてなし、快適に過ごせるよう力を尽くした。空き部屋はたくさんあり、勇敢な二十七人の軍隊にも難なく寝床が用意され、ご馳走が惜しみなく振る舞われた。
臆病なライオンとお腹をすかせたトラは戦車の引き具を外され、宮殿内を自由に歩き回ることを許された。二頭は何ひとつ危害を加えなかったが、召使いたちは卒倒しそうなほど怯えた。あるときドロシーは、小さな侍女ナンダが隅で恐怖に震え、その前にお腹をすかせたトラが立っているところを見つけた。
「君は実においしそうだ」と、トラは言っていた。「食べる許可をいただけないだろうか?」
「だ、だめ、だめです!」と、侍女は叫んだ。
「それなら」と、トラは恐ろしい大あくびをしながら言った。「レアに焼いた柔らかいテンダーロインステーキを三十ポンド(約十四キログラム)ほど、付け合わせに茹でたジャガイモを一ペック(約九リットル)、それからデザートにアイスクリームを五ガロン(約十九リットル)持ってきてくれ。」
「で、できるかぎりやってみます!」とナンダは言い、一目散に逃げ去った。
「そんなにお腹がすいてるの?」ドロシーは驚いて尋ねた。
「私の食欲がどれほど大きいか、君にはとても想像できないだろう」と、トラは悲しそうに答えた。「喉の奥から尻尾の先まで、全身を満たしているように感じる。この食欲は私の体に合っておらず、体の大きさに対して大きすぎるに違いない。いつか鉗子を持った歯医者に会ったら、引き抜いてもらうつもりだ。」
「何を? 歯を?」と、ドロシーは尋ねた。
「いや、食欲を」と、お腹をすかせたトラは言った。
ドロシーも自分の冒険を二人に語った
ドロシーは午後の大半を、かかしとブリキの木こりとのおしゃべりに費やした。二人は、ドロシーが去ってからオズの国で起きた出来事を、残らず話してくれた。ドロシーがとりわけ興味を抱いたのは、赤ん坊のときに邪悪な老魔女にさらわれ、男の子へ変えられたオズマの物語だった。親切な魔法使いによって本来の姿へ戻されるまで、オズマ自身も、かつて女の子だったとは知らなかった。その後、オズの先代統治者の一人娘であり、父に代わって国を治める権利があることが判明した。だが、父の王座を取り戻すまで、オズマはいくつもの冒険を経験した。その旅には、カボチャ頭の男、ひどく大きくなり最高の教育を受けたウォグル・バグ、魔法の粉で命を吹き込まれた不思議な木挽き馬が同行した。かかしとブリキの木こりも力を貸した。だが百獣の王として大森林を治めていた臆病なライオンは、オズマがオズの統治者となるまで、その存在を何も知らなかった。その後、オズマに会うためエメラルドの都を訪れ、エヴの国の王族を救う旅に出ると聞くと、自分も連れていってほしいと頼み、友人のお腹をすかせたトラも連れてきたのだった。
話を聞き終えると、ドロシーも自分の冒険を二人に語った。それから友人たちと外へ出て、木挽き馬を捜した。オズマは脚がすり減らないよう、その蹄に金の板を打たせていた。
木挽き馬は庭の門のそばで、ぴくりとも動かずに立っていた。だがドロシーを紹介されると、丁寧にお辞儀をし、木の節でできた目をぱちぱちさせ、ただの木の枝にすぎない尻尾を振った。
「生きているなんて、なんてすごいことなの!」と、ドロシーは声を上げた。
「まったく同感です」と、木挽き馬は、がらがらしているが不快ではない声で答えた。「誰もが知っているとおり、私のようなものは生きているはずがない。だが魔法の粉がそうしたのだから、公平に考えて、私を責めることはできないでしょう。」

「もちろんよ」と、ドロシーは言った。「それに、あなたは役に立っているみたい。かかしが背中に乗っていたもの。」
「ええ、役に立っています」と、木挽き馬は答えた。「疲れることもなければ、餌をもらう必要もなく、世話もまったくいりません。」
「頭はいいの?」と、ドロシーは尋ねた。
「あまりよくありません」と、木挽き馬は言った。「知性を必要としている教授があれほどたくさんいるのに、ありふれた木挽き馬へ知性を浪費するのは愚かなことです。ですが、主人の命令に従い、『進め』と言われれば進み、『止まれ』と言われれば止まる程度のことは知っています。だから、かなり満足していますよ。」
その夜、ドロシーはオズのオズマの部屋に隣り合う、居心地のよい小さな寝室で眠った。ビリーナはベッドの足元に止まり、翼の下へ頭を入れたまま、柔らかなクッションで眠るドロシーと同じくらいぐっすり眠った。
だが夜明け前には、全員が目を覚まして動き始めた。ほどなく冒険者たちは、宮殿の大食堂で慌ただしく朝食を取っていた。オズマは一段高い壇上に置かれた長テーブルの上座に座り、右にはドロシー、左にはかかしが座った。もちろん、かかしは何も食べない。それでもオズマは、食事をしながら旅について意見を聞けるよう、そばに座らせたのだった。
テーブルの下手にはオズの二十七人の戦士が座り、部屋の端では、ライオンとトラが床に置かれた大鍋から食べていた。ビリーナは周囲を羽ばたき、こぼれた食べ物を拾っていた。
食事はすぐに終わった。ライオンとトラが戦車につながれ、一行はノームの王の宮殿へ出発する準備を整えた。
先頭はオズマで、黄金の戦車にはドロシーが隣に座り、ビリーナをしっかり腕に抱いていた。その後に木挽き馬へ乗ったかかしが続き、すぐ後ろをブリキの木こりとティックトックが肩を並べて行進した。さらにその後を、立派な軍服で勇ましく美々しい軍隊が進んだ。将軍は大佐へ命令し、大佐は少佐へ命令し、少佐は大尉へ命令し、大尉は兵卒へ命令する。たった一人に命令するため、これほど多くの将校が必要とされる兵卒は、誇らしく堂々と胸を張って歩いた。
こうして壮麗な行列は、空が白み始めたころに宮殿を発って街道を進み、太陽が姿を見せるころには、ノームの王の領地へ通じる谷に向かって、かなりの距離を進んでいた。
大槌を持つ巨人

道はしばらく美しい田園地帯を抜け、次に、思わず立ち寄りたくなるようなピクニック向きの木立を通り過ぎた。だが行列が着実に進みつづけていると、突然ビリーナが命令するように叫んだ。
「待って――止まって!」
オズマがあまりに急に戦車を止めたため、かかしの木挽き馬は危うく追突しそうになり、軍隊も止まりきれず、次々に折り重なって倒れた。黄色い雌鶏はすぐドロシーの腕からもがき出て、道端の茂みへ飛び込んだ。
「どうしたんだ?」ブリキの木こりが心配そうに叫んだ。
「ビリーナが卵を産みたいだけよ」と、ドロシーは言った。
「卵を産む!」ブリキの木こりは驚いて繰り返した。
「ええ。この時間になると毎朝一個産むの。とっても新鮮よ。」
「だが君の愚かな老いぼれ雌鶏は、重要な冒険へ向かうこの大行列が、卵を産み終えるまで立ち止まって待つとでも思っているのか?」ブリキの木こりは真剣に尋ねた。
「ほかにどうしろっていうの?」と、ドロシーは尋ねた。「ビリーナの習慣なんだから、やめられないわ。」
「それなら急いでもらわねば」と、ブリキの木こりは苛立たしげに言った。
「いや、いけない!」と、かかしは叫んだ。「急いだら、スクランブルエッグを産んでしまうかもしれない。」
「ばかばかしいわ」と、ドロシーは言った。「でも、きっとすぐ済むわよ。」
そこで全員、落ち着かず早く進みたくて仕方ない気持ちを抑え、立ったまま待った。やがて黄色い雌鶏が茂みから出てきて、こう鳴いた。
「コッコッコ、コケーッコ! コッコッコ――コケーッコ!」 「何をしてるんだ――産卵の歌でも歌ってるのかい?」と、かかしは尋ねた。
「前へ――進め!」ブリキの木こりが斧を振って叫び、ドロシーが再びビリーナを腕に抱くと同時に、行列は出発した。

「誰もわたしの卵を取ってくれないの?」雌鶏はひどく慌てて叫んだ。
「僕が取ってくるよ」と、かかしは言った。その命令で、木挽き馬は茂みへ跳ね込んだ。藁の男はすぐ卵を見つけ、上着のポケットへ入れた。行列は速い足取りで進んでいたため、そのころにははるか先へ行ってしまっていた。だが木挽き馬はたちまち追いつき、ほどなくかかしは、いつものようにオズマの戦車の後ろを進んでいた。
「この卵、どうすればいい?」かかしはドロシーに尋ねた。
「さあ、わからないわ」と、ドロシーは答えた。「お腹をすかせたトラが欲しがるかも。」
「奥歯の隙間一つさえ埋められない」と、トラは言った。「一ブッシェル(約三十五リットル)ぶんを固茹でにすれば、空腹がほんの少しまぎれるかもしれない。だが卵一個では、私の知るかぎり、何の役にも立たない。」
「そうだね。スポンジケーキ一個さえ作れない」と、かかしは考え込んだ。「ブリキの木こりに、斧と一緒に持たせて孵してもらってもいいけど、やっぱり記念品として僕が取っておこう。」
そこで卵はポケットへ入れたままにした。

一行は今や、ドロシーが塔の窓から見た二つの高山のあいだの谷へ入っていた。その奥には三つ目の大山がそびえ、谷をふさぎ、エヴの国の北の境となっていた。ノームの王の宮殿はこの山の地下にあると言われていたが、そこへ着くまでには、まだしばらくかかりそうだった。
道は岩だらけになり、戦車の車輪には進みにくくなった。やがて足元に、飛び越すには広すぎる深い裂け目が現れた。そこでオズマはポケットから小さな正方形の緑布を取り出し、地面へ投げた。たちまち布は魔法の絨毯となり、行列全員が歩けるだけの長さまで広がった。戦車が進むと、その前で緑の絨毯が、両岸と同じ高さを保ったまま裂け目の上へ伸びたため、全員が無事に渡ることができた。
「ずいぶん簡単だね」と、かかしは言った。「次は何が起こるのかな。」
答えはすぐにわかった。両側の山肌が次第に迫り、ついには、そのあいだに細い道が一本あるだけになった。オズマたちは一列になって進むしかなかった。
やがて、低く重い「ドシン! ――ドシン! ――ドシン!」という音が谷じゅうにこだまし、進むにつれて大きくなっていった。岩角を曲がると、行く手に巨大な姿が現れた。道の上へ百フィート(約三十メートル)以上もそびえ立っている。鋳鉄の板で造られた巨人で、細道をまたぐように両足を置き、右肩の上で巨大な鉄の大槌を振り上げ、絶え間なく地面を打っていた。これで、あの轟音の正体がわかった。大槌は樽よりもはるかに大きく、両側を岩山に挟まれた道へ打ち下ろされるたび、一行が通らなければならない空間を完全にふさいでしまうのだ。
一行はもちろん、恐ろしい鉄の大槌から安全な距離を置いて、ただちに立ち止まった。今回は魔法の絨毯も役に立たない。絨毯は足元の地面にある危険から守るためのもので、頭上から襲いかかる危険には何の効果もなかった。
「うわあ!」臆病なライオンが身震いした。「あんな大槌が頭のすぐ近くを打つところを見ると、ひどく不安になる。一発でも当たれば、私はぺしゃんこの玄関マットだ。」
「あの鉄の、巨人は、たいへん立派で、時計のように、休まず働きます」と、ティックトックは言った。「わたしを造った、スミス&ティンカーが、ノームの王のために、造りました。地下宮殿を、見つけられないようにするのが、仕事です。すばらしい芸術作品だと、思いませんか?」
「あなたのように、考えたり話したりできるのですか?」オズマは驚きに満ちた目で巨人を見つめた。
「いいえ」と、機械人間は答えた。「道を、叩くためだけに、造られたので、思考装置も、発声装置も、ありません。けれど、叩くのは、とても上手だと、思います。」
「上手すぎるよ」と、かかしは言った。「おかげで先へ進めない。機械を止める方法はないのかい?」
「鍵を持っている、ノームの王だけが、止められます」と、ティックトックは答えた。
「それじゃあ」と、ドロシーは心配そうに言った。「どうすればいいの?」
「数分だけ失礼」と、かかしは言った。「僕が考えてみるよ。」
そう言って後方へ退き、絵の具で描かれた顔を岩へ向けて考え始めた。
そのあいだも巨人は、鉄の大槌を空高く振り上げては道へすさまじい一撃を加えつづけた。砲声のような轟音が山々へこだまする。ただし大槌が上がるたび、怪物の足元の道が空く瞬間があった。かかしもそれに気づいたらしく、皆のところへ戻ると言った。
「結局、とても簡単なことだった。大槌が持ち上がったとき、一人ずつ下を走り抜け、次に落ちてくるまでに向こう側へ渡ればいいんだ。」
次はトラが渡った
「打たれずに抜けるには、素早く動く必要がある」と、ブリキの木こりは首を振った。「だが本当に、それしか方法はなさそうだ。最初に挑戦するのは誰だ?」
皆は一瞬、ためらいながら互いの顔を見た。すると風に揺れる木の葉のように震えていた臆病なライオンが言った。
「行列の先頭が最初に行くべきなのだろう――つまり私だ。でも、あの大槌が恐ろしくてたまらない!」
「わたしはどうなるのです?」と、オズマは尋ねた。「あなただけなら大槌の下を駆け抜けられても、戦車はきっと押しつぶされます。」
「戦車は置いていかなければ」と、かかしは言った。「でも、二人はライオンとトラの背中へ乗れるよ。」
そう決まり、ライオンが戦車から外されると、オズマはただちにその背へ乗り、準備ができたと言った。
「たてがみにしっかりつかまって」と、ドロシーが助言した。「わたしも昔、ライオンに乗ったことがあるけど、そうやってつかまったわ。」
オズマはたてがみをしっかり握った。ライオンは道へ身を伏せ、大槌の動きを注意深く見定め、空へ上がり始める瞬間をうかがった。
そして誰もがまだ心の準備をしていると思っていたそのとき、突然、鉄の巨人の両脚のあいだへまっすぐ飛び込んだ。大槌が再び地面を打つより早く、ライオンとオズマは向こう側へ無事に渡っていた。
次はトラだった。ドロシーはその背へ乗り、縞模様の首へ両腕を回した。トラには、つかまれるたてがみがなかったからだ。トラは弓から放たれた矢のように、まっすぐ正確に跳んだ。ドロシーが気づいたときには、危険を脱してオズマの隣に立っていた。
次に、木挽き馬へ乗ったかかしが来た。無事に駆け抜けたものの、落ちてくる大槌に髪の毛一本ほどの差まで迫られた。
ティックトックは、大槌が落ちる場所のぎりぎりまで歩み寄り、次の一撃のために持ち上がると、落ち着いて前へ足を踏み出し、打ち下ろされる前に逃れた。ブリキの木こりもその方法を真似し、大槌が空中にあるあいだに無事渡った。だが二十六人の将校と一人の兵卒の番になると、膝が弱りきって一歩も歩けなかった。
「戦場では、我々は驚くほど勇敢である」と、一人の将軍が言った。「敵も我々と向き合うことを、たいへん恐ろしいと感じる。だが戦争は戦争、これはこれだ。鉄の大槌で頭を殴られ、パンケーキのように潰されるとなれば、当然ながら異議を唱えざるを得ない。」
「走って抜けるんだ」と、かかしは促した。
「膝が震えて走れません」と、大尉の一人が答えた。「やってみれば、全員が確実にゼリー状に叩き潰されます。」
「やれやれ」と、臆病なライオンはため息をついた。「友よ、トラ。この勇敢な軍隊を救うため、我々は身を大きな危険にさらさねばならないらしい。一緒に来てくれ。できるかぎりのことをしよう。」
オズマとドロシーはすでに二頭の背から下りていた。そこでライオンとトラは恐ろしい大槌の下を再び跳び越え、首に将軍を一人ずつしがみつかせて戻ってきた。二頭はこの大胆な往復を十二回繰り返し、すべての将校を巨人の脚の下から無事に向こう側へ運んだ。そのころにはひどく疲れ、大きな口から舌を垂らして、激しく息を切らしていた。
「でも、兵卒はどうするのです?」と、オズマは尋ねた。
「ああ、戦車の番をさせておけばいい」と、ライオンは言った。「もうくたくただ。あの大槌の下は二度と通らないぞ。」
将校たちはただちに抗議した。兵卒が一緒に来なければ、自分たちが命令する相手がいなくなるというのだ。しかしライオンもトラも迎えに行こうとしなかったため、かかしが木挽き馬を向かわせた。
木挽き馬が不注意だったのか、大槌の落ちる間合いを測り損ねたのか、巨大な鉄塊はその頭をまともにとらえ、ものすごい力で地面へ叩きつけた。兵卒は背中から空高く放り出され、巨人の鋳鉄の腕の一本へ着地した。兵卒は必死にしがみつき、腕が素早く打ち下ろされるたび、一緒に上がったり下がったりした。
かかしは木挽き馬を助けるため飛び込み、危険な場所から引き出すより先に、左足を大槌で潰された。その後、木挽き馬は一撃ですっかり目を回していることがわかった。頭を形作る硬い木の節は大槌でも潰れなかったが、両耳が折れてしまい、新しい耳を作ってもらうまで何も聞こえない。また左膝にもひびが入り、紐で縛らねばならなかった。
ビリーナは羽ばたいて大槌の下を抜けていたため、残るは、鉄の巨人の腕に乗って空高く上下する兵卒だけだった。かかしは地面へ平らに寝そべり、藁を詰めた柔らかな自分の体へ飛び下りるよう、兵卒に呼びかけた。兵卒は腕が地面へ最も近づく瞬間を待ち、かかしの上へ身を投げた。骨を一本も折らずにやり遂げ、かかしも少しも怪我をしなかったと言った。
そのころにはブリキの木こりが木挽き馬へ新しい耳を取りつけていた。そこで一行は全員、再び旅を続け、後ろで道を叩きつづける巨人を残していった。

ノームの王

やがて、行く手をふさぐ山――エヴの王国の最北端――へ近づくと、道は暗く陰気になった。両側の高峰が日差しを遮ったからだ。そして、ひどく静かでもあった。木々はとっくに後方へ消え、残るのはむき出しの岩ばかりで、歌う鳥も、おしゃべりするリスもいなかった。
オズマとドロシーは静寂に少し気圧され、ほかの全員も黙り込み、真剣な顔をしていた。ただし木挽き馬だけは、かかしを背に乗せて駆けながら、妙な歌を口ずさんでいた。その歌の繰り返しは、こんな歌詞だった。
「木の馬は森へ行くのかな? ああ、ああ! 行くだろうとため息つくよ。木の頭でなかったならば、山の頂上を目指すのに。」
だが誰も耳を貸さなかった。ノームの王の領地はもう目前で、壮麗な地下宮殿もそれほど遠くないはずだったからだ。
突然、あざけるような笑い声が聞こえ、一行はぴたりと足を止めた。いずれにせよ、その先へは進めなかった。巨大な山が行く手をさえぎり、道は切り立った岩壁の前で途切れていた。
「誰が笑ったのです?」と、オズマは尋ねた。
返事はなかった。だが薄暗がりの中、奇妙な姿が岩肌を横切って飛び回るのが見えた。それが何であれ、岩そのものによく似ていた。色は岩と同じで、姿も山肌から砕け落ちたかのように、ごつごつしていた。一行と向かい合う切り立った崖に張りつき、上へ下へ、右へ左へと、まるで規則性なく滑り回るので、見ていると目がくらみそうだった。足を置く場所も必要ないらしく、ハエが窓ガラスへ張りつくように岩肌へしがみつき、一瞬たりともじっとしていなかった。
「気にしては、いけません」と、ドロシーが後ずさると、ティックトックが言った。「ただの、ノームです。」
「ノームって何?」ドロシーは半ば怯えながら尋ねた。
「岩の妖精で、ノームの王に、仕えています」と、機械人間は答えた。「けれど、わたしたちへ、危害は加えません。王を、呼ばなければ、なりません。王がいなければ、宮殿の入口は、決して見つかりません。」
「あなたが呼んで」と、ドロシーはオズマに言った。
そのときノームたちが再び笑い、あまりに不気味で気力をくじく声だったため、二十六人の将校は兵卒へ「回れ右!」と命じ、全員が全速力で逃げ出した。
ブリキの木こりはすぐ自分の軍隊を追い、「止まれ!」と叫んだ。逃走をやめさせると尋ねた。
「どこへ行くつもりだ?」
「ひ、髭用のブラシを忘れたことに気づきました」と、将軍の一人が恐怖に震えながら言った。「そ、そ、それで、と、取りに戻ろうかと!」
「それは不可能だ」と、ブリキの木こりは答えた。「戻ろうとすれば、大槌を持った巨人に全員殺される。」
「ああ! 巨人を忘れていた」と、将軍は青ざめた。
「君はずいぶん多くのことを忘れるようだ」と、ブリキの木こりは言った。「自分たちが勇敢な男だということまで、忘れないでくれたまえ。」
「決して忘れません!」将軍は金糸刺繍の胸を叩いて叫んだ。
「決して!」ほかの将校たちも憤慨して自分の胸を叩いた。
「自分は」と、兵卒はおとなしく言った。「将校の命令に従わねばなりません。ですから、走れと言われれば走り、戦えと言われれば戦います。」
「そのとおりだ」と、ブリキの木こりは同意した。「では全員、オズマのもとへ戻り、あの方の命令に従うのだ。また逃げようとしたら、二十六人の将校全員を兵卒へ降格させ、この兵卒を諸君の将軍にしていただくぞ。」
この恐るべき脅しにすっかり怯え、将校たちはすぐ、臆病なライオンのそばに立つオズマのもとへ戻った。
するとオズマは大声で叫んだ。
「ノームの王に、わたしたちの前へ姿を現すよう要求します!」
返事はなく、山を動き回るノームたちが、あざけるように笑っただけだった。
「ノームの王に、命令しては、いけません」と、ティックトックは言った。「あなたは、自分の民と違って、王を支配しては、いません。」
返ってきたのは、あざける笑い声だけだった
そこでオズマはもう一度呼びかけた。
「ノームの王に、わたしたちの前へ姿を現してくださるようお願いします。」
返ってきたのは、あざける笑い声だけだった。影のようなノームたちは、岩壁のあちらこちらを飛び回りつづけた。
「懇願して、みてください」と、ティックトックはオズマに言った。「お願いしても、出てこないなら、ノームの王も、嘆願には、耳を貸すかも、しれません。」
オズマは誇り高く周囲を見回した。
「あなたたちは、自分たちの統治者が、この邪悪なノームの王へ懇願することを望みますか?」と尋ねた。「オズのオズマが、地下王国に住む者へ頭を下げるべきでしょうか?」
「いけません!」全員が大声で叫び、かかしが付け加えた。
「向こうが出てこないなら、キツネみたいに穴から掘り出し、その頑固さを打ち負かしてやる。でも、僕が自分の威厳を守るように、僕らの可愛らしい統治者も、常に威厳を保たなければ。」
「わたしなら、お願いするのも怖くないわ」と、ドロシーは言った。「わたしはカンザスから来た小さな女の子にすぎないし、故郷には使い道に困るほど威厳が余ってるもの。わたしがノームの王を呼ぶわ。」
「そうしてくれ」と、お腹をすかせたトラは言った。「もし王にミンチにされたら、明日の朝食に喜んで食べてあげよう。」
そこでドロシーは一歩進み出て言った。
「ノームの王様、お願いですから、ここへ来てわたしたちに会ってください。」
ノームたちはまた笑い始めた。だが山の中から低いうなり声が聞こえると、たちまち全員が姿を消し、静まり返った。
すると岩壁に扉が開き、声が叫んだ。

「入れ!」
「罠ではないでしょうか?」と、ブリキの木こりは尋ねた。
「かまいません」と、オズマは答えた。「わたしたちは、かわいそうなエヴの王妃と十人の子どもたちを救うために来たのです。そのためには、多少の危険も冒さなければなりません。」
「ノームの王は、正直で、気立てもよいです」と、ティックトックは言った。「正しいことを、すると、信じて、かまいません。」
そこでオズマはドロシーと手をつなぎ、先頭に立った。一行は岩のアーチ形の戸口をくぐり、壁へ埋め込まれた宝石の背後から灯りが照らす長い通路へ入った。案内役も、道を教える者もいなかったが、全員が通路を進み、やがて豪華な家具の置かれた、丸いドーム状の洞窟へ出た。
部屋の中央には、一つの巨大な岩塊から彫り出された玉座があった。形は粗野でごつごつしていたが、表面のいたるところで、大粒のルビーやダイヤモンドやエメラルドがきらめいている。そしてその玉座に、ノームの王が座っていた。
地下世界のこの重要な君主は、灰褐色の衣服をまとった小太りの男だった。その色は、座っている岩の玉座とまったく同じだった。ふさふさした髪も、長く垂れた髭も岩色で、顔まで同じ色をしていた。冠の類は何もかぶらず、小太りの体へ巻いた、宝石をちりばめた幅広の帯だけが唯一の装飾品だった。顔立ちは親切そうで陽気に見え、オズマとドロシーが前へ立ち、その後ろに仲間たちが密集して並ぶと、楽しげな目を客人たちへ向けた。
「まあ、サンタクロースそっくり――色だけ違うけど!」ドロシーは友人にささやいた。だがノームの王にも聞こえ、大声で笑い出した。
「『顔は真っ赤で、お腹は丸く、笑えばゼリーを盛ったお椀のように揺れた!』。」
王は楽しげな声で朗誦した。実際、笑うと本当にゼリーのように全身が揺れるのを、全員が目にした。
ノームの王がこれほど陽気な人物だと知り、オズマとドロシーはほっとした。しばらくすると王が右手を振り、二人の少女の傍らに、それぞれクッションつきの腰掛けが現れた。
「お座り、お嬢さん方」と、王は言った。「なぜ私に会うため、はるばるここまで来たのか話しておくれ。君たちを幸せにするため、私に何ができるのかもね。」
二人が腰を下ろすあいだに、ノームの王はパイプを取り上げ、ポケットから赤く燃える石炭を一つ出すと、火皿へ入れた。そして煙をふかし始め、頭上には輪になった煙が漂った。その姿を見て、ドロシーはますますサンタクロースに似ていると思った。だがオズマが話し始めたため、全員が一心に耳を傾けた。
「陛下」と、オズマは言った。「わたしはオズの国の統治者です。あなたが魔法をかけ、囚人としている善良なエヴの王妃と十人の子どもたちを解放していただくため、ここへ来ました。」

「いや、それは間違っているよ」と、王は答えた。「あの者たちは囚人ではなく、私がエヴの王から買い取った奴隷だ。」
「ですが、それは間違った行いです」と、オズマは言った。
「エヴの法律によれば、王は過ちを犯さない」と、君主は口から吐いた煙の輪を眺めながら答えた。「だから長い命と引き換えに、家族を私へ売る完全な権利があったのだ。」
「でも、あなたは王をだましたわ」と、ドロシーは断言した。「エヴの王は長生きしなかったもの。海へ飛び込んで溺れ死んだわ。」
「それは私の責任ではない」と、ノームの王は脚を組み、満足そうに微笑んだ。「私はちゃんと長い命を与えた。だが、あの男が自分で壊したのだ。」
「だったら、どうして長い命だったと言えるの?」と、ドロシーは尋ねた。
「簡単なことだ」と、王は答えた。「たとえばお嬢さん、君の髪の一房と引き換えに、私が可愛らしい人形を与えたとしよう。そして人形を受け取った後、君がばらばらに壊してしまったとする。それでも、私が可愛らしい人形を与えなかったと言えるかね?」
「いいえ」と、ドロシーは答えた。
「では、人形を壊したというだけで、預けた髪の房を返してくれと私へ求めるのは、公平なことだろうか?」
「いいえ」と、ドロシーはもう一度答えた。
「もちろん違う」と、ノームの王は言った。「だから、エヴの王が海へ飛び込み、長い命を壊したからといって、王妃と子どもたちを返すことはない。あの者たちは私の所有物だ。手放すつもりはない。」
「あの者たちは私の所有物だ。手放すつもりはない。」
「でも、あなたはあの人たちを残酷に扱っています」と、オズマは言った。王に拒絶され、ひどく心を痛めていた。
「どこが残酷なのだ?」王は尋ねた。
「奴隷にしているではありませんか」と、オズマは言った。
「残酷なことは」と、君主は煙の輪を吐き、それが空中へ漂うのを眺めながら言った。「私は我慢ならない。奴隷は重労働をせねばならないが、エヴの王妃と子どもたちは、か弱く繊細だった。そこで全員を装飾品や置物へ変え、宮殿のさまざまな部屋へ飾ったのだ。働かされる代わりに、ただ私の部屋を美しくしていればよい。実に親切に扱ってやったと思うがね。」
「でも、なんて恐ろしい運命でしょう!」と、オズマは真剣に叫んだ。「エヴの王国は、国を治める王族を切実に必要としています。あの人たちを解放して本来の姿へ戻してくださるなら、失う一人につき、代わりの装飾品を十個差し上げます。」
ノームの王は真顔になった。
「私が断ったら?」と尋ねた。
「そのときは」と、オズマは毅然と言った。「友人と軍隊を率いてあなたの王国を征服し、わたしの望みに従わせます。」
ノームの王は笑いすぎて喉を詰まらせ、喉を詰まらせたせいで咳き込み、咳き込みすぎて灰褐色の顔が真っ赤になった。それから岩色のハンカチで目を拭い、再び真顔になった。
「お嬢さん、君は可愛らしいだけでなく、実に勇敢だ」と、王はオズマに言った。「だが自分がどれほど大変なことを始めようとしているのか、ほとんどわかっていない。少し私と来なさい。」
王は立ち上がり、オズマの手を取って、部屋の片側にある小さな扉へ導いた。扉を開けて外へ出ると、そこはバルコニーで、地下世界の驚くべき光景が見渡せた。
広大な洞窟が山の下に何マイル(数キロメートル)も続き、どの方角にも明るく燃える炉や鍛冶場があり、ノームたちが貴金属を打ったり、きらめく宝石を磨いたりしていた。洞窟の壁一面には、岩へ直接組み込まれた銀や金の扉が何千枚も並び、それはオズマの目で追えるかぎり、はるか彼方まで列をなして続いていた。
オズから来た少女が驚きながら光景を眺めていると、ノームの王が鋭い口笛を吹いた。たちまち銀と金の扉がすべて開き、どの扉からもノームの兵士が隊列を組んで行進してきた。あまりに数が多く、巨大な地下洞窟はたちまち兵士で埋め尽くされ、忙しく働いていた職人たちも仕事をやめざるを得なかった。
このすさまじい大軍は、全員が岩色で、ずんぐりと太ったノームだったが、美しい宝石を象嵌した、磨き上げられた鋼鉄の鎧をまとっていた。額にはまばゆい電灯を一つずつつけ、鋭い槍や剣、青銅製の戦斧を手にしている。完璧に訓練されていることは明らかだった。武器をまっすぐ正確に掲げ、何列にもわたって整然と並び、命令が一声かかれば、すぐ敵へ向けて振り下ろせる姿勢で待っていた。
「これは」と、ノームの王は言った。「我が軍のほんの一部にすぎない。地上の統治者で、私に戦いを挑んだ者は一人もいない。これから先も現れまい。私は強大すぎて、誰にも逆らえないからだ。」
王が再び口笛を吹くと、軍勢はただちに銀と金の扉を通って消えた。その後、職人たちは炉での仕事を再開した。
オズのオズマは悲しみ、落胆しながら仲間たちの方へ戻った。ノームの王も悠然と、岩の玉座へ座り直した。
「これは我が軍のほんの一部にすぎない。」
「戦うのは愚かなことです」と、オズマはブリキの木こりに言った。「勇敢な二十七人も、たちまち滅ぼされるでしょう。この窮地でどうすべきか、わたしにはわかりません。」
「王に厨房がどこか尋ねてはどうだ」と、トラが提案した。「熊のように腹ぺこだ。」
「私が王へ飛びかかって、ばらばらに引き裂いてもいい」と、臆病なライオンは言った。
「やってみるがいい」と、君主はポケットから新しい燃える石炭を取り出し、パイプへ火をつけながら言った。
ライオンは低く身を伏せ、ノームの王へ飛びかかろうとした。だが、ほんのわずか空中へ跳び、同じ場所へ下りただけだった。玉座へは一インチ(約二・五センチメートル)たりとも近づけない。
「思うに」と、かかしは考え深げに言った。「王は偉大な魔法使いで、逆らうことはできない。だから、うまくおだてて奴隷を手放してもらうのが、いちばんいい方法じゃないかな。」
「今までの提案の中で、いちばん賢明だ」と、ノームの王は断言した。「私を脅すのは愚かだ。だが私はあまりに心優しいので、甘く頼まれたり、おだてられたりすると断れない。旅の目的を本当に果たしたいなら、オズマよ、私をうまく説き伏せねばならない。」
「わかりました」と、オズマは少し元気を取り戻して言った。「では友人となり、友好的に話し合いましょう。」
「もちろんだ」と、王は楽しそうに目を輝かせて同意した。
「わたしは」と、オズマは続けた。「今、陛下の宮殿で装飾品や置物となっているエヴの王妃と子どもたちを解放し、民のもとへ戻してあげたいと切に願っています。どうすればそれを成し遂げられるか、どうぞお教えください。」
王はしばらく考え込み、その後で尋ねた。
「エヴの者たちを自由にするためなら、君自身も多少の賭けや危険を受け入れるつもりがあるかね?」
「もちろんです!」オズマは身を乗り出して答えた。
「それなら」と、ノームの王は言った。「こういう条件を出そう。君は一人きりで、付き添いもなく私の宮殿へ入り、部屋にあるものをすべて注意深く調べる。そして十一個の異なる品物に触れることを許す。その際、『エヴ』という言葉を唱えるのだ。触れた品の一つ、あるいは複数が、エヴの王妃か十人の子どもたちの変身した姿であれば、その者はたちまち本来の姿へ戻り、何の妨げもなく、君と一緒に私の宮殿と王国から立ち去ってよい。この方法なら、十一人全員を救い出すことも可能だ。だが、すべての品物を正しく当てられず、変身したままの奴隷が残った場合は、君の友人や従者も一人ずつ宮殿へ入り、君と同じ権利を与えられる。」
「まあ、ありがとうございます! こんなに親切な申し出をしてくださって!」オズマは喜んで言った。
「ただし、条件が一つだけある」と、ノームの王は目をきらめかせながら付け加えた。
「何でしょう?」と、オズマは尋ねた。
「君が触れた十一個の品物の中に、エヴの王族が変身したものが一つもなかったなら、王族を救うどころか、君自身が魔法をかけられ、置物か装飾品へ変えられる。これはまったく公平で正当な条件であり、君が受け入れると宣言した危険でもある。」

十一回の推測

ノームの王が出した条件を聞き、オズマは黙って考え込んだ。友人たちは皆、不安そうにオズマを見た。
「やっちゃだめ!」と、ドロシーは叫んだ。「間違えたら、あなたまで奴隷にされちゃうわ。」
「でも、十一回も選べます」と、オズマは答えた。「十一個のうち一つくらいは、きっと正しく当てられるはずです。一つでも当てれば、王族の一人を救えますし、わたし自身も無事です。その後、残りの皆も挑戦すれば、奴隷となっている人々全員を、すぐ自由にできるでしょう。」
「もし失敗したら?」と、かかしは尋ねた。「僕が置物になったら、さぞ見栄えがいいだろうね?」
「失敗してはいけません!」オズマは勇敢に叫んだ。「かわいそうな人々を救うため、これほど遠くまで来たのに、冒険を投げ出すのは弱く、臆病なことです。だからわたしはノームの王の申し出を受け、ただちに王宮へ入ります。」
「では、こちらへおいで」と、王は言った。太りすぎているため、ひどく苦労しながら玉座から下りた。「道を案内しよう。」
王は洞窟の壁へ近づき、手を振った。たちまち開口部が現れ、オズマは友人たちへ微笑んで別れを告げると、勇敢にその中へ入っていった。
そこは、今まで見たどんな場所よりも美しく壮麗な大広間だった。天井は頭上はるか高くそびえる巨大なアーチでできており、壁も床も、さまざまな色合いに美しく染められた、磨き上げられた大理石だった。床には厚いビロードの絨毯が敷かれ、宮殿の各部屋へ通じるアーチには、重い絹のカーテンが垂れていた。家具は珍しい古木に精緻な彫刻を施し、繊細なサテンで覆ったものだった。宮殿全体は、どこから発しているとも知れない不思議な薔薇色の光に照らされ、その柔らかく心地よい輝きが、どの部屋にも満ちていた。
オズマは目にするものすべてに感嘆しながら、次々と部屋を巡った。美しい宮殿にはほかに誰もいなかった。ノームの王は入口で別れ、背後の入口も閉ざされている。そして壮麗な部屋のどこにも、人の姿はなかった。
暖炉の上や、数多くの棚、壁受け、テーブルには、ありとあらゆる装飾品が並んでいた。あらゆる種類の金属、ガラス、陶磁器、石、大理石で作られているようだった。花瓶、人や動物の像、彫刻を施した大皿や鉢、宝石のモザイク、そのほか数えきれない品々がある。壁には絵も掛かり、地下宮殿は、珍しく風変わりで高価な品を集めた博物館のようだった。
ひととおり部屋を見て回ったオズマは、この無数の装飾品のどれが、エヴの王族の変身した姿なのだろうと考え始めた。手がかりは何もなかった。どれにも命の気配はまるでない。つまり、当てずっぽうで選ぶしかないのだ。そのとき初めて、オズマは自分の務めがどれほど危険かを悟った。ノームの王の束縛から他人を解放しようとして、自分自身が自由を失う可能性は、あまりにも高い。狡猾な王が、客人たちと陽気に笑っていたのも無理はない。簡単に罠へかけられると知っていたのだから。
オズマは目を固く閉じ、前へ進んだ
だが一度挑戦を引き受けたオズマは、投げ出そうとはしなかった。十本の枝を持つ銀の燭台を見て、こう考えた。「これはエヴの王妃と十人の子どもたちかもしれない。」
そこで王に言われたとおり、それへ触れ、推測を告げるため「エヴ」と声に出した。しかし燭台は、元のままだった。
次に別の部屋へ行き、陶器の子羊へ触れた。捜している子どもの一人かもしれないと思ったのだ。だが、また失敗だった。三回目、四回目、五回、六回、七回、八回、九回、そして十回目と選んだが、一つも当たらなかった!
オズマは少し身震いし、薔薇色の光の中でもわかるほど青ざめた。残る推測は一回だけ。自分の運命が、その結果にかかっている。
焦ってはいけないと心を決め、もう一度すべての部屋を歩き、さまざまな装飾品を真剣に眺め、どれへ触れるか決めようとした。ついに絶望したオズマは、すべてを運へ任せることにした。部屋の入口へ向き、目を固く閉じると、重いカーテンを押しのけ、右腕を前へ伸ばしたまま、目隠しで進んだ。
ゆっくりと、音を立てずに忍び足で進み、やがて手が、小さな丸テーブルの上にある品物へ触れた。それが何かはわからなかったが、低い声で「エヴ」と唱えた。
その後、部屋から命の気配は完全に消えた。ノームの王は、新しい装飾品を手に入れたのだ。テーブルの端には、一個のエメラルドから作られたような、美しいバッタが載っていた。それがオズのオズマの、変わり果てた姿だった。
宮殿の外にある玉座の間で、ノームの王は突然顔を上げ、微笑んだ。
「次!」王は楽しげな声で言った。
不安な沈黙の中で座っていたドロシー、かかし、ブリキの木こりは、皆ぎくりとし、絶望して互いの目を見つめた。
「失敗したの、ですか?」と、ティックトックは尋ねた。
「そうらしい」と、小柄な君主は陽気に答えた。「だが、君たちの誰かが成功しないという理由にはならない。変身した者が十二人になったから、次の者には十一回ではなく、十二回の推測を許そう。さあ、さあ! 次は誰が行くのだ?」
「わたしが行く」と、ドロシーは言った。
「いや」と、ブリキの木こりは答えた。「オズマの軍の指揮官である私には、あの方に続き、救出を試みる権利がある。」
「それなら行ってこい」と、かかしは言った。「でも、気をつけるんだよ、旧友。」
「わかった」と、ブリキの木こりは約束した。そしてノームの王に従って宮殿の入口へ向かい、その背後で岩壁が閉じた。

ノームの王の笑い

まもなく王は玉座へ戻ってパイプに火をつけ直し、小さな冒険者の一団は、また長い待ち時間を過ごすため腰を落ち着けた。少女の統治者が失敗し、ノームの王の宮殿――どれほど壮麗でも、ぞっとする恐ろしい場所――の装飾品になったと知り、皆すっかり気落ちしていた。小さな指導者を失い、次にどうすればよいのかわからない。軍隊の震える兵卒に至るまで、ほどなく自分も役に立つ者ではなく、飾られる物になってしまうのではないかと恐れ始めた。
突然、ノームの王が笑い出した。
「ハッハッハ! ヒッヒッヒ! ホッホッホ!」
「何があったんだ?」と、かかしは尋ねた。
「君の友人、ブリキの木こりが、想像できるかぎり最高におかしなものになったのだ」と、王は笑いの涙を拭きながら答えた。「あれほど愉快な装飾品になれるとは、誰も信じまい。次!」
一同は絶望に胸を沈ませ、互いの顔を見つめた。将軍の一人が、悲しげに泣き始めた。
「何を泣いているんだ?」かかしは、その弱々しい態度に腹を立てて尋ねた。
「あの方から、六週間ぶんの給料をまだもらっていなかったのです」と、将軍は言った。「失うのが惜しくて。」
「それなら、君が行って彼を見つけるんだ」と、かかしは宣言した。
「わ、私が!」将軍はひどく慌てて叫んだ。
「もちろん。指揮官に続くのは君の義務だ。進め!」
「嫌です」と、将軍は言った。「もちろん行きたいのはやまやまですが、どうしても嫌です。」
かかしは問いかけるようにノームの王を見た。
「気にするな」と、陽気な君主は言った。「宮殿へ入って推測する気がないなら、燃え盛る炉の一つへ放り込んでやろう。」
「行きます! ――もちろん行きます!」将軍は瞬く間に叫んだ。「入口はどこです――どこに? 今すぐ行かせてください!」
そこでノームの王は将軍を宮殿へ案内し、再び結果を待つため戻ってきた。将軍が中で何をしたのか、誰にもわからない。だが、ほどなく王は次の犠牲者を呼び、大佐の一人が運試しを強いられた。
こうして二十六人の将校全員が一人ずつ宮殿へ入り、推測を行い――装飾品になった。
そのあいだ、王は待っている者たちへ軽食を出すよう命じた。命令を受け、粗い岩のような姿のノームが盆を運んできた。このノームはドロシーが見たほかの者たちとよく似ていたが、首にはノームの王の家令であることを示す太い金鎖をかけていた。ひどく偉そうな態度を取り、夜遅くにケーキを食べすぎると具合が悪くなりますよ、と陛下へ忠告までした。
だがドロシーは空腹で、具合が悪くなるのも怖くなかった。そこでケーキをいくつも食べ、おいしいと思った。また、風味豊かな粘土を炉で褐色になるまで焼き、細かく挽いて作った極上のコーヒーも一杯飲んだ。たいへん元気が出て、泥っぽさは少しもなかった。
この冒険へ出発した一行のうち、カンザスから来た少女の相談相手や仲間として残ったのは、かかし、ティックトック、兵卒だけだった。もちろん臆病なライオンとお腹をすかせたトラもまだいたが、二頭はケーキをいくつか食べた後、洞窟の片側で眠っていた。反対側には木挽き馬が立っていたが、ただの木製品らしく、身動きもせず、音も立てなかった。ビリーナは静かに歩き回って、散らばったケーキの屑を拾っていたが、もうとっくに寝る時刻を過ぎていたので、眠れる暗い場所を探し始めた。
やがて雌鶏は、王の岩の玉座の下にあるくぼみを見つけ、誰にも気づかれず潜り込んだ。周囲の話し声はまだ聞こえたが、玉座の下はほとんど真っ暗だったため、すぐにぐっすり眠り込んだ。
「次!」と、王が叫んだ。恐ろしい宮殿へ入る順番が来た兵卒は、ドロシーとかかしに握手を求め、悲しげに別れを告げると、岩の入口を通り抜けた。
ずいぶん長い時間、一同は待った。兵卒は急いで装飾品になりたくなかったので、ひどくゆっくり推測していた。魔法の力で、美しい宮殿の各部屋で起きていることをすべて知っているらしいノームの王も、ついには苛立ち、これ以上は起きていないと宣言した。
「私は装飾品が大好きだ」と、王は言った。「だが、新しい品を増やすのは明日まで待てる。あの愚かな兵卒が変身したら、全員で寝ることにしよう。残りの仕事は朝に回す。」
「そんなに遅いの?」と、ドロシーは尋ねた。
「もう真夜中を過ぎている」と、王は言った。「十分遅い時刻だと思うがね。私の王国は地面の下にあり、太陽が差さないから、昼も夜もない。だが地上の者たちと同じく、我々も眠らねばならない。私はあと数分で寝るつもりだ。」
実際、その後ほどなく兵卒が最後の推測を行った。もちろん外れで、もちろんすぐ装飾品になった。王は大喜びし、手を叩いて家令を呼んだ。
「客人たちを寝室へ案内せよ」と、王は命じた。「しかも急げ。私もひどく眠い。」
「こんなに遅くまで起きているからです」と、家令はぶっきらぼうに答えた。「明日の朝には、グリフィンのように不機嫌になりますよ。」
やがて、ぐっすり眠り込んだ
陛下はその言葉へ何も答えなかった。家令はドロシーを別の戸口から長い広間へ案内した。そこには、飾り気はないが快適な寝室がいくつも並んでいた。少女には最初の部屋が与えられ、かかしとティックトックには次の部屋が与えられた――二人とも決して眠らないのだが――そしてライオンとトラには三番目の部屋があてがわれた。木挽き馬は脚を引きずりながら家令について四番目の部屋へ入り、朝まで中央に硬く立っていることになった。かかしやティックトックや木挽き馬にとって、毎晩はかなり退屈なものだった。だが、肉体を持つ友人たちは眠らなければならず、邪魔されるのを嫌うため、経験から、辛抱強く静かに時間を過ごすことを学んでいた。
家令が立ち去り、皆だけになると、かかしが悲しげに言った。
「旧友のブリキの木こりを失って、とても悲しいよ。僕たちは一緒にいくつもの危険な冒険をして、そのすべてを切り抜けてきた。それなのに今、彼が装飾品となり、永遠に失われたと知るのは、本当につらい。」
「あの方は、以前から、社交界の、華でした」と、ティックトックは言った。
「確かに。でも今はノームの王に笑われ、宮殿でいちばんおかしな装飾品と呼ばれている。笑いものにされたら、かわいそうな友人の誇りが傷つくだろう」と、かかしは悲しげに続けた。
「わたしたちも、明日には、かなり、ばかげた、装飾品に、なるでしょう」と、機械人間は単調な声で言った。
ちょうどそのとき、ドロシーがひどく慌てて二人の部屋へ駆け込み、叫んだ。
「ビリーナはどこ? ビリーナを見なかった? ここにいる?」
「いないよ」と、かかしは答えた。
「じゃあ、どうしちゃったの?」と、ドロシーは尋ねた。
「てっきり君と一緒だと思っていたよ」と、かかしは言った。「でも、ケーキの屑を拾ってから、黄色い雌鶏の姿を見た覚えがないな。」
「王の玉座がある部屋へ置いてきちゃったんだわ」と、ドロシーは判断し、すぐ振り返って、入ってきた扉へ続く広間を駆け戻った。だが扉は固く閉ざされ、反対側から鍵がかかっていた。分厚い岩板は、音が一つも通らないほど厚かった。ドロシーは仕方なく自分の部屋へ戻った。
臆病なライオンが部屋へ頭を入れ、羽の生えた友人を失った少女を慰めようとした。
「あの黄色い雌鶏なら、自分の身は十分に守れる」と、ライオンは言った。「だから心配せず、できるだけ眠るんだ。長くて疲れる一日だったし、君には休息が必要だ。」
「明日、装飾品になったら、きっとたっぷり休めるわ」と、ドロシーは眠そうに言った。それでも長椅子へ横になると、さまざまな心配事を抱えていたにもかかわらず、すぐ夢の国へ旅立った。

ドロシー、勇気をふりしぼる

そのころ、侍従長は玉座の間へ戻り、王にこう言っていた。
「あの者たちに、いつまでも時間をかけるなど愚かなことです。」
「何だと!」陛下が激怒して叫んだので、玉座の下で眠っていたビリーナまで目を覚ました。「よくもこのわしを愚か者呼ばわりしたな?」
「私は真実を口にするのが好きですので」と侍従長は言った。「なぜ全員を一度に魔法にかけなかったのです? 一人ずつ宮殿へ入らせ、どの飾り物がエヴの女王とその子供たちなのか当てさせる必要などなかったでしょう。」
「この間抜けめ、そのほうが面白いではないか」と王は言い返した。「おかげで長いあいだ楽しめる。」
「しかし、もし誰かが正しく当てたらどうなさるのです」と侍従長はなおも食い下がった。「古い飾り物も、今度の新しい飾り物も、どちらも失ってしまいますぞ。」
「当てられるはずがない」と王は笑って答えた。「エヴの女王とその家族が、みな王家の紫色をした飾り物だと、どうしてわかる?」
「ですが、宮殿にはほかに紫色の飾り物がありません」と侍従長は言った。
「ほかの色ならいくらでもある。それに紫色のものは部屋じゅうに散らしてあり、形も大きさもさまざまだ。わしの言葉を信じろ、侍従長。やつらが紫色の飾り物を選ぼうなどと思いつくはずがない。」
玉座の下にうずくまったビリーナは、この会話を一言も漏らさず聞いていた。そして王が自ら秘密を明かすのを耳にすると、ひそかにくっくっと笑った。
「それでも、そんな危険を冒すのは愚かなことです」と侍従長はぶっきらぼうに続けた。「ましてオズから来た者たちを、みな緑色の飾り物に変えてしまうなど、なおさら愚かです。」
「よくもこのわしを愚か者呼ばわりしたな?」
「やつらはエメラルドの都から来たからな」と王は答えた。「これまで、わしの収集品には緑色の飾り物がなかった。ほかのものに交ぜて並べれば、なかなかきれいだと思うぞ。そう思わぬか?」
侍従長は腹立たしげに鼻を鳴らした。
「王である以上、お好きになさればよろしい」と侍従長は唸った。「ですが、ご自身の不注意でひどい目に遭ったときには、私が忠告したことをお忘れなく。あらゆる変身の魔法を使え、そのほかにも大きな力を授けてくれる魔法の帯を私が身につけていたなら、あなたよりはるかに賢く、立派な王になってみせますがね。」
「ああ、もうそのうんざりするおしゃべりをやめろ!」王はまた腹を立て、命じた。「侍従長だからといって、好きなだけわしを叱りつけてよいと思っているな。次に無礼な口を利いたら、炉で働かせ、代わりに別のノームを据えてやる。さあ、寝室までついてこい。わしはもう休む。それから明日の朝は早く起こせ。残りの者たちを飾り物に変える楽しみを味わいたいからな。」
「カンザスの娘は何色になさいます?」と侍従長が尋ねた。
「灰色がよかろう」と陛下は言った。
「では、かかしと機械人間は?」
「ああ、あれらは純金にしてやる。生身の姿があまりにも醜いからな。」
やがて声は遠ざかり、王と侍従長が部屋を出たのだとビリーナにはわかった。曲がっていた尾羽を何枚か整えると、再び頭を翼の下へ差し入れ、眠りについた。
朝になると、ドロシーとライオンとトラはそれぞれの部屋で朝食を出され、そのあと玉座の間で王と合流した。トラは、腹が減って死にそうだとひどく訴え、もう飢えの苦しみを味わわずに済むよう、宮殿へ入って飾り物にならせてくれと頼んだ。
「朝食は食べなかったのか?」とノームの王が尋ねた。
「ほんのひと口はね」と獣は答えた。「でも、腹ぺこのトラに、ひと口で何の足しになる?」
「粥を十七杯、揚げソーセージを大皿一杯、パンを十一斤、ミンスパイを二十一個も食べました」と侍従長が言った。
「それ以上、何が欲しいのだ?」と王が問い詰めた。
「丸々太った赤ん坊。丸々太った赤ん坊が欲しい」とお腹をすかせたトラは言った。「かわいくて、ふっくらして、みずみずしく、柔らかい、丸々太った赤ん坊がね。でももちろん、手に入ったとしても、良心が許さないから食べられない。だから飾り物になって、空腹を忘れるしかないんだ。」
「ならぬ!」王は叫んだ。「そんな不器用な獣を宮殿へ入れ、わしの美しい小物を倒したり壊したりされてたまるか。残りの仲間がみな変身したら、おまえたちは地上へ帰り、自分の用事を片づけるがよい。」
「仲間がいなくなったら、ぼくらには片づける用事などありません」とライオンが言った。「だから自分たちがどうなろうと、あまり気にはしませんよ。」
ドロシーは最初に宮殿へ入らせてほしいと頼んだが、ティックトックは、奴隷たる者、主人より先に危険へ立ち向かうべきだと強く主張した。かかしもそれに賛成したので、ノームの王は機械人間のために扉を開いた。ティックトックは運命に立ち向かうべく、どしどしと宮殿へ入っていった。それから陛下は玉座へ戻り、実に満足げにパイプをふかしたので、頭上に小さな煙の雲ができた。
しばらくして、王は言った。
「残りがこんなに少なくなって残念だ。もうすぐ楽しみも終わってしまう。そうなれば、新しい飾り物を眺めるくらいしか、暇つぶしがなくなるではないか。」
「あなたって」とドロシーは言った。「自分で言うほど正直じゃないみたいね。」
ノームの王はパイプをふかした
「どういうことだ?」と王が尋ねた。
「だって、エヴの人たちがどの飾り物に変えられたのか、簡単に当てられるようなことを言ったじゃない。」
「簡単だとも」と王は言い張った。「当てるのが上手ならな。だが、どうやらおまえの一行は、みな当てるのが下手らしい。」
「ティックトックは今、何をしているの?」少女は不安げに尋ねた。
「何もしておらぬ」と王は眉をひそめて答えた。「部屋の真ん中で、ぴくりともせず立っている。」
「ああ、きっとぜんまいが切れたのよ」とドロシーは言った。「今朝、巻いてあげるのを忘れてた。もう何回当てたの?」
「許された回数のうち、あと一回を残すのみだ」と王は答えた。「中へ行ってぜんまいを巻いてやったらどうだ。そのまま残って、自分の番も済ませるがよい。」
「わかったわ」とドロシーは言った。
「次は私の番だ」とかかしが言った。
「まさか、行ってしまって、わたしをひとりぼっちにするつもり?」と少女は尋ねた。「それに、今わたしが行けば、ティックトックのぜんまいを巻いて、最後の一回を当てさせてあげられるわ。」
「それなら仕方ないね」とかかしはため息をついた。「行っておいで、小さなドロシー。幸運が君とともにありますように!」
こうしてドロシーは、怖くても勇気をふりしぼり、戸口をくぐって宮殿の華麗な部屋へ入った。初めは、しんと静まり返った宮殿に圧倒された。少女は浅く息をし、胸に手を当て、驚きに満ちた目であたりを見回した。
確かに美しい場所だった。だが、どの片隅にも魔法が潜んでいる。静かで道理の通った故郷の日常とはあまりにも違う、こうした妖精の国々の魔法に、ドロシーはまだ慣れていなかった。
いくつもの部屋をゆっくり抜け、やがて動かずに立っているティックトックを見つけた。この謎めいた宮殿で、ようやく友達に出会えたような気がしたので、急いで機械人間の動作と発声と思考のぜんまいを巻いた。
「あり-が-とう、ドロ-シー」それが最初の言葉だった。「これで、あと一回、当て-られ-ます。」
「ああ、十分に気をつけてね、ティックトック。お願いよ!」と少女は叫んだ。
「はい。ですが、ノームの王は、私たちを思いのままにでき、罠を仕掛けてい-ます。私たちは全員、もう助から-ないと思い-ます」とティックトックは答えた。
「わたしも、そんな気がする」とドロシーは悲しげに言った。
「もしスミス&ティンカーが、当て物用の時計仕掛けの付属品を、私に取りつけてくれていたなら」とティックトックは続けた。「ノームの王にも、対抗できたかも、しれ-ません。ですが私の思考は、単純で、素直なので、今回はあまり、役に立ち-ません。」
「できるだけ頑張って」とドロシーは励ました。「もし失敗しても、どんな形に変えられるか、わたしが見ていてあげる。」
そこでティックトックは、片側にヒナギクが描かれた黄色いガラスの花瓶に触れ、同時に「エヴ」と口にした。
一瞬のうちに機械人間は姿を消した。少女はすぐさま四方を見回したが、部屋にひしめく飾り物のうち、どれがつい先ほどまで忠実な友であり召使いだったものなのか、見分けることはできなかった。
こうなっては、自分に課された望みのない仕事を引き受け、当て物をして、その結果を受け入れるしかなかった。
「きっと、そんなに痛くはないわ」とドロシーは考えた。「だって、誰の悲鳴も泣き声も聞こえなかったもの――かわいそうな士官たちの声さえね。ああ! ヘンリーおじさんやエムおばさんは、わたしがノームの王の宮殿で飾り物になったことを、いつか知るのかしら。永遠にひとつの場所に立って、きれいに見せなきゃならないんだわ――ほこりを払うために動かされるとき以外は。自分がこんなふうになるなんて、ちっとも考えてなかった。でも、仕方ないんでしょうね。」
ドロシーはもう一度すべての部屋を歩き、そこにある品々を注意深く調べた。だが、あまりに数が多いため混乱してしまった。そして結局、オズマが考えたのと同じく、どうしたところで単なる当てずっぽうにしかならず、正解する見込みはほとんどないと悟った。
おずおずと雪花石膏の鉢に触れ、「エヴ」と言った。
「これでひとつは失敗ね」とドロシーは思った。「でも、どれが魔法をかけられたもので、どれが違うのか、どうやって見分ければいいの?」
次に、暖炉飾りの隅に置かれた紫色の子猫の像に触れた。そして「エヴ」と言ったとたん、子猫は消え、金髪のかわいらしい少年が隣に立っていた。同時に、どこか遠くで鐘が鳴った。驚きと喜びのあまりドロシーが飛びのくと、幼い少年は叫んだ。
「ここはどこ? あなたは誰? ぼくに何が起きたの?」
「まあ、びっくり!」とドロシーは言った。「本当にできたわ。」
「何ができたの?」と少年は尋ねた。

「自分が飾り物になるのを免れたの」と少女は笑って答えた。「それから、あなたが永遠に紫色の子猫でいるのも防いだわ。」
「紫色の子猫?」少年は繰り返した。「そんなもの、いるわけないよ。」
「そうね」とドロシーは答えた。「でも、ついさっきまではいたのよ。暖炉飾りの隅に立っていたのを覚えてない?」
「もちろん覚えていないよ。ぼくはエヴの王子で、名前はエヴリングだ」と幼い少年は誇らしげに名乗った。「でも、父上である王が、母上と子供たちをみんな、残酷なノームの支配者に売ってしまった。それから先は何も覚えていない。」
「紫色の子猫に、覚えてろってほうが無理よ、エヴリング」とドロシーは言った。「でも、もう元のあなたに戻ったわ。今度は、あなたのお兄さんやお姉さんたちを何人か助けてみる。もしかしたら、お母さまもね。だから一緒に来て。」
ドロシーは少年の手をつかみ、次にどれを選ぶべきか決めようと、あちこちへ急いだ。三回目はまた失敗し、四回目も五回目も失敗だった。
幼いエヴリングには、ドロシーが何をしているのか見当もつかなかった。それでも、新しくできた仲間を気に入っていたので、喜んで隣を小走りについていった。
その後もドロシーの探索は成功しなかった。だが、最初の落胆が過ぎると、エヴの王家の者を一人だけでも救い、悲しみに沈む国へ幼い王子を帰せるのだと思い、少女の胸は喜びと感謝で満たされた。これで金髪の少年という賞を連れ、恐ろしいノームの王のもとへ無事に戻れる。
そこで来た道を引き返して宮殿の入口を見つけた。近づくと、巨大な岩の扉がひとりでに開き、ドロシーとエヴリングの二人を通して、玉座の間へ迎え入れた。

ビリーナ、ノームの王を怖がらせる

さて、ドロシーが当て物をするため宮殿へ入り、かかしがノームの王と二人きりで残されたとき、二人は数分間、ふさぎ込んだまま黙って座っていた。やがて王が満足げな声を上げた。
「よし、上出来だ!」
「誰が上出来なんです?」とかかしが尋ねた。
「機械人間だ。もう二度とぜんまいを巻く必要はない。実にこざっぱりした飾り物になったからな。まことに見事だ。」
「ドロシーはどうです?」とかかしは尋ねた。
「ああ、もうじき当て始めるだろう」と王は上機嫌に言った。「そうしたら、わしの収集品に加わり、次はおまえの番だ。」
善良なかかしは、小さな友達がオズマたちと同じ運命をたどろうとしていると思い、深く心を痛めた。だが、暗い物思いに沈んで座っていると、突然、甲高い声が響いた。
「コッ、コッ、コッ――コケコッコーッ! コッ、コッ、コッ――コケコッコーッ!」
ノームの王は仰天し、危うく席から飛び上がりそうになった。
「何ということだ! 何の音だ?」と王はわめいた。
「ビリーナですよ」とかかしは言った。
「何のつもりでそんな音を立てる!」黄色いめんどりが玉座の下から出てきて、誇らしげに部屋を歩き回ると、王は怒鳴りつけた。
「卵を産んだばかりなんだから、鳴く権利くらいあるでしょうよ」とビリーナは答えた。
「何だと! 卵を産んだ! わしの玉座の間で! よくもそんなまねをしたな?」王は怒り狂った声で尋ねた。
「あたしは、たまたまいる場所で卵を産むのよ」とめんどりは言い、羽を逆立ててから、ぶるりと震わせ元に戻した。
「だが――何たることだ! 卵が毒だと知らんのか?」王は吠えた。その岩色の目は、恐怖のあまり今にも飛び出しそうだった。
「毒ですって! まあ、失礼しちゃう」とビリーナは憤慨した。「あたしの卵は、どれも間違いなく新鮮で、採れたてほやほやよ。毒だなんて、とんでもない!」
「おまえはわかっていない」と小さな王は落ち着かない様子で言い返した。「卵は外の世界だけのもの――おまえが来た地上の世界のものだ。この地下王国では、言ったとおり猛毒なのだ。われらノームは、卵が近くにあるだけでも耐えられぬ。」
「なら、この卵には耐えてもらうしかないわね」とビリーナは言い放った。「もう産んじゃったんだから。」
「どこに?」と王が尋ねた。
「あなたの玉座の下よ」とめんどりは言った。
王は玉座から離れたい一心で、三フィート(約九十センチメートル)も空中へ飛び上がった。
「持っていけ! 今すぐ持っていけ!」と王は叫んだ。
「無理よ」とビリーナは言った。「あたしには手がないもの。」
「僕が卵を取ろう」とかかしが言った。「僕はビリーナの卵を集めているんだ。上着のポケットには、昨日産んだ卵もひとつ入っている。」
それを聞いた王は、かかしとの距離を大急ぎで広げた。かかしが玉座の下へ手を伸ばそうとしたとき、めんどりが突然叫んだ。
「待って!」
「どうしたの?」とかかしが尋ねた。
「あたしにも、ほかのみんなと同じように宮殿へ入って当て物をする権利を王が認めないかぎり、その卵を取らないで」とビリーナは言った。
「ふん!」と王は言い返した。「おまえはただのめんどりではないか。どうやって、わしの魔法を見破るつもりだ?」
「試すくらいはできるでしょう」とビリーナは言った。「失敗すれば、あなたは飾り物をもうひとつ手に入れられる。」
「おまえが美しい飾り物になるものか」と王は唸った。「だが、好きにするがよい。わしの目の前で卵を産むという無礼を働いた罰には、ちょうどよかろう。かかしが魔法にかけられたら、そのあとに続いて宮殿へ入れ。だが、どうやって品物に触れる?」
「爪で」とめんどりは言った。「それに『エヴ』という言葉だって、誰にも負けないくらいはっきり言えるわ。それから、友達にかけられた魔法を当て、成功したら解放する権利ももらいます。」
「よかろう」と王は言った。「約束する。」
「それじゃ」とビリーナはかかしに言った。「卵を取っていいわよ。」
「卵が毒だと知らんのか?」
かかしはひざまずいて玉座の下へ手を伸ばし、卵を見つけた。それを上着のもう一方のポケットへ入れた。同じポケットへ入れると、卵同士がぶつかって割れるかもしれないと思ったからだ。
ちょうどそのとき、玉座の上の鐘が勢いよく鳴り、王はまたびくりと飛び上がった。
「やれやれ!」王は苦り切った顔で言った。「あの娘、本当にやりおった。」
「何をしたんです?」とかかしが尋ねた。
「一回、正しく当てて、わしの見事な魔法をひとつ解いてしまったのだ。なんてこった、実にけしからん! 成功するとは思わなかった。」
「では、ドロシーは無事にここへ戻れるのですね?」かかしは喜び、描かれた顔をしわくちゃにして満面の笑みを浮かべた。
「もちろんだ」と王は不機嫌そうに部屋を行き来しながら言った。「どれほど愚かな約束でも、わしは必ず守る。だが、失った飾り物の代わりに、黄色いめんどりを飾り物にしてやる。」
「そうなるかもしれないし、ならないかもしれないわね」とビリーナは平然とつぶやいた。「正しく当てて、あなたを驚かせるかも。」
「正しく当てるだと?」王は噛みつくように言った。「おまえより優れた者たちが失敗したというのに、どうして当てられる? この愚かな鳥め。」
ビリーナは答える気にならなかった。するとすぐに扉が勢いよく開き、幼いエヴリング王子の手を引いたドロシーが入ってきた。

かかしは少女をしっかり抱き締めて迎え、うれしさのあまりエヴリングまで抱き締めようとした。だが幼い王子は恥ずかしがり屋で、色を塗られたかかしから身を引いた。かかしに立派なところがたくさんあるとは、まだ知らなかったからだ。
「なんてこった、実にけしからん!」
しかし、友達同士で話す時間はほとんどなかった。今度はかかしが宮殿へ入らなければならない。ドロシーの成功に大いに勇気づけられたかかしもドロシーも、少なくとも一回は正しく当てられるだろうと期待した。
だが、かかしはドロシー以外の者たちと同じく不運だった。品物を選ぶのにかなり時間をかけたにもかかわらず、哀れなかかしはひとつも正しく当てられなかった。
こうしてかかしは純金の名刺受けとなり、美しくも恐ろしい宮殿は、次の訪問者を待った。
「これで全部終わったな」と王は満足げにため息をついた。「カンザスの娘が一回正解したことを除けば、実に愉快な見世物だった。おかげで美しい飾り物がたくさん増えたぞ。」
「今度はあたしの番ね」とビリーナがきびきびと言った。
「ああ、おまえのことは忘れていた」と王は言った。「だが、行きたくなければ行かなくてもよいぞ。寛大な心で、見逃してやろう。」
「そうはいかないわ」とめんどりは答えた。「約束どおり、当てさせてもらいますからね。」
「ならば行け、この羽の生えた馬鹿者め!」王はぶつぶつ言い、宮殿へ通じる入口を再び出現させた。
「行かないで、ビリーナ」とドロシーは真剣に言った。「あの飾り物を当てるのは簡単じゃないわ。わたしだって、運がよかったから飾り物にならずに済んだだけ。ここに残って、一緒にエヴの国へ帰りましょう。この小さな王子なら、きっと住むところを用意してくれるわ。」
「もちろん用意するとも」とエヴリングは、ひどく威厳を込めて言った。
「心配しないで、かわいい子」とビリーナは、笑いのつもりらしい鳴き声を上げた。「あたしは人間じゃないけど、めんどりだからって馬鹿じゃないわ。」
「もう、ビリーナ!」とドロシーは言った。「あなたはずっと前からひよこじゃないでしょ。もう――その――大人になったんだから。」
「そうかもしれないわね」とビリーナは考え深げに答えた。「でも、カンザスの農夫があたしを誰かに売るとしたら、何て呼ぶかしら? めんどり、それともひよこ?」
「ビリーナはカンザスの農夫じゃないでしょ」と少女は答えた。「それに、さっき――」
「もういいわ、ドロシー。あたしは行く。さよならは言わないわ。戻ってくるんだから。勇気をなくさないで。少ししたら、また会いましょう。」
それからビリーナは、「コッコッ」と何度も大きな声で鳴いた。そのたび、太った小さな王はますます落ち着きをなくしたようだった。そしてビリーナは入口を通り、魔法の宮殿へ堂々と入っていった。
「あの鳥を見るのが、これで最後であってほしいものだ」と王は言い、再び玉座に腰を下ろすと、岩色のハンカチで額の汗を拭った。「めんどりというだけでも十分に厄介なのに、口まで利くとなれば、まったく恐ろしい。」
「ビリーナはわたしの友達よ」とドロシーは静かに言った。「いつも礼儀正しいとは言えないけど、悪気はないの。きっとね。」

紫、緑、そして金

黄色いめんどりは、ひどく偉そうに脚を高く上げながら、豪華な宮殿の上等なビロードの絨毯をゆっくり歩き、目につくものすべてを鋭い小さな目で調べた。
ビリーナが偉そうにするのも無理はなかった。ただ一人、ノームの王の秘密を知り、もとは生きていた品物と、初めから命などなかった品物を見分けられるのだから。自分が正しく当てられることには絶対の自信があった。だが始める前に、地下宮殿の壮麗さを余すところなく見物したかった。ここはおそらく、あらゆる妖精の国の中でも、ひときわ豪華で美しい場所のひとつだった。
部屋を巡りながら、ビリーナは紫色の飾り物を数えた。小さなものや、妙な場所に隠されたものもあったが、すべて見つけ出し、いくつもの部屋に散らされた十個を残らず確認した。緑色の飾り物は数えなかった。その時が来れば、全部見つけられると思っていたからだ。
とうとう宮殿全体を見て回り、その華やかさを存分に楽しむと、黄色いめんどりは大きな紫色の足台を見かけた部屋へ戻った。足台に爪を置いて「エヴ」と言うと、たちまちそれは消え、背が高くほっそりとして、このうえなく美しい衣装をまとった麗しい婦人が現れた。
婦人はしばらく目を丸くしていた。自分が変身させられたことを覚えておらず、何が自分を生き返らせたのかも想像できなかったからだ。
「おはようございます、奥さま」とビリーナは鋭い声で言った。「お年のわりには、ずいぶんお元気そうね。」
「誰です、口を利いているのは?」エヴの女王は誇らしげに胸を張り、問いただした。
「本当の名前はビルよ」と、椅子の背に止まっていためんどりは答えた。「でもドロシーが飾りをつけて、ビリーナにしたの。まあ、名前なんてどうでもいいわ。あたしがノームの王からあなたを救ったの。もう奴隷じゃないわよ。」
「それでは、その慈悲深いお恵みに感謝いたします」と女王は優雅に腰をかがめた。「ですが、子供たちは――お願いです、教えてください――私の子供たちはどこにいるのです?」そして不安げに両手を組み、懇願した。
「心配しないで」とビリーナは助言し、椅子の背を這っていた小さな虫をつついた。「今のところ、いたずらもできず、これ以上ないほど安全よ。身動きひとつできないんだから。」
「親切な旅のお方、それはどういう意味でしょう?」女王は不安を抑えながら尋ねた。
「魔法をかけられているの」とビリーナは言った。「あなたと同じよ――ドロシーが見つけた小さい子以外は、全員ね。きっとずいぶん長いあいだ、いい子にしていたでしょうよ。そうするしかなかったんだから。」
「ああ、かわいそうな子供たち!」女王は苦悶のすすり泣きを漏らした。
「ちっともかわいそうじゃないわ」とめんどりは言い返した。「そんなことで悲しまないで、奥さま。すぐにまた、いつもどおり周りに群がって、あなたを困らせたり悩ませたりするようにしてあげる。さあ、ついてきて。どれほどきれいになっているか、見せてあげるわ。」
ビリーナは止まり木から飛び降り、女王を従えて次の部屋へ歩いていった。低い卓のそばを通ったとき、小さな緑色のバッタが目に入ったので、すぐさま飛びかかり、鋭いくちばしでつまみ上げた。バッタはめんどりの大好物であり、跳んで逃げる前に素早く捕らえなければならないからだ。もし本物のバッタだったなら、エメラルドのバッタに変えられたオズのオズマは、危うくここで最期を迎えるところだった。だがバッタは硬く、命もなかった。食べ物ではないと察したビリーナは、喉へ滑り込ませず、すぐに吐き出した。
「考えればわかったはずよ」とビリーナは独り言を言った。「草もないところに、生きたバッタがいるわけないもの。きっとこれも、王が変身させた誰かね。」
まもなく紫色の飾り物のひとつへ近づいた。女王が興味深そうに見守るなか、めんどりがノームの王の魔法を解くと、金色の髪が雲のように肩へかかる、優しい顔立ちの少女が現れた。
「エヴァナ!」女王は叫んだ。「私のエヴァナ!」そして少女を胸に抱き、その顔を口づけで覆った。
「よしよし」とビリーナは満足げに言った。「ノームの王さま、あたしは当て上手かしら? ええ、当て上手に決まってるわ!」
次に、女王がエヴローズと呼ぶ少女の魔法を解き、そのあとには、弟のエヴリングより年上のエヴァルドという少年を救った。まったく、黄色いめんどりは、善良な女王を長いあいだ驚かせたり抱き締めさせたりし続けた。やがて大きさの違いを除けばどれもよく似た五人の王女と四人の王子が、幸せな母親のそばに一列に並んだ。
王女たちの名はエヴァナ、エヴローズ、エヴェラ、エヴィリーン、エヴェドナ。王子たちはエヴロブ、エヴィントン、エヴァルド、エヴロランドであった。このうちエヴァルドが最年長で、故国へ戻れば父の玉座を継ぎ、エヴの王として戴冠することになっていた。物静かで真面目な若者であり、きっと賢明かつ公正に国民を治めることだろう。
エヴの女王、ビリーナに感謝する
エヴの王家を全員、本来の姿へ戻したビリーナは、今度はオズの人々が変えられた緑色の飾り物を選び始めた。見つけるのにさほど苦労はなく、やがて二十六人の士官と一人の兵卒が黄色いめんどりの周りに集まり、解放されたことを喜びながら口々に祝福した。宮殿の部屋で命を取り戻した三十七人はみな、自分たちの自由が黄色いめんどりの賢さのおかげだとよくわかっており、ノームの王の魔法から救ってくれたことを心から感謝した。
「さて」とビリーナは言った。「今度はオズマを見つけなきゃ。必ずどこかにいるし、オズから来たんだから、当然、緑色よ。さあ、この間抜けな兵隊さんたち、周りを見て、捜すのを手伝って。」
だが、しばらく探しても、ほかに緑色のものを見つけられなかった。女王は九人の子供たちにもう一度ずつ口づけし、ようやく周囲の出来事へ関心を向ける余裕ができたので、めんどりに言った。
「心優しきお友達よ、あなたが捜しているのは、もしやあのバッタではありませんか。」
「もちろん、あのバッタよ!」とビリーナは叫んだ。「まあ、あたしったら、この勇敢な兵隊さんたちと同じくらい間抜けだわ。ここで待っていて。戻って取ってくるから。」
ビリーナはバッタを見つけた部屋へ行った。ほどなくして、相変わらず愛らしく優美なオズのオズマが入ってくると、エヴの女王へ歩み寄り、高貴な王女同士にふさわしい挨拶を交わした。
「でも、私の友達のかかしとブリキの木こりはどこ?」礼儀正しい挨拶を終えると、少女の統治者は尋ねた。
「あたしが捜してくる」とビリーナは答えた。「かかしは純金で、ティックトックも同じ。でも、ブリキの木こりが何になっているのかは、よくわからないの。ノームの王は、おかしなものに変えたと言っていたから。」
オズマも熱心にめんどりの探索を手伝った。やがて、輝く金の飾り物になっていたかかしと機械人間が見つかり、いつもの姿へ戻された。だが、どれほど捜しても、ブリキの木こりが変えられたと思われる、おかしな飾り物はどこにも見つからなかった。
「できることはひとつだけです」と、とうとうオズマが言った。「ノームの王のところへ戻り、私たちの友達がどうなったのか、白状させましょう。」
「言わないかもしれないわよ」とビリーナが言った。
「言わせます」とオズマはきっぱり答えた。「王は私たちを正直に扱いませんでした。公平さと人のよさを装って全員を罠にはめたのです。賢く聡明な友達、黄色いめんどりが救う方法を見つけてくれなければ、私たちは永遠に魔法をかけられたままだったでしょう。」
「あの王は悪党だ」とかかしが言い切った。
「あいつの笑い声は、ほかの男のしかめっ面より恐ろしいです」と兵卒は身震いした。
「私は彼を正直だと、思い-ましたが、間違い-でした」とティックトックは述べた。「私の思考は、たいてい正しいのですが、ときどき間違ったり、正常に働かなかったりするなら、それはスミス&ティンカーの責任です。」
「スミス&ティンカーは、あなたをとても上手に作ったわ」とオズマは優しく言った。「あなたが完全ではないからといって、二人を責めるべきではないと思います。」
「あり-がとう」とティックトックは答えた。
「それじゃ」とビリーナは、きびきびした小声で言った。「みんなでノームの王のところへ戻って、どう弁解するか聞いてやりましょう。」
そこで一行は入口へ向かった。オズマを先頭に、女王と幼い王子、王女たちの列が続く。そのあとにはティックトック、そして藁を詰めた肩にビリーナを乗せたかかしが続いた。二十七人の士官と一人の兵卒が最後尾を務めた。
広間へたどり着くと、目の前で扉が勢いよく開いた。だが一同はそこで立ち止まり、驚愕と恐怖の表情を浮かべ、丸天井の洞窟を見つめた。部屋はノームの王の鎧武者で埋め尽くされ、整然と幾重もの列を作っていた。額の電灯はまばゆく輝き、戦斧は今にも敵を打ち倒そうと構えられている。それでも命令が下るのを待ち、彫像のように動かなかった。
そして、この恐ろしい軍勢の中央では、小さな王が岩の玉座に座っていた。だが、微笑みも笑いもしていない。顔は怒りで醜く歪み、見るも恐ろしい有様だった。

かかし、戦いに勝つ

ビリーナが宮殿へ入ったあと、ドロシーとエヴリングは、その試みが成功するか失敗するか待つため腰を下ろした。ノームの王は玉座に陣取り、しばらくのあいだ上機嫌で満ち足りた様子で長いパイプをふかしていた。
やがて、魔法が解けるたびに鳴る玉座の上の鐘が鳴り始めた。王は苛立って飛び上がり、「ロケッティ・リケッツ!」と叫んだ。
二度目に鐘が鳴ると、王は怒って「煤と炎め!」と怒鳴り、三度目には激怒して「ヒッピカロリック!」とわめいた。意味はわからないが、きっと恐ろしい言葉なのだろう。
そのあとも鐘は何度も鳴り続けた。だが今や王は、あまりに激しく怒り狂って言葉も発せず、玉座から飛び降り、部屋じゅうを狂ったように跳び回った。その姿を見て、ドロシーは跳び人形を思い出した。
一方、少女は鐘が鳴るたびに喜びで胸を満たした。それはビリーナが、またひとつ飾り物を生きた人間へ戻した合図だったからだ。ドロシーはビリーナの成功に驚きもした。宮殿の部屋にひしめく、目がくらむほど多くの品々から、どうやって黄色いめんどりが正解を当てているのか、想像もつかなかったのだ。だが十回数えても鐘が鳴り続けたので、エヴの王家だけでなく、オズマとその一行も本来の姿へ戻っているのだとわかった。あまりにうれしくて、怒れる王の奇妙な振る舞いを見ると、愉快そうに笑わずにはいられなかった。
小さな王の怒りは、すでにこれ以上ないほどだったのかもしれない。それでも少女の笑い声に、ほとんど正気を失い、野獣のように吠えかかった。そして、自分の魔法がすべて解かれ、囚われた者が一人残らず自由になりそうだと悟ると、バルコニーへ通じる小さな扉まで駆け寄り、兵士を呼び寄せる甲高い口笛を吹いた。
たちまち大勢の軍勢が金銀の扉から続々と現れ、曲がりくねった階段を上って玉座の間へ入ってきた。先頭には、厳しい顔つきのノームの隊長が立っていた。玉座の間がほぼ埋まると、残りは下の巨大な地下洞窟で隊列を組み、次の命令が下るまで動かずに立った。
兵士が入ってきたとき、ドロシーは洞窟の片側へ下がっていた。そして今、幼いエヴリング王子の手を握って立ち、その一方には大きなライオン、もう一方には巨大なトラが身を低くして構えていた。
「あの娘を捕らえろ!」王が隊長に怒鳴ると、兵士の一団が命令に従って飛び出した。だがライオンとトラがあまりに凄まじく唸り、強く鋭い牙を恐ろしげにむき出したので、兵士たちは怯えて後ずさった。
「気にするな!」ノームの王が叫んだ。「そいつらは今いる場所から先へ跳べぬ。」
「ですが、娘に触れようとすれば、噛みつくことはできます」と隊長は言った。
「それなら何とかしよう」と王は答えた。「もう一度魔法をかけ、顎を開けなくしてやる。」
王はそのため玉座を降りた。だがそのとき、木挽き台の馬が背後へ駆け寄り、木の後ろ脚二本で、太った王を思い切り蹴飛ばした。
「ぎゃっ! 人殺し! 反逆だ!」何人もの兵士のところまで吹き飛ばされ、ひどい打ち身を負った王はわめいた。「誰がやった?」
「僕だ」と木挽き台の馬は獰猛に唸った。「ドロシーに手を出すな。さもないと、また蹴るぞ。」
「そうはいかぬ」と王は答え、すぐに木挽き台の馬へ手を振って、魔法の言葉をつぶやいた。「ははあ! これでどうだ。動けるものなら動いてみろ、この木のラバめ!」
しかし魔法にもかかわらず、木挽き台の馬は動いた。それも、小さな太っちょの王がよけられないほどの速さで迫った。ドスン――バーン! 木のかかとが丸い体をまともに打ち、王は宙へ飛んで隊長の頭の上へ落ちた。隊長は王をそのまま床へ落とした。
「おや、おや!」王は起き上がり、驚いた顔で言った。「なぜ魔法の帯が働かなかったのだ?」
「あの生き物は木でできています」と隊長は答えた。「ご存じのとおり、陛下の魔法は木には効きません。」
「ああ、忘れておった」と王は立ち上がり、足を引きずって玉座へ戻った。「よろしい、娘は放っておけ。どうせ、われらからは逃げられぬ。」
一連の出来事で混乱していた兵士たちは、再び隊列を整えた。木挽き台の馬は部屋を跳ねるように横切り、ドロシーのもとへ戻ると、お腹をすかせたトラの隣に陣取った。
その瞬間、宮殿へ通じる扉が勢いよく開き、エヴの人々とオズの人々が姿を現した。一同は、兵士たちと、そのただ中に座る怒り狂ったノームの王を見て、驚いて立ち止まった。
「降伏しろ!」王は大声で叫んだ。「おまえたちは、わしの囚人だ。」
「冗談じゃないわ!」かかしの肩からビリーナが言い返した。「あたしが正しく当てたら、友達もあたしも無事に帰してくれると約束したでしょ。それに、あなたはいつだって約束を守るんでしょう。」
「宮殿からは無事に出てもよいと言ったのだ」と王は言い返した。「そのとおり、宮殿からは出られる。だが、わしの領土から出られるとは言っておらぬ。おまえたちはわしの囚人だ。全員、地下牢へ放り込んでやる。そこでは火山の炎が燃え、溶けた溶岩が四方八方へ流れ、空気は青い炎よりも熱いぞ。」
「助けてくれ!」
王は絶叫した
「それなら、僕は確実におしまいだ」とかかしは悲しげに言った。「青でも緑でも、ほんの小さな炎ひとつあれば、僕は灰の山になってしまう。」
「降伏するか?」と王は迫った。
ビリーナがかかしの耳元で何かささやくと、かかしは微笑み、上着のポケットへ両手を入れた。
「しません!」オズマは王へ大胆に答えた。それから自軍に向かって言った。
「進みなさい、勇敢な兵士たち! あなたたちの統治者と自分自身のため、死ぬまで戦うのです!」
「お許しください、いとも高貴なるオズマさま」と将軍の一人が答えた。「ですが、私と兄弟士官たちはみな心臓病を患っており、ほんのわずかな興奮でも命を落としかねません。戦えば興奮するおそれがあります。この重大な危険を避けるほうがよろしいのでは?」
「兵士が心臓病であってはなりません」とオズマは言った。
「兵卒なら、そのような病気にはかからないと存じます」と別の将軍が、考え深げに口ひげをひねりながら言った。「殿下がお望みなら、われらの兵卒に、あちらの兵士を攻撃するよう命じましょう。」
「そうしなさい」とオズマは答えた。
「前へ――進め!」将軍たち全員が声をそろえて叫んだ。「前へ――進め!」大佐たちが怒鳴った。「前へ――進め!」少佐たちが叫んだ。「前へ――進め!」大尉たちが命じた。
すると兵卒は槍を構え、猛烈な勢いで敵へ突進した。
ノームの隊長は突然の猛攻に仰天し、兵士へ戦えと命じるのを忘れた。そのため兵卒の槍の前に立っていた最前列の十人は、おもちゃの兵隊のように次々と倒れた。だが槍は鋼鉄の鎧を貫けなかったので、兵士たちはまた慌てて立ち上がった。そのころには兵卒は、次の一列をなぎ倒していた。
そこで隊長が戦斧を力いっぱい振り下ろした。兵卒の槍は砕けて手から弾き飛ばされ、もう戦うすべがなくなった。
ノームの王は玉座を離れ、何が起きているか見ようと、兵士をかき分けて前列へ出ていた。だがオズマたちと向き合ったとき、兵卒の勇気に奮い立たされたかのように、かかしは上着の右ポケットからビリーナの卵をひとつ取り出し、小さな王の頭めがけて投げつけた。
卵は左目へまともに当たり、卵らしくぐしゃりと砕けて飛び散り、べたべたした中身で顔も髪もひげも覆った。
「助けてくれ、助けてくれ!」王は絶叫し、卵を取り除こうと、指で顔をかきむしった。
「卵だ! 卵だ! 命が惜しければ逃げろ!」ノームの隊長が恐怖に満ちた声で叫んだ。
そして、兵士たちは本当に逃げた! 恐るべき卵の猛毒から逃れようと、互いに折り重なるようにして駆けた。曲がりくねった階段を下りられない者は、バルコニーから下の大洞窟へ落ち、そこに立っていた者たちをなぎ倒した。
王がまだ助けを求めてわめいているうちに、玉座の間から兵士は一人残らず消えた。そして王が左目から卵を拭い去るより早く、かかしは二つ目の卵を右目へ投げつけた。卵は砕け、王は完全に目が見えなくなった。どちらへ逃げればよいかわからないので、逃げることもできず、その場に立ち尽くし、情けないほど怯えながら泣きわめき、叫び、悲鳴を上げた。
その最中、ビリーナはドロシーのところへ飛んでいき、ライオンの背に止まると、少女の耳元でせわしなくささやいた。
「帯を取って! ノームの王の宝石の帯よ! 後ろで外せるわ。早く、ドロシー――早く!」
ブリキの木こりの運命

ドロシーは言われたとおりにした。まだ目から卵を取り除こうとしているノームの王の背後へすぐさま走り、たちまち見事な宝石の帯を外すと、それを持ってトラとライオンのそばへ戻った。ほかにどうすればよいかわからなかったので、自分の細い腰に巻きつけた。
ちょうどそのとき、侍従長が海綿と水の入った鉢を持って駆け込み、主人の顔から砕けた卵を拭い始めた。数分後、一同が見守るなか、王は目が見えるようになった。最初にしたことは、悪意に満ちた目でかかしを睨みつけ、こう叫ぶことだった。
「この報いは受けさせてやるぞ、干し草を詰めた人形め! 卵がノームにとって毒だと知らぬのか?」
「本当に」とかかしは言った。「あなたの体には合わないようですね。どうしてなのか、不思議ですが。」
「間違いなく新鮮で、何の問題もない卵だったわ」とビリーナは言った。「もらえて喜ぶべきよ。」
「全員、サソリに変えてやる!」王は怒鳴ると、腕を振り回し、魔法の言葉を唱え始めた。
だが誰もサソリにならなかったので、王はやめて、驚いた顔で一同を見た。
「どうしたのだ?」と王は尋ねた。
「陛下、魔法の帯を身につけておられません」と、侍従長が王の姿を注意深く調べて答えた。「どこにあるのです? どうなさったのです?」
ノームの王は腰に手をやった。その岩色の顔が、チョークのように真っ白になった。
「ない」と王は力なく叫んだ。「なくなった。わしは破滅だ!」
ドロシーは一歩前へ出て言った。
「オズマ陛下、そしてエヴの女王さま。あなたがたと国民のみなさんが、生きた世界へ戻られたことを歓迎します。ビリーナがみんなを苦難から救いました。さあ、この恐ろしい場所を離れ、できるだけ早くエヴへ戻りましょう。」
少女が話しているあいだ、一同には魔法の帯を身につけているのがよく見えた。仲間たちは大歓声を上げ、かかしと兵卒の声がその先頭に立った。だがノームの王は加わらなかった。打ち負かされた犬のように玉座へ這い戻り、敗北を恨めしそうに嘆いた。
「ですが、忠実な従者であるブリキの木こりが、まだ見つかっていません」とオズマはドロシーに言った。「彼を残したまま、私はここを去りたくありません。」
「わたしもよ」とドロシーはすぐに答えた。「宮殿にいなかったの?」
「いるはずよ」とビリーナは言った。「でも、ブリキの木こりを当てる手がかりが何もなかったから、見落としたに違いないわ。」
「部屋へ戻りましょう」とドロシーは言った。「この魔法の帯が、きっと大切な昔からの友達を見つける手助けをしてくれるわ。」
そこでドロシーは、まだ扉の開いている宮殿へ入り直した。ノームの王、エヴの女王、エヴリング王子を除き、全員があとへ続いた。母親は末の子である幼い王子を膝に乗せ、愛情を込めてかわいがり、口づけしていた。
だがほかの者たちはドロシーについていった。最初の部屋の中央へ来ると、少女は王がするのを見たとおりに手を振り、今どんな姿であろうとも、本来の姿へ戻れとブリキの木こりに命じた。何も起こらなかったので、別の部屋へ行って同じことをした。それから宮殿の全室を回った。だがブリキの木こりは現れず、何千という飾り物のうち、どれが変身させられた友達なのか、誰にも見当がつかなかった。
一同は悲しげに玉座の間へ戻った。失敗したと見て取った王は、ドロシーをあざ笑った。
「おまえは、わしの帯の使い方を知らぬ。だから持っていても役には立たぬ。返せば、自由に帰してやろう――おまえも、一緒に来た者たちも全員だ。だがエヴの王家は、わしの奴隷だ。この地に残ってもらう。」
「帯はわたしが持っているわ」とドロシーは言った。
「だが、わしの許しもなく、どうやって逃げる?」と王は尋ねた。
「簡単よ」と少女は答えた。「入ってきた道を歩いて出ればいいだけだもの。」
ドロシーとビリーナ、王と言い争う
「おお、それだけか?」王はせせら笑った。「では、この部屋へ入ってきた通路はどこにある?」
一同は辺りを見回したが、見つけられなかった。通路はとっくに閉じられていたのだ。それでもドロシーはくじけなかった。一見、隙間ひとつない洞窟の壁へ手を振り、言った。
「通路よ、開きなさい!」
命令はたちまち聞き入れられた。開口部が現れ、その先に通路がはっきりと伸びていた。
王は仰天し、ほかの者たちは大喜びした。
「それなら、帯があなたに従うというのに、なぜブリキの木こりを見つけられなかったのでしょう?」とオズマは尋ねた。
「わからないわ」とドロシーは言った。
「なあ、娘よ」と王は熱心に持ちかけた。「わしに帯を返せ。そうすれば、ブリキの木こりが何に変えられたのか教えてやる。あとは簡単に見つけられるぞ。」
ドロシーはためらったが、ビリーナが叫んだ。
「渡しちゃ駄目! ノームの王が帯を取り戻したら、あたしたち全員を捕らえるわ。王の思いのままになってしまうもの。ドロシー、帯を持ち続けてこそ、ここから無事に出られるのよ。」
「そのとおりだと思う」とかかしは言った。「だが、僕の優秀な脳みそが、もうひとつの考えを思いついた。王が宮殿へ行き、僕らの友達であるブリキの木こり、ニック・チョッパーが変えられた飾り物を持ってくることに同意しなければ、ドロシーが王をガチョウの卵に変えてしまえばいい。」
「ガチョウの卵だと!」恐怖に襲われた王は繰り返した。「何と恐ろしい!」

「そう、欲しい飾り物を取ってこなければ、ガチョウの卵にしてやるわ」とビリーナはうれしそうにくっくっと笑った。
「ドロシーが魔法の帯をきちんと使えることは、あなたにもわかるでしょう」とかかしは付け加えた。
ノームの王はよく考え、とうとう承知した。ガチョウの卵にはなりたくなかったからだ。そこで、ブリキの木こりが変えられた飾り物を取りに宮殿へ入った。全員、かなり苛立ちながら王の帰りを待った。地下洞窟を一刻も早く去り、もう一度、日の光を見たかったのだ。だがノームの王が戻ってきたとき、困惑と不安に満ちた表情以外は、何も持っていなかった。
「消えた!」と王は言った。「ブリキの木こりは宮殿のどこにもおらぬ。」
「間違いないのですか?」とオズマは厳しく尋ねた。
「まったく間違いない」と王は震えながら答えた。「何に変えたかも、どこに置いたかも、正確に知っている。だが、そこにはおらぬ。どうかガチョウの卵にはしないでくれ。できるだけのことはしたのだから。」
しばらく誰も口を利かなかった。やがてドロシーが言った。
「これ以上、ノームの王を罰しても仕方ないわ。残念だけど、友達を置いていかなきゃならないみたい。」
「ここにいないのなら、助けることはできない」とかかしも悲しげに同意した。「かわいそうなニック! いったい、どうしてしまったんだろう。」
「それに、私には六週間分の給料を払っていなかったのに!」将軍の一人が、金モールのついた上着の袖で涙を拭いながら言った。
一同はひどく悲しみながらも、かつての仲間を残し、地上へ戻る決心をした。そこでオズマは、通路を進み始めるよう命じた。
軍隊が先頭を進み、次にエヴの王家、そのあとにドロシー、オズマ、ビリーナ、かかし、ティックトックが続いた。
玉座から睨みつけるノームの王を残して進み、危険など考えてもいなかった。ところが、たまたまオズマが振り返ると、大勢の兵士が全速力で追ってきていた。剣や槍や斧を振り上げ、十分に近づきしだい、逃亡者を打ち倒そうとしている。
明らかに、ノームの王が逃亡を阻止しようと最後の手段に出たのだ。だが何の役にも立たなかった。危険に気づいたドロシーは立ち止まり、手を振って魔法の帯に命令をささやいた。

たちまち先頭の兵士たちは卵へ変わり、洞窟の床を転がった。その数があまりに多いため、後ろの兵士たちは踏みつけずには進めなくなった。だが卵を見たとたん、兵士たちから前進する意欲はすっかり消えた。踵を返して洞窟へ逃げ帰り、二度と戻ろうとはしなかった。
仲間たちはそれ以上、何の問題もなく通路の端へたどり着き、やがて二つの高い山のあいだにある陰鬱な道で、外の空気を吸っていた。エヴへ向かう道は、目の前にはっきりと伸びている。ノームの王と恐ろしい宮殿を見るのは、これが最後でありますようにと、誰もが心から願った。
行列の先頭には、臆病なライオンに乗ったオズマと、トラの背に乗ったエヴの女王がいた。女王の子供たちは手をつなぎ、そのあとを歩いた。ドロシーは木挽き台の馬に乗り、かかしはブリキの木こりに代わって歩きながら軍隊を指揮した。
やがて道は次第に明るくなり、二つの山のあいだから、より多くの日差しが差し込むようになった。ほどなく、巨人が道へ槌を打ち下ろす「ドシン! ドシン! ドシン!」という音が聞こえてきた。
「あの恐ろしい鉄の男を、どうやって通り抜ければよいのでしょう?」女王は子供たちの身を案じて尋ねた。だがドロシーが魔法の帯に一言命じ、問題を解決した。
巨人は槌を空中でぴたりと止めた。そのため一行全員が、鋳鉄の両脚のあいだを無事に通り抜けることができた。
エヴの王

今も山腹に姿を変える岩色のノームがいたとしても、静かに敬意を払っていた。以前のような無礼な笑い声で、冒険者たちが悩まされることはなかった。王が敗れた今、ノームたちには笑えることなど何もなかったのだ。
山の反対側には、オズマの黄金の馬車が、置いていったときのまま立っていた。ほどなくライオンとトラが美しい馬車につながれた。中にはオズマと女王、それに王家の子供六人が乗れるだけの広さがあった。
幼いエヴリングは、背の長い木挽き台の馬に乗り、ドロシーと一緒に行くほうを選んだ。王子は人見知りを克服し、自分を助けてくれた少女が大好きになっていた。そのため二人はすっかり仲良しになり、馬で進みながら楽しげに話した。ビリーナも木の馬の頭に止まっていたが、木挽き台の馬は重さが増えたことなど少しも気にしていないようだった。王子は、めんどりが言葉を話し、しかもあれほど筋の通ったことを言うのが不思議でならなかった。
裂け目へ着くと、オズマの魔法の絨毯が全員を無事に向こう側へ運んだ。やがて鳥が歌う木々のそばを通り始めた。エヴの農場から吹いてくるそよ風には、花と刈りたての干し草の香りが満ちていた。日の光は一同へあまねく降り注ぎ、体を温め、ノームの地下王国で染みついた冷気と湿気を追い払った。
「ブリキの木こりさえ一緒なら、僕はすっかり満足なんだが」とかかしはティックトックに言った。「彼を置き去りにしたと思うと、胸が張り裂けそうだ。」
「彼は立派な人、でした」とティックトックは答えた。「ただし、材質はあまり丈夫では、あり-ませんでした。」
「いや、ブリキは素晴らしい材質だよ」とかかしは急いで言った。「かわいそうなニック・チョッパーに何かあっても、いつだって簡単にはんだづけできた。それに、ぜんまいを巻く必要もないし、故障する心配もなかった。」
「私は、ときどき」とティックトックは言った。「あなたのように、藁を詰めて、もらいたかったと、思い-ます。銅で作られているのは、つらいものです。」
「僕は自分の境遇に不満はないよ」とかかしは答えた。「たまに新しい藁を少し入れれば、新品同様になる。だが、亡くなった哀れな友達のブリキの木こりほど、磨き上げられた紳士には、決してなれない。」
エヴの王家の子供たちと女王である母親が、愛する国を再び目にして喜んだことは言うまでもない。エヴの宮殿の塔が見えると、歓声を上げずにはいられなかった。ドロシーの前に乗っていた幼いエヴリングは、あまりにうれしくて、ポケットから妙なブリキの笛を取り出し、甲高い音を鳴らした。木挽き台の馬は突然の音に驚き、跳ね回った。
「それは何?」怯えた木挽き台の馬の頭から落ちないよう、翼をばたつかせなければならなかったビリーナが尋ねた。
「ぼくの笛だよ」とエヴリング王子は言い、手のひらに載せて差し出した。
それはブリキでできた小さな太った豚の形をしており、緑色に塗られていた。笛の吹き口は豚の尻尾にあった。
「どこで手に入れたの?」黄色いめんどりは、輝く目で玩具をじっくり調べながら尋ねた。
「ドロシーが当て物をしていたとき、ノームの王の宮殿で拾ったんだ。それでポケットに入れた」と幼い王子は答えた。

ビリーナは笑った。少なくとも、笑いの代わりに使う独特の鳴き声を上げた。
「ブリキの木こりが見つからなかったはずだわ」とビリーナは言った。「魔法の帯で現れなかったのも、王が見つけられなかったのも当然よ!」
「どういうこと?」とドロシーが尋ねた。
「王子がポケットに入れていたのよ」とビリーナは言い、また声を立てて笑った。
「入れてないよ!」幼いエヴリングは抗議した。「ぼくが取ったのは笛だけだ。」
「なら、見ていて」とめんどりは言い返し、爪を伸ばして笛に触れ、「エヴ」と言った。
シュッ!
「こんにちは」ブリキの木こりは漏斗形の帽子を脱ぎ、ドロシーと王子へお辞儀をした。「ブリキで作られて以来、初めて眠っていたようだ。ノームの王のもとを離れたことを覚えていないからね。」
「魔法をかけられていたのよ」少女は答え、昔からの友達へ腕を回し、喜びのあまり強く抱き締めた。「でも、もう大丈夫。」
「ぼくの笛が欲しい!」幼い王子が泣き出しそうになって言った。
「しっ!」とビリーナはたしなめた。「笛はなくなったけど、家へ帰ったら別のものをもらえるわよ。」
「未来の統治者、エヴァルド十五世王です。」
かかしは昔の仲間との再会に驚き、喜ぶあまり、文字どおりその胸へ飛び込んだ。ティックトックはあまりに真剣にブリキの木こりの手を握ったので、指の何本かをへこませてしまった。それからオズマがブリキの男を歓迎できるよう、みな道を空けなければならなかった。軍隊もブリキの木こりを見つけて歓声を上げ、誰もが喜び、幸せに包まれた。
ブリキの木こりは、知り合った者なら誰からも大いに好かれていた。永遠に失ったと思ったあとで突然戻ってきたのだから、実にうれしい驚きだった。
ほどなく一行は王宮へ到着した。そこには、女王と十人の子供たちを迎えるため、大勢の民衆が集まっていた。叫び声と歓声が飛び交い、人々は一行の進む道へ花を投げ、どの顔にも幸せな笑みが浮かんでいた。
一同は、鏡張りの部屋にいるラングウィディア姫を見つけた。姫は、とりわけ美しい頭のひとつ――豊かな栗色の髪、夢見るようなクルミ色の瞳、均整の取れたヒッコリーの実のような鼻を持つ頭――に見とれていた。姫はエヴの人々に対する務めから解放されることを大いに喜んだ。女王は寛大にも、姫が生きているかぎり、部屋と頭を収めた戸棚を使い続けることを許した。
それから女王は、集まった臣民を見下ろすバルコニーへ長男を連れ出し、こう告げた。
「こちらが、皆さんの未来の統治者、エヴァルド十五世王です。王子は十五歳で、上着には銀の留め金が十五個あり、エヴの国を治める十五人目のエヴァルドとなります。」
人々は賛同の歓声を十五回上げた。その場にいた車輪人たちまでが、新しい王に従うと大声で約束した。
そこで女王は、ルビーをはめ込んだ大きな金の冠をエヴァルドの頭へ載せ、オコジョの毛皮の外套を肩へ掛けると、王であると宣言した。エヴァルドは臣民全員へ感謝を込めてお辞儀をし、それから王室の食料庫にケーキがないか確かめに行った。
オズのオズマとその一行、そしてドロシー、ティックトック、ビリーナは、王太后から盛大にもてなされた。王太后の幸せはすべて、彼らの親切な働きのおかげだったからだ。その晩、黄色いめんどりは、新王からの敬意のしるしとして、真珠とサファイアの美しい首飾りを公の場で贈られた。

エメラルドの都

ドロシーは、オズマに招かれたとおり、一緒にオズの国へ帰ることにした。エヴにいても、オズにいても、故郷へ帰れる見込みに大差はない。それに少女は、かつて素晴らしい冒険を経験した国を、もう一度見たいと願っていた。このころには、ヘンリーおじさんの船はオーストラリアへ着き、おじさんもドロシーが行方不明になったものと諦めているだろう。もう少し離れていたからといって、今以上に心配することもないはずだ。だからオズへ行くことにした。
一同はエヴの人々に別れを告げた。王はオズマに、いつまでも恩を忘れず、自分にできることなら何でもオズの国のために力を尽くすと約束した。
それから危険な砂漠の端へ近づくと、オズマが魔法の絨毯を投げ下ろした。絨毯はすぐさま、全員が窮屈な思いをせずに歩ける長さまで広がった。
自分はドロシーの持ち物なのだから、忠実な従者だと主張したティックトックも、一行へ加わることを許された。出発前に、少女は機械のぜんまいを限界まで巻いたので、銅の男はほかの誰にも負けないほど軽快に歩きだした。
オズマはビリーナもオズの国へ招いた。新しい景色と出来事が待つ場所へ行けるとあって、黄色いめんどりも喜んで同行した。
一同は早朝、砂漠を横断する旅へ出た。ビリーナが毎日の卵を産むあいだしか立ち止まらなかったため、日没前には、美しいオズの国の緑の斜面と木々に覆われた丘が見えた。一行はマンチキンの領地へ入った。国境ではマンチキンの王が迎え、安全な帰還を大いに喜び、深い敬意をもってオズマを歓迎した。オズのオズマは、マンチキンの王、ウィンキーの王、カドリングの王、ギリキンの王を治め、その王たちはそれぞれの民を治めていた。オズの国の最高統治者であるオズマは、四つの王国の真ん中に位置する、エメラルドの都と呼ばれる自分の大都市に住んでいた。
その夜はマンチキンの王が宮殿でもてなし、朝になると一行はエメラルドの都へ向けて出発した。宝石を散りばめた門へまっすぐ通じる、黄色い煉瓦の道を進んだ。どこでも人々が外へ出て、愛するオズマを迎え、人気者のかかし、ブリキの木こり、臆病なライオンを喜んで称えた。ドロシーもまた、初めてオズを訪れたとき親切にしてくれた何人かを覚えていた。人々はカンザスの小さな少女との再会を大いに喜び、褒め言葉と幸運を願う言葉を惜しみなく浴びせた。
ある場所で休息のため立ち止まると、オズマは愛らしい乳搾り娘から牛乳の鉢を受け取った。それから娘の顔をよく見て、叫んだ。
「まあ、ジンジャーではありませんか!」
「はい、殿下」ジンジャーは深々と腰をかがめて答えた。かつて女性の軍隊を集め、かかしをエメラルドの都の玉座から追い払い、強大な南の善い魔女グリンダの軍勢とまで戦った、この生き生きした人物を、ドロシーは驚きながら見つめた。
「牛を九頭飼っている男と結婚したんです」とジンジャーはオズマに言った。「今は幸せで満ち足りていますし、静かに暮らして、自分のことだけに気を配るつもりです。」

「ご主人はどこです?」とオズマが尋ねた。
「家の中で、黒く腫れた目を冷やしています」とジンジャーは平然と答えた。「私が白い牛を搾ってほしいと言ったのに、あの愚かな人は赤い牛を搾ると言い張ったんです。でも、次からは間違えないでしょう。」
それから一行は再び進み、広い川を渡し船で越え、ドーム形で美しい緑色に塗られた立派な農家をいくつも通り過ぎた。やがて旗や飾り布で覆われた大きな建物が見えてきた。
「あの建物は覚えていないわ」とドロシーは言った。「何なの?」
「あれは芸術・運動能力完成大学です」とオズマは答えた。「ごく最近、私が建てさせ、ウォグル・バグが学長を務めています。おかげで彼は忙しくしていますし、大学へ通う若者たちも、以前より悪くなったわけではありません。この国には働きたがらない若者が何人もいますから、大学は彼らにぴったりの場所なのです。」
やがてエメラルドの都が見え、人々が美しい統治者を迎えるため、群れをなして外へ出てきた。いくつもの楽団、王国の大勢の士官や役人、晴れ着に身を包んだ市民の群れが集まっていた。
こうして華やかな行列に護衛され、美しいオズマは王都へ入った。歓声があまりに大きいため、臣民の挨拶に応えようと、絶えず左右へお辞儀をしなければならなかった。
「あなたを総司令官に任命します。」
その晩、王宮では盛大な歓迎会が開かれ、オズの重要人物たちが出席した。少し熟しすぎてはいたが、まだ元気なジャック・パンプキンヘッドが、隣国の王家を救うという寛大な使命を果たしたオズのオズマへ、祝辞を読み上げた。
それから二十六人の士官それぞれに、宝石をはめ込んだ見事な金メダルが贈られた。ブリキの木こりにはダイヤモンドを散りばめた新しい斧、かかしには銀の容器に入ったおしろいが贈られた。ドロシーは美しい小冠を授かり、オズの王女となった。ティックトックは、澄んで輝くエメラルドを八列に並べた腕輪を二つ受け取った。
そのあと一同は豪華な宴席についた。オズマは右にドロシー、左にビリーナを座らせた。めんどりは金の止まり木に止まり、宝石を散りばめた大皿から食べた。その隣には、かかし、ブリキの木こり、ティックトックが座り、目の前には美しい花籠が置かれた。三人には食べ物が必要なかったからだ。二十六人の士官は食卓の端に座った。ライオンとトラにも席が用意され、黄金の大皿で料理を出された。一枚につき半ブッシェル(約十八リットル)もの量が載った。
エメラルドの都でもひときわ裕福で重要な市民たちが、誇りをもって有名な冒険者たちへ給仕した。その手伝いをしたのが、ジェリア・ジャムという快活な小間使いだった。かかしは少女の薔薇色の頬をつねり、どうやらよく知っているようだった。
宴の最中、オズマは考え込んだ。そして突然、尋ねた。
「兵卒はどこです?」
「ああ、兵舎の掃除をしております」と、七面鳥の脚を食べるのに忙しい将軍の一人が答えた。「ですが、仕事が終わったら食べられるよう、パンと糖蜜を一皿、用意するよう命じてあります。」
「呼んできなさい」と少女の統治者は言った。
命令が実行されるのを待つあいだ、オズマは尋ねた。
「軍隊に、ほかの兵卒はいますか?」
「はい」とブリキの木こりが答えた。「全部で三人だったと思います。」
やがて兵卒が入ってきて、士官たちと王たるオズマへ、非常に恭しく敬礼した。
「あなた、名前は何といいます?」と少女は尋ねた。
「オムビー・アンビーです」と兵卒は答えた。
「では、オムビー・アンビー」とオズマは言った。「あなたを、わが王国の全軍を率いる総司令官に昇進させます。とりわけ王宮では、私の親衛隊長を務めてもらいます。」
「そんなに多くの役職に就くのは、お金がかかります」と兵卒はためらいながら言った。「制服を買うお金がありません。」
「王室の国庫から支給しましょう」とオズマは言った。
そこで兵卒には食卓の席が与えられ、ほかの士官たちも心から歓迎した。そして宴と陽気な騒ぎが再開された。
突然、ジェリア・ジャムが叫んだ。
「もう食べるものが何もありません! お腹をすかせたトラが、全部食べてしまいました!」
「だが、もっと悪いことがある」とトラは悲しげに言った。「どこかで、どういうわけか、本当に食欲をなくしてしまったんだ!」

ドロシーの魔法の帯

ドロシーは、王たるオズマの客として、オズの国で何週間も幸せに過ごした。オズマはカンザスの小さな少女を喜ばせ、楽しませることに心を尽くした。大勢の新しい知り合いができ、昔の知り合いとも再会した。どこへ行っても、ドロシーの周りには友達がいた。
だがある日、オズマの私室に座っていると、壁に掛けられた一枚の絵に気づいた。絵は絶えず姿を変え、あるときは草原、次には森、湖、村を映していた。
「まあ、不思議!」移り変わる光景をしばらく眺めたあと、ドロシーは叫んだ。
「ええ」とオズマは言った。「これは本当に素晴らしい魔法の発明品なのです。世界のどこかや、生きている誰かを見たいと思ったら、願いを口にするだけで、この絵に映し出されます。」
「わたしも使っていい?」ドロシーは身を乗り出して尋ねた。
「もちろんよ。」
「それじゃ、カンザスの懐かしい農場と、エムおばさんが見たいわ」と少女は言った。
たちまち、よく見覚えのある農家が絵の中に現れ、エムおばさんの姿もはっきりと見えた。台所の窓辺で皿を洗っており、元気で満ち足りているようだった。雇い人たちと作業馬は家の裏の収穫畑に出ており、トウモロコシも小麦も申し分なく育っているように見えた。脇のポーチでは、ドロシーの愛犬トトが日の光を浴び、ぐっすり眠っていた。そして驚いたことに、年老いたスペックルズが、十二羽の新しいひよこを引き連れて走り回っていた。
「家はみんな大丈夫みたい」とドロシーは安堵のため息をついた。「今度は、ヘンリーおじさんが何をしているか知りたいわ。」
絵の中の光景はすぐにオーストラリアへ移った。シドニーの居心地のよい部屋で、ヘンリーおじさんが安楽椅子に座り、まじめな顔でブライヤーのパイプをふかしていた。悲しく孤独そうで、髪はすっかり白くなり、手も顔も痩せ衰えていた。
「ああ!」ドロシーは心配そうに叫んだ。「ヘンリーおじさん、きっとちっともよくなってない。それも、わたしのことを心配しているせいよ。ねえ、オズマ、今すぐおじさんのところへ行かなきゃ!」
「どうやって?」とオズマが尋ねた。
「わからない」とドロシーは答えた。「でも、南の善い魔女グリンダのところへ行きましょう。きっと助けてくれるし、ヘンリーおじさんのところへ行く方法も教えてくれるわ。」
オズマはすぐに賛成し、木挽き台の馬を美しい緑と桃色の軽馬車につながせた。二人の少女は、有名な魔女を訪ねるため出発した。
グリンダは二人を優しく迎え、ドロシーの話へ注意深く耳を傾けた。
「わたしは魔法の帯を持っているでしょう」と少女は言った。「腰に巻いて、ヘンリーおじさんのところへ連れていってと命令したら、そうしてくれるんじゃない?」
「そうだと思いますよ」とグリンダは微笑んで答えた。
「それから」とドロシーは続けた。「またここへ戻りたくなったら、帯が連れ戻してくれるわ。」
「それは賢い考えです」とグリンダは答えた
「それは違います」と魔女は言った。「帯が魔法の力を持つのは、オズの国やエヴの国のような、妖精の国にあるあいだだけです。実際、小さなお友達、あなたが帯を身につけ、おじさまと一緒にオーストラリアへ行きたいと願えば、きっと願いはかなうでしょう。妖精の国で願ったことですからね。ですが目的地へ着いたとき、魔法の帯は腰から消えているでしょう。」
「どうなっちゃうの?」と少女は尋ねた。
「以前オズを訪れたときの銀の靴と同じく失われ、二度と誰の目にも触れないでしょう。そんなふうに魔法の帯を使えなくしてしまうのは、もったいないと思いませんか?」
「それなら」とドロシーは少し考えてから言った。「魔法の帯はオズマにあげるわ。オズマなら自分の国で使えるもの。それから、帯をなくさずに、わたしをヘンリーおじさんのところへ送ってほしいと願ってもらえばいいのよ。」
「それは賢い考えです」とグリンダは答えた。
そこで二人はエメラルドの都へ馬車で戻った。道中、毎週土曜日の朝、オズマが魔法の絵でドロシーの様子を確かめることに決めた。小さな少女がどこにいても、オズマは見ることができる。そしてドロシーが決められた合図を送ったら、カンザスの少女がオズの国を再訪したがっているとわかる。そこでノームの王の魔法の帯を使い、すぐに戻ってくるよう願うのだ。
話がまとまると、ドロシーは友達全員に別れを告げた。ティックトックもオーストラリアへ行きたがったが、機械人間を文明国で召使いにするなど無理だとドロシーにはわかっていたし、機械がまったく動かなくなる可能性も高かった。そこでオズマに預けることにした。
それとは反対に、ビリーナはどの国よりオズの国を気に入っており、ドロシーと一緒に行くことを断った。
「ここで見つかる虫やアリは、世界でいちばん味がいいわ」と黄色いめんどりは言った。「しかも、たくさんいる。だから、ここで一生を終えることにする。ねえ、ドロシー。あの退屈で、変わりばえのしない世界へまた戻るなんて、あなたは本当に愚かだと思うわ。」
「ヘンリーおじさんには、わたしが必要なの」とドロシーはただそう言った。ビリーナ以外の全員が、帰るのが正しいと考えた。
オズの国にいるドロシーの友達は――昔からの友達も、新しい友達も――宮殿の前に集まった。悲しい別れを告げ、末永い人生と幸せを願うためだった。何度も握手を交わしたあと、ドロシーはもう一度オズマに口づけし、ノームの王の魔法の帯を手渡して言った。
「ねえ、王女さま。わたしがハンカチを振ったら、ヘンリーおじさんのところへ行けるように願ってね。あなたや――かかしや――ブリキの木こりや――臆病なライオンや――ティックトックや――それから、それから、みんなと別れるのは、ものすごく悲しい。でも、ヘンリーおじさんのところへ行きたいの! だから、みんな、さようなら。」

それから少女は、中庭を飾る大きなエメラルドのひとつに立ち、もう一度、友達一人ひとりの顔を見てから、ハンカチを振った。
「いいえ」とドロシーは言った。「わたし、ちっとも溺れなかったの。それに、おじさんを看病して、お世話するために来たのよ、ヘンリーおじさん。だから、できるだけ早く元気になるって約束して。」
ヘンリーおじさんは微笑み、幼い姪を膝の上でしっかり抱き締めた。
「もう元気になったよ、かわいいドロシー」とおじさんは言った。

L・フランク・ボームの著作
ジョン・R・ニール挿絵
各巻とも芸術的な絵入り表紙による豪華装丁。一巻一・二五ドル。
オズの国
かかし、ブリキの木こり、ジャック・パンプキンヘッド、命を得た木挽き台の馬、大きく拡大されたウォグル・バグ、ガンプをはじめ、数多くの楽しい登場人物が繰り広げる冒険の物語。
白黒挿絵約百五十点、カラー口絵十六点。
オズのオズマ
「ドロシーのその後」とともに、おなじみのかかし、ブリキの木こり、臆病なライオンの活躍を描く。また、機械人間ティックトック、黄色いめんどり、ノームの王、お腹をすかせたトラなど、同じく魅力あふれる新しい登場人物も登場する。
カラー口絵四十一点、カラー半ページ挿絵二十二点、本文中の白黒挿絵五十点。
オズのドロシーと魔法使い
本書では、ドロシーと幼い男友達のゼブ、荷馬車馬のジムが地震に呑み込まれ、不思議な植物の国へたどり着く。そこから脱出してオズの国へ向かい、懐かしい友達全員と再会する。新しい登場人物には、ドロシーの桃色の子猫ユリーカと、九匹の小さな子豚たちがいる。
フルカラー口絵十六点と、多数の白黒挿絵による豪華装丁。
オズへの道
色とりどりの国々を抜け、風変わりな登場人物たちと出会い、幼い子供たちの心と想像力にふさわしい冒険に満ちた道をたどって、魔法の都オズへ至る方法を描く。製本にはまったく新しい発想が採用され、オズとエメラルドの都へ続く道が通過する国々を表すため、さまざまな色の紙が用いられている。
色彩と金を用いた、独創的で豪華なカバー。
オズのエメラルドの都
本作では、ノームの王がエメラルドの都を奪おうと脅しをかける。オズマとドロシーは、南の善い魔女グリンダの助けを借り、その企みを打ち砕く。おなじみの登場人物と大勢の新しい仲間が、物語を生き生きと彩る。
四色刷りと緑色のブロンズ印刷による口絵十六点。白黒挿絵百点。四色、アルミニウム、緑色ブロンズによるカバー。
オズのつぎはぎ娘
さまざまな意味で、オズ・シリーズ中もっとも成功した作品。新しく魅力的な登場人物であるつぎはぎ娘と、新しい少年オジョが、躍動感あふれる冒険を繰り広げる。
フルカラーおよび白黒による全面挿絵百点以上。フルカラーの章扉。四色刷りカバー、四色型押し表紙。
転記者注:
章扉の挿絵は原書と同じ位置に配置し、アクセシビリティーに配慮して、章の冒頭語と題名をテキストとして記載した。
説明文のない挿絵には、「title」欄にも説明を加えていない。いずれも物語の内容を描いた白黒の線画である。
公開日: 2026-07-15